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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:サバイバル・ゲーム
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 ざわざわと下草が鳴る。
 鬱蒼とした木々のいたるところから悪意の波動が漏れているようだ。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
 荒い息遣い。
 野戦服に身を包んだ女が森の中を駆ける。
 追ってくる気配は三つ。
 状況は良くないが、入り組んだ森林をうまく使えば逃げ切れるだろう。
 そう考えたのは早計だった。
 突然、女の前に人影が出現する。
 罠に誘い込まれたのだ。
「なっ!?」
 悲鳴をあげる暇もあればこそ。
 組み付かれ、引き倒される女の身体。
 非音楽的な響きをたてて野戦服が引き裂かれる。
 スポーティーな下着が露わになった。
「く‥‥この‥‥っ!!」
 紅唇が意味不明の言葉を紡ぎ。
 のしかかる男の身体を切り裂‥‥かなかった。
「こんなの相手に物理魔法なんか使うなよ。綾」
 降りそそぐ声。
 同時に、のしかかっていた男が弛緩し崩れ落ちた。
「武彦‥‥?」
「良いタイミングで現れただろ?」
 身を起こした新山綾に、草間武彦が片目をつむって見せる。
「なんでアンタがここに?」
 一向に感銘を受けた風もなく、綾が尋ねた。
「たぶん、綾と同じ理由だ」
「やっばり‥‥」
「行方不明が六人も出てるんだ。警察がほっとくわけないだろ」
「ええ。だから、わたしのところにも依頼が来たのよ」
 倒れた男の服を剥ぎ取って身に付けつつ言う綾。
 某テレビ局が主催している生き残りゲーム。
 優勝賞金は一億円。
 今回が第二回である。
 最初の開催の時、参加者一〇〇名のうち六名が行方不明になった。
 それがリアリティーとなって、視聴率は高水準をマークした。
「ただの視聴者なら単純に楽しめるけどね」
「ああ。俺のところにも家族から依頼がきてる」
「生きてると思う?」
「微妙だな‥‥女ばかり六人。生きているとしても‥‥」
「この国にはいないかもしれないわね」
「速断は禁物だ。ところで」
「手を組まないか、でしょ?」
「ご名答」
「断る理由はないわね」
 同年の男女が握手を交わす。
 怪奇探偵と魔術師。
 最も危険なコンビが結成された。







※生き残ることと、真相を探ること。このふたつが命題です。
 場所は、何処ともしれぬ森林地帯です。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。

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サバイバル・ゲーム

 大衆というものは、本質的にサディズムである。
 自分に累が及ばないことなら、よりショッキングで悲惨なことを好む。
 偏見とはいえない。
 かつてこの国を震撼させた浅間山荘事件。日航機墜落事故。阪神淡路大震災。いずれも空前の高視聴率を記録している。
 単に事実が知りたいだけなら、事件が収まった後に新聞でも読めば良いのだ。
 わざわざリアルタイムで情報を収集する理由などない。
 にもかかわらず、大衆は知りたがる。
 それどころか進んで嘴を突っ込むものもいる。
 何年か前、函館空港で起こったハイジャック事件の時もそうだった。
「はやく突入しろ」「狙撃隊を出して犯人を射殺しろ」
 などという電話が当局に相次いだ。
 大衆にとってみれば、人質の安全など二の次でしかない。
 自分が楽しめれば良いのだ。
 だから、大日本テレビの主催する「サバイバル・ゲーム」の第一回開催で六人もの行方不明者が出たとき、非難の声よりもむしろ第二回の開催を望む意見の方がはるかに多かった。
 あるいは行方不明になった人が遺体で発見されれば、さすがに強行しなかっただろうか。
「警察力が低下しているって側面もありますがね」
 と、那神化楽が締めくくった。
 鬱蒼とした森。
 ぱちぱち櫨割れながら薪が燃え崩れてゆく。
 草間武彦は面白くもなさそうに煙草をふかし、シュライン・エマは注意深く周囲の音を探り、巫灰慈と新山綾は互いの背を守るようにして座り、守崎啓斗と海原みたまが歩哨を続け、御影瑠璃花が草間の膝で眠りこける。
 総計八人のパーティーである。
 この深刻で滑稽なゲームの参加者一〇〇名のうちの八名だ。
 多いと見るか少ないと見るかは見解の別れるところだが、残り九二名がすべて敵だと可能性もある。
「九二人で済めば良いけどな」
 とは、巫の台詞だった。
 いくら大衆がトラブルを好むといっても、六名もの行方不明者を出して、なお第二回が開催されたことに紅い瞳の青年は不審さを感じるのだ。
 視聴率最優先の民放番組。
 そう。
 あくまで番組なのだ。
 ようするにお遊びなのである。
「最悪、関係者が全員グルだってこともあるわよね」
 シュラインが言う。
 参加者だけでなく、スタッフも主催者もスポンサーも、すべて敵。
 その想像は戦慄を孕む。
 まるで、森自体が悪意に満たされているようだ。
「行方不明になった六名は、どの方もお綺麗でしたね」
「‥‥それが大会の目的だったと思う? 化楽さん」
「いいえ。たぶんついででしょう」
「そのうち、犯人をでっち上げるつもりかもしれないわね」
「ええ。そしたら今度はドキュメンタリーでも作るでしょうか」
 那神と綾が抽象的な会話を交わした。
 むろん、一人を除いて全員が意味を理解した。
「なんでこんなのつれてきたんだ?」
 啓斗が、ちらりとその一人を見ながら舌打ちする。
 草間の膝で眠っている瑠璃花。
 どう考えても野戦向きではない。
「‥‥いつの間にか付いてきていたんだ」
 不機嫌に答える怪奇探偵。
 まあ、機嫌が悪くなるのも無理はない。
 まわりはすべて敵と考えた方が良い状況で、あからさまな足手まといを抱えてしまっているのだ。
 瑠璃花をガードするために草間が貼り付き、もともと八人しかいないパーティーが実質六人になってしまっている。
 ごく当たり前の話だが、基本的に数は力である。
 員数外の瑠璃花を抱え込んでしまったことにより、パーティーの戦闘力が低下したのは紛れもない事実だ。
 一応、この少女もなんらかの特殊能力は持っているらしいが、残念ながらそんなものは実際の場では役に立たない。
 というのも戦いというのは、ある種、思い切りというか開き直りが必要だからだ。
 格闘技の達人が戦場では役立たずだった、など、べつに珍しくもない話なのである。
 たとえば八人の中で正規の軍事教育を受けたものは、啓斗くらいだ。
 元傭兵のみたまは、一から十までを実戦の場で体得したし、シュラインや巫、草間や綾だって同じだ。
 那神だけは特別で、彼の心に潜む魔性は野生の戦い方を知っている。もっともこれも、血の呼び声と体得によるものだ。
 あるいは、慣れ、という言い方の方が適当だろうか。
 むろん、こんなことに慣れない方が良いに決まっている。
 人を殺すという心理的重圧は、経験したものでなくては判らない。
 パーティーの中で最も多数の命を奪ったであろうみたまも、殺人を楽しんだことなどただの一度もない。
 敵を一人殺すごとに、人として赦されぬ罪を重ねているのだ。
 無垢な瑠璃花に同じ十字架を背負わせたくはない、と、彼らが考えるのは当然であろう。
 今回は相手を殺す必要まではないにしても。
「‥‥周囲に人の気配はないわ」
 やや不器用に話題を変えるみたま。
 かるく頷いたシュラインが、手早く見張り順を決めた。
 観光キャンプならともかく、全員で仲良く寝ましょう、というわけにはいかないのだ。
「最初が灰慈と綾さん。つぎにみたまと啓斗。最後が武彦さんと私。これで良いわね?」
「俺は?」
 美髭の絵本作家が尋ねる。
「那神のダンナはふつーに寝ろ。肉体労働が似合う柄じゃねーんだから」
 巫が笑った。
 もうひとつの人格、ベータと呼ばれる魔性が目覚めれば、那神の接近格闘戦能力はパーティー随一となる。
 ただ、これの出現はランダムで、那神自身がコントロールできるわけではない。というより、那神はベータのことを知らないのだ。となれば、インドア派の彼が見張りに立ったところで、ほとんど意味がないだろう。
 ここはおとなしく瑠璃花と一緒に夢の園ででも遊んでいてもらった方がベターだ。
「‥‥ちぇ。俺の組以外はカップルじゃないか‥‥」
 啓斗がなにやらぼそぼそ言った。
 むろん、一顧だにされなかった。
 疑惑だらけの生き残りゲームは、まだ始まったばかりである。


「一人っ!」
 高い枝から飛び降りた啓斗が、飛燕の身こなしで足刀を敵の首筋に叩きこむ。
「二人ぃ!!」
 みたまのマーシャルアーツのような投げ技が、敵を地面に叩きつける。
「綾さん! 一時半の方向! 数は四!!」
「おっけ。いくわよハイジ」
「任せろっ!」
 シュラインの声に従い、魔術師と浄化屋が呪を紡ぐ。
 風の物理魔法だ。
 たちまちのうちに酸欠に陥った襲撃者どもが昏倒する。
 蒼眸の美女を起点としたパーティーは、ほぼ無敵の強さを誇っていた。
 彼女の耳は、接近する足音をレーダーのように捉え、常に機先を制した指示が出せる。これだけでも圧倒的に有利なのに、前線で戦う四人は一騎当千の強者である。
 むしろ敵を殺さないように手加減するのが大変なほどだ。
 瑠璃花のガードに草間が取られていても、何とかなるだろう。
 そう思ったとしても無理はない。
 だが、
「しまったっ!? 左ががら空きっ!?」
 気づいた時には、喊声をあげた敵が二人ほど最接近している。
「ちっ!」
 慌てて身を捻るシュライン。
 頭‥‥つまり指揮官を狙うのは敵として当然の戦術である。
 隙を作ってしまったシュラインのミスだ。
「うかつだな‥‥シュライン」
 耳元で響く声。
 ぐるぐるとくぐもった唸りとともに。
「ベータっ!」
 驚愕する美女の至近で、敵が次々と倒れ伏す。
 おそらくは、どうやって自分が倒されたかも判らなかったろう。
 それほどまでに速く強烈な攻撃だった。
「弱えぇな。そんなんで原野に出てくるな」
 吐き捨てる金瞳の男。すなわち、那神ベータである。
 つい先ほどまで後方で瑠璃花たちと一緒にいたのだが、魔性を目覚めさせて前線に出てきたのだ。
「助かるわ。ベータ」
「一応、生かしておいたぜ。ま、こんな連中を喰っても美味くねぇしな」
「グルマンだとは知らなかったわ」
 からかうようにシュラインが笑う。
 前線の四人も、敵を一掃して合流した。
「どうも解せないわ」
 みたまが小首をかしげる。
 敵の攻撃が、どうもおかしい。
 まるで戦力を小出しにしているようなのだ。それは兵力の逐次投入ということであり、用兵学上最も忌避されるものである。
「‥‥重大な勘違いをしたかも」
「ああ。俺も同じことを考えていた」
 巫が応じる。
 味方以外は敵。そう考えるのは早計だったかもしれない。
「よーするに、敵同士でも戦ってるわけだな」
 啓斗も頷く。
「普通の参加者もいるでしょうし‥‥」
 草間とともに合流した瑠璃花が呟いた。
「そうね‥‥それが一番数が多いでわね。きっと」
 形の良い顎に手をあてて考えるシュライン。
 このまま森でサバイバルゲームを続けるのは、あまり意味がないかもしれない。
「問題は、どーやって中枢を直撃するかってことだよなぁ」
 頭の後ろで腕を組む啓斗。
 たとえばこのまま大会本部を襲うという手もあるが、それでは無法者扱いされるだけだ。
 犯罪の証拠なり証人なりを確保しない限り。
 このケースでいうと、大会自体は違法でもなんでもない。
 むろん好き嫌いはあるだろうが、それはあくまで個人の価値観の問題である。
「普通に考えると、二通りあるわね」
 油断なく周囲に気を配りながらみたまがいう。
 ひとつめの可能性。
 行方不明になった女性たちは性的な目的で囚われ、海外などに売り飛ばされてしまった、というもの。
 もうひとつの可能性は、このゲーム中になんらかの事故が起こり、六人が死亡してしまった、ということ。それを曖昧に行方不明と発表し、第二回に繋げたという考え方もできる。
 事故死した六人が全員女性というのもリアリティーがない話だが、耐久力の問題だけあげつらえば、充分に可能性はある。
「でもよ。そうすると、綾に襲いかかってきた連中はどういうスタンスなんだ?」
 巫が疑問を呈する。
 イベントで興奮した単なる強姦魔という可能性もあるが、さすがにそこまでのバカはいないだろうし、行動も大胆すぎる。
 やはり黒幕がいて、その権力をバックにやりたい放題と考えるのが妥当だろう。
「んで、具体的には今後どーするんだ?」
 退屈したように問う那神ベータ。
 頭脳労働は他人任せと、割り切っている。
 もちろん、仲間たちはベータに頭を使わせようとは思っていない。
 世の中には、無い袖は振れぬというコトワザもあるのだ。
「常識の線でいくしかないわね。前回と同じことを考えているなら、必ずどこかで女性が襲われるはず。そこを助けて犯人を捕縛するのよ」
「なるほど。たしかに常識ね」
 シュラインの言葉に、みたまが笑った。
 蒼眸の美女の言っていることは正論だ。だが、実行の困難は常識的とはいえなかった。
 広大な森の中である。
 どこに誰がいるのかだってさっぱり判らない。
 この状態で襲われている女性を捜すといっても‥‥。
 巫と啓斗がお手上げといったように両手を広げる。
 百戦錬磨の浄化屋も関知力に優れた忍者も、スーパーマンではないのだ。
 調査班をつくって索敵と警戒の網を森全体に張り巡らせるしかないだろうか。
 となれば、鼻の利くベータと啓斗を別方向に走らせるか‥‥。
 シュラインがしばし考え込んだ時、
「‥‥いました」
 瑠璃花が口を開いた。
「この指の真っ直ぐ先。一キロくらいの場所。女の人が助けを求めてます」
 淡々とした声を紡ぎながら一点を指さす。
 少女の特殊技能である精神感応だ。
 テレパシー能力ともいう。
 むろん万能の力ではないが、このような場面では重宝する。
 無言のまま走り出す啓斗とベータ。
 巫とみたまも続いた。
 現状、瑠璃花が嘘をつく理由はない。
 したがって、一〇〇〇メートル先で何かが起こっているのは事実だ。
 問題は、森の中での一キロだということであろう。
 直線で走れるわけではないし足場だって悪い。
 本当に暴行がおこなわれているなら、一刻も早く駆けつけなくてはいけないのだ。
「瑠璃花! おぶされ!!」
 やや強引に草間が少女を背負って走る。
 両脇をシュラインと綾がかためた。


 ぐったりと倒れ伏している裸身。
 引き裂かれた衣服。
 満足げにズボンをあげる五人ほどの男ども。
 惨状を目の当たりにし、啓斗の頭でなにかが弾けた。
「この‥‥クソ虫野郎どもっ!!」
 声とともに突入し、驚く男の顔面に拳を叩きこむ。
 修行と実戦で鍛えられた拳である。
 男の前歯が折れ、涎の糸をひきながら地面に転がった。
 慌てて戦闘態勢を整える強姦魔ども。
 しかし、完全に整えるより速く、
「この女は」
「もっと痛かったはずだぜ」
 声と、骨の折れる嫌な音が響く。
 ふたつ。
 啓斗の左右から飛び出した巫と那神ベータが、それぞれに敵の腕をへし折ったのである。
「ひぃぃぃぃ!?」
 残った二人が身を翻す。
 が、
「どこに逃げて傷心を慰めるつもり?」
 冷然たる声が彼らの前方から投げかけられる。
 みたまだ。
「どけぇぇぇ!!!」
 あるいは二対一なら勝てると思ったのか、男どもが襲いかかる。
 金髪の美女の両手が閃いた。
 このときになってはじめて、男どもは彼女の両手にナイフが握られていることに気づく。
 無限の後悔とともに。
 薄刃の軌跡が白く輝き、それは途中から紅に変わった。
「命まではとらない‥‥でも、犯した罪は償ってもらう」
 婉然たる微笑。
 背後で小さな音を立て、何かが地面に落ちた。
 顔を押さえて苦悶する二人の男。
 その中心部から、絶え間ない出血が続いている。
「その顔だと、もう女の前には出れないわね」
 言ったみたまが、地面に転がったもの‥‥すなわち切り落とされた二人分の鼻を踏みつけた。
 こうして、獣欲を満たした男どもは高い報酬を受け取ったのである。
 彼らは誰かを恨むべきだろうか。
「さて、少し歌ってもらうわよ」
 ゆったりとシュライン近づいてきた。
 いかにも黒幕的な登場だが、こういう場面ではハードボイルドの真似事をしたくなるものだし、事実その方が効果が高いのだ。
「誰に雇われたの?」
 冷たく問いかける。
 啓斗に前歯を砕かれた男に対して。
 まあ、他の四人は苦痛に呻いてる以上、こいつに訊くしかないのだ。
 口から溢れる血で顔の半分を染めながら、男が睨み返す。
 一グラムの感銘も受けない表情で、
「アンタたちの背後には誰がいるの?」
「し‥‥知らねぇ‥‥」
「あっそ。ただの強姦魔というわけね。じゃあ、ただの死体に変わって頂戴。他に四人もいることだし」
 目配せする。
 薄ら笑いを浮かべながら近づいてくる巫とベータ。
「ま、待ってくれっ!」
「ごめんね。私は気が短いの。ごきげんよう」
「認めるっ! 認めるからっ!!」
「あら? 何を認めてくれるのかしら?」
「俺たちは大日本テレビに雇われたんだっ!」
「へぇ。それで?」
 意外そうなシュラインの顔は、むろん演技である。
 主催者がなんらかの形で関わっているだろうことは、最初から予測済みだ。
 ただまあ、こうも直接的に答えられるとは思っていなかったが。
「今回も何人か行方不明になる予定だったんだ」
 男の口が真相という名の情報を垂れ流しはじめた。
 このイベントの目的は視聴率を上げること。そして、行方不明になった女性たちは性奴隷として海外の大富豪に売り渡す。
 どうせ賞金につられたバカな女どもだ。
 乱暴な方法ではあるが、海外にまで日本警察の捜査の手は及ばない。
 それに、このイベントは今回で終了する。
 とある国際テロ組織から犯行声明が届くことになっているのだ。
 大日本テレビはテロリズムに狙われ、泣く泣くイベントの継続を断念するという筋書きである。
「被害者面をして、また視聴率を稼ごうってわけね。報道特番でも組むつもりかしら」
 皮肉混じりにみたまが言った。
 無言で肩をすくめる啓斗。
 吐き気をもよおすほど醜悪な話だ。
「首謀者どもを締め上げて被害者がどこに売り飛ばされたか調べねぇとな」
「お金の流れも掴めると思うわ」
 巫とシュラインが会話を交わす。
 転がっている男どもを縛りあげた金瞳の男が、
「そろそろ大詰めだな」
 といって犬歯を剥きだした。
 晩秋の風が、ざわざわと梢を揺らしている。


  エピローグ

 大日本テレビの社長が逮捕され、この醜悪な劇を主催したものすべてが裁判を待つ身となった。
 戦後最大の人身売買事件である。
 大衆は、こぞって大日本テレビを批判した。
 奇しくもこの放送局は、自らの身をサディズムのはけ口として差し出したことになる。
 皮肉な結末といえるだろう。
「そういえば売られた人たちだけど、どうなったの?」
 午後の探偵事務所。
 報告書を書いていたシュラインが顔をあげて尋ねる。
「全員解放されたそうだ」
「そう‥‥」
 所長の言葉に、事務員は曖昧に微笑しただけであった。
 良かった、といえることではない。
 やや気まずい沈黙が落ちたとき、
「こんにちわー」
 元気な声とともに扉が開く。
 瑠璃花だ。
「楽しかったねー」
「勘弁してくれ。お前のせいで、俺は全然活躍できなかったんだぞ」
「活躍するつもりだったの? 武彦さん」
 少女と探偵の会話に口を挟み、黒髪の事務員がくすくすと笑った。
 冬を間近に控えた街。
 老兵のスチーム暖房が、一生懸命に暖気を吐き出している。










                         終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)
0554/ 守崎・啓斗    /男  / 17 / 高校生
  (もりさき・けいと)
0374/ 那神・化楽    /男  / 34 / 絵本作家
  (ながみ・けらく)
1685/ 海原・みたま   /女  / 22 / 元傭兵の主婦
  (うなばら・みたま)
1316/ 御影・瑠璃花   /女  / 11 / モデル
  (みかげ・るりか)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「サバイバル・ゲーム」お届けいたします。
このお話は、とあるテレビ番組をみて思いついたものです。
最初はもっと単純に、魔シリーズみたいなコメディーにしようと思っていたのですが。
オープニングを書いたらシリアスになっていました。
不思議です☆
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。