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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪〜異界編・氷の世界

 鹿沼・デルフェスは、現在居候の身である。
 アンティークショップ・レンの店主である碧摩蓮の元で店員として働きつつ、店に居候させてもらっている。
 とある事情で四百年以上もの間眠りについていたデルフェスは、目覚めてのち住む場所もなく、また現代の状況もよくわからず。デルフェスを見出してくれた蓮の元に身を寄せる以外の方法を選択できなかったのだ。
 だが現在の時の流れにもそれなりに慣れてきた今。デルフェスは、いつまでも蓮のお店に居候しているわけにもいかないと、新しく住む場所を探している最中だった。
 そんな折りに候補の一つに上がったのがここ、駅前マンション。
 家賃も安く、保証人というものも必要なく。また交通の便も良く、時折お世話になっている草間興信所にも近い。
 これほどの好条件はなかなか見つからないだろう。
 本日デルフェスは、その駅前マンションの下見にやってきていた。

 だが、それがまさかこんなことになろうとは・・・・・・・・・・・・。

 大家さんに空き室の鍵を借り、その部屋がある五階の廊下に辿り着いた時だった。
 ふいに、視界が光に染まった。
 数秒ののち、視界が戻ってきた時。五階から見える景色は見事に一変していた。
 景色だけではない。
 空気は切り裂くような冷たさを持ち、風は冷たいを通り越して痛い。
 家も木々も、全てが氷に包まれて――。
 瞬間。
 デルフェスは思わず自らの身をぎゅっと抱きしめた。
 寒さゆえにではない。恐怖からの行動だった。
 四百年以上ものあいだデルフェスが眠りつづけていた場所は、北欧の極寒の地であった。
 動くこともなく、まさしく氷の彫像の様で眠りつづけた長い時は、デルフェスの心に傷をつけるには充分な出来事であった。
「・・・一刻も早く元の世界に帰らなくては・・・」
 動く者のない街を見つめ、デルフェスはポツリと呟いた。
 だがその反面、かつてのデルフェス自身と同じように氷漬けになっている者がいるかもしれないと思うと放っておくことは出来なかった。
 自然、デルフェスの足は外へと向かう。
 マンションの外は、予想通り――いやそれ以上の極寒の地だった。
 刻々と厚くなっていく氷が、さらなる恐怖を呼び起こす。
 だが、そこで立ち止まっているわけにもいかない。
 その時だった。
「まあ、他にも無事な方がいらっしゃったんですね」
 聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは二十歳過ぎくらいの女性が立っていた。
「大丈夫ですか?」
 自分はミスリルゴーレムだからこの極寒の地であっても動くに支障はない。だが目の前の女性は、見る限り普通の人間にも見えた。
「ええ、私は大丈夫ですけれど・・・貴方は?」
 言われて、まだ名前も名乗っていなかったことを思い出す。慌ててペコリとお辞儀をして、
「申し遅れました。わたくし、鹿沼・デルフェスと言います。今日はこちらのマンションに用があって来たのですが・・・なにやらおかしなことに巻き込まれてしまったようで」
「私は氷女杜冬華と言います。私もよくわからないままに巻き込まれてしまって・・・。一体どうなっているんでしょう」
 冬華の呟きに、デルフェスも同じように考え込んだ。
「とりあえず、原因となっているものがあるはずですから、中心を探してみようと思っているんです」
「氷女杜様もですか? わたくしも中心の方へ行くつもりでしたの」
 同じように巻き込まれ、同じ地を目的地としていた二人は、ともに中心を目指すことにしたのであった。
「おそらく、冷気の濃いところが中心だと思うんです」
 冬華の言葉に、デルフェスは静かに頷いた。
「わたくしも同感ですわ。ただ、それをどうやって探すかが問題ですわ」
 現在二人の持ち物の中に温度計などと言う気が効いた物はない。となれば、デルフェスがそこで悩むのも無理はない。
「それなら私が探せますから、なんとかなると思います」
 冬華が断言したことに、デルフェスは少しだけ不思議そうな顔をしたが、だが深く追求する気は起きなかった。
 デルフェスとて普通ではないわけだし、一般人の姿がまったくない――歩き出しても・・・動いている者はなく、また氷漬けになっているような者もなく。一般人らしき姿は一つたりとみつからなかったのだ――ことから考えても、冬華が普通の人間とは違う存在である可能性は大きいと考えるのはそう難しいことではない。
「でしたら、一刻も早く中心に向かいましょう。他に巻き込まれた方がいるかもしれませんし、急いだ方がいいと思うんです」
「ええ、そうですね」
 こうして二人は、冬華の冷気を感知する独特の感覚を頼りに、確実に中心の方へと向かっていた。


 さて、氷の広がっている中心へと移動を続け、今回の世界の意思らしき場所へ辿り着いた五人――天薙撫子、真名神慶悟、シュライン・エマ、鹿沼・デルフェス、氷女杜冬華――は、そこにあったモノに目を丸くした。
 そこにあるのは、小さな小さな雪だるま。
「これが・・・この世界の意思?」
 慶悟が、それを見つめつつ目を点にした。
「そうですねえ・・・もしかしたら意思の象徴であって、意思の持ち主本人と言うわけではないのかもしれません」
「じゃあこの雪だるまを破壊してもダメってことかしら?」
 撫子が目指したのはあくまでも力の中心。力の発生源と意思が別の場所にある可能性をあげると、シュラインがうで組みをして考え込んだ。
「うーん・・・・でも確かに、冷気の中心はここですよ」
 それに答えたのは冬華。確かに力の発生源と意思が別物である可能性は否定できないが、力の発生源が消えれば少なくともこの異様な冷気は消えるのではないかと考えての答えだった。
「とりあえず、お話を聞いてみてはいかがでしょう?」
 穏やかに穏やかに。楚々としたお嬢様風の雰囲気を崩さぬままに、デルフェスがその場にしゃがみこんで雪だるまと視線を合わせた。――実際には雪だるまは高さ数センチで、しゃがんだくらいではまだデルフェスの視線の方が高かったが。
「話せるの、これ?」
 思わず、シュラインが雪だるまを指差した。
「口はありますよ、一応」
 デルフェスは、真顔で、言う。
「普通は喋れないモノだが、そいうった常識が通用するのかどうか怪しいしなあ・・・」
 慶悟はじーっと雪だるまを見つめてみるが喋る気配も動く様子もない。
 丸っこい小さな姿につぶらな瞳を見ていると、一方的に破壊するのもなんだか悪いような気がしてくる。
「・・・・・・・どうしましょう?」
 冬華の問いに、全員が考え込んだ。
 おそらくはこの雪だるまを破壊しないと冷気は消えない。
 だが、事情もなにもわからぬままに一方的に破壊するのも多少は気が引ける。
「出口を・・・探すか?」
 ここに入ってきたのと同じような扉が、こちら側の世界にもどこかにあるはずだという憶測のもとに、慶悟が呟いた。
「そうねえ・・・」
 一行がうーんと考え込んでいたその時だった。
「あら」
 一人、雪だるまの前にまだしゃがみ込んでいたデルフェスが声をあげた。
「ん?」
「まあ」
 ぴょこぴょこと不恰好に歩く雪だるまが、ぴたりと冬華の足元に懐いた。
「あら、まあ」
「どうしたんでしょう、急に・・・?」
 驚く撫子や他の面子の様子に気付きつつ、冬華はたいして不思議にも思わなかった。
 何故なら、冬華もこの雪だるまも。ともに冷気に属する存在なのだから。
 ふいに、空から白い花びらが落ちてくる。
「雪・・・?」
 シュラインが、顔を上げた。
「また寒くなるんでしょうか・・?」
 ワンテンポ遅れて撫子もまた灰色の空を見上げた。
 最初の雪が地面に落ちて、アスファルトの地面に溶けて小さな染みを作る。
「氷が・・・・」
 そう、いつのまにか。まだほんの一角にすぎないが、氷が消えていた。
 アスファルトを濡らした雪は、ほんの数秒であっさりとその痕跡を消して――と、同時。
 世界が、一変した。

 世界が、光を放つ。

「世界の中心が壊された・・・?」
 光が途絶え、視界が戻ってきた時、異世界に迷い込んだという十一人全員が、九階から十階に向かう階段の踊り場に立っていた。
 どうやら道の大元はここであったらしい。
 狭い階段の踊り場にに十一人。なかなか見られない光景である。
 突然の移動に、一行はしばし茫然としていた。
 が、特に気にするふうでもなく飄々と動き出した人物が一人。
「さて、それじゃ私は部屋に戻るとするか。美味しいお茶をありがとうな、冠城さん」
 大家の老人の言葉をきっかけに、十人ははっと我に返る。
 ふと空を見上げれば、今年最初の初雪が、チラホラと空から落ちてきていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2158|真柴尚道    |男|21|フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子    |女|18|大学生(巫女)
2209|冠城琉人    |男|84|神父(悪魔狩り)
2181|鹿沼・デルフェス|女|163|アンティークショップの店員
1252|海原みなも   |女|13|中学生
0389|真名神慶悟   |男|20|陰陽師
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2053|氷女杜冬華   |女|24|フルーツパーラー店主
1358|鬼柳要     |男|17|高校生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 異界に吹っ飛ばされてしまった皆様・・・・お疲れ様でした。
 今回の世界の意思はたんなる雪のひとつぶ――なので、実はなにもしなくても時間が経ったら消えるものでした。
 雪の最初の一粒って、地面に落ちてさっさと溶けてしまう儚い運命の持ち主だと思っているので。

 お初にお目にかかります。
 おっとり天然系のキャラを書くのは大好きなので(根がのほほん好きなモノで、おっとりのんびりした雰囲気が好きなのです)書いていてとても楽しかったです。
 また、おっとりだけでは収まらない、過去の描写も書いてて楽しいシーンでした♪

 それでは、今回はご参加どうもありがとうございました。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。