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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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号泣する指輪
●オープニング●
「これ、質屋からで貰い受けた品物なんだけどね‥‥勿論曰く付きの品よ。女の幽霊が取り憑いてるの」
『アンティークショップ・レン』のオーナー、碧摩蓮は皆に指輪を見せた。
それはプラチナとダイヤのごくシンプルな指輪で、裏にはイニシャルで『For K・M From S・K』と彫ってあった。
「ただ、貰ったのは良いんだけど‥‥昼はポルターガイスト起こして他の商品を倒しまくるわ、夜は夜で『あの人の所へ帰して』って一晩中泣き喚くわ‥‥それも毎日毎日‥‥こっちとしてはかなり困ってる訳よ」
化粧の上からでも解るほどのクマを目の下にこしらえた蓮はげっそりとした顔つきで呟いた。――彼女がまいる位だからその怪異はよっぽどのモノだというのは推して知るべし、である。
「質屋に返そうとしてもその質屋が潰れたみたいでね。‥‥なんとか手を尽くして当時の買い取り書類を手に入れる事は出来たんだけど‥‥」
テーブルの上に書類が一枚置かれる。
書類によるとこの指輪を売った人間は『金田美由紀』という女で、27歳職業主婦との事。
それと、備考欄に走り書きで『夜にサングラス。こそこそしていた』と書いてある。――よっぽど挙動が怪しく見えたのだろうか?
「ねぇ、お願い‥‥この人の所に行ってこの指輪を返して来てもらえないかしら? お礼はしっかり弾むから」
蓮は皆にそう頼むと眠そうにあくびをした。
●Mysterious Ring −不思議な指輪−●
冷たい北風が刺さる様に吹く、本格的に冬めいてきた師走の午後。
綾和泉・汐耶(1449)は、ふと近くにあるアンティークショップの女主人の事を思い出し、古書店巡りの休憩がてらに立ち寄ってみようと足を向けた。
それが、今回の物語の始まりであった。
「レンさん、いる? ケーキ買ってきたんだけど‥‥」
ドアに付けられたベルがカランカランと金属音を立て、開く。
しかし、その店の中にいつもの主人の姿はなく、変わりに二人の女性と二人の少年がテーブルを囲んで思案顔を続けていた。
その上には何故かカタカタ動く一つの指輪。
「‥‥何かあったの?」
「いや、これをレンにコレを持ち主に返して来てって頼まれてるんだけど‥‥どうにもねぇ」
藤井・百合枝(1873)は困った顔で指輪を見つめる。触ったら何かヤバイ気がするのか、全く手を近づけていない。
「ところで、そのレンさんは何処に?」
「あそこで寝てるよ‥‥よっぽど疲れてたみたいだね」
瀬川・蓮(1790)は汐耶から土産のケーキを受け取った後、後ろのロッキングチェアーを指さす。
そこにはうつらうつらと眠りの船を漕いでる蓮の姿があった。――起こさない方が良いかも知れない。
「でも折角綺麗な指輪なのにね‥‥いっそあたしが貰っちゃおうかしら?」
「でも、こんなの近くに置いてたらレンさんみたく眠れなくなっちゃうぴゅ?」
ケーキの箱からプリンとプラスチックのスプーンを取ったピューイ・ディモン(2043)はちょっと不安そうに首を傾げる。
「‥‥うふふ、冗談よ。レンさんみたいなクマなんか作りたくないもの」
藤咲・愛(0830)はイタズラっぽく微笑んだ。
「ところでさ、その中身の幽霊だけど‥‥一体誰なの? ‥‥女以外何も判って無いじゃない」
百合枝はその場にいた全員の疑問を改めて口にする。
その時、目が覚めたらしいレンが半開きの寝ぼけ眼のまま小さく呟いた。
「‥‥じゃぁ、指輪に聞いてみたらどうだい?」
●貴女は誰?●
もらったプリンを食べ終わって一息ついたピューイは、あらためてつんつんと指輪を触わる。
「‥‥ひょっとしたらこれって美由紀さんの結婚指輪じゃないかぴゅ?」
「言われてみればそうかも‥‥でも実際聞いてみないと解らないわよ? でもどうやって聞けばいいのかしら‥‥?」
「大丈夫だぴゅ、一緒に直接乗り込んで話してみるぴゅ。善は急げだぴゅ」
そう言うとピューイは愛と手を繋ぎ、そのまま吸い込まれるように指輪の中へすうっと飛び込んでいった。
――指輪の中にある、幽霊の世界へ。
「‥‥あっちだぴゅ」
愛はアンコウに似た丸く可愛らしい魚になったピューイを抱きかかえて前へ進む。――魚の姿とは言え、ふんわりとしたぬいぐるみの様で抱いた感触はとても心地よい。
「愛さん、離しちゃいけないぴゅ。うっかり離すと大変だぴゅ」
「うっかりすると……どうなるの?」
「迷子になってここに閉じこめられちゃうぴゅ」
ピューイは提灯の部分をビコビコ動かしながらちょっと真面目な(?)感じで答える。
「‥‥しかし、何もない世界ね‥‥」
愛はあらためて飛び込んだ『世界』を困った顔で見回す。
それもそのはず、二人(正確に言うと現在一人と一匹)の目の前には砂漠が広がっていたのだ。
――しかし、現実の砂漠のような灼熱の照り返しもないし、山と見違える巨大な砂丘もない。
ただ、漠然とした砂の固まりが味気なく存在しているだけの『あるだけの砂漠』と言った所であろうか。
「ここら辺かぴゅ‥‥出てくるんだぴゅー!」
ある地点まで歩いた時――突然、ピューイが叫んだ。
すると、目の前に人の形が霧のように浮かび上がり、実体を形成する。
「‥‥はい‥‥」
呼ばれて出てきた女は、外見は悪いとは言わないのだが、あまりぱっとしない女性であった。
仕草や声から感じられる非常に大人しそうなイメージがさらに拍車をかけているというか――。
「‥‥ええと、お名前の方を伺いたいんだけど」
「金沢美由紀と申します」
イニシャルの同じ指輪の持ち主は、愛に向かって深々と礼をする。
実際に本人が出てくるとは思ってなかったので困惑する愛を尻目に、ピューイは質問を続ける。
「とにかく、詳しい話を知りたいんだぴゅ」
「ええ、この指輪と、私が何故ここにいるかが知りたいのでしょう? お話しします‥‥」
美由紀の身の上話を纏めるとこんな感じだ。
美由紀は元々資産家の娘だったらしく、それなりに金銭を持さたれて今の夫の所へ嫁入りしたそうだ。
夫は最初は普通に優しかったのだが、子供が生まれ、美由紀の両親が亡くなると様変わりしたと言う。
『夫だから』と、美由紀名義の財産を横取りしようとしたり、外に愛人を作り家に帰ってこない。――今では仕事もせず、美由紀名義の財産を切り崩して自分の女遊びに使っているという。
「小学生の子供もいますし、まだそれなりのお金もあります。だからもう一度やり直そうと言ったんです。でも‥‥」
「駄目だったのね」
愛の言葉に美由紀は目を伏せたまま静かにうなずく。
「それで、結局離婚届を用意したんです。でもなかなか判を押してくれなくて‥‥」
さらに不幸は続くもので、美由紀は夫に離婚を拒否されたその直後に交通事故にあったらしい。
そして気が付けば自分が付けていた指輪の中――どうにもままならない状況になってしまったそうだ。
「‥‥んー、事故の衝撃で、生霊になっちゃったでぴゅね‥‥」
「え‥‥この人生きてるの?」
「ぴゅ。でも何か『生きるきっかけ』がないと一生このままだぴゅ。早くしないと身体の方が持たなくて死んじゃうぴゅ」
だから必死であの人の所へ返してと言ってたんだぴゅ、と、ピューイは付け加えた。
「‥‥そうなんだ‥‥美由紀さん、私達が何とかしてあげるわ‥‥だから少しの間辛抱して」
愛は美由紀の手を握り、真面目な顔で誓った。
●悲しき眠り姫●
美由紀を元に戻す手がかりを掴むため、二人は彼女の病室を尋ねた。
愛がドアをノックすると、暫くした後、いぶかしげな顔をした少年がドアの隙間から顔を出した。
「‥‥お姉さんもまた何か取りに来たの? 僕達にはもう何もないよ」
「あたし達はそんなのじゃないわ。美由紀さんのお見舞いに来ただけ。‥‥ところで、貴方のお父さんは?」
「‥‥あんなヒトは知らないよ!」
静かな病院に鈍い音が響く。少年がドアを内側から蹴った音だ。――父親をよっぽど嫌っているのだろう。
「美由紀さん‥‥ぴゅ」
いつの間にかドアの隙間をすり抜けて病室に入ったピューイは、様々な管を付けられ眠ったままの美由紀の手に触れる。
とは言え――身体は空っぽで夢の反応はない。本体はやっぱり指輪の中のようだ。
「‥‥ったく、最悪だわ、美由紀さんの旦那って」
病院から出てきた愛は頭を抱える。
美由紀の担当をしている看護婦に事情を聞いてみた所、起きないのをいい事に今まで彼女の買ったブランド物のバックや貴金属を別の人間に売り払ってもらい、キャバレーやクラブに通う金に使っているとか。彼曰く『もう死ぬ人間にそんなものは必要ない』らしい。
それどころか、遺産の事を考えて早く死んで貰う事を願って病院にお金すら払っていないと言う。
――ここまで、最悪な話は聞いた事がない。
腹立たしい気分をなんとか落ち着けるため、愛が缶コーヒーを飲もうとしたその時――ピューイは思い出したように少し古びた封筒を差し出した。
「そう言えば、美由紀さんのベッドの横に落ちてたぴゅ」
「もう、勝手に持ってきたら駄目じゃない‥‥」
とは言え、あったらとりあえず中身が見たくなるのが人間の悲しいサガ。――愛はちょっとドキドキしながら封筒を開ける。
中には丁寧にたたまれた『離婚届』と印刷されている役所の用紙と、家族の写真。
離婚届の方は美由紀の所にハンコは押してあったが、夫の方には勿論ハンコは押されてない。
「‥‥ぴゅーちゃん、偉い! ‥‥上手く行けば、これで何とか出来るかも知れないわ」
愛は写真に写っている美由紀の夫の部分を携帯カメラで撮影した後、様々な所へメールを打ち始めた。
数日後、歌舞伎町のSMクラブ『DRAGO』に一人の男が招待された。
名は金田・庄司。
例のろくでもない美由紀の夫である。
愛は庄司の写真を見つけた時、夜の仕事仲間達に手当たり次第画像メールを送り、知っていたらここに招待するように頼んでいたのだ。
庄司が遊び人ではなかったら到底この手は使えなかったであろう。
――もっとも、そうでなければ事件は起こってもなかったのだが。
「あんたね? あたしが今一番欲しかったオモチャは‥‥」
庄司が『部屋』に入るやいなや、愛は勢いよく鞭を振り、床に叩き付ける。
そして瞬く間に流れた数十分後には、密室の中には愛の持つの技と力にすっかり骨抜きになった『奴隷』の庄司が居た。
愛は『奴隷』をピンヒールで踏み付けたまま本気の侮蔑の視線を送る。――いつもより足に力がこもっているのは怒りが入っているのもあるかもしれない。
「‥‥このあたしの言う事なら何でも聞くわよね?」
「もちろんでございます女王様! だからもっとお願いしますっ!」
『奴隷』は悲鳴に近い歓喜の声を上げ、さらなる快楽を求め愛の足下にすり寄る。
――指輪の中で泣いている妻や、それを何とかしたいと思う愛の気持ちも知らずに。
「あらそう、じゃぁ‥‥」
愛はボンテージルックに包まれた豊かな胸から古びた封筒と三文判を取り出した――。
「愛さん、がんばってるかぴゅ‥‥」
その頃のピューイは店の控え室で愛の仕事仲間のおねーさん達から貰ったシュークリームとジュースをほおばる。
勿論、愛がどう頑張ってるかの詳細なんて知るよしもない。
●夢から覚めた夢●
次の日。
二人の姿は再び美由紀の居る病院の中にあった。
「これを美由紀さんのベットの横に置いておきなさい。そうすれば、すぐに目覚めるわ」
愛は少年に古びた封筒を差しだした。
中には両者の印鑑の付いた離婚届と庄司の部分が破られた家族の写真。
そして――美由紀が閉じこめられた指輪。
「これを?」
「信じるものは救われるよ、たまには信じてみなさい?」
愛は優しく笑い、少年の頭を撫でた。
「クリスマス頃には退院できてるかしら?」
「大丈夫だぴゅ。明日位には目覚めるはずだぴゅ」
父親は居なくとも、あの二人なら上手くやっていくだろう。
二人はそう信じ、東京の町の中へ消えて行くのであった――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0830 / 藤咲・愛 / 女 / 26 / 歌舞伎町の女王】
【1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書】
【1790 / 瀬川・蓮 / 男 / 13 / ストリートキッド(デビルサモナー)】
【1873 / 藤井・百合枝 / 女 / 24 / 派遣社員】
【2043 / ピューイ・ディモン / 男 / 10 / 夢の管理人・ペット・小学生】
(番号順)
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■ ライター通信 ■
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大変お待たせいたしました、沢邑ぽん助です。
発注誠にありがとうございました。(平伏)
今回、イニシャルをどう読むかでプレイングで話を二つに分けさせて頂きました。こういう形は自分でも初めてだったのでドキドキモノでした。
金沢美由紀を取り巻く状況も結末も大分違いますので、比較して読んでみると案外面白いかも知れません。(多分)
●藤咲・愛さん●
女王様っぽさが出たか少々不安ですが‥‥いかがでしょうか?
個人的にはこういうキャラは凄い大好きなんですが(笑)
それでは、またいずれかでお会いできる事を心よりお持ち申し上げております。
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