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<東京怪談ノベル(シングル)>


学校に行こう

神聖都学園高等部
高等部では転校生がくると一気に話題になる。特に男子生徒は、
「可愛い子だって」
「どんな子かな?」
「前に見たような気がするぞ」
という会話をするのがベタなものだろう。
既に事情を知っているある者はワンパターンだなと苦笑している。何とかその会話から逃げるのでやっとで、一部は逃げるように屋上に向かったらしい。
予鈴がなり、HRが始まる。
騒々しい会話は、教師が現れると徐々に無くなり皆席に着いた。
教諭が転校生を連れてやってくる。
色合いもデザインも可愛い神聖都学園制服(その1)であるセーラー服を着た、茶色の長髪に深い緑の瞳をした美少女。
「本日から、この神聖都学園高等部に転校してきた白里焔寿さんだ。皆仲良くするように」
男子生徒のみならず前からの友人も歓声を上げた。
「白里焔寿です。宜しくお願いします」
少女はぺこりとお辞儀をした。


時間は少しさかのぼる。
「そろそろ、学校に行った方がいいわ。将来的に神子だけではやっていけませんし」
と、白里焔寿の叔母はいつも彼女に入学を勧める。
父の妹である叔母はいつもこの事ばかり言う。それは、彼女の先を案じてのことだ。しかし彼女は17歳になるまで首を振ることはなかった。
自分が静宮家の神子であること以外に、両親が他界したショックが少し人との壁を作っていたのであろう。親族に反対されて結婚した両親。しかし、彼女が生まれてから徐々に親戚間の仲は良くなった矢先だった…。焔寿には猫が友達だった生活だけで外の世界はなかったし、無いものと思っていた(そして、謎の黒子が彼女の生活を支えているのは秘密だ)。学生服などに憧れもしたが、学校自体にあまり興味はなかった。
一応、父方からの計らいで、自宅で家庭教師を雇ってもらい勉強し「義務教育」の課程は修了したとしている。しかし其れは書類上のことだ。
喋る紫色の猫を友達にくわえてから、様々な体験をしたことが要因となり、焔寿の心は外の世界に向けられていた。
「分かりました叔母様」
焔寿はにっこりと微笑んで、今まで縦に振らなかった首を動かした。
「よかったわぁ。もう決まっているけど良いかしら」
「何処でしょうか?」
「神聖都学園よ。縁故もありますし、あなたの従兄弟兄妹達もいますからね」
「神聖都学園ですね」
ふと、考える焔寿。
確かメール交換で瀬名雫があの学校に転校したと言っていたことを思い出す。噂でも、あの彼女が転校するほど怪奇現象に満ちあふれている学校。そして、更なる世界を見たいと願う焔寿の心。
(学校生活も楽しくなりそうです♪)
と、焔寿は心胸躍らせる。
笑顔を見せる焔寿に叔母は安堵し、彼女に手続きの方法を教えていく。今は世話が出来るが、彼女は今まで自由に生きてきた。ならば、本当の独り立ちするためには自分のことは可能なことだけでもこなすことなのだ。
それを、アメリカンショートヘアと紫猫2匹が興味深げに眺めていた。

そして焔寿は神聖都学園に編入できた。
滞りなく手続きが済み、今では校長と叔母は色々話している。
「見学してきてもよろしいでしょうか?」
と、訊ねる焔寿。
2人とも承諾するが、
「この学園は大きいので迷わないでね」
と叔母がいう。
「分かりました」
と、お辞儀をしてその場をさる。
他の人から見れば「馬鹿に広い」学校だ。
しかし焔寿からはそうは見えない。その意味は分かるだろう。
何せ初めての学校なのだから。
此処の学校は制服の基準も複雑なのだが(いい加減とも言われる)、セーラー服である。
付き添いの教諭は居ないが彼女は軽い足取りで、ある場所まで向かっていった。1人でこの学校を見学するほど馬鹿ではない。
ちゃんとした付添人がいるのだ。既に校長も叔母も了承済み。
「あ、焔寿ちゃん!こっちだよ、こっち!」
瀬名雫が焔寿の姿を見つけて手を振っていた。彼女が焔寿と共に巨大学園を見学する付添人だ。
中等部と高等部共用区域の案内と、少しだけ怪奇現象の噂のあるスポットをみて回った。
途中、いつも事件で出会う人と従兄弟が勉強している姿や、さぼっている所を目撃する。友達は驚いたが、既に知っていた従兄弟達はにこやかに手を振ってくれたりした。
「どうかな?この学校?」
雫は焔寿に訊いた。
しかし焔寿は答えなかった。
いや、答えられないのだ。
様々な学校の姿をいっぺんに見たのでなんと新鮮すぎ、言葉に出ないのだ。
立ちつくしている焔寿を心配する雫。
我に返る焔寿は、
「あ、ごめんなさい。凄すぎて…言葉が…」
「凄いよね〜おおきもん」
「うん…大きいし…知らないことが多いです…」
彼女は此処を学舎として通学するのだ。その実感が徐々に

転入の挨拶が終わってから、数週間が経つ。

それでも焔寿にとって学校生活は何もかも新鮮に見えた。
新しい友達もできたり、体育で体操服姿を恥ずかしがったり、食堂の争奪バトルを見て驚いたり、毎日が飽きない。ただ、30〜40人規模の集団で半日を共にする集団行動には流石になじめないようだ。しかし、虐められることもないし、前からの友達従兄弟達も親切にしてくれている。
囲まれた世界なのに此処まで広い世界があるなんて、と焔寿は感激している。
楽しくて、おかしくて帰ったら家で待っている「友達」の猫に話す。
猫は、特に紫の猫は興味津々に聞いていた。

ある日、雫と一緒に昼食を食べるため、中庭に向かう。途中、廊下の窓にへばりつく謎の生物を見つけた。
いや、「友達」の紫猫だ。流石に驚いた焔寿。
「彼」は恨めしそうに焔寿を見つめている。
「もう、留守番していなさいって言っていたでしょう」
と、ため息を吐く。
幸い、誰も気が付いていなかったようだ。猫が窓にへばりついているのに?
もしかして、この猫は焔寿にしか見えないように細工をしたのだろうか?
猫は一鳴きしたあと、いそいそと帰っていく。
苦笑しながらも、焔寿は猫を見送り、雫とその友達の待つ中庭に向かっていったのだった。

また世界の広さを知る日々が待っていることだろう。
彼女は、新しい世界に向かって羽ばたくのだ。
屋敷という鳥かごから飛び出すために…。