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神聖都迷走物語
■□ オープニング
その日、響・カスミ（ひびき・かすみ）は職員室で昼食をとろうとして重大な事実に気がついた。
弁当箱と一緒に入れたはずの箸が見当たらない。
「ま、まさか怪奇現象……！？」
怖がりなだけあって、不可解な出来事は全て怪奇現象とくくってしまうのがこの教師の悪いところである。
家を出る時に弁当箱と一緒に持って出たのは間違いない。おおかたどこかで落としたのだろう。
弁当を食べるのなら食堂へ行って割り箸をもらってくれば良いのだが、カスミが落とした箸はお気に入りのものだった。
「あのお箸は私が学生の頃から使っている、思い入れのあるものなのよね……」
弁当を食べたいのはやまやまだが、お気に入りの箸がなくなったままでは気になって次の授業に集中できないかも知れない。
ドとレとミとファとソとラとシの音を間違えたら大変である。
現在12時15分。昼休み終了まであと45分しかない。
カスミは箸を探してくれる人物を探すべく、放送室から校内に向かって呼びかけた。
（ひと、これを職権乱用と言う。）
■□Scene 1-a・駐在所
その日も私設ファンクラブの激しい追従から逃れる為、不城・鋼（ふじょう・はがね）は、屋上でカツサンドにかぶりついていた。
カスミの箸捜索要請放送を聞いて喉を詰まらせる。
「箸〜！？ なんでそんなものを探すのに校内放送を使うんだ！ ったく……だから一部の生徒になめられるんだ」
残っていたカツサンドを口に押し込み、ジュースで一気に流し込む。
コキコキ首を鳴らして立ち上がると、鋼は近所の老から教わった高速移動方法――四次元流歩法を使い、初冬の屋上を後にした。
「探し物といえば、まずは駐在所に行くのがセオリーだろう」
そんなわけで、昼食を終えた鋼はまず最初に駐在所に赴くことにした。
巨大な学園ということもあり、校内に常設されている駐在所には落とし物から迷子、喧嘩の仲裁など様々な依頼が舞い込む。
運が良ければ、カスミの箸もこちらに届けられているだろう。
「たのもー！！」
駐在所入り口、ガラス張りの扉を割れんばかりに開く。
快活な挨拶は円滑な人間関係を築く第一歩だ。
勢いを入れすぎてガラスにひびが入ってしまったのは、この際見なかったことにする。
中にいた駐在所の職員がひびに気付いて眉をひそめたが、それも気付かないふりをする。
何事も第一印象が肝心。鋼は満面の笑顔をたたえて職員の気を逸らすことに専念した。
「カスミ先生の箸を探してるんですけど、届いてませんか？」
元・総番とはいえ、歳の割に小柄で少女と見まごうばかりの容姿を持つ鋼の笑顔である。
ここのところロクでもない喧嘩の後始末などに追われ、心の荒む日々を過ごしていた駐在所の新米職員は、そのあどけない（営業）スマイルにひびの事実を忘却の彼方に押しやった。
「今日はずっと（始末書を書く為に）ここに詰めていたけど、お箸の忘れ物は届いていないよ」
とはいえ、鋼自身も最初からここに届けられているとは踏んでいない。
「そっか……やっぱりここには届いてないか……」
そうとわかれば別の場所を探索しに行くだけである。
「よーし。次は職員棟だ！！」
職員への礼もそこそこに、鋼は駐在所を飛び出した。
扉を開けた際、ひびが広がったのはいうまでもない。
駐在所職員がその事実を認識する頃、鋼の姿は四次元流歩法によって既に見えなくなっていた。
「始末書が増えたーーーーーー！？」
高く澄んだ青空に、哀愁漂う若い駐在所職員の悲鳴が響いた。
■□Scene 2-b・職員棟（職員室）
駐在所から職員棟へ移動した鋼は、カスミの元へ急いだ。
部屋へ入るなり他の職員の冷たい視線を浴びるが、年末前ということで先生達も気が立っているのだろうと納得することにした。
実際は、鋼の前にやってきた探索組の所業に腹を立てていたわけなのだが。
「先生！ もう箸は見つかりました？」
手つかずの弁当を前に、途方に暮れた様子のカスミを見つけ、声をかける。
カスミはほとほとこまりはてた様子で鋼に向かって微笑んだ。
「ありがとう不城クン。でもさっき他の皆にも探してもらったんだけど、ここにはないみたいなの……」
なるほど。よほど大人数で探し回ったのだろう。鋼が見る限り部屋の中は盛大に荒らされて、もとい荒れていた。
「先生、そんな簡単に諦めちゃだめですよ！ 探すのをやめたら見つかることが良くあるって、昔の歌手が歌ってたじゃないですか！」
「探しものは何ですか」の歌詞で一世を風靡した、シンガーソングライターのことを言っているらしい。
カスミはその発言に感銘を受けたようだ。生徒が音楽に関する話題で励ましてくれることが嬉しいのだろう。
「そうね……！ 簡単に諦めちゃだめよね！」
こういうものは案外近くにあるもの、とアタリを付け、目に入ったカスミの鞄を机の上にひっくり返す。
鞄の中身が空になるまで振り、底に引っかかっていたりしないかも良く確かめる。
続いて机上にぶちまけられた中身を選別しようとし、カスミの声にさえぎられた。
「不城クン、何てことするのーーー！」
先ほどの感銘はどこへやら、カスミまでもがご立腹のようである。
鞄をひっくり返されたのだから当然といえば当然なのだが。
鋼は机上に目を走らせると、組んだ手を口元に当て、潤んだ瞳で許しを請うた。
どうやら鞄の中にも箸はないようである。謝るしかあるまい。
「僕は先生のために良かれと思って探したのに……！」
カスミはまたも鋼の言葉に我に（？）返った。 どこまでも人の良い教師だ。
「そうよね、不城クンは私の為にしてくれたんだものね……怒ったりしてごめんなさい」
感動の面持ちで手を握るカスミに、鋼は両腕を広げた。
「カスミ先生〜！」
「不城ク〜ン！」
ひしっと抱きしめ合うかと思われた瞬間、
「先生。お箸、見つかりましたよ」
銀髪の女子生徒に声をかけられ、カスミは180度方向転換した。
「ありがとう硝月さん！」
カスミを抱きしめ損ねた腕は見事に空振りし、鋼は床に突っ伏した。
鋼の代わりか、女子生徒はカスミの熱烈な抱擁を受けている。
「そりゃないよ先生……」
つぶやき、鋼はガクリと力尽きた。
■□ エンディング
数分後、カスミの元には少女の他に四名の人物が集まっていた。
お箸を見つけたのは先ほどの銀髪少女であるらしい。
「ごめんね、不城クン。駐在所まで聞きに行ってくれたのに……」
「いいんですよ。気にしないで下さい。先生の胸に飛び込めなかったのは残念だけど……」
その後、カスミは銀髪の少女と共に次の授業へ向かっていった。
「ま、こんな日もあるよな……」
職員棟を出た鋼は、風に舞う落ち葉を見つめ空を見上げた。
天気の良い一日の出来事であった。
Unsuccessful mission...
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登場人物（この物語に登場した人物の一覧）
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【2194／硝月・倉菜／女／17／女子高生兼楽器職人】
【1573／（蘭空）・火腋／男／16／万屋『Ｎ』のメンバー】
【1593／榊船・亜真知／女／999／超高位次元知的生命体・・・神さま！？】
【0086／シュライン・エマ／女／26／翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
【1808／マーヤ・ベッラ／女／01／プー】
【2181／鹿沼・デルフェス／女／463／アンティークショップの店員】
【2239／不城・鋼／男／17／元総番（現在普通の高校生）】
※発注申込順
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ライター通信
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はじめまして。西荻 悠です。
「神聖都迷走物語」へのご参加ありがとうございました。
＞不城・鋼さま
お箸発見ならず！ 残念な結果となりましたが、ご協力本当にありがとうございました
Sene1、2通して単独行動を貫き通したのは不城さまだけです。
プレイングのノリが良かったので、色々遊ばせて頂きました。気に入って頂ければ幸いです。
この物語は「オープニング（各種）」「Scene 1（5種）」「Scene 2（4種）」「エンディング（各種）」から成り立っています。
他の方の作品と合わせてご覧頂くと、更に物語を楽しむことができる仕組みです。
興味を持たれましたら、ぜひ全作品チェックしてみてくださいね。
それでは、ご縁がありましたらまたお会いしましょう。
今宵も貴方の傍に素敵な闇が訪れますように。
西荻悠 拝
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