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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪〜異界編・氷の世界

 暖房をつけ、極寒吹きすさぶ外の様子はまったく無視した暖かな部屋の中で。
 冠城琉人は、本日手に入れたばかりの美味しい緑茶を飲んで、ほくほく顔だった。
「ふう・・・・やっぱり緑茶が一番です」
 駅前マンション十九階、自宅の落ちつける空間の中で、琉人はのんびりのほほんと午後のお茶を楽しんでいた。
 ちなみにさっきから急に冷え込んできたような気がしているが、琉人はまったく気にしない。少なくとも、表面上は。
 きっかけは外で光った何か。
 その後から突然、寒さが増したのだ。
 冬の半ばのこの季節、もともと部屋の中は暖房器具がついていて暖かかった。だが光の直後、突如にして暖房器具もロクに効かない大寒波が襲ってきたのだ。
 その時、まず琉人がやった事は、暖房の設定温度を上げる事だった。あんまり設定温度を上げると電気代が痛いが、そんなことを言っていられるようなレベルの寒さではなかったのだ。
 だが本当に何もしていないかというと、そういうわけでもない。
 こんな極寒の世界にいつまでも置き去りにされるのはとても困る。
 そこで琉人は、ネクロマンシーを駆使し、数十体の霊たちに周囲の様子を探ってもらっているのだ。
 わかった事といえば、どうやらこの世界に人は極端に少ないらしいという事。
 今のところ見つけたのは、琉人を入れて十一人。同じマンションの住人である真柴尚道とそれから大家の老人。あとは知らない顔がチラホラと。
 とりあえず現在の琉人の探索対象は怪しいオブジェクトがないかどうか――この氷の世界を作り出している何かがあると考えての事だ。
 それと、この世界に来た原因――時折このマンション内ではおかしな歪みを見つける。おそらく今回はその歪みが、異世界への扉となったのだろう。そうとでも考えなければ、一瞬にして広がった氷と、一瞬にして消え去った人々の説明がつかない。琉人がもといた世界から見れば、琉人が突然消え去ったのだ。
 今のところ、探索の成果はない。
 一杯お茶を飲み終えて、
「ああ、そうだ」
 琉人はぽんっと、手を打った。
「せっかくだから大家さんにも分けてあげましょう」
 このマンションの大家である老人は、琉人同様、こよなくお茶を愛する老人だ。
 時折用事があって訪ねると、いつでも美味しいお茶と、お茶に良く合うお菓子がテーブルに乗っている。
 ついでに、外から見ているとどうやらこのマンションだけは氷の侵食を逃れている様子。このマンションに結界を張ったとして・・・誰がやったかと考えれば、可能性として一番高いのは大家の老人だ。

 緑茶のお茶葉と羊羹持参で大家宅にやってきた琉人は、大家と二人、のんびりとお茶をすすっていた。
「ああ、このおせんべいも美味しいですね」
「お茶に良く合うだろう?」

 ピンポーン

 聞こえたチャイムに、老人は不思議がる様子もなくガチャリと扉を開けた。
「いらっしゃい。外は寒いだろう? 良かったら暖まっていきなさい」
「は? えーと・・・・いいのか?」
 いきなりの言葉に驚いたのか赤毛の少年は少々戸惑った様子で、だが素直に老人の申し出を受けた。
「貴方も今回の異世界騒動に巻き込まれたんですね? 私は冠城琉人と言います」
 部屋の真中のコタツの一角を陣取った琉人は、にっこり笑って名を告げた。
「俺は鬼柳要だ。・・・冷静になるのが悪い事だとは言わないが、落ちつきすぎじゃないか?」
 そう言いつつも、要はあっさりとコタツの一角に腰を下ろした。
「そうですか?」
「・・・もしかして、何がどうしてこんなことになったのか知っているのか?」
 あまりにも落ち着き払った琉人に、要はそんな疑問を抱いた。
 だが最近入居してきたばかりの琉人はもちろん、原因など知るわけがない。
「こんな時はじっとして待つのが一番ですよ」
 にっこり笑って、お茶菓子の羊羹に手を伸ばす。
 要の視線が老人の方へと向いた。
「まあ、よくある事だ」
「よくある事?」
 要が問いかえすと、老人は楽しそうに笑った。
 そして、このマンションは昔っから――マンションが建つ以前から、こういう土地柄だったのだと、告げた。
「もしかしたらここに惹かれてくる妖怪は、実はこの気配に惹かれてきているのかもしれないなあ」
「この気配?」
 オウム返しに問う要に、老人はさらに言葉を続ける。
「ここは空間が微妙に歪んでいてな・・・扉が薄いんだよ。異なる世界との扉がな。それでも、普段はぴったりと閉じてるから気付く者は少ない。気付いた者は気付いた者で、自主的にいろいろやってくれてるようだが、そういった扉――歪みと呼ぶ者もいるが――は、気紛れに現われては開くものだから、いつどこに開くかという予測は難しいんだよ」
「・・・些細なきっかけで他の世界への扉が開いてしまうということか」
「まあ、そういうことだ」
 老人は、呑気にお茶をすすりつつ、頷いた。
 二人のやりとりを、表面上は変わらぬのほほんとした様子で――だがその裏では至極真剣に、琉人も耳を傾けた。
「帰る方法はないのか?」
「方法は簡単だ。扉を探すか、世界の中心を探すか、世界が消えるまで待つか――どれを実行するにしてもそう難しくはない。まあ、私は面倒だから世界が消えるのを待っているがな。どうせ、大概他にも巻き込まれているんだ、そのうちの誰かがなんとかするだろうて。ついさっき・・・冠城さんが来る少し前にも何人かの娘さんが、脱出方法を探しに行ったしな」
「結構、巻きこまれた人間は多いみたいだな」
「そうでもありませんよ」
 自分への確認のように呟いた要の言葉に、琉人は何でもない事のようにさらりと返した。
「私たちを入れても全部で十一人です。・・・さて、出掛けましょうか」
「どこに?」
「この世界からの出口――歪みに、です」


 逸早く屋上にやってきた真柴尚道。中心を探すべく見晴らしの良い場所へやってきた綾和泉汐耶と海原みなも。歪みを探して屋上に辿り着いた冠城琉人と鬼柳要。
 五人はお互いに顔を見合わせて、苦笑した。
「タイミングが良いというか悪いというか」
「おや、真柴さんも巻き込まれていたんですね」
「他にも巻き込まれた方がいるとは聞きましたけれど、ここで会えるとは思っていませんでした」
「とりあえず・・・皆は外の様子を見る目的で来たのかしら?」
 尚道が苦笑し、琉人は何故か落ちついた様子で告げ、みなもは少しばかり驚いた様子を見せた。
 そして最後に発言したのは汐耶。その問いに二人がこくりと頷いた。
「俺と冠城は、出口がこっちの方にあるっつーから様子を見に来たんだ」
 頷かなかった二人――要と冠城のうち、要が答える。
「どうやらな、あっちの方に中心があるらしいんだ」
 尚道が指差した方角に、全員が視線を集中した。
 確かに、刻々と分厚くなっていく氷は尚道が指差した方から広がってきているようだった。
「つまりあちらの方にこの世界を創り出した意思があるわけですね」
「そういうことだ。どうする?」
 みなもの言葉に頷いた尚道が、一行を見まわして、問いかけた。
「どうする・・・って?」
 汐耶の問いに、尚道よりも先に琉人が答えた。
「この世界を消すか、それともここにある道を通って帰るか・・・ということですね?」
 尚道がこくりと頷いた。
「あのじいさんの話からすれば、どっちの方法でも帰れるみたいだしな」
「そうねえ・・・道は向こうに戻ってから封印すれば問題ないでしょうし」
 要の呟きに続いて、汐耶が考えこむ仕草を見せた。
 ・・・少なくとも、中心はここからでは見えない。
 ビルや家に邪魔されて、詳しい場所までは見えないのだ。
「ここに出口があるならば、ここからすぐに帰れるということですよね」
 みなもの問いに、尚道がその歪みの方を指差した。それは屋上に上がる扉の真上。
「せっかく出口があるのなら、活用しない手はないと思いますよ、私は」
 にこにこと穏やかに、琉人が述べた。
 実を言えば琉人は、すでに中心部に向かっている五人の人間の様子を把握していた。今から向かっても辿り着く前に片がつくだろうと判断しての意見だった。
「まあ、俺もそれはちょっと思ったけどさあ。その原因となってるヤツが・・・好きで氷の世界にしたわけじゃなかったら?」
「何か困っているなら、助けてあげたいですよね」
 要の意見に、みなもが同意して頷いた。
「そうねえ・・・道が一つだけじゃない可能性も考えないといけないし」
 なにせここにいる全員、全く違う場所にいたのだ。
 同じ光を見たという共通点はあるものの、その光がどういう基準で、どういう条件で彼らをこの世界に飛ばしたのかはまったくわからない。
 つまり、この世界自体をどうにかしなければ、また同じようなことが起こる可能性もあるのだ。
 だがそれらの中心にも行ってみよう意見は、琉人の一言のもとに却下された。
「でも、もう間に合わないと思いますよ」
「は?」
 思わず声に出した尚道だけではない。琉人以外の全員が、琉人の言葉の意味を掴みかねて不思議そうな顔をした。
 琉人は、にっこりと笑顔のままで、
「迷い込んだ人は全部で十一人。大家さんを除いて、ここにいないあと五人が、どこに向かっていると思いますか?」
 そう、告げた直後。

 世界が、光を放つ。

「世界の中心が壊された・・・?」
 光が途絶え、視界が戻ってきた時、異世界に迷い込んだという十一人全員が、九階から十階に向かう階段の踊り場に立っていた。
 どうやら道の大元はここであったらしい。
 狭い階段の踊り場にに十一人。なかなか見られない光景である。
 突然の移動に、一行はしばし茫然としていた。
 が、特に気にするふうでもなく飄々と動き出した人物が一人。
「さて、それじゃ私は部屋に戻るとするか。美味しいお茶をありがとうな、冠城さん」
 大家の老人の言葉をきっかけに、十人ははっと我に返る。
 ふと空を見上げれば、今年最初の初雪が、チラホラと空から落ちてきていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2158|真柴尚道    |男|21|フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子    |女|18|大学生(巫女)
2209|冠城琉人    |男|84|神父(悪魔狩り)
2181|鹿沼・デルフェス|女|163|アンティークショップの店員
1252|海原みなも   |女|13|中学生
0389|真名神慶悟   |男|20|陰陽師
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2053|氷女杜冬華   |女|24|フルーツパーラー店主
1358|鬼柳要     |男|17|高校生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 異界に吹っ飛ばされてしまった皆様・・・・お疲れ様でした。

 お初にお目にかかります。
 マンション組の中ではおそらく一番今回の状況を把握していたと思われます。
 霊体を駆使しての探索は、文字数の都合上経過の描写があまりできませんでした(涙)
 お茶会のシーンは書いていてとても楽しかったです。のんびりのほほんとしたシーン大好きなのでv

 それでは、今回はご参加どうもありがとうございました。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。