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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪〜異界編・氷の世界

 その日も真柴尚道は、いつものごとく自主的マンション巡回を実行中だった。
 毎日毎日、どこかしらで何かしらの歪み――幽霊の通り道のようなものであったり、異次元との境のようなものであったりと歪みの本質は様々だが、あまり放置しておいて良いようなものではない。――が発生している。
 尚道はその歪みを封じるべく――実質的には破壊しているだけだが、ここに現われるのは偶然に何かのはずみで現われたような歪みばかりなので、破壊してもなんら支障はないのである。
「はー、なんでこんなにこういうのが多いんだろうなあ、ここは」
 まあそれがこのマンションの魅力の一つであることも確かだが。特に妖怪の類いはこの気配に惹かれるらしく、それがさらにこのマンションが普通ではない要因を作り出している。
 今回見つけたのは異界への境――言い換えれば異界へと繋がる扉だ。扉の先がどうなっているのかは知らないが、あまり見たいとは思わないし、なにより。放置していて何も知らない普通の人間が巻き込まれたら大変なことになる。
 このマンションの話ではないが、俗に言う神隠しなんていうのはその半分以上がこういった次元の扉に迷い込んだ結果だ。
「さーて、ちゃきちゃき終わらせようかね」
 無造作に手を伸ばした時――歪みが増大した。人によっては扉が開いたのだと言うかもしれないが、とにかく。異界への道が開き、そして・・・・・・その向こうから放たれた光に、視界が遮られた。
「・・・うわあ・・・やっちまった」
 ほんの数瞬の間に変わってしまった風景に、尚道は思わず頭を抱えた。
 尚道がその歪みを見つけたのは九階から十階に向かう階段の踊り場で、そこからは外の景色を望むこともできた。
 さっきまでも日本の冬の寒さはあったが、だが今ここに吹き込んでくる風はそんな生易しいものではなかった。
 痛いほどに冷たい風。
 眼下に広がるは氷に包まれた極寒の世界。
 氷に包まれているせいか、それとも本当に人がいないのか。動く者の姿はまったく見えなかった。
 とりあえず、道の向こう側――尚道にとっては異世界に、飛ばされてしまったのはすぐ理解できた。
 となれば次に必要となるのは帰る方法。
 いつも歪みを探しているのと同じ要領で歪みを探し、向こうへ帰ってからいつものように歪みを閉じてしまえばよい。
 向こう側の歪みが今どうなっているのかはこちらからでは知りようもないが、早いところどうにかしないと被害が増える事は確実だろう。
 外は氷の世界、しかも人の姿もないということは移動手段も使えないだろうが、もとの歪みがあったのはマンション内部。きっとこちら側の歪みもマンションの近く、もしくはマンションの中にあると考えた。
 いろいろイロイロ考えて、だがまあ歪みをどうにかする前にとりあえず。
「さみぃ・・・・」
 自分の部屋に行って防寒具を探しに行く必要がありそうだ。
 そのまま階段で二階まで降りた尚道は、すぐさま自分の部屋に向かった。
 時期が時期だし、たしかその辺に上着やマフラーの一つはあったような気がする。
 まあ見つからないなら見つからないで、毛布かなんかでも防寒着の代用品には充分だろう。
 階段を降りつつ外を眺めていると氷の広がりがよく見えた。
 氷の中心地はどうやらマンションの外にあるらしい。この高さからでは正確にどこからとは言えなかったが、とりあえずおおまかな方角だけは掴めた。
 氷はそこから広がり世界を覆い尽くし、それだけでは飽き足らずさらに氷は分厚くなっていく。
 だが不思議なことに、マンションはまったく氷に侵食されていなかった。
 他に巻き込まれた人間が何かやっているのだろうか?
 一瞬ぱっと浮かんだのはこのマンションの大家にして元陰陽師のじーさんだが、あのじーさんは事件が
あっても我関せずな事勿れ主義タイプだ。――本人がそう言っているだけで本当に何もしていないのかどうかまでは知らないが。
「まあ、あのじーさんも来てるとは限らねぇし」
 スタスタと歩きつつ考えて、二階まで降りるのはすぐだった。
「よし、凍ってないな」
 鍵を取り出し回してみれば、自宅の扉はあっさりと開いた。直接風が吹き込まない分、外に比べれは部屋の中はずいぶんと暖かい。
 まあ、それでも寒いことには変わりないが。
 適当に部屋の中を物色して適当な防寒具をいくつか出して。
「さて・・・屋上にでも行ってみるか」
 さっき見えた外の光景を思い出して、尚道は階段を昇り始めた。
 屋上から見れば、もうちょっとあの中心のことがわかるかもしれない。
 基本的にはマンション付近にあるだろう歪みを探してみるつもりだが、なんでこんなことになったかという理由も少しは気になっていたのだ。
 屋上まで上がって、扉を開けると寒さはこれまでの比ではなかった・・・・。
 マンション内にいた時は一方は必ず壁だったからその分風も少なかったのだが、遮るもののない屋上だ。しかも地上二十階。
 吹きすさぶ極寒の風に、尚道はそれでも根性でぐるりと外の光景を眺めてみた。
 動く者のない淋しい光景の中、動きがあるのは刻々と分厚くなっていく氷ばかり。
「うーん・・・あれも気になるが・・・」
 とりあえずは当初の目的通り、歪みを探してみることにした。
 ほんの少し力を解放して、違和感――歪みを、探す。
 それは思った以上に近くにあった。
「・・・お?」
 屋上のそのまた上。屋上に出る扉がある屋根の上だ。
 早速昇って行こうとしたその時――ガチャリと、唐突に。マンションの中から扉が開かれた。
 どうやら、尚道以外にもこの世界に飛ばされた人間がいたらしい。


 逸早く屋上にやってきた真柴尚道。中心を探すべく見晴らしの良い場所へやってきた綾和泉汐耶と海原みなも。歪みを探して屋上に辿り着いた冠城琉人と鬼柳要。
 五人はお互いに顔を見合わせて、苦笑した。
「タイミングが良いというか悪いというか」
「おや、真柴さんも巻き込まれていたんですね」
「他にも巻き込まれた方がいるとは聞きましたけれど、ここで会えるとは思っていませんでした」
「とりあえず・・・皆は外の様子を見る目的で来たのかしら?」
 尚道が苦笑し、琉人は何故か落ちついた様子で告げ、みなもは少しばかり驚いた様子を見せた。
 そして最後に発言したのは汐耶。その問いに二人がこくりと頷いた。
「俺と冠城は、出口がこっちの方にあるっつーから様子を見に来たんだ」
 頷かなかった二人――要と冠城のうち、要が答える。
「どうやらな、あっちの方に中心があるらしいんだ」
 尚道が指差した方角に、全員が視線を集中した。
 確かに、刻々と分厚くなっていく氷は尚道が指差した方から広がってきているようだった。
「つまりあちらの方にこの世界を創り出した意思があるわけですね」
「そういうことだ。どうする?」
 みなもの言葉に頷いた尚道が、一行を見まわして、問いかけた。
「どうする・・・って?」
 汐耶の問いに、尚道よりも先に琉人が答えた。
「この世界を消すか、それともここにある道を通って帰るか・・・ということですね?」
 尚道がこくりと頷いた。
「あのじいさんの話からすれば、どっちの方法でも帰れるみたいだしな」
「そうねえ・・・道は向こうに戻ってから封印すれば問題ないでしょうし」
 要の呟きに続いて、汐耶が考えこむ仕草を見せた。
 ・・・少なくとも、中心はここからでは見えない。
 ビルや家に邪魔されて、詳しい場所までは見えないのだ。
「ここに出口があるならば、ここからすぐに帰れるということですよね」
 みなもの問いに、尚道がその歪みの方を指差した。それは屋上に上がる扉の真上。
「せっかく出口があるのなら、活用しない手はないと思いますよ、私は」
 にこにこと穏やかに、琉人が述べた。
 実を言えば琉人は、すでに中心部に向かっている五人の人間の様子を把握していた。今から向かっても辿り着く前に片がつくだろうと判断しての意見だった。
「まあ、俺もそれはちょっと思ったけどさあ。その原因となってるヤツが・・・好きで氷の世界にしたわけじゃなかったら?」
「何か困っているなら、助けてあげたいですよね」
 要の意見に、みなもが同意して頷いた。
「そうねえ・・・道が一つだけじゃない可能性も考えないといけないし」
 なにせここにいる全員、全く違う場所にいたのだ。
 同じ光を見たという共通点はあるものの、その光がどういう基準で、どういう条件で彼らをこの世界に飛ばしたのかはまったくわからない。
 つまり、この世界自体をどうにかしなければ、また同じようなことが起こる可能性もあるのだ。
 だがそれらの中心にも行ってみよう意見は、琉人の一言のもとに却下された。
「でも、もう間に合わないと思いますよ」
「は?」
 思わず声に出した尚道だけではない。琉人以外の全員が、琉人の言葉の意味を掴みかねて不思議そうな顔をした。
 琉人は、にっこりと笑顔のままで、
「迷い込んだ人は全部で十一人。大家さんを除いて、ここにいないあと五人が、どこに向かっていると思いますか?」
 そう、告げた直後。

 世界が、光を放つ。

「世界の中心が壊された・・・?」
 光が途絶え、視界が戻ってきた時、異世界に迷い込んだという十一人全員が、九階から十階に向かう階段の踊り場に立っていた。
 どうやら道の大元はここであったらしい。
 狭い階段の踊り場にに十一人。なかなか見られない光景である。
 突然の移動に、一行はしばし茫然としていた。
 が、特に気にするふうでもなく飄々と動き出した人物が一人。
「さて、それじゃ私は部屋に戻るとするか。美味しいお茶をありがとうな、冠城さん」
 大家の老人の言葉をきっかけに、十人ははっと我に返る。
 ふと空を見上げれば、今年最初の初雪が、チラホラと空から落ちてきていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2158|真柴尚道    |男|21|フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子    |女|18|大学生(巫女)
2209|冠城琉人    |男|84|神父(悪魔狩り)
2181|鹿沼・デルフェス|女|163|アンティークショップの店員
1252|海原みなも   |女|13|中学生
0389|真名神慶悟   |男|20|陰陽師
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2053|氷女杜冬華   |女|24|フルーツパーラー店主
1358|鬼柳要     |男|17|高校生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 異界に吹っ飛ばされてしまった皆様・・・・お疲れ様でした。

 歪みの封印、ご苦労様です。
 今回はタイミング悪く巻きこまれてしまいましたが・・・。
 今後とも頑張ってくださいませ(笑)

 それでは、今回はご参加どうもありがとうございました。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。