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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪〜異界編・氷の世界

 海原みなもはある意味今回この騒動に巻き込まれた人間のなかでは一番めか二番目くらいに不運だったかもしれない。
 なにせマンションに用事があったわけではないのだ。
 学校帰り、今日は夕飯の買い物を買う都合でマンションの前を通るこの道を選択したのだ。
 それなのに、それだけなのに。
「ふう・・・まだ夕飯の材料も買っていないのに」
 マンションの中で光った何か。
 一瞬視界を遮ったその光が消えた時。
 周囲の光景は一変していた。
 一面の、氷の世界。
 このマンションが普通ではないというのは、このマンションに住む友人から多少は聞いたことがあったけれど。まさか自分が――しかもマンションに入ったわけでもないのに――巻き込まれることになるとは思わなかった。
 この道はそれなりに人通りのある道で、みなもが歩いていた今も、他にこの道を歩く人はいた。
 だがどうやらこの場に居た中では騒動に巻き込まれたのはみなもだけらしい。
 あの光はいったいどういう基準でみなもをこの世界へ飛ばしたのかは知らないが、妖怪や怪奇現象に免疫のない一般人が巻き込まれたのは幸運と言うべきだろう。
 家も草木も氷に包まれた世界で、みなもは冷静に考えた。最悪、水晶になろうと氷像になろうと化け物になろうと、みなもには頼れる姉妹がいる。最終的にはなんとかなるだろうが、かといって姉妹の助けを待っているだけという気にはならなかった。
 ・・・ともかく、このままでいるわけにはいかない。
 最低限の脱出の努力はしなければ。
「にしても・・・・・・」
 たいして焦っていない自分に、みなもは小さく苦笑した。
「こういう日常に慣れていいんでしょうか、あたしは」
 とにかく、原因はマンションの中にあったらしいから、脱出方法の手掛かりもきっとマンションにあるだろう。
 問題はみなもがそういった妖しげな気配を探索するような能力を持っていないことだ。
 考えながらも歩き出し、マンションの入口をくぐったその時だった。
 エレベーターが、降りてきたのは。
「あら、海原さん?」
 扉が開いたエレベータの向こう――そこに乗っていたのは、知った顔。綾和泉汐耶だった。
「こんにちは。綾和泉さんも巻き込まれたんですか?」

 合流した二人はお互いの状況を確認し合ったが、どうやら二人とも似たような状況のようだった。
 マンションの中から放たれた光。
 そして、次の瞬間に世界は一変していた。
 ピンポーン。
 明かりがついていたのだから、中に人が居る可能性も高いと見てチャイムを鳴らしたのだが、返事はすぐに返ってきた。
 ガチャリと扉が開き、中からひょっこりと顔を出したのは一人の老人――このマンションの大家だった。
「おや、今日は千客万来だな。外は寒いだろうし、まずは中に入らないか?」
「あ、あの・・・・どうなってるんですか、これ・・」
 あまりにも呑気かつ冷静な大家に、みなもはついつい問い返した。
 大家は目を細めて楽しげに笑い、その問いには答えずに二人を家の中に招いた。
「おじゃまします」
 汐耶がペコリと軽くお辞儀をした。
 畳にコタツにテレビという和風な部屋で、お茶とせんべいを勧められてとりあえず人心地。
「さて、今の状況を聞きたいのだったかな?」
 外は極寒、どう考えても普通ではない状況だというのに、大家は至極のんびりとしている。
「はい、ご存知なら教えて頂けないでしょうか?」
「噂では多少聞いていたけれど・・・・」
「そうだな、ここでは良くあることだ」
 みなもの言葉に頷き、汐耶の言葉に同意して。
 このマンションは昔っから――マンションが建つ以前から、こういう土地柄だったのだと、老人は告げた。
「もしかしたらここに惹かれてくる妖怪は、実はこの気配に惹かれてきているのかもしれないなあ」
「この気配?」
「確かに怪奇現象は多いようですけど、そこまでおかしな気配は・・・」
「ここは空間が微妙に歪んでいてな・・・扉が薄いんだよ。異なる世界との扉がな。それでも、普段はぴったりと閉じてるから気付く者は少ない。気付いた者は気付いた者で、自主的にいろいろやってくれてるようだが、そういった扉――歪みと呼ぶ者もいるが――は、気紛れに現われては開くものだから、いつどこに開くかという予測は難しいんだよ」
「・・・つまり、ごく簡単なきっかけで他の世界への扉が開いてしまうということですね?」
「まあ、そういうことだ」
 汐耶の問いに、老人は呑気にお茶をすすりつつ、頷いた。
「帰る方法はないんでしょうか?」
「方法は簡単だ。扉を探すか、世界の中心を探すか、世界が消えるまで待つか――どれを実行するにしてもそう難しくはない。まあ、私は面倒だから世界が消えるのを待っているがな。どうせ、大概他にも巻き込まれているんだ、そのうちの誰かがなんとかするだろうて。ついさっきも娘さんが一人、脱出方法を探しに行ったしな」
「あら、私たちの他にも巻き込まれている方がいるんですか」
「ぐるりと見て回ったところでは・・・十人。まだ増えるかもしれないが」
 言いつつ、今度はおせんべいに手を出している。
「さっき来た方って、どんな方だったんでしょう?」
「黒い髪に青い瞳の背の高いお嬢さんだったよ」
 さらに細かく詳しく聞いた結果、その『お嬢さん』は、みなもも汐耶もよく知っている人物である事がわかった。
 シュライン・エマである。
「その方がどちらに向かったかわかりませんか?」
「さあ・・・そこまで見ていなかったなあ」
「そうですか・・・どうもありがとうございます」
 二人は互いに視線を交わして、立ち上がった。
 その時。
「世界を決定するのは、扉が開いた時、一番最初にこの世界を訪れた者だ。誰かの意思や性質に影響されて、この世界は曖昧なものから確固たるものへと変質していく」
「その意思をどうにかすれば・・・この世界は消えるんですね?」
 問い返したみなもに鷹揚に頷いて。大家のじーさんはずずっとお茶を口にした。


 逸早く屋上にやってきた真柴尚道。中心を探すべく見晴らしの良い場所へやってきた綾和泉汐耶と海原みなも。歪みを探して屋上に辿り着いた冠城琉人と鬼柳要。
 五人はお互いに顔を見合わせて、苦笑した。
「タイミングが良いというか悪いというか」
「おや、真柴さんも巻き込まれていたんですね」
「他にも巻き込まれた方がいるとは聞きましたけれど、ここで会えるとは思っていませんでした」
「とりあえず・・・皆は外の様子を見る目的で来たのかしら?」
 尚道が苦笑し、琉人は何故か落ちついた様子で告げ、みなもは少しばかり驚いた様子を見せた。
 そして最後に発言したのは汐耶。その問いに二人がこくりと頷いた。
「俺と冠城は、出口がこっちの方にあるっつーから様子を見に来たんだ」
 頷かなかった二人――要と冠城のうち、要が答える。
「どうやらな、あっちの方に中心があるらしいんだ」
 尚道が指差した方角に、全員が視線を集中した。
 確かに、刻々と分厚くなっていく氷は尚道が指差した方から広がってきているようだった。
「つまりあちらの方にこの世界を創り出した意思があるわけですね」
「そういうことだ。どうする?」
 みなもの言葉に頷いた尚道が、一行を見まわして、問いかけた。
「どうする・・・って?」
 汐耶の問いに、尚道よりも先に琉人が答えた。
「この世界を消すか、それともここにある道を通って帰るか・・・ということですね?」
 尚道がこくりと頷いた。
「あのじいさんの話からすれば、どっちの方法でも帰れるみたいだしな」
「そうねえ・・・道は向こうに戻ってから封印すれば問題ないでしょうし」
 要の呟きに続いて、汐耶が考えこむ仕草を見せた。
 ・・・少なくとも、中心はここからでは見えない。
 ビルや家に邪魔されて、詳しい場所までは見えないのだ。
「ここに出口があるならば、ここからすぐに帰れるということですよね」
 みなもの問いに、尚道がその歪みの方を指差した。それは屋上に上がる扉の真上。
「せっかく出口があるのなら、活用しない手はないと思いますよ、私は」
 にこにこと穏やかに、琉人が述べた。
 実を言えば琉人は、すでに中心部に向かっている五人の人間の様子を把握していた。今から向かっても辿り着く前に片がつくだろうと判断しての意見だった。
「まあ、俺もそれはちょっと思ったけどさあ。その原因となってるヤツが・・・好きで氷の世界にしたわけじゃなかったら?」
「何か困っているなら、助けてあげたいですよね」
 要の意見に、みなもが同意して頷いた。
「そうねえ・・・道が一つだけじゃない可能性も考えないといけないし」
 なにせここにいる全員、全く違う場所にいたのだ。
 同じ光を見たという共通点はあるものの、その光がどういう基準で、どういう条件で彼らをこの世界に飛ばしたのかはまったくわからない。
 つまり、この世界自体をどうにかしなければ、また同じようなことが起こる可能性もあるのだ。
 だがそれらの中心にも行ってみよう意見は、琉人の一言のもとに却下された。
「でも、もう間に合わないと思いますよ」
「は?」
 思わず声に出した尚道だけではない。琉人以外の全員が、琉人の言葉の意味を掴みかねて不思議そうな顔をした。
 琉人は、にっこりと笑顔のままで、
「迷い込んだ人は全部で十一人。大家さんを除いて、ここにいないあと五人が、どこに向かっていると思いますか?」
 そう、告げた直後。

 世界が、光を放つ。

「世界の中心が壊された・・・?」
 光が途絶え、視界が戻ってきた時、異世界に迷い込んだという十一人全員が、九階から十階に向かう階段の踊り場に立っていた。
 どうやら道の大元はここであったらしい。
 狭い階段の踊り場にに十一人。なかなか見られない光景である。
 突然の移動に、一行はしばし茫然としていた。
 が、特に気にするふうでもなく飄々と動き出した人物が一人。
「さて、それじゃ私は部屋に戻るとするか。美味しいお茶をありがとうな、冠城さん」
 大家の老人の言葉をきっかけに、十人ははっと我に返る。
 ふと空を見上げれば、今年最初の初雪が、チラホラと空から落ちてきていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2158|真柴尚道    |男|21|フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子    |女|18|大学生(巫女)
2209|冠城琉人    |男|84|神父(悪魔狩り)
2181|鹿沼・デルフェス|女|163|アンティークショップの店員
1252|海原みなも   |女|13|中学生
0389|真名神慶悟   |男|20|陰陽師
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2053|氷女杜冬華   |女|24|フルーツパーラー店主
1358|鬼柳要     |男|17|高校生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 異界に吹っ飛ばされてしまった皆様・・・・お疲れ様でした。

 マンションの中に入っていなかったにも関わらず巻き込まれてしまったみなもさん・・・お疲れ様でした。
 頼れる姉妹の一文は、プレイングを読んだ時も実際に書いていた時も、なんだか楽しかったです。

 それでは、今回はご参加どうもありがとうございました。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。