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<東京怪談ノベル(シングル)>


・懐かしい記録

(おや?)

書庫にある古本を整理していると、そこからまるで「見つけてくれ」と叫ぶように目に付く一つのノートがあった。
不意に手にした、一冊のノートを何の気なしに捲る。

すると。

かなり熱心に調べたのだろう、東京の怪談話がノート一面に几帳面な文字で記されていた。
何処かで見たような文字のような気もするが……。

(まあ、そう言うものは中々思い出せないもんだ)

何時かは思い出すだろう、と思いながら読みすすめてみることにした。
本来ならば本の整理をしようと入り込んだ書庫だった筈なのだが…とりあえず、片付けは後日でも出来るのだから。

(そうそう、本が逃げないのと同じく片付けも逃げない――埃がさらに酷くなるだけで)

なら、掃除はまとめてやってしまって、好奇心を満たす方が有意義でもある。
こう言うノートを見つけられた幸運に感謝しつつ、書庫においてあったパイプ椅子を引きずり出し、腰掛ける。

ギシ……っ。
乾いた音が室内に立ち埃が舞う。

が、それらの音や咳き込みを覚えるであろう埃さえ――元裏信夫には気にはならなかった。

瞳は、文字を追い続ける。
怪談と、それらについて調べた世界の狭間を漂いながら。




                       +++


ある日の事だ。
青年は、夢を見た。――自分が死ぬ夢だ。
逃げているのに、足が思うように動かない。追いかけてくる男の(何故か自分からは見えないはずなのに、青年は『男』だと、追いかけてくる人物が男であると感じ取っていた)息遣いまでが、伝わってくる。
目に飛び込む銀の光。
もう駄目だと感じる自分。
にやり、と。
男の口元が歪み、そして――。


――『自分』が殺される。


あまりに生々しくて、誰にも言えないこの話を半ば憂鬱に思いながら青年は会社へ行き、定時までの仕事をし、そしていつものように一人で帰宅する……筈だった。

が、あまりにもあの夢が鮮烈過ぎて、そして自分が今いる場所が夢と同じで。
青年は母へと電話をした。
迎えに来てくれ、と。


すると。


本当に自分へと浴びせられた言葉かは解らない。
だが、母がこちらへ手を振る姿をほっと見る青年へ言った言葉なのではないかと思う言葉があった。


『ユメトチガウコウドウシテンジャネエヨ』


青年は、ただ震えた。
――自分と同じ夢を、それも加害者側も見ていたのだということに。


面白い怪談話だ、と信夫は思う。
何故か、この「東京」と言う街では悪夢が正夢になってしまう事が多いらしいのだ。

それだけ疑心暗鬼が多いということなのか、それとも幸福は信じられずに疑い、不幸――もしくはあって欲しくない事柄をハッキリと信じてしまう人が多い所為なのかは、良くはわからない。

だが……。


(怪談って言う物はある意味、人の想いが作り出したもんだからな)


例えば、首。


平将門の首はかなりの距離を飛び樹木へと食らいついた、という話がある。


だがこれこそ、想いが人の形をなすと言う証明に他ならないのではないだろうか?
実際に首は其処まで飛ぶものではない。
飛ぶのだとしたら、それは――「怨念」と言う「想い」だったのではないかと。
だからこそ、あの場所は移動させようとすれば呪いあり、祟られる。


全ては想いのゆえに。


死したものが呪うのではなく――生き、その信仰を疑うものこそが呪われるのだ。



(しかし……随分と詳細に調べたもんだな…確かにネットとかで色々調べものが出来る昨今ではあるけれど……こりゃ、よほど好きじゃなきゃ……あ、あれ?)


最後のページににたどり着くと自分のサインがある。

……道理で、と言うか何と言うか……。


(どっかで見たことあるはずだよな、これじゃ)


知らず知らずのうちに苦笑が浮かぶ。
確かに最近は古本屋と言えどもパソコンでデータ管理やらなにやらしてたりするし手書きで手紙を送る、と言う事も、無論――無くなってはいるが自分自身の文字くらいは覚えている、と思っていただけにショックを隠しきれない。

……まあそれでも。

こう言うものにハマっていた時期もあったのだと記憶が蘇ってくる事も、また事実で。
そう言えば、あの時は何処かで流行ってるだろう怪談でさえメモを取り、出所を探したりもしたものだ。
意外と単純な言葉が一気に奇妙なものに膨れ上がったりして人の言葉の不確かさを面白いと思ったり、おかしすぎる!と憤慨したりもしたけれど。

(……今になって出てくるとは、ね)

探しているときは、見つからないものなのに、さ。


「おっしゃ! んじゃちょいとネットに繋ぐとすっかな」


椅子から立ち上がり、背伸びを一つ。
信夫は書庫から出るとパソコンのある部屋へと向かい……パソコンの電源を立ち上げ、
「折角だから、このネタゴーストネットへ投稿したれ♪」
と、笑顔で呟いた。


タイトルは……さて、どうしようか。


いっそのこと、ストレートに。


『怪奇、東京に潜む悪夢と言う現実』


――何て、意外と面白いのかもしれない。


―End―