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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


だんじょん☆くえすと

「なんだ、これは?」
 草間は、口にくわえていたタバコをぎゅうと灰皿に押つけると、何気なくその箱を手に取った。
「う〜ん、なんだか玄関先に置いてあったんですよね」
 零は、人差し指を口に当て、ふみゅ、と小首をかしげた。
 草間は、その言葉を聞きながら、改めてその箱を眺めた。
 せんべいの缶ほどの長方形の箱。木で作られており、箱の側面には鳥や、獣を抽象化した模様が
無数に彫られている。
 表面には、なにやら大雑把な文字で「ダンジョンクエスト」と題が入っていた。
「……どうやら、何かのゲームのようだな」
 草間は、何気なくその箱を開けた。すると。
 箱の中に、小さな扉。それは、レンガを模したものだった。
 草間が、それに手を触れた次の瞬間。
「うわぁぁぁぁ!!?」
 突然、草間の体がぐらりと歪む。
そして、一気に扉の中に、吸い込まれたのだ!
わっはっはっはぁ……とどこからか嘲笑するような声が聞こえた。
しかし、それは、一瞬の出来事であった。それが何者かを確認する暇もなかった。
箱の中の小さな扉がぱたり、と閉まった。
あとには、呆然とたたずむ零のみが残された。


「と、いうわけなのです」
 零は、静かに話した。
「義兄さんは、あのゲームの中に吸い込まれてしまいました……。その時に、私、聞いたんです。
『生贄は、頂いた』と……」
 零は、きわめて真剣な表情でつぶやいた。
「でも、そのあとに、また不思議な声が聞こえてきたんです。『我は守護者なり。我の封じた
光の水晶散らばりけり。助けたくば、試練を受けよ。光の水晶を集めよ』と」
 光の水晶。これを集めると、草間をさらった奴を、倒せるのだと。
「私も行きたいのですが、義兄さんの留守を預からなくてはなりませんし」
 途方に困った零は、こうして依頼をしたのだった。
「そうそう、これ」
 零は、どこからか6個のバッジを取り出した。
 それには、『ナイト』『魔法使い』『僧侶』『盗賊』等の絵が入っていた。
 その世界で、それぞれの格好になれということなのか。ともあれ、どうやら、この
バッジで、ゲームの中に入れるらしい。
「義兄さんを、助けてください。どうかお願いします」
 雫はそういうと、ぺこりと頭を下げた。


■1・れっつだんじょん

 草間を助けて欲しい。
 そんな零の願いを聞き、興信所には男女合わせて、すでに6人が集まっていた。
「……誰よ、こんな危ないもの玄関においたの」
 シュライン・エマは、前髪をかき上げながら、ふう、と大きくため息をついた。
 胸ぐりの大きく開いたスーツを着、腰まである長い黒髪をひとまとめにした理知的な女性である。草間興信所
の事務員でもあるシュラインは、いつものようにここを訪れ、そして事件を聞かされたのだった。
 彼女は、切れ長の心持つりあがった瞳で、不審そうに箱を見、もう一度、大きくため息をついた。
「やれやれ……。武彦さん、タバコがなくてぜったい困ってるわね。すぐ飲めるように、準備しとかないとね…
…」
 極度のヘビースモーカーである草間を熟知しているシュラインは、細かいところにまで気を配っていた。
「草間さんって、よくよくこういうことに好かれるんですねぇ……。誰かの手のひらって感じがぬぐえませんが、
見捨てるわけにも行きませんしね」
 シュラインの横でつぶやいたのは、綾和泉・汐耶。肩の上できれいに切りそろえた黒髪に、銀縁の眼鏡をかけ
ている。図書館司書でもある彼女は、眼鏡のずれをくい、と直すと持っていた本をぱらぱらとめくった。
「う〜ん……。まあ封印するくらいしかできないんですけど、頑張りましょうか」
 そういうと、汐耶はぱたり、と本を閉じた。
「わーい!! なんか楽しそうなの♪ 僕もやるの〜!」
「面白そう……。といったら零さんに悪いかな。でも、面白そう……」
 目も覚めるような鮮やかな緑の髪の少年に、淡い水色の髪の毛の女性。
 藤井・蘭と、イヴ・ソマリアである。蘭は、外見は10歳くらいの少年の姿であるが、実は観葉植物である。イ
ヴもまたその美しい外見とはうらはらに、504年の歳月を生きている異世界調査員、といった次第である。
 二人とも、この事態を面白がっているという点では一致していたが、蘭がきゃあきゃあと、無邪気に喜んでい
るのに対して、イヴの面白がり方は少し違っていた。
 ………………にやり。
 口元に歪んだ笑みを浮かべ、その表情はどこか楽しそうだった。
 そんなイヴの表情に少々びくつきながらも、御影・凉は話を切り出した。
 御影・凉。大学の医学部の学生で、茶色の髪が印象的な、おっとりした風貌の青年である。草間探偵事務所の
手伝いも行っているため、今回こうしているのだった。
「えっと、まあ、つまり草間さんを助けに行けばいいんだよな……はぁぁあっ!?」
 がしっ!!
 突然、後ろから何者かに抱きつかれたため、凉はそのまま大きくバランスを崩し、派手にすっ転んだ。
 ずっしゃあああ!!
「な……んなっ!?」
 慌てて、凉が振り返る。するとそこには腰に手を当て、堂々と仁王立ちした男が、高笑いをあげていた。
「わっはっはっは!! 凉っ!! 草間を助けにさあいくぞ!!」
 男は、びしぃっ! とあさっての方向を指差していた。その目はきらきらと妙な輝きに満ち溢れていた。
 大神・森之介。まっすぐな黒い瞳が印象的な普通の大学生である。彼はまた、凉の親戚でもあった。
 凉は、そんな森之介の態度に嫌なものを感じていた。なぜなら凉は、いつも彼に振りまわされていたからだっ
た。
 まさか今回もまた……。
 ぶんぶん。
 そんな考えを打ち払うかのように、凉は首を振った。
「……じゃあ、みなさん、準備ができましたらこのバッジを取っていきましょうか」
 一人冷静な汐耶は、眼鏡のずれを直しながらつぶやいた。
「わーい、バッジはねー、ひゅ〜〜んって、手から光がでるのがいいのっ!!」
 蘭は相変わらず、楽しそうだ。心なしか、くるくると踊っている。
「零ちゃん、心配しないで。ちゃんとつれて戻ってくるからね」
 シュラインは、心配そうな表情の零の肩に手を置き、励ましている。
「私は吟遊詩人にしとくわ。だって、ねぇ?」
 イヴは、バッジを掴むと意味ありげに、にっこりと微笑んだ。
「おっしゃーっ! 凉っ! 行くぞっ!!」
 森之介は、あいかわらず元気いっぱいである。凉の首根っこをつかみ、ぐぐっと意味なく拳を握りしめている。
 そんな森之介に気圧され気味の凉は、ぐったりした様子で、ふう、と大きくため息をついた。
 こうして、集まった六人は、それぞれバッジを手にし、ダンジョンクエストの箱に近づいた。
 すると、まばゆい光がそれぞれを包み、箱の中へと吸い込んでいった。
 こうして、草間救出の冒険は始まった。


■2・E それぞれの姿

 気づくと、シュラインは一人であった。
 真っ暗な闇の中に、一人、ぽつんと取り残されていた。
「――ここ、どこかしら?」
 シュラインはきょろきょろと辺りを見回す。と、突然あたりが光に包まれた。壁にすえつけられたたいまつに、
灯がともったのだ。そしてその時初めて、シュラインは自分の姿が変化……してないことに気づいた。
「えっと……?」
 シュラインは、眉をひそめた。ここに入ると、何かの姿に変化するということだったが、あまり変わり映えが
しない。どこか変わっているのであろうが、シュラインは気づいていなかった。
「みんな変わっていないのかしら……?」
 そういって、シュラインは何気なく眼鏡をはずした。すると。
「!!?」
 眼鏡が変わっていた。それは赤渕で、やけにつりあがった眼鏡だった。簡単にいうと、家庭教師か、PTAのお
ばちゃん役員か。さらに、シュラインは、細いタクトを手にしていた。
 そして、シュラインは悟った。
「……美人音楽教師……」
 シュラインの胸元には、なぜか音楽教師のバッジが輝いていた。
 とその時、前方でなにやら、がやがやと騒がしい声が聞こえてきた。
 シュラインは、その方向へと一歩あゆみはじめた。


■3・A 第一の試練〜心の試練〜

 小さな扉の目の前。そこにはすでに、様々な姿をした人々が集まっていた。 
竪琴を手にし、ギリシャ神話にでてくる妖精のようなひらひらした衣装を身にまとっているのは、イヴ。吟遊詩
人のバッジをつけている。
 白いローブを身にまとい、銀の王冠に本、そしてなぜかたいまつといった自由の女神風な姿の女性は、汐耶。
首からは僧侶のバッジをさげている。
 あきらかに自分の背丈より大きい魔女風な帽子をかぶっているのは、蘭。魔法使いのバッジでマントを止めて
いる。
 そして、この場所にはそぐわないであろう格好――きつい眼鏡に、白のブラウス、ミニのスカートといった美
人音楽教師風な姿の女性は、シュラインであった。
「……ちょっと、なんで私だけこんな格好なのよ」
 シュラインは、持っていたタクトをいまいましげにぴしゃりと打ちつけた。
「そんなこといったら、私だってどうかと思いますけど」
 汐耶も恥ずかしげにつぶやいた。
「まあ、わたしぃはぴったりだけどー♪」
 イヴはぽろろんぽろろんと竪琴をかき鳴らし、口元に指を当て、片目をつぶる。
「わーいっ、まほうつかいなのーー!! ひゅ〜〜んなの!」
 蘭は、ぐっと手をつきだしなにやらもごもごとつぶやく。
 と、突然いくつもの光条が飛び出し、目の前の扉をいとも簡単に破壊した。
「おおをっ!?」
 蘭以外の三人は、その出来事に恐れをなす。
「……てへっ♪ ちょっとしっぱいしちゃった♪」
 蘭は、にこにこしながら頭をかいた。
「ま、まあいいけど……。っと、そういえば凉と森之介は? あのふたり、どこ行ったのかしら」
 冷や汗をながしつつ、イヴがつぶやく。
「わからないですね……。きっと、私達とは別の行動をとっているのかもしれません」
 汐耶はくいと眼鏡のずれを直す。
「まあ、こんなとこでうだうだ言っていてもしょうがないし、とりあえず行くわよ」
 シュラインの一言で、4人は扉の中へと入っていった。


「!?」
「きゃぁああ!?」
「いやーーー!!」
 部屋に入った瞬間、4人は思わず叫び声をあげてしまった。とてつもなくオンチな歌が、4人の耳を襲ったの
だ。手で耳をふさぐが、効果はまったくない。
 その部屋には、ひとりの少女がいた。手は翼に変化し、足は鳥のそれである少女。あきらかに普通の人間では
なかった。彼女はハーピーだった。
 しかし、魔物とはいえただ歌を歌っているだけである。別にこちらに攻撃を仕掛けてくる様子はない。
「……あー、なかなかパンチの利いた歌ね」
 シュラインは、ずれた眼鏡も直さずに遠い目をしている。
 しかし、彼女の体質上、調子はずれの音には慣れているらしく、意外にもそのまま目をつむりおとなしく歌を
聞いている。
「わ〜〜い、ハーピーさんだぁ!」
 いつのまにか、ハーピーの横についているのは蘭。そして、ひとしきりハーピーを眺めた後、
「……ハーピーさんはうたをうたうのが好きなんだね! 僕もいっしょにうたをうたうの〜♪」
 そういって、一緒に歌い始めた。ハーピーはその蘭の行動に、にっこりと微笑んで、翼をはばたかせ、さらに
高い声で歌い始める。しかし、だからといってハーピーの歌がうまくなったわけではない。
また、蘭は勢いで歌っているので、ハーピーに負けず劣らずの歌唱力でもあった。
  そんな二人の様子にしびれを切らしたのか、イヴが突然びしぃっと指さしこう叫んだ。
「……冗談じゃないわ。っていうか、そのひどい歌はなに!? 歌は心で歌うのが肝心とは言うけど、少しは技
術もなきゃ!」
 なぜか、ぽろぺんぽろぺんと竪琴をつまびきながら、イヴは激をとばす。しかし、ハーピーは、ちらり、とイ
ヴを見やっただけで、さらに大きな声で歌いだした。
「んきゃぁぁぁぁあ!?」
 そのあまりのへたくそぶりに、凄まじい衝撃波が襲い、イヴは壁まで吹っ飛ばされてしまった。なんとか直撃
はまぬがれたものの、頭がふらふらする。イヴは、ゆっくり起き上がり、つぶやいた。
「……セイレーンの娘の私に唄で勝負しようなんて、いい度胸じゃない? ――負けないわよ」
 ぽぺろぽぺぺん。竪琴の音色が怒りに満ちているような音をたてる。イヴは笑っているものの、その笑顔は心
なしか怖い。
 そしてイヴは、近くに立っていた汐耶に同意を求める。
「本当にサイアクな歌だわ、ねぇ?」
「…………」
 しかし、黙ってハーピーの様子を眺めていた汐耶は、にっこりと微笑みこうつぶやいた。
「個性ある歌声ね。いいんじゃないかしら?」
「えぇぇぇ!!?」
 ぽぺろぽぺぽぺ。その一言に、イヴは衝撃を受けた。竪琴の旋律もこころなしか歪む。
 ハーピーは嬉しそうである。しかし、汐夜はさらに続けた。
「――でも、もっと上手になりたくないかしら?」
 すると、ハーピーの動きが一瞬止まる。怒ってしまったようだ。それに汐耶はフォローを入れる。
「いえ、あなたの歌声はとても個性的なのよ? でも個性的過ぎて、皆さんには理解できないの。ほら、ここに
素敵な先生が二人もいるんだもの。一度、レッスンを受けてみるのも、いいんじゃないかしら?」
 そういうと、汐耶は、イヴとシュラインにめくばせした。
「と、いうわけなので、お願いしますね?」
「そういうことだったわけね……」
 イヴが、ふっと微笑む。シュラインも目を開け、
「いいわよ」
 とつぶやいた。くい、と眼鏡のずれを直し、タクトを手のひらに打ち付ける。そこには楽しそうな表情が浮か
んでいた。
「わ〜い、みんなでうたうの?! みんなでうたったら、きっと楽しいの〜〜♪」
 蘭はあいかわらず、無邪気である。そして満面の笑顔を皆にふりまいた。水晶を集めるという目的など、彼の
中ではすでにないのであろう。しかしそれがある意味、功をそうしていたのかもしれない。
「そう、そうよね……。みんなで歌ったら、楽しいわよね……」
 イヴはなにやらつぶやくと、ハーピーに向かって微笑みかけた。
「あなたは楽しいんだものね? でもその歌じゃ、まだまだ人を楽しませるまでにはいたらないわよ? いー
い? わたしがお手本を見せるわ」
 イヴは、すう、と大きく息を吸う。そして、竪琴をつまびきながら、澄んだやさしい音色で歌い始めた。
 その歌は、辺りにいるものをうっとりさせた。ハーピーでさえも、イヴの歌に聞きほれていた。さすが、アイ
ドルだけある。その歌は、深く心に染み渡るようだった。
 イヴが歌い終わると、拍手がこぼれた。
「ありがとう。でも、今度はあなたの番よ?」
 そういってイヴは、ハーピーにレッスンを付け始めた。

 
 レッスンは困難を極めた。なにしろあの歌を、まともにするというのだから並大抵の苦労ではない。しかし、
イヴの丁寧なレッスン(半ば脅しにも近いものもあったが)や、シュラインのヴォイスコントロールで、少しずつ
その歌は変化していた。
「こんな風にしたら、人間の耳になじむんじゃないかしら?」
 シュラインは、タクトを振りながらハーピーのずれた音をすばやく察知し、一緒に歌う。
 そこにイヴの歌声が調和し、ハーモニーを奏でだす。
 蘭は、あいかわずわが道を行く状態だったが、ついでにレッスンを受けたため、かなりまともになっていた。
 汐耶は、ハーピーの歌をほめ、一緒に歌いだす。
 みなの歌声がひとつになる。その時だった。
 ハーピーの体が、まばゆい光をはなちだしたのだ。
「!!?」
 4人はその光に目がくらんだ。
(ありがとう……楽しかったわ……ほんとうにありがとう……)
 光の中で、4人は声を聞いた。
 そして、光はさらに強くなった。
「あ、あれ……?」
 光がおさまった後には、ハーピーはいなくなっていた。
「ハーピーさん、いなくなっちゃったの〜……」
 蘭が寂しそうな声を上げる。
「わたしのレッスン料高いのに……」
 イヴは苦笑する。
「でも……あの子、いい顔してたわね?」
 シュラインが、ふ、と微笑む。
(水晶のことを聞けなかったのは、残念だけど……)
「みなさん、ちょっとちょっと!」
 突然、汐耶が大声をあげる。何事かと皆集まる。汐耶がたいまつでそこをゆっくりと照らす。するとそこには
……。
「水晶!?」
 そこには、まばゆい光を放つ丸い水晶が残されていた。
「やったーーー♪」
 蘭はくるくると回り、踊りだした。シュラインが水晶を拾い上げる。
 すると、4人の体は光に包まれた。


■4・ボスそして救出


 そこは、神殿のようだった。荘厳な雰囲気を持つ4つの柱が部屋を支えている。その柱と柱の間に、複雑な文
様が描かれたレリーフがはまっている。それは、ドラゴンの頭、ハーピーの羽、そして鎧をかたどっていた。
 そしてそのレリーフの下には、それぞれ丸いくぼみがあった。
 分かれていたグループともここで合流することができ、再び6人での行動となった。
 手に入れた水晶は、2つ。そして、それぞれが手に入れた水晶をくぼみにはめこんだ。
 しばらくの沈黙の後、ごごご……と地の底から吹き上げてくるような音が聞こえ出した。
「なっ、なに!?」
 イヴが叫ぶ。
「――くるぞっ!!」
 次の瞬間、床の真ん中が粉々に砕け、土砂や瓦礫を噴出させた。そして、大穴から悪魔が現れた。黒々とした
肌、逞しい筋肉。口には鋭い歯がずらりと並び、目はらんらんと赤く燃え盛っている。
 そして、頭には太い二本の角を生やしていた。
「あ、あなたが草間さんをさらった犯人?!」
 汐耶は、たいまつを掲げながら、悪魔に向かって話す。
「生贄なんて、意味がないわ! 大体、あなたの目的はなんなの! 世界を征服するとかそんなのは、不可能に
近いのよっ……!?」
 しかし悪魔は、黒い瘴気を口から噴きだしながら、叫んだ。
「我の目的は、ただひとつ。すべてのモノの死。生贄は、伝説の人物。我は返さぬ!!!」
 ぐがぁああああんっ!!
 悪魔は、長く鋭い爪で、壁をえぐった。
「きゃぁあああ!!」
 汐耶が衝撃で、壁に叩きつけられる。
「汐耶っ!! くそっ、おりゃあああああ!!」
 ぶぉん、と森之介の手に霊刀が現れる。そして、森之介は、すばやく悪魔の懐に入ると、悪魔の胸めがけて一
気に切りつけた。
 ばしゅっ! 悪魔の胸から緑色の血がほとばしる。ついで凉も霊刀を具現化させ、たっと地面を蹴り悪魔の肩
に切りつけた。切り口から、ぶしゅう、と白い煙が立ち上る。浄化の力が発動しているのだ。
 森之介は、空中でくるりと回転すると、壁を蹴ってふたたび悪魔に切りつける。さらに、古武術を駆使して、
すばやく回し蹴りを悪魔の首に叩き込んだ。
 イヴは、竪琴をつまびきながら力強い歌を歌い、皆の士気を高めている。蘭も一緒になって、歌い踊り応援し
ている。しかし、悪魔はなかなか倒れない。
 さらに、口を大きく開き、
 きゅおおおおん!! 
 と、悪魔の口に、赤い光が集まり、それは一気に灼熱の帯となって放出された!
 ぴがぁあぁぁぁあああ!!
「!!?」
 柱がくずれ、壁が吹き飛ぶ。ばらばらと降り注ぐ瓦礫から身を守るため、とっさに頭を手で覆う。
「ちくしょうっ、あいつ、どうやったら倒せるんだっ!」
 凉がにがにがしげに叫ぶ。
「くそう、こうなったら……」
 森之介が、ぎり、と歯をくいしばる。口元からはつうと血が流れていた。そして森之介は、ぱちんと指を鳴ら
した。
「――黒子、召喚!!!」
 次の瞬間、どこからともなく大量の黒子が現れた。
「お呼びですか、勇者様!」「やりますぞゆうしゃさまっ!」「忍びのおきては厳しくもはかないのですぞ勇者
様!」
 なにか違うのも混ざっていたが、森之介は黒子に向かって叫んだ。
「みんなっ! お前の力を俺にわけてくれ!」
「おおおっ!」
 そして、黒子は何を思ったか、森之介を持ち上げると、たぁあああっ!!と悪魔に向かって放り投げた。
「ををををっ!!?」
 森之介はきれいな弧を描いて悪魔につっこんでいきそして。
 びし。
「へぁああああああっ!?」
 いとも簡単に壁に叩きつけられた。
「――ではこれにて、御免っ!」
 そういって黒子は消えた。
「……いみがねぇええええええ!!!」
 森之介は、初めて黒子を憎いと思った。そしてそのままぱたりと倒れた。
「森之介……お前の仇は俺たちが取るからな……」
 凉は、眉をひそめつぶやいた。しかし、心なしかその表情は明るかった。
 悪魔はなおも攻撃の手を休めない。だが、突然、悪魔の動きが止まった。
 きゅおおおおおおおおん。
 悪魔がゆっくりと振り返る。そこには、シュラインが立っていた。シュラインは、さきほどの悪魔の攻撃を分
析し、じっと機会をうかがっていたのだった。
 声帯模写。これが彼女の特殊な能力だった。攻撃音を声帯模写したシュラインは、一気にその音を発動させ
た!
 ぐがぁあぁああああん!! ぴがぁああああああんん!!!
 突然の事態に、悪魔は混乱した。そしてその隙を突いて、凉が悪魔の首めがけて霊刀、正神丙霊刀・黄天を打
ち下ろした。同時に、イヴの召喚したケルベロスが、その喉元に喰らいつく。
 悪魔はふたつの攻撃に耐えられず、ずぅうんと倒れた。
「ふぅ……」
 凉は、ぐいと額の汗をぬぐった。シュラインは、しずかに見守っている。
「やったーー!! やったーーー!!」
 蘭がぴょんぴょんはねて喜んだ。
 イヴはにっこり微笑むと、ケルベロスを呼び寄せ頭を撫でた。そして、一言こうつぶやいた。
「トドメをさしたんだから、経験値、もらえるのよね?」
 その瞬間、ぱらららったったった〜! と謎のファンファーレが鳴り響いた。
 そして、どこからか、
「おめでとう! ゲームクリア!!」
 という陽気な声が響きわたると、目の前のレリーフがごごごご、という音をたてゆっくりと左右に分かれだし
た。
「な、宝かっ!?」
 森之介が叫ぶ。凉はごくりと生唾を飲み、その光景を見守る。
 汐耶も、胸の前で手を組み合わせ、じっと眺めている。
 皆の期待と視線が、集中する。
 そして、まばゆい光の中から、一人の人物が現れた。それは。
「…………く、草間さんっ!?」
 イヴが叫ぶ。
「……よう」
 確かに、それは草間だった。だがしかし、いつもの草間ではなかった。
 そこには、純白のドレスに身を包んだ草間が、いた。
 手にはレースの手袋をはめ、頭には花飾りまでつけている。しかも、やけにきらきらした金のかつらまでかぶ
っていた。
「え、な……なに? 武彦さん?! ちょ、ちょっとまって……」
 シュラインは、用意していたタバコをぽたりと落とした。そして、突然の事態に頭を抱える。
 もうなにがなんだかわからない。くらくらする。
「わ〜い、おひめさまなの〜♪ ゲームはおひめさまを助けると、くりあーなんだよね〜?」
 蘭は、姫の格好をした草間のまわりをぐるぐると回っている。
「……あんなに苦労したのに、目的の人物がこうとは……」
 汐耶は、はぁ、と大きくため息をついた。
 すると、草間は我慢しきれなくなったのか、突然大声を上げた。
「あのなあ、俺だって好き好んでこんな格好しているんじゃないんだぞ!? なんか知らんが、『生け贄は姫に
限る』とかわけのわからないこと言われて、気づけばこんな狭苦しいとこに閉じ込められてだな……って、ちょ
っとみんなっ! 人の話を聞けっ!!」
 しかし、必死な草間とはうらはらに、皆ふうと大きくため息をつくばかりであった。
 だがその頃、凉は草間の後ろに、宝箱があるのを発見していた。
(こ、これが宝……! 一体何が入っているんだ……)
 皆、あまりのオチに失望しているため、宝箱には気づいていなかったのだ。凉は、何気なく視線を泳がせたら、
それを発見したのである。
(レアアイテムだったら、いいよな……)
 どきどきしながら、宝箱のふたをゆっくりと開ける。すると中から、まばゆい光があふれだした。
「……こ、これは……!!」
 凉は、絶句した。それは、大量の女装グッズだった。かつら、ドレス、アクセサリーに靴まで……。
(――悪魔って、女装マニアだったのか……?)
 ドレスを手にしながら、凉はがっくりとうなだれた。
 その後、無事に草間を救出し、帰ることのできた6人だったが、気づいたときには、いつのまにかダンジョン
クエストの箱はなくなっていた。
 一体なぜあんな箱が草間興信所に置かれていたのか、なぜ箱の中の悪魔は、草間をさらったのか。
 そして、なぜ悪魔は女装マニアだったのか……。
 箱が消えてしまった今となっては、すべての真実は、闇の中である。
 そして、この事件はちょっぴりいろんな人物の人間関係に影響を及ぼした……とは、抜群に秘密である。

                                    了


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1548/イヴ・ソマリア/女/502歳/アイドル兼異世界調査員】
【2235/大神・森之介/男/19歳/大学生 能役者】
【1831/御影・凉/男/19歳/大学生兼探偵助手】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23歳/都立図書館司書】
【2163/藤井・蘭/男/1歳/藤井家の居候】



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■         ライター通信          ■
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 どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

 各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章だということです。

 この文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。
大きくわけた展開は2つ。1.凉&森之介様、2.イヴ、シュライン、汐耶、蘭様という感じです。
もし機会がありましたら、他の参加者の方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるかと思います。
また今回の参加者一覧は、受注順に掲載いたしました。

大変お待たせしました。本当に申し訳ありません。もっと早くお届けできればよかったのですが、
スランプになり、全然書けなくなった事もあり、こんな遅くなってしまいました。
すみません。
けれど、調子のいいときは、本当に書いていてとても楽しかったです。ストーリーはなんだか尻切れトンボとい
うか腑に落ちない部分も多々あると思いますが、もともと謎のゲームであるという設定だったので、こんなこと
になっています。
しかも雅の悪いくせが、暴走しまくってます。ええ、ギャグです。(汗)
皆様ほとんど影響を受けてます。(爆)
ギャグが嫌いなPLさんは、本当にごめんなさいとしかいいようがありません。雅は、こんな奴なんです。
もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテラコン、もしくはショップのHPに、ご意見
お聞かせ願いたいと思います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
 それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょ
う。

シュライン様>はじめまして。あちこちでよくお見かけするキャラクター様でしたので、発注が来たときはなぜ
かどきどきしてしまいました。(笑)
草間さん、大変なことになってますが、大丈夫でしょうか? ショックを受けないでくださいね? 雅はそれが
心配で、どうしようかと思っていました。(汗) しかもシュライン様にもギャグの洗礼を……。ギャグがお嫌い
でしたら、本当にすみません。イメージを損ねてなければよろしいのですが……。でもお会いできて、本当に嬉
しかったです! また機会がありましたら、よろしくお願いします。今回はどうもありがとうございました。