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<東京怪談・PCゲームノベル>


哀しみの紅き銃

■EINS■
火之歌の前にショートケーキを置くと、シュライン・エマは知的で優しい笑みを浮かべ草間の隣に腰を下ろした。
「まずは銃が作られた理由や工程、そして持主の亡くなった女性について詳しく調べない事にはよね。」
「そうだねぇ〜。」
のん気にケーキを頬張るその姿にため息をつく草間を見て、シュラインは笑った。
そんな時、珍しくパチンコで儲けたのだろうか、相澤・蓮が紙袋を抱えて部屋に入ってきた。
火之歌と目が合うと、蓮は少しの間見つめ微笑んだ。
「なんか調査?俺にも手伝わせてくれよー気になるしっ。」
「気になるのは火之歌ちゃんのほうじゃないの?」
「へぇ、こういうのが好みか。」
「だーー!いいだろ別にっ!」
このやりとりの意味を全く解っていない火之歌は、ただ笑って見ていた。

何処から入ったのか、気付くとキリート・サーティーンが銃を手にとり眺めている。
「わ、びっくりした!」
キリートは軽く会釈。
「失礼、この銃からあまりにも色々なものを感じましたのでね……。」
「いろんなもん?」
火之歌の髪で遊んでいた蓮は首を傾げる。
「哀しみは勿論ですが、他にも何か強い感情が………。」
銃に埋め込まれたルビーが、その言葉に反応して輝く。キリートは静かに、それを指でなぞった。
「まぁ図書館でも行って、調べてみようぜ。」

■ZWEI■
「この銃じゃないかしら。」
シュラインがみつけた本の中に、同じ銃と思われる写真があった。
「作られたのは60年前。その女性の父親が銃マニアで、護身用に娘にも作らせたみたいよ。」
「護身用の銃で自殺……ですか。」
しゅんとする火之歌の頭を、過去の新聞に目を通していた蓮が優しく撫でた。
「えーっと、亡くなったのは秋宮亜衣36歳、住所は――。」
4人は思わず顔を見合わせる。軍装品店のある場所と同地区なのだ。

「お店では銃は光っていたのよね?彼女が死んだ場所だから、とか?」
シュラインはもう一度本を読み返す。
「制作者の方も当たってみましょうか。」
シュラインが本をピンと指で弾いた瞬間、火之歌が目を見開いた。
「火之歌?」
気付いた蓮が顔を覗き込むが、当の本人は本に釘付けで気付かない。
そして暫く凝視していた火之歌が、やっと口を開いた。
「その人、テンチョーにそっくりなのだ……。」

小さな写真ではあったが、隅に一人の男性が制作者として映っている。
「血縁者か他人の空似か、それとも……。」
まさかね、といった感じでシュラインは苦笑する。
「あり得ないとは言えません。これは本人に直接聞いたほうが良さそうですよ。」
キリートの視線の先、窓の外はすでに夕焼けで紅く染まっていた。

■DREI■
裏通りをずっと進んだ所にある看板も何も出ていない店の前で、火之歌は立ち止まり瞳で合図する。
古い扉がギイッと音を立てて開いた。

薄暗い店内、カウンターの中でこちらを見ている店主の相模は、確かにあの写真の人物とうりふたつだ。
「あ、この前預かった銃――。」
言葉を遮り、蓮が火之歌を護るように前に出る。
「相澤さん?」
「なんかよ、変な感じがして…。」
「それは彼が吸血鬼だからでは?」
そう言ったのは少し遅れて入ってきたキリート。
「それも人間と吸血鬼の混血…違いますか?」
視線を一斉に浴びた相模は目を伏せ、自嘲するように笑う。それは肯定を表していた。
「じゃあ、あの写真はやっぱり…。」
「そんな話どうでもいい、そいつをなんとかしてやる方法は?」
相模が声を発した途端、銃は箱の中から今までにない強烈な光を発した。
シュラインはそっと箱から取り出した。

「なぁ、その人とお前恋人だったり…しねぇか?」
蓮の勘はどうやら当たりだったようだ。
「ルビーはあいつの好きだった宝石でな、誕生日にそいつに埋め込んだ。」
相模が顔を上げると、まぶたの下に隠されていた瞳があらわになった。
今まで気付かなかったのが不思議なほどの、鮮やかで美しい紅。ルビーの色によく似ている。
「私の感じた強い感情は……愛情、だったのですね。」
過去の大切な思い出を懐かしむように、相模は眼を細め少しだけ笑みを浮かべる。だがすぐに、その表情は曇ってしまった。
「あいつ自分ばっか醜くなってくって死んじまった。俺なんかを愛しちまったばっかりにな。」
相模が言葉を綴るたび、いっそう光は強くなっていく。
「決めてたのに、人間だけは愛さねぇって。恨んでるのかもな……俺を。」

だがその光から負の感情など一欠片も感じられはしない。気付かないのは相模本人だけだろう。
必死で、何かを訴えようとしているだけなのに――。

「返すわ…あなたの所へ帰りたがってるみたいだから。」
相模の手に銃を握らせた、まさにその時――周囲の空気が暖かくて優しい、まるで春のような空気に一変した。
「あ……。」
相模の前に、一人の女性が立っていた。シュラインはそっと、二人を見守るように相模から離れる。
全てを包み込むような何かが部屋中に広がっていた。

「亜……衣…?」
彼女は優しく微笑むと、決して触れることの出来ないその手で相模の頬を撫でた。
「すまねぇ、独りで逝かせちまって……。」

二人の間には見えない壁があった。死んでしまった愛しい女性、もはや触れることすら叶わない。
一緒に逝きたい、何度そう願っただろう。しかし混血である相模は、死ぬ方法を知らなかった。
十字架も太陽の光も彼には無意味。そうして60年もの間、哀しみを引きずって独り生きてきたのだ。
瞳から涙がこぼれる。もう枯れ果てたと思っていた涙が――。

「なんと深い悲しみか……あなたは条件を揃えました…さあ、願いをおっしゃってください。」
キリートは相模に、服従の意志を示した。
「亜衣の所へ、いかせてくれ。」
「待て、それでいいのかっ?ほら、彼女生き返らせて貰うとかっ!!」
シュラインが蓮の肩を掴み、辛そうに首を横に振る。
「また……人間である彼女は先に逝ってしまうのよ…。」
蓮は悔しそうに、拳を握りしめた。
「もう二度と、こいつが死ぬとこなんか見たくねぇよ……お前にも解るだろ?」
「解る…けどよ、やっぱり哀しすぎるだろ…。」
愛する者を失う辛さ、おいて逝かれる辛さ、逢えない淋しさ。
相模の心は誰にも計り知れないほど傷を負ってきたのだろう。だからこれ以上、誰も何も言えなかった。

「私は裏切らない、嘘をつかない……さぁ今こそ60年の望み、叶えてさしあげましょう………。」
亜衣はその腕で相模の身体を包み込む。瞳を閉じると、相模は亜衣の腕の中で穏やかに微笑んだ。
身体は少しずつ灰になり、サラサラと音を立てて落ちてゆく。
「やっと………やっとだ、俺もそっち逝くからな……亜衣…。」
亜衣はまた傍にいられる喜びと、相模が死ぬ辛さが入り交じった微笑みを浮かべる。
そして涙が一粒、床に円を描くと、二人は姿を消した――。


「…これでほんとによかったのかな。」
「最期の笑顔、信じてあげましょ。」
しょげている蓮と火之歌の背中を、シュラインは優しく撫でた。
「一緒に送って差し上げたら如何でしょう。」
能力を見抜いたキリートが、灰の上に銃を置いた。
火之歌は頷くと目を閉じ、歌い始めた。
「綺麗な声…鎮魂歌ね。」
「けどよ、なんか心が締めつけられるみてぇだ。」

それは人の痛みを知っている者の声。
胸を押さえ歌う火之歌の背中を、蓮は無意識に抱きしめていた。
歌に誘われ現れたいくつもの小さな炎が灰と銃を包み込んでゆく。
「届くわよ、きっと……。」
その時、キリートの姿はすでになかった――。


■ENDE■
「そういえばっ!パチンコの景品で悪ぃけどやるよ火之歌。」
帰り道、蓮はいくつかお菓子を取り出し火之歌の手に握らせた。
あまりのわざとらしさに、シュラインは吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
「甘いもん好き…だよな?」
「うん、ありがとなのだ。」
二人は火之歌の笑顔を見て、少し安心して微笑んだ。
「やっぱ笑ってるほうがいいな。よし!みんなでなんか食いに行くかっ!」
「いいわね、もちろん相澤さんの奢りで。」
「俺?!マジでっ?!」

キャンディーは紅く、相模の瞳を思い出させた。
けれど口の中に広がる甘さが、心の痛みを和らげてくれるような気がした。
涙をこらえ見上げた夜空に、寄り添い輝く二つの星。
その星がまるで舞い降りてくるかのように、雪が降り始めた。
「もう独りじゃ、ないんだよね……。」
空に向かって呟くとふわり、冷たくも優しい風が頬をくすぐった。

火之歌は二人の背中を追いかけ走った、いつもの明るい笑顔で――。


【完】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【1986/キリート・サーティーン/男/800歳/吸血鬼 】
【2295/相澤・蓮/男/29歳/しがないサラリーマン 】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、この度は御参加いただきまして有り難う御座いました!
まだまだ未熟ではありますが、精一杯書かせていただきました。楽しんでいただければ、これ幸いで御座います。

シュライン様は火之歌のお姉さんといった感じで書かせていただきました。個人的にシュライン様のような女性、憧れ+大好きです!
キリート様は二人を救う重要なキーパーソンとして書かせていただきました。設定を見た瞬間にドキドキでしたw
蓮様は火之歌を好いてくださっているので接近させてみました。鈍感娘ですがこれからも宜しくしていただけると嬉しいです!

またお会いできる事を祈って。
光無月獅威