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<東京怪談・PCゲームノベル>


音楽都市、ユーフォニア ─クシレフの陰謀─


【J】

「ねえ、お父さん」
 ウィーンへの演奏旅行から帰国し、溜まりに溜った自分宛の郵便物をチェックしていたヴァイオリニスト、津田・泰子は午後の紅茶と共にレコードを鑑賞していた父、津田・孝泰へ声を掛けた。
 彼女は一通のダイレクトメールから取り出した演奏会の案内を手にしている。日付けは一ヶ月程も前のもので、とうに終わっている。新人の演奏家が中心になって現代以降の小品を数人が演奏する主旨のもので、一部に演奏者の変更がある旨が別紙にて伝えられていた。
「見て、この代弾き奏者、夏に家に来てた子じゃ無いの?」
 津田は娘が差し出した告知を見遣り、「ほお」と感心したように頷いた。
 
──「ツィガーヌ:モーリス・ラヴェル」ヴァイオリン奏者──の不調の為、香坂・蓮(こうさか・れん/──音楽大学弦楽専攻卒業)に変更。

「香坂君か、これはまた難曲の代奏を引き受けたものだ。いや、然し彼なら立派に弾いただろう。もう終わったんだな、残念だ」
「本当、私も聴きたかったわ。最近のウィーンの学生は変わったわよ、バッハのブランデンブルクを160位で合わせたり、休憩中にイザイを遊びで弾いてるの。日本の音大生が見たら吃驚するでしょうけど、香坂君なら簡単にその中に入って行きそうだな、なんて思ってたのよ、丁度」
 そこで、彼女は父の聴いていたレコードに気付いて眉を顰めた。
「ちょっと、お父さん音量下げて頂戴。良くもまあブルックナーをこんな音量で聴くわね」
「……そんなに煩いかね」
「煩いわよ、耳、遠くなってない? 只でさえ私、そろそろ左の耳が聴こえ難くなって来てるのよ、こんな事じゃあと10年で難聴になっちゃうわ」
「何事だね、一体」
 父は急いで音量を下げながら怪訝な表情をした。
「私、演奏中に左耳を大分楽器に近付ける癖があるでしょう。そうで無くともヴァイオリニストは左耳が早く聴こえ難くなるんですって、周波数の高い音から順番に聴き取り難くなるの。向こうで昔の先生に、だから普段はあまり音量を上げたりヘッドホンで聴いたりしないように注意しなさいと云われたわ。普通は50を過ぎてから徐々に、らしいけどね、私ももう歳だし」
「そうなのか」
「そうよ、練習の後なんか、特に左の耳がキンキンしてる。職業病だから仕方ないけどね。……香坂君なんか、大丈夫かしら。理性的そうな子だったから、その辺りもちゃんと考えてると良いけど。特に最近の若い子はイヤホンとかヘッドホンで凄い音量で聴いてるから、……そんな子達って、50まで耳が持つのかしら」

 暫し後、思い出したように津田が口を開いた。
「そう云えば、以前にお前の教え子がG・A・ロッカを買うとか云う話はどうなった? ほら、何年か前に。外国で見て気に入ったが高額だから、資金が貯まった時に未だあれば買うかも知れないとか……」
「ああ、あれ? 厭ね、何年前の話よ。矢っ張り売れちゃったみたいよ。残念がってたけど、ディーラーの話では未だ若いけど大分腕の良いヴァイオリニストが買ってったそうだから、仕方無いって諦めたみたい。……でも最近の若い子は凄いわよね、あんな銘器をぽん、と即金で買っちゃうんだから……」
 ──平和な、音楽一家のとある昼下がりの会話である。

【xxx】

 11月13日午後3時。
 東京都、JR山手線の車内に、ちょっとした騒ぎが持ち上がった。
 否、別に警察沙汰や職員が顔を出すような事件では無い。ただ、異様に目立つ一団が国鉄の1車両をほぼ占領し、隣接した車両や駅のホームの乗客の奇異の視線を集めていた、と云うだけで。
 彼等は全て15、6歳の少年少女だ。それぞれ同じデザインの白いシャツかブラウスに黒のボトムを制服のように整然と着用し、吊り革に掴まりもせずに姿勢を正して立っている。一糸乱れない統率の取れた動きは、どこか共産国家の軍隊を思わせた。
 平日の昼間と云うことでさほど混雑はしていなかったが、一通り座席を占めていた他の乗客は一言の私語も交わさず無気味なほどの無表情を見せている彼等に気を取られていた所為で、その中の一隅でぶつぶつと独り言を呟き続ける私服の少年──里井・薫の存在には気付かなかっただろう。ついでに云うならば、これは制服と同じ髪型の効用で──複数の人間を似通って見せるその効果で、逆に、彼等の顔立ちが全て同じ事にも気付かなかった筈だ。

「……畜生……、あいつ、好き勝手云いやがって……、何様の積もりなんだよ、……シェトランの子供だって云うだけで……、今に見てろ……、畜生、いつか必ず殺してやる」

 巣鴨駅に着いた。里井は独白を止め、一斉に足並みを揃えて車両を降りた彼等に慌てて続いた。

【0J】

 今日はもうこのまま帰ろうか、と思った。
 だが……。
 未だ気になる事がある。この際だから、確かめて置こう。
 香坂・蓮(こうさか・れん)は踵を返し、再びホールのエントランスを潜った。

「……、」
 あの陰気そうな少年、里井薫を探してホールへ入った蓮は呆れて瞬きした。
「結城……、」
 舞台の上で、硝月・倉菜(しょうつき・くらな)と何事かを話し込んでいるのは結城磔也だ。……どこへ行ったのかと思ったら、未だ居たのか。

「だから、何の為?」
 倉菜が磔也を問い詰めている。珍しく、磔也は気まずそうに俯いて言葉を詰らせていた。
「……姉貴が、──……ヤバい連中に掴まったんだよ。……別にあんなバカ女死んでも良いけどな、ただ……丁度良い機会だし、……音楽がどこまで武器になるかを試す……、」
「お姉さんが居るの?」
 
──結城の姉? ……レイ嬢か。
 掴まった? 一体、どういう事だ。混乱を来す蓮の視線の先で、二人は未だ話し込んでいた。──その時だ。
 蓮が立っていたのは、二階に当る客席の入口だ。ホールには幾つかの入口がある。その内、この客席が円形状に舞台を取り囲んでいるホールの云わば花道に該当する、舞台へ続く通路の入口が姦しい音を立てて開いた。
 里井だ。
「何だ、グズ、」
 磔也は横柄に里井を怒鳴り付ける。
「ご……ごめん……、あの、あの人達を、」
 明らかに磔也への怯えから里井は不様に言葉を吃らせた。
「ああ、何だ連中かよ。下ん無ェ事で大騒ぎすんな。分かった、配置しろ」
「……、」
「聴こえ無い! 返事は!」
「はい!」
 どやされるように、里井はホールを出て行った。
「……、」
 蓮も今入って来たばかりの入口を出た。背中に、「何を殺気立ってるの、可哀想じゃない」と云う倉菜の呆れたような声が聴こえた。

【1J】

「おい、お前、」
 階段を駆け降り、里井を捕まえようと声を上げた蓮はエントランスホールの光景を見て愕然とした。
 ──何だ、こいつらは……。
 いつの間にか、エントランスホールを埋め尽くしていたのは頭数百人程もの少年少女達だ。それも、全員が全員白いトップスと黒いボトムを着用し、少年は短髪、少女は背中までの髪を引っ詰めた、全く同じ髪型をしている。 
 蓮には近視感を引き起こす一団だ。……オーケストラや、コーラスの団員。
「里井!」
 蓮は、眉一つ動かさず無表情に押し黙っている彼等に無気味さを覚えつつもその中に紛れそうだった里井の腕を掴んだ。振り返った彼は見苦しい程狼狽していた。
「あ……、あの……、」
「……、」
 蓮は眉を顰めた。──陰気そうだとは思ったが、近くで見れば一層、哀れなほどにくたびれきった、醜悪な程の容貌をしている。
 顔立ちは十人並みだ。が、顔立ちの割りには肌ががさがさに荒れ、いくら痩せているにしても度が過ぎる。それでこの肌色なので、蓮が掴んだ腕などはそれこそ枯れ木のようだった。
「……そんなに怯えるな、俺は別に怒鳴りはしない、ただ、聴きたい事があるんだ」
 溜息を吐きながら、蓮は里井を宥めるのが先決だと、ゆっくりそう告げた。然し里井は逃げられないならば、と蓮を引っ張って行きそうな勢いで歩を進め、階段を登ろうとする。
「里井、少しで良い、話をさせてくれ」
「ああ……あ、あの、でも早くしないとあいつが」
「結城か、そこまで怯えなくても良いだろう、俺が謝っておいてやるから、……何なんだ、一体、この連中は」
 蓮は少年少女達を見回す。……蓮と里井がここまで騒いでいても、彼等は見向きもしなければ一言の私語も無い。──人形のようだ。
「コーラス、」
「コーラス?」
「そう、ソプラノとアルトとテノールとバスが20人ずつ、コーラス、多分、キリエを演るから」
 文脈の崩壊した、仮にも音楽を学ぶ者とも思えない聞き苦しい里井の説明に辟易しながら蓮は辛抱強く相槌を打った。
「キリエ、……レクイエムを演奏するのか? 誰のだ」
「知らない、あいつ、いつもそうだ、直前まで何も教えてくれない癖に、仕損なうと物凄く怒る、分かる訳無いだろう、マーラーかモーツァルトかデュリュフレか、あいつはベルリオーズ好きだけど、」
 俺にキレてどうする、と呆れつつ蓮はまだまだ辛抱強く首を振った。
「そうか、そうかキリエだな、分かった、俺も手伝ってやる、どれが来てもオヴリガートは付けられるから、何ならまた楽器を借りて──」
「勝手な事するなよ! あいつが怒るじゃ無いか!」
 子供かお前は! ──ああ、子供だったか……。
 いつの間にか、里井に引き摺られるように蓮は階段を登り切っていた。
 そこは、3Fバルコニーの入口だった。──振り返り、少年少女合唱団が相変わらず整然とした体系で付いて来ている事を認めた蓮はある事に気付いて血の気が引いた。

──制服と髪型の所為だけじゃない、……こいつら、全員同じ顔をしている。

【1IJ】

──香坂さん、私、ウィン・ルクセンブルクよ、覚えてる? 
「……、」
 頭の中に聴こえてきた声に、蓮は溜息を吐いた。
 今日は、妙な事ばかりだ。知り合いのドイツ人女性がテレパシーで交信して来ても、今更何も驚くものか。
 少なくとも、里井が今し方3階バルコニーにコーラス隊を連れて入って行き、彼等をずらりと配置した奇怪な風景をずっと見ている事に比べれば……。
「……久し振りだ」
──大変なの、今ね、私の友達が……、
「攫われた?」
 あら、とウィンの驚きがテレパス越しにも分かる。
──何故?
「事情は良く知らないが、多分共通の知り合いだろう。結城レイ嬢が攫われたとか、何とか、今さっき、聴いた」
──香坂さんもレイの事、知ってたの?
「ああ……、それと、彼女の弟と……」
──まあ。……一体、どうした繋がり?
「いや、普通に……音楽繋がりなんだが」
──良く、彼みたいな子と普通に「音楽繋がりで」付き合えるわね。
「……結城か? ……大分精神のバランスは悪そうだが、……普通だと思うが」
──流石香坂さん……。
「それより……、」
 そう、そうだわ、とはたとウィンは本題に入った。
──詳しい事は後で。それより、先ずホールの人間で水谷さんと云う人を信用しないで。今、私の従弟なんだけど樹ちゃんは彼から隠れているの。私ももう傍なんだけど、合流したいから、水谷氏に樹ちゃんが見つからないよう、気を引いてくれない?
「……何だと?」

【xxx】

「はい?」
──『インスペクター』、巣鴨の里井より要請在り、コーラスを各20名ずつ派遣しました。もう直ぐ、レイクイエムが奏されるでしょう。予め了承願います。
「……ああ、そうですか。……僕、ラッパ吹きに行った方が良いですかね?」
──その必要は在りません。恐らくは『キリエ』のみかと。『トゥーバ・ミルム』は演りません。
「なら良いです。……にしても、その曲にしては少人数ですね」
──計算の内です。あくまで、合唱団の貸し出しを許可したのは実験としてですから。総編成は必要在りません。インスペクターには、ただクシレフとシェトランの様子を見て頂くだけで結構です。
「了解しました。それじゃ」

【xxx2】

『メールを受信しました』

────────────
from sydney_xx@XX.mu
sique.fr

インスペクター? 磔也が
何かやらかすみたいね。詳
細希望! 返信待つ!
 Sydney.

────────────

【5DIJ】

「水谷さん、」
 蓮は、丁度事務所へ向かおうとしていた水谷を見付けてその背中を呼び止めた。
「……おや、香坂君」
 何か、とやや面倒そうに水谷は応えた。どちらかと云えば、急いでいるように見える。
「未だお帰りじゃ無かったんですか?」
「いえ、あの、ホールの音響の事で気になる事があったのでお話を」
 息を切らした蓮の脳裏に、ウィンの「そうよ、その調子! その調子で引き留めて!」と云うテレパスが響く。
──全く、無茶を云う……、知らないぞ、途中で打ち切られても。出来るだけ引き留めるが。
──お願い!
「何でしょう?」
「先刻、ホールには未だ音響設備を追加すると仰っていましたが……、」
「ええ」
 蓮の記憶はフル回転している。この際、正当性はどうでも良いから出来るだけ論議を吹っかけられるような話題を探すのだ。水谷は蓮の言葉に相槌を打ちながらも、ちらちらと忙し無い視線をあちこちに向けている。
「特に、オーケストラピットのレスポンスの事で。思い出したんです。以前、音大でオーケストラをやっていた時に色々なホールに出張したりしましたが、たまに時間差が酷いホールがあったんです。一見、音響は良く聴こえる。然し、響きが良過ぎる分舞台上でさえ音の伝達に遅れが出て、奏者には大きなネックなんです。弦楽器は未だ良い、皆トップの右手を見て弾きますから。でも、管セクションが特に──」
「有難う、是非参考にしたいのですが、今はちょっと急いで──」
 そうは行くか。蓮は更に喰い下がった。
「いえ、これは今度の公演に大いに関係すると思う問題ですから、是非早めに。先程はオーケストラピットまで見ませんでしたが、ああした半地下に位置する構造では心配です。このホールも特に響きが良いので」
──ファイト! ファイトよ香坂さん!
──香坂さん、格好良いです。
──無茶苦茶だ! 水谷氏、多分あんたらを探してるんだぞ! そんな時にオーケストラのレスポンス云々と云って聞くか!
「ああ、大丈夫です、その辺は何とかなりますから」
「なりません。僭越ですが奏者としての意見なんです。結城が何を云ったか知りませんが、ああした勢いで突っ走る奏者はそうした事に注意しないんです。グルックですよ、そんな正確さを要求される演目で指揮者だけが頼りでは……」
 水谷刻一刻と苛立ちを募らせている。ほぼ投げ遺りに、「御心配無く、今度はオーケストラは入れませんから」と云い捨てて駆け出した。
「水谷さん、……」
 蓮は尚も引き止めようとしたが、……この数分で溜った疲労が一気に押し寄せて、もうあとはどうにでもなれ、俺は元から無理だと云ったんだ、と内心独りごちた。

【5GJ】

「……、」
 ロビーのソファの上で脱力していた蓮は、ふと聴覚が捉えた音に顔を上げた。
 複数人の足音がする。
 そちらへ視線をやった蓮は、エントランスをホールへと横切って行く磔也と、野蛮な気配の男達、そして見覚えのある女性──シュライン・エマだ──の姿を遠目にも確認した。
「……?」
 ──全く、一体何事だ。そして、コツ、コツ……とステッキの音──。
「……おや、香坂君ではありませんか」
 驚いて背後を振り返った蓮は、そこにも知人の姿を見付けた。穏やかな微笑は相変わらず、白銀色の長髪を靡かせた麗人。──セレスティ・カーニンガム。傍らには、蓮には見覚えの無い神経質そうな青年──修一が付き添っていたが。
「……何故、ここに?」
「香坂君こそ」
「……俺は、このホールにアルバイトに来て、そうしたら知り合いが居てまたその知り合いである姉が攫われたとかここの人事担当者が怪しいから気を引けとか何とか……」
 ともかく、無茶苦茶で混乱するしか無かったのだ、と云う意味合いはこの全てを見通す青年に伝わったらしい。セレスティは悠然と頷いた。
「奇妙な巡り合わせですね。これも縁ですか……」
「因みに、あんたらはどこから?」
「仲間がここの見取り図を入手したので、裏口から。寄り道をしていて遅れてしまいました」
「……そうか……、……いや、本当の所あまり良くは分から無いが」
 
──……、

「あ……、」
 
 幽かな音に、蓮とセレスティは顔をホールへ向けた。……ピアノの音。
「結城……?」
「──始まったようですね」

【-】

 俺が未だ10代のガキの頃、母親は軽度の精神衰弱で自宅療養しながらセラピーを受けていた。その病院では、デイサービスの一環として当時日本では未だ珍しかった音楽療法を取り入れていた。親父も俺も、音楽による癒しなんかがプラスになるとは思えないまでもまさかマイナスになるとは思ってもいなかった。
 演奏に来ていたのはボランティアのアマチュアグループで、療法士は自身は音楽知識の無い人間だった。だから、演奏の善し悪しに無頓着だったんだ。
 俺も何度か見学に行った。拙いバッハの弦楽四重奏なんかを一生懸命に演奏しているボランティアは気の良い人達で、好感を持った。それがまさか、母親にとって凶器になるとは思えなかった。
 誰も、気付かなかったんだ。アマチュアの演奏する高音楽器が発する甲高い音が、特に精神を病んだ人間にとって余りに不愉快な刺激を与えていた事に。
 母親は、何故か日毎に悪くなって行くようだった。余程精神状態にガタが来てたんだろうと、医者も父親もセラピーの悪影響を疑いもしなかった。
 
 ある日、セラピーの最中に母親は狂ったように絶叫しながら病院の窓から飛び降りた。

 精神患者の専用病棟じゃ無かったから、セキュリティは甘かったんだ。
 後になって、音色の悪い高音楽器の倍音が母親に過度のストレスを与えていたんだと知った。

 その時のボランティアを、俺は恨んではいない。あの人達には善意しか無かった。
 だが、俺はそれ以来どうしても音楽だけは好きになれない。

 ──その音楽を、意図的に凶器として使おうとしている連中は絶対に許せ無い。

【8ADEFGHJ】

「──あなた……、」
 シュラインは、淡々とシェップの身柄を担いで出て行こうとした男を見て呆然と呟いた。──まさか。でも、だとしたら全然雰囲気が違う。
「あんたまでが直々のお出ましか。……若しかして、結構大問題になってるんじゃ無いのか?」
 翔は男を知っているようだった。事情を知っているような事を云う。
「エージェントがスタンドプレーに走って一般人を巻き込んだ、って事はな。他の堅い連中じゃ、お前達に対してまで子煩い事を云いそうだから、引き取りに来た訳だ」
 大分視界がはっきりしても、男の顔はサングラスと陰で良く分からない。声も、ホールの反響の中でやや異質に響いた。
「面倒見の良い事じゃ無いか」
 男は、翔に顔を向けた。含み笑いを浮かべている。
「……緋磨のかみさんが関わってるって事だしな。……伝えておいてくれ。貸しにしとくって」
「……、」
 ふん、と苦笑したまま溜息を軽く吐き、翔は自らの片手に視線を落とした。彼女が手にしている小刀は、ある方面では夫の身分を示す身分証明として通じる。
「コネが役に立った、って云う可きかな?」
「──誰なの、あなたは……、」
 ──男は、シュラインの方は振り向かずに視線を2階の亮一に向けた。
「……『ディテクター』……そうそう、『壁』の事だが。外の連中には効いたみたいだが、俺に云わせれば詰めが甘い」
「同業者には厳しいんですね?」
 ──勿体振って。亮一は穏やかに答えながら苦笑した。

「──落ち着いたようですね」
「……、何だったんだ、一体」
 『ディテクター』が、ホールの外の連中を引き連れて去って行くとほぼ入れ違いに、セレスティと蓮、修一が入って来た。
「……セレスティさん、どうでした」
 亮一が彼に情報収集の成果を訊ねた。返って来た麗人の微笑みの悠然とした事。
「まあ、色々と」
「……それじゃ、俺達も引き揚げますか。……まあ、ここの事後処理はホール側の人間でやってくれるでしょうし」
 そして亮一は、ピアノの上の忍を揺り起こした。
「大丈夫ですか? ……レイさんも無事です、退却しましよう」
「……あ、……ええ」
  未だぼんやりとしているらしい忍は素直に亮一に従った。──結局、『シェトラン』の存在は分からず終いだ。
 
 孝が繋ぎっ放しにしていた空間の先へ、一旦先に忍を進ませて亮一は倉菜と蓮に声を掛けた。
「硝月さん、どうします? 俺達は一旦、俺の事務所に引き揚げてそこで情報を纏める積もりなんですが」
「お邪魔するわ。……これ、役に立つかも知れないし」
 倉菜がそうして亮一に掲げたものは、例のホールのミニチュアだ。
 舞台上のウィンを樹が揺り起こしている。磔也も気が付いたらしい。
「……、」
「香坂さんも、良ければ」
「……いや、先にやりたい事がある」
 蓮は首を振った。腕を組んだ彼は、やや眉を顰めて磔也を見ていた。
「……硝月、悪いが先刻のヴァイオリンをもう一度貸してくれないか」
「……良いけど?」

【9DIJ】

 意識を現実に引き戻したウィンと磔也を迎えたのは、先程の不快な倍音だらけのキリエとは比べようも無い、澄んだ、美しい音楽だった。
 蓮が、ヴァイオリンで弾いているのは「Sanctus」、先程のキリエと同じモーツァルトのレクイエムの内一曲だ。
 コーラス曲を即興で変奏しているが、本当は大分高度なテクニックである筈の重音をカデンツァのように軽やかに使っている。余分な情感は一切無い、が、それがマイナスにならないだろう事は先刻、ドアの外まで聴こえて来たキリエを聴いて分かっていた。
 あまりに反響が良いこのホールの音響の中で特に気をつけるべき点は最初にカプリスを弾いた時に分かった。音程の狂いである。
 ヴァイオリンは音程を全て奏者が決定しなければならない。そしてそれは、実はあまり響かない場所では気にならない事が多いのだ。だが、ここでは──。
 プロのヴァイオリニストとして、何は省いても正格な音程を維持する為の音階練習は日々欠かさない。その点、自信はあった。
 だからこそ、逆に磔也がわざと音程をずらした調律を倉菜に依頼したのだと云うことは何となく理解出来た。
 蓮は、その完璧な演奏でモーツァルトのレクイエムを忠実に再現した。何も、破壊的なだけが即興では無いのだ。

「……香坂、」
 短い続誦を弾き終えた蓮は、舞台上に座り込んだままぼんやりと自分を見ていた磔也を振り返った。
「音楽は、決して不快感を与えてはならず、楽しみを与える、つまり常に『音楽』でなければならない」
 磔也が、目を細めて蓮へ顔を向けた。
「……何、云ってんだ」
「モーツァルトの言葉だ。仮にもモーツァルトを演奏しようとする人間が作曲者の意図も知らないでどうする。……お前は、モーツァルトの音楽を決定的に取り違えている。理論は知っておく可きだ。だが、革新などと云う問題の前に、一番基本的な事を忘れていたな」
「──……香坂……、」
「それだけは、一言云っておきたかったんだ」
 磔也は暫く蓮を見詰めた後、絶望したように微笑んだ。
「……香坂なら、分かってくれると思ってたけどな。まさか、あんたまでそんな夢みたいな事を云うなんて、……がっかりした。……お前程弾ける奴が」
「技巧を修得するのは奏者として当然の事だろう。だから、何だ?」
「──技巧こそ全てだ!」
「ガラミヤンか?」
 勢いに任せようとしていた磔也は余裕のある蓮の返答に言葉を切った。
「そんな名言もあったな。だが、それもお前の勘違いだ。ガラミヤンは何も技巧を見せ付けて聴衆の不安を煽ろうなんて考えては居なかったと思うぞ。技術無くしてはどれだけ想いがあってもその演奏は聴衆には伝わらない。だからこそ技術を得る。奏者には、元々想いがある事を想定した正論だ」

【10CDIJ】

「……何を、そんなにムキになってるんだ、磔也」
 蓮、ウィン、樹、磔也はそう云いながら現れた涼を見遣った。
「あれ……、」
「私が呼んだの」
 そうか、と樹は納得した。そうであれば、孝の残していた空間を考えれば突如涼が現れても何の不思議も無い。
 訝しそうな蓮には、「私達の友達」とウィンが手短に紹介した。
「何って……、」
「香坂さん、ですよね。俺もちょっとヴァイオリン齧ってるから、今の演奏がどれだけ難しいテクニックを駆使してたかは想像が付く。……あ、すみません、趣味の俺がプロのヴァイオリニストにこんな僭越な事云う可きじゃ無いんだけど」
「いや、別に」
 蓮は素っ気無く肩を竦め、軽い会釈で涼に応えた。
「でも、そんなテクニックの前に今の演奏には素晴らしい物があったよ。音楽に対する謙虚さと理解、……お前は何も思わなかったのか?」
「思わないね。そんな事はどうでも良い、それよりはヴァイオリンって楽器でここまで完璧な音程で3度6度の重音、4和音を取った技巧は大したもんだ」
「それだけじゃ無いでしょう、磔也君。少なくとも、あなたの心の中の音楽はそれだけじゃ無かった」
 ウィンの耳の奥に、先程の音楽が甦った。
「磔也の心の中の音楽?」
 涼は小首を傾ぎ、樹がどうだか、と云う風に「メンデルスゾーンらしいですよ」と、──磔也とは視線を合わさないように──応えた。
「……煩ェんだよ、そういう感傷。お前ら全員、鬱陶しい。他人の感性が、そう簡単に変えられると思うなよ、俺は、」
 樹が顔色を変えた。──磔也の殺気が頂点に達したので。
「俺は、革命を起す。音楽の力で勝利を得るだけの技巧が、俺にはあるんだ、情感だとか何だとか、せいぜい馴れ合いを続けてろ、──そんな生易しい人間、破壊して見せる、全て」
「──待て!」
 高揚して殆ど半狂乱の体で御立派な事を高らかに宣言し、舞台を飛び降りて出口に向かう磔也を追い、涼は彼の腕を掴んだ。
「……何で、そんな事云うんだよ、本当に素直じゃない、お前って」
「何とでも云え。お前みたいな人間は嫌いだって、前にも云ったよな」
「磔也!」
 手を振り切って駆け出した彼を、何故か突如沸き上がった物悲しさから涼は追い損ねた。

「……どこ、行ったんだろう」
「全く、直ぐにいなくなる奴だ」
 樹の横で蓮は一応、携帯電話を掛けてみた。──さっきの今だが、と駄目元で、果たして圏外、と云うことだ。勿論、蓮は知らなかったのだが。彼の携帯電話はシェップに取り上げられたままで、恐らくは永久に日の目を見ないだろう事は。
「……どうする?」
 ウィンの言葉には、涼が応えた。
「取り敢えず、亮一さんの所に皆集まってますから。……香坂さんは、どうします?」
「……ついでだから寄せて貰うか。硝月にヴァイオリンも返さなければいけないし」
 良かった、と涼は微笑んだ。
「じゃあ、そこででも又、ここで実際に演奏した感想聞かせて貰えますか。音響の事は気になってたから」
「別に構わないが、──……、」
 そこで、蓮は引っ掛かりを感じて3階バルコニーを見上げた。──里井、……奴はどうしただろう。
「……あ、急がないと彼等が起きるかも知れない」
 そして、涼、樹、ウィン、蓮も一先ず亮一の事務所へと空間を渡る事にした。

【11】

「と、云う訳で総括だ」
 結城親子が引き揚げた後、事務所に集まった面々を前に、翔が音頭を取った。
「シェップに関しては、今回奴は完全にスタンドプレーだった。昔、母親が素人の演奏に拠る音楽療法でストレスを溜めて自殺した事で、音楽を憎んでいたらしい。……ちょっとした借りは出来たが、元はと云えば向こうが悪いんだから相殺だろう」
 そして翔はちらりとシュラインを見遣る。──彼女は彼女で、別の問題を思案していた。
「私が思うに、これは磔也君一人どうこうして済む問題では無いと思うわ。寧ろ、彼は利用されている気がする。彼の精神的な不安に付け込んで、破壊衝動を煽られていると云うか」
「俺としては、水谷和馬自身が過去には何も東京コンセルヴァトワールなどとの繋がりを持たない、本当の一般人だった事の方が気になりますね。彼が関わっている理由は、矢張り……、水谷の空の肉体を乗っ取った存在……『クシレフ』……か」
 シュラインと亮一の意見は一致しているようだ。根本的な悪意は東京コンセルヴァトワールという組織にあるらしい、と。
「……でも、音楽をやっている彼が聴覚を失いかけているなんて、本当に可哀想。……まあ、あそこまで荒んだ性格は元々あった傾向かも知れないけど」
 ウィンは心底気の毒そう、と云うように目を伏せた。私だって音楽は大好き。殊更、「音楽しか」無い人間がそれを失ったら、と思えば──。
「それ、遺伝的な物なのかな?」
「いや、外的要因だろうと私は思う。……そうだろう、沼」
「同感ですね」
「どうして?」
 翔と亮一は目配せを交わし、「仕方ないか」と云う風に翔は口を開いた。
「涼には云い難かったんだが、あの家庭、大分複雑なんだ。結城氏に結婚歴は無し。磔也とレイは養子だ。……が、姉弟自体は血が繋がっているらしい。それと、ルクセンブルクさん達が入手して来たデータの遺伝子情報をざっと照合したんだが、妙な事に戸籍上の親子である筈の結城氏と姉弟、……同じなんだ。結城氏と。遺伝的な物であるとすれば、染色体には男女差があるから姉には現れ無いとしても、同じ男性の結城氏はとっくに聴覚を失っている筈だ」
「? ……ちょっと、意味が良く分からないな。遺伝の問題はともかく、養子なのに遺伝があるとか、」
「そう云えば、涼は見て無いですよね。3階の人達」
 涼は頷いたが、代わりには倉菜が肩を竦めた。
「ああ、あの全員同じ顔のコーラス達?」
「何それ、」
「見る? 覗いても良いわよ」
 涼の『感応』能力を大体察知していた倉菜は、件のコーラスの少年少女達の視覚的な記憶をイメージしながら涼に顔を向けた。「ごめん、」と断り、涼は彼女の精神に意識を集中した。
 そして、涼も見る事になる。100人近い人数の、全く同じ制服の上に、全て顔立ちから体つきまでが同じ少年少女達の軍勢を。
「……これ、映画じゃ無いよね?」
 ──余りに薄ら寒い。涼はわざと冗談めかして訊ねたが、倉菜は「当たり前よ」と素っ気無い。
「実際に、居たんですよ。3階バルコニーに」
「……どうだ、クローン人間だとしか思えないだろう」
「クローン人間、そんな非人道なって法律が──」
「だからこそ、証拠隠滅の為に東京コンセルヴァトワールは姿を変えたんだ。前身である東京音楽才能開発教育研究所から。結城忍、磔也もレイも元々はそこの出身だ。私が思うに、結城忍がわざわざ姉弟を養子に引き取ったのは逆に、単に戸籍を得る為の手段だったんじゃ無いかと思う」
「クローン……、まさか、……レイさん達が? つまり、才能あるピアニストのコピーとして?」
 出来れば否定したい気分の涼の脳裏に、ある光景が甦った。──介抱中に、ちらりと見えたレイの素顔。彼女が執拗に隠していたその顔が、姉弟とは云えあまりに弟に似過ぎていたと感じた事を。
「どうも、そんな事ばっかりやってた機関らしいぞ、東京音楽才能開発教育研究所。表向き、一応まともな音楽教育機関らしく音楽教室なんかも併設していたらしいが」
「磔也君の聴覚障害の件にしても、元々人間の聴覚は加齢と共に衰えて行くものです。ですが余りにその進行が早い事の外的要因として、……幼児期に無理な音感訓練を行ったとか。それも、実験の一環として弊害も予想の上で」
「……酷い」
 珍しく憤りを抑えられない涼に、翔は一応「あくまで予測だからな」と釘を刺しておいた。
「……所で、その東京コンセルヴァトワールの人間に会われたそうですね、カーニンガムさん?」
 翔は、質問をセレスティに向けた。麗人は一度ウィンを見遣って微笑む。
「ええ、ルクセンブルク嬢の御紹介で。自分はあくまで非常勤講師だと仰っていましたが、彼も若い時分には東京音楽才能開発教育研究所付属の音楽教室で学んでいたと云うことで、大分関わりは深いと思われます。暗に、脅されましたしね。あまり関わるな、と云いたかったように思います」
「何か、分かりまして?」 
 ウィンの問いに、セレスティは軽く首を傾いだ。
「そうですね、簡単には洩さないだろうとは思っていましたが、それだけに、矢張り磔也君や巣鴨ユーフォニアハーモニーホールの上には東京コンセルヴァトワールがある、と云う証拠とも云えるかと」
「その、東京コンセルヴァトワールを探る方法は無いかしら」
「私もそう思いまして、ルクセンブルク女史の御名前や資金援助の話を出したのですが。『堅いし、気取った所だから』とやや閉鎖的だと云う感じですね。……そうそう、」
 セレスティはそう、と涼に声を掛けた。
「御影君、ホールにあった彫像を気にしていたそうですが」
「はい、……何か不気味だし、……あと、結城氏が『何故これがここに?』って感じていたように思ったんです」
「あの彫像、元はどこにあったものかお分かりですか?」
「どこに?」
「東京音楽才能教育開発研究所の施設内です。閉鎖後、東京コンセルヴァトワールの倉庫あたりに押し込んで隠していたようですが」

「そう云えば、水谷さんはあの後どうなったかしら?」
 ふと、ウィンは素朴な疑問を発した。樹が精霊サンドマンを召還して眠らせたままの水谷。
「そろそろ、起きてると思いますけど。……でも、完全に顔は覚えられただろうし、履歴書まで渡して来ちゃったしなあ……僕はもうホールへは行けないです」
「今後の動向調査に、アルバイトの身分は有効だったんだけど、仕方無いわね。相手がその『クシレフ』とやらじゃ、そうそう簡単に記憶操作なんかの精神戦には持ち込めないし」
 それまで、訳が分からないと云う風に取り敢えず黙って話を聞いていた蓮が口を開いた。
「俺は、多分大丈夫だろう。何せ水谷氏の事は今日始めて知った位だからな。今後も音響チェックのアルバイトに行く事になると思う。未だ不完全だと云うホールに何か仕掛けが追加されれば、直ぐ分かるだろう。何かあればまた情報は提供する」
「私も」
 倉菜も蓮に倣って名乗りを上げた。亮一は軽く頷く。
「じゃ、そちらの事はお二人にお願いしましょう」
「……それと、香坂さん、」
 ウィンが急いで云い足した。
「磔也君、香坂さんには割と親しそうだったわよね」
「そうなのか? あの態度」
 だとすれば迷惑も良い所だが、蓮にはその辺りの基準が良く分からない。
「……全然扱い良いですよ。……僕なんか……、」
 呟くような独白を吐く従弟を横目に、ウィンは蓮と会話を続ける。
「あの子、当分帰って来ない気がするの。気になるわ。もし、連絡なんかがあれば教えて欲しいの」
「……分かった」

【xxx】

 一週間、何事も無く過ぎた。──ただ、磔也の消息が知れない事意外。

「……もしもし、あの、2年D組結城磔也の姉ですが。……弟、学校には……、……ですよね、あ、いえ、あの、風邪なんです。そう、ずーっと、そうです、ただの風邪ですから。ただ、あの通りバカなもんで一度熱出すと下がらなくて。まだ当分休むかも知れませんけど、どうぞご心配無く。留年決定で結構ですから」
 
──……そう、このまま居なくなってくれればどんなに良いか。

 レイは受話器を置き、ダイニングの父に向かって声を上げた。
「パパ、取り敢えず御飯にしよ、コーヒー煎れるね、いつものインスタントだけど」
 ああ、と気の無い返事が返った。だが、彼はどれだけ気掛かりな事があっても表面上は決して面倒そうな態度は取らない。
──……反抗期か。余程疎まれているらしいな、私は。昔から、不意に何日も居なくなる子だった。……珍しい事じゃ無い、多分、友達の家にでも泊まっているんだろう。冨樫君と一緒に居るのを見たと云う話も聞くし、……大丈夫だろう。……そうであれば良いが。
 レイはインスタントコーヒーを煎れ、湯を湧かしながら笑みが溢れるのを禁じ得なかった。 
──何があったか知らないけど、もし、本当にこのまま磔也が戻らなければ。
 父の帰還で大分浮かれているレイは、単純に目先の希望だけで他に注意を払えなかった。

「……そうだ、パパ、今度のコンサートね、香坂さんに招待するって云ってるの。この間逢ったんだっけ? 音響チェックで、アルバイトでヴァイオリン弾いてたでしょう? 凄く良いヴァイオリニストだと思わない? 今度、クロイツェルあたり二人で弾いて欲しいなー。……うん、だから招待券が出たら貰って置いてね。……あ、シュラインさんとか、御影君に葛城君も呼ぶかなあ。そうだ、ウィンさんもだ。ねえねえ、気付いてた? 金髪の凄くキレイなドイツ人の女の人が居たでしょう、彼女、あの声楽のルクセンブルク女史の姪なのよ。吃驚? ……でしょう? いっそ20枚くらい、纏めて貰って来て。……うん、お願いね──」
 朝食の後片付けをしながら、レイは背後の父に向かっていつまでも話し掛け続けた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0931 / 田沼・亮一 / 男 / 24 / 探偵所所長】
【1532 / 香坂・蓮 / 男 / 24 / ヴァイオリニスト(兼、便利屋)】
【1588 / ウィン・ルクセンブルク / 女 / 25 / 万年大学生】
【1831 / 御影・涼 / 男 / 19 / 大学生兼探偵助手?】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1990 / 天音神・孝 / 男 / 367 / フリーの運び屋・フリーター・異世界監視員】
【1985 / 葛城・樹 / 男 / 18 / 音大予備校生】
【2124 / 緋磨・翔 / 女 / 24 / 探偵所所長】
【2194 / 硝月・倉菜 / 女 / 17 / 女子高生兼楽器職人】

NPC
【結城・レイ / 女 / 21 / 自称メッセンジャー】
【結城・磔也 / 男 / 17 / 不良学生】
【結城・忍 / 男 / 42 / ピアニスト・コンセルヴァトワール教師】
【水谷・和馬 / 男 / 27 / 巣鴨ユーフォニアホール人事担当者】
【冨樫・一比 / 男 / 34 / オーケストラ団員・トロンボーニスト】
【里井・薫 / 男 / 24 / 歌手】
【陵・修一 / 男 / 28 / 某財閥秘書兼居候】
【シェップ / 男 / 31 / IO2エージェント】
【ディテクター / 男 / 30 / IO2エージェント】

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■         ライター通信          ■
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皆様、今回も音楽都市への御参加を頂き、ありがとうございました。
前回は私としても反省点が多く、今回はそれを払拭しようとしたのですが、裏目に出て最後になって辻褄が合わなくなったり、また予定外の仕事が入ったりとして、このように大変お待たせする事となってしまいました。この場を借りてお詫び致します。

一部、戦闘メインのシナリオを期待された方も居らっしゃったと思いますが、全体的にプレイングを統合した結果、ほぼ無し、と云う流れになってしまいました。
本シリーズはあと2話、続きますがどうも戦闘レベルは今作程度に留まりそうです。

次回の受注は12月7日日曜日、午後8時からを予定しています。
危惧していた通り、どんどん話がマニアックな方へ流れていますが良ろしければ遊んで下さい。
また、次回シナリオではある点を多数決で決める形を取ります。里井に関しては、次回のプレイングで予想投票して頂く形になります。

最後に、改めて今回の御参加へのお礼とお詫び申し上げます。
最近、突発的な用事が入る事が多く、構想や実際の執筆に掛けられる時間が減ってきました。今後はシナリオノベル、シチュエーションノベル等全て納品期間に日数を追加、実際の納品もギリギリになる事が多くなると思います。いつもお世話になっている方々には申し訳ありませんが、どうぞ御了承の上、気が向かれた時にはお相手下さいませ。

■ 香坂・蓮様

以前お世話になりましたNPC親子が、香坂君の近況を心配していたので勝手に噂させてしまいました。
……それにしても、こんな下らない事件で貴重なレッスン時間を丸一日潰してしまって、お師匠様に怒られないでしょうか……。
ここで、こっそりと謝罪します。

x_c.