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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


鏡の中の迷宮

オープニング


鏡の中に写った自分は、本当の自分だと思う?

―ドッペルゲンガー
自分と同じ姿、声を持つ人物をそう呼ぶ。
彼らは鏡の中から現れるとも言われているが
それが本当のことなのかは定かではない。

題名:鏡の中の迷宮
投稿者:レオナ
本文:夜中の零時ちょうどに鏡の中を覗き込むと鏡の中に引き込まれちゃうんだって!
それで鏡の中の自分と入れ替わっちゃうらしいの。

ゴーストネットに新しく書き込まれたのは、自分と同じ姿をもつドッペルゲンガーのことについてだった。
貴方は、その書き込みを見てふとした好奇心から鏡を覗き込んでしまい、
鏡の中に引き込まれてしまう。


視点⇒綾和泉・汐耶

「ただいま」
 仕事から帰宅して、自宅に入る。誰からも返事がないというのは分かっているのだが、やはり言ってしまうものである。
「…鏡、か…」
 スーツをクローゼットに仕舞いながら目に入ったのはクローゼットに備え付けられた小さな鏡。
「…そういえばゴーストネットの書き込みでドッペルゲンガーの書き込みがあったわね」
 ―夜中の零時ちょうどに鏡を覗き込むと、鏡の中に写ったもう一人の自分に鏡の中に世界に引き込まれてしまうとか…。
 これが今朝、汐耶がゴーストネットで見た書き込みだった。
「…鏡の中の世界、ねぇ…」
 どうもピンと来ない。怪奇現象は目の前で起きないとどうも信じがたい。だが、汐耶が書き込みを信じるのはそれから数秒後の事だった。
「さて、ご飯の支度でも…」
 しようかな、という言葉は最後まで言う事はできなかった。なぜなら―目の前の鏡にうつる自分がこちらを見て笑っているからだ。汐耶は左手首に着けていた時計を見ると時間はちょうど零時。
「…なっ…」
『何?』と声を発する間もなく鏡の中に引きずり込まれた。


「……ここが鏡の中の世界?」
 気がつくと目の前には見渡す限りの本棚がある。鏡の中の世界とはもっと無機質なものだと思っていた、と心の中で思った。
『鏡の中の自分…』
 それに汐耶はなぜか心当たりがあった。
 それは……『狂気』
 禁書、魔術書の中には読めば狂ってしまうようなものもあった。汐耶はそれらを今まで封じてきた。書物の持つ力は本によって異なったけれど、汐耶は気づかないうちにそれらに影響されていたのかもしれない。
「…綺麗に片付いているわね」
 鏡の中の『汐耶』も綺麗好きのようで、無数の本は綺麗に棚に片付けてある。見渡す限りに続く本棚に汐耶は『終わりはあるのだろうか?』と考えていた。
 この鏡の中の世界も結界と同じようなもので外に出る事は容易にできる。それでも戻らないという事は汐耶自身も『自分自身』に会ってみたいと考えていたのかもしれない。
「あ……」
 汐耶が突然声を出したのは最初の場所から少し歩いたところにあった大きな椅子に座りながら目を閉じている『自分』を見つけたから。椅子は二つ置いてあり、汐耶は空いている方の椅子に座った。
「……誰?」
 座ると同時に目の前の『自分』が目を覚ます。
「……貴方は…」
 目の前の『汐耶』も少しだが驚いた表情を見せ、すぐに表情を戻す。
「まさか、本当に来るとは思ってなかった」
 椅子の背もたれを倒し、上を見上げながら『汐耶』が言う。
「でも腕を引っ張って連れてきたのは貴方でしょう?」
 汐耶もそれに対して答えを返す。
「でも、力を使えば出られたはずじゃない」
 確かにその通りだと汐耶は心の中で呟く。
「…貴方が私を鏡の中に引き込んだ理由を教えて欲しい」
 汐耶が目的を聞くと、暫く沈黙が続いた。『汐耶』は相変わらず上を見たままで何も言おうとしない。汐耶も無理に聞くことはなく、重い沈黙が数分間続いた。
「…外の世界には知識が溢れている。ココでは知りえない事ばかりがある。もちろんココでしか知る事ができないこともあるけれど…」
「そう…」
「…もう、貴方を引き込んだりしない。大人しくこの世界で眠っておくから、知識の共有をしない?」
 『汐耶』はそう言ってきた。こちら側の知識を提供する事で、『汐耶』の世界の情報も渡す、と。汐耶としては問題はなかった。どちらかというと嬉しい条件だった。
「もちろん、私もこの世界の事を教えて欲しいわ」
 そこでふと目に入ったのは、つい先日購入したばかりの小説だった。
「貴方もアレを読んでるの?」
 汐耶が指差す本を「え?」と言って『汐耶』は振り向いた。その小説とは最近人気が上昇中の若手作家の書くミステリー小説だった。
「あ。あれは結構ハマって読んだわね」

 それから数時間は、そのミステリー小説の話ばかりだった。『このシーンは良かった』とか『ここはイマイチだったわ』など。気がつけばもう鏡の中の世界に来て数時間が過ぎていて、もうすぐ朝日が昇るような時間だった。
「そろそろ帰らなくちゃいけないわね」
「そうね、仕事が休みで良かったわ」
「じゃあ、ありがとう」
 『汐耶』は握手を求めるように手を差し出す。汐耶も手を差し出す。最初で最後かもしれない握手をする。
「そこの鏡を抜ければ戻れるわ」
 『汐耶』が指差すのは一番大きな本棚の後ろにある大きな鏡。
「じゃあね。お元気で」
「あ、これを持っていって」
 そう言って『汐耶』が手渡したのは一冊の本。それも結構な分厚さの本だ。
「ありがとう」
 汐耶は笑ってそれを受け取る。
「じゃあね」
 そう言って汐耶は振り向く事もせずに鏡を通る。通り過ぎた後にあるのはいつもの部屋に静寂。
「何か、変な一日だったけれど…」
 なぜか悪くはないわね、と思う自分がいた。
「あ…」
 汐耶はもらった本をパラパラとめくってみる。
「…参ったわね」
 鏡の中の住人からもらっただけあって文字が全て反転している。
「鏡越しじゃないと読めないじゃない」
 少し溜め息をついてから汐耶はその本を読むのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1449/綾和泉・汐耶/女/23歳/都立図書館司書

■         ライター通信          ■
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>綾和泉・汐耶様

初めまして、瀬皇緋澄です^^
今回は『鏡の中の迷宮』に発注をかけてくださいましてありがとうございます^^
『鏡の中の迷宮』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただければ幸いです。
それでは、簡単ですがまたお会いできる事を祈りつつ失礼します^^
                         −瀬皇緋澄