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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『時の巫女のささやかなる実験』
 この書き込みを読めているという事はあなたには資格があるという事ね。
 資格。そう、資格よ。
 私は時の巫女。
 時の宮に生まれ、時の糸を死ぬまで紡いでいく存在。
 先代の時の巫女が死んだ瞬間に私は生まれ、そしてその次の瞬間からもう私は時の宮で時の糸を紡いでいた。
 まあ、私の自己紹介はここまで。
 ねえ、あなたに一つ訪くわ。
 あなたは時とは一方方向にしか向かわないものだと想って? 進む事はあっても、戻る事は無い、と。
 そうね。そう。それが自然の…そして時の摂理。
 だけどどうやら、私は時の巫女としては異質な存在のよう。
 だって、私は想ってしまったから。こんな生まれた瞬間から死ぬまでただ時の糸を紡ぎ続けるだけの人生なんて嫌だと。もっと、自分の想うままに生きたいと。
 だから私はささやかなる自分の運命への、時の摂理への反抗をしてやるの。これはまずは第一の実験。その実験とは紡いだ時の糸を戻す事。
 そう、喜んで。
 この書き込みを見る事ができるあなたは時を遡る才能を持っているという事なの。
 ねえ、あなたにもあるのでしょう?
 守れなかった約束。守れなかった愛。失った愛。心に突き刺さっている誰かを傷つけた言葉。
 私は時の巫女。そういった過去が人を大人にするという事も充分すぎるぐらいに知ってるわ。だけどそんな痛みを背負って生きるのは嫌じゃない?
 だから私があなたを楽にしてあげるわ。そう、私の実験に付き合ってくれるお礼としてね。
 さあ、紡いだあなたの時の糸を戻しましょう。

【時の巫女の語り】
 鎌倉の街に古くから走る道。四つ辻が交わる場所。そこに一人の男がいたわ。ただ、その男は生ある者ではないの。四…四つ辻…そこは生ある者と死者とが混じりあう場所。その場に彼を縛り付けるのは棘。後悔という棘。
 その男が何者で、そして死んだ後も嘆き続ける彼を現世に縛り付ける棘とは何であるかはまあ、おいおいわかるでしょう。
 そしてここにも同じように後悔という棘に縛り付けられる魂があるわ。それはこの私と同じ神である【慈悲】神格のさなの魂。
 これは男と女の物語。切なくも悲しい恋物語。この世に人が生まれ、その後多くの男と女の想いを引き裂いてきた身分という壁。この物語はそれにほんの少しの違いが生じただけのそんな魂の身分に苦しんだ女の恋物語。
 男が死という世界を隔てる線を越えて数百年。その恋物語は鎌倉時代より遥か時が流れた平成という時において動くわ。
 そう、私、時の巫女によって。
 そしてそれは真が『丼亭・花音』の新メニュー研究のためにネットダイビングしている時に偶然私の書き込みを見た事から始まるの。
「時を戻す? 本当に? だけどこれって眉唾ものよね」
 おどけた真は器用に片方の肩だけをすくめて、鼻を鳴らした。だけどその時、彼女の中でもう一つの心が声をあげるの。
『真。私、それを試したいですわ』
 そう、悲痛げな声をあげたのがさなだった。
 真は部屋の片隅に置かれている姿見を見る。そこに映っているのは真であって真ではないの。器を共有しているさな。鏡の中の彼女は蒼紫の瞳を潤ませていた。
「でも、さな。試したいって、これが真実だとは限らないのよ?」
『ええ。それはわかっていますわ。これは嘘の書き込みかもしれない。だけどそうじゃないかもしれない。これが本当の書き込みなら…それなら私は……あの人に会える。私がかつて臆病だったばかりに傷つけてしまった彼に……』
「さな。あなた・・・まだ」
 鏡の中にいるさなを見つめる真の顔に悲哀に満ちた表情が浮かんだ。だけどそれもほんの一瞬。彼女はふぅーっと、大きくため息を吐いて、前髪をふわりと浮かせるとにこりと鏡の中の彼女に微笑んだ。まるで母親か姉のような優しく穏やかな表情で。
「わかったわ。さな」
 そして彼女は瞼を閉じて・・・
 ・・・閉じた瞼を再び開いた時、その器の瞳は青から蒼紫に変わっていた。
 そう、そうして悲しい男と女の恋物語の歯車は回り、時の糸は巻き戻るの。

【真の語り】
 まず何から話そうかしらね?
 私にも過去…そう、あなたも知っている浮世絵師 木曽基信との心の結びつきや彼に抱かれた想い、そして私が彼に抱いた想いとかがある。
 私は彼の事を覚えているし、彼は私の大切な思い出。
 だけど私は神。古の神。古の真名すら忘れるほどに永き時を生きてきた私にとって基信はひどい言い方をしてしまえばほんの一瞬擦れ違っただけの影でしかない。この永き時の間に触れ合った人の数なんてのはもう数の概念を超えている。だからそれは致し方無い想いと言えば想いだと想うの・・・
 ・・・砕けた言い方をしてしまえば変に割り切ってしまったドライな人の見方や心の片付け方をしてしまっていたのね、私は。無意識のうちに心を守ろうとして。
 だからあの【時の巫女】という私たちと同じ神の書き込みを見て、声をあげたさなの純真な想いという奴をとても眩しく感じてしまった。
 そう、ずっと彼はあの娘の中にいたのね。だけどさなはそれを私にもしんにも見せずに独りその心の内に抱き続けてきた。それはものすごく悲しい事だと想う。彼女にとっても。そして彼にとっても。
 ええ、私は知っているから。彼女があの時をどれだけ大切にし、そして愛おしみながら生きていたかを。私たちにとってはほんの一瞬でしかないその時を。
 ・・・。
 そうね。それじゃあ、さなとあの娘が愛した彼についての事を話しましょうか。
 さなが愛した男の名は盛友。甲斐盛友(かい もりとも)。
 時は鎌倉。さなと盛友が出会ったのは3代目将軍源実朝が死に、源氏の血が途絶えた代わりに4代目将軍に九条頼経が着いた頃。
 この頃御家人たちの間では、実朝の死には執権となって幕府の実権を握った北条氏が関わっているという暗い噂が実しやかに囁かれていた。
 そしてその時分にさなが出会った盛友もそんな黒い噂に疑心を抱きながらも執権北条時政に仕えていた。それが本領安堵…ご恩と奉公…武士の役目であったから。
 しかし・・・
「ふん。自分を殺す相手の名ぐらい知りたいか?」
「いや、自分が斬る者の名を知りたいと思う」
「はん。この俺をか? 壇ノ浦の合戦で数多くの武勲を立てた俺を」
「壇ノ浦、か・・・」
「どうした?」
「義経様を家のために見捨てた俺の因果かと思ってな、これも。そう、そうかもしれん」
「戯言を」
 源氏と平家の合戦によって流された血に染まったかのような赤い満月の下で、彼らは刀を交えた。
 闇夜に響く澄んだ鋼のぶつかり合う音はしかし、誰かの泣き声に聞こえる。
「ぐぅわぁ」
 それはわずかな差で負けた刺客の者の声であった。
「はあはあはあ…」
 赤い満月の下で血の雨を降らせた盛友は、その血に身を半分染めて自分が斬り殺した相手を見下ろしていた。しかしその彼の顔に浮かぶのは勝者が浮かべるべき表情ではなかった。なぜならそれはどこか自分が生きている事を悲しむかのような表情であったから。
 彼の心に去来する想いとは一体何なのだろう? そしてそれが彼の死を招いた。
「正気かよ、盛友? おまえは殺合ってんだぜ」
 闇がざわめいた。その闇よりも昏く冷たい響きを持つ声に。それはどろりとした粘性を持っていて、聞く者の心に絡みつくようで。そしてそれは明らかにこの世の者ではない者の声。
 そしてその声の後に刃が肉を貫く不快で胸が悪くなるような音が響く。
「な・・・に?」
 大量の血塊と一緒に疑問に満ちた盛友の声が血泡に濡れた彼の口から零れた。そして彼は震える手を自分の左胸を刀で貫いた相手の顔に伸ばし、その顔に巻かれた布を剥ぎ取る。果たしてその顔を見て、盛友は死んだはずの相手の刀が自分の胸を貫いた瞬間よりも大きく見開いた。
「まさか、どうしておまえが・・・おま、えは死んだ・・・はず・・・」
 その死者はにんまりと微笑んだ。
「そうさ。弁慶様と共に果てたよ。義経様を生かすために。しかしその義経様も自害なされてしまった。だから俺はァ」
「俺は何よ、式神さん」
「な、にぃ」
 そいつは振り払うようにものすごい力で盛友ごと刀を振り回して彼を捨てると同時にこちらを振り返った。
 私は彼に薄く微笑む。
「女、だと? 貴様、巫女か?」
 ああ、なるほど。そう考えるか。確かに修行を積んだ巫女ならば彼の正体を見極められるだろう。彼は骨と墓土を媒介にして作られた異形なる式神だ。
「私は神、よ」
 そう言って私は大気凝縮・武器創造によって作り出した刀で、いとも簡単に彼を滅した。
「さて、と」
 そして私は髪を掻きあげながら、盛友を見下ろす。虫の息ではあるがどうやら生きてはいるようだ。
 たまたまの夜の散歩で通りかかった辻。四という数字は冥府に通じる数字とされて、四つ辻が交わる場所は四界…死界へと繋がるというが、そんな場所であんな者に殺されかかっていたこの彼とは?
「助けてやりましょうか。それに死を望む奴を素直に死なせるってのも好きじゃないしね」
 にんまりと笑った私に、何か物言いたげに隣にいた疾風が私を見上げたが、私はそれを無視して、彼を抱き起こすと、瞼を閉じてさなにチェンジした。
 そしてさなの能力で回復した彼はほどなくしてさなの腕の中で目を覚ました。
「そなたは? それにあの鬼は?」
 どこか虚ろな彼の目と声。血が足りないのだろう。
「私はさなと申します。しかし、鬼とは?」
 さなはわずかに小首を傾げて、彼に微笑んだ。
「鬼などはおりませんでしたよ。あなたは夢を見ていたのでしょう。悪い夢を。さあ、もう一度目をお閉じくださいませ。そうすれば悪い夢など忘れてしまいますから」
「その時にそなたはおられるか? そなたも俺が見ている夢ならば…ならば俺はこの夢より覚めたくない・・・」
「・・・はい。ならば私はあなた様が目をお覚ましになられるまであなたのお隣にいましょう」
 そして私の戯れとさなの優しさによってさなと盛友の生活が始まった。

【間奏】
「どうした?」
「私の式神が何者かによって滅ぼされました」
「盛友に返り討ちにされたと?」
「馬鹿な事をおっしゃいますな。私の式神がたかだかちょっと刀の腕がたつだけの男に滅せられてなるものですか。どうやら、これは思わぬ事柄が起きているようで」
 男はそう言うと、懐から鳥の形に切り取った白い紙を取り出した。そしてその紙に男が己の血を吸わせると、それは白い鳥となって、その場より消える。
 そして数刻。
 男は突然に苦痛に表情を歪めた後に、不敵に微笑んだ。
「これは面白いですな。野心の果てに孫を謀殺したあなた様はなんとも奇禍な運命を背負ってしまったようですぞ。これも因果応報ということですか」
「ふん。孫殺しがなんだ。私の心はまだ枯渇している。だからそんな私の枯渇した心が潤うまではどんな事でもしてみせるよ」
「ふん。断言しましょう。あなた様の心が潤う事はありませんよ」

【盛友の語り】
 俺は家のために生きてきた。
 この人のためならば命を捨ててもいいとあの壇ノ浦で想った義経様すらも家のために裏切った。
 そして此度の実朝様の件に関しても事態の核心に迫る何かに気づきかけているのだが、甲斐という家のために俺は北条に疑心を持ちながらもそれを握り潰そうとしている。そう、すべてが家のために。俺は血に縛られる。
 それはとても生き難く心苦しい生であった。世は無味乾燥。上っていく地位にも、懐に入る金すらもどうでもいい俺はしだいに自分の生にすら無頓着になっていった。
 そんな想いが俺に見せたのであろうか? あの、死んだはずの友が鬼となって俺の前に現れた悪夢は…。
 そしてそんな悪夢をあの日より俺は見続けている。きっとそれは俺が心より愛せる人に出会ったからだろう。あんなにも自分の生に無頓着だった俺が今は少しでも彼女と共に生きる事を望んでいる。それに抱くのは罪悪感と喜び。
「どうしましたか、盛友様?」
「いえ、なんでもありませんよ、さなさん。それよりも良い味噌汁の香りだ」
「はい。今夜はしじみの味噌汁を作りました。良いしじみが昼間に手に入りましたもので」
「そうですか」
 あの悪夢を見た日に冥府に続くと言われる四つ辻の交わる場所で倒れた俺を介抱してくれたのが彼女だった。最初は天女だと思った。もしくは夢の続きだと。だから俺は柄にも無い事を彼女に言った。だが、夢は覚めたら現実であった。
 あの日より彼女は俺の家で暮らしている。
 彼女の事はさなという名しかわからない。だが、俺はそれで構わないと思う。彼女が隣にいてくれれば俺はそれでいい。ただそれだけで俺は己の生を喜べたし、幸せであった。
「ずっと、今が続けばいいと思います、さなさん」
 俺は彼女にそう告げた。彼女は咲いた花のように顔を綻ばせてくれた。

 そう、ずっと、今が続けばいいのに・・・

 しかし・・・
「西国に赴く事になったので一緒に来て欲しい」
 そうさなさんに言った時、彼女は困ったように微笑んだ。その表情は少なからずも俺の心を痛ませた。あんなにも幸せな時間を共に過ごし…彼女も俺と同じ想いを抱いてくれていると思っていたからこそ、その表情はとても悲しく・・・
 ・・・そして俺は何かを言いたそうな……しかし、ただ口を2,3開閉させただけで何も言えずに目を伏せてしまった彼女から逃げ出した。
「待っているよ」
 俺は彼女が好きだと言ってくれた笑みを浮かべながら、そう言って、そしてそのまま家を出た。
 ただ俺は、彼女の声を聞きたくは無かった・・・。

【さなの語り】
「懐かしい風。懐かしい風の香り」
 私は戻ってきた。鎌倉時代と呼ばれた人の世に。
 私にはやらねばならぬ事がある。それは届けられなかった言葉を盛友様に告げること。ありがとう。さようなら、と。
 そう、あの日、私は盛友様が『待っているよ』と言ったにも関わらずに、その場所に行かなかった。それは怖かったから。そして悲しかったから。
 盛友様は心より私を愛してくれて、嬉しさを表現できぬぐらいにくれた。彼と過ごした時は永き時を生きる私にとってはほんの瞬きほどの時間なのにしかしそれはとても濃密な時で。
 だけど心の奥底より彼と一緒に生きる時をそう大切に愛おしく想いながらも、その想いには常に影のように不安と恐怖、悲しみがあった。そう、私は神で、彼は人。決して結ばれぬ運命。いつしかは死というどうしようもない人の運命が二人を分かつ。私はそれにどうしようもなく耐えられそうになかった。
 その想いこそが彼の心を私の心に届けさせなかった。そしてその私の弱さが彼の魂を未だに現世に縛り付けている。だから私は・・・
 東雲の微光。世界が日の光の下に活気づき始める。私はその早朝の空気を胸に吸い込んで、そしてまだ月が残る空を見上げる。
 この時代のこの空の下ではまだ盛友様は生きている。そう、死なせない。絶対に私は彼を死なせない。そして今度こそ私のすべてを彼に見せよう。そして彼に告げよう。さようなら、を。
 この角を曲がった先、そこで盛友様は野盗に殺された。だけど彼がその場を通る前に私がその野盗を倒せば・・・
 しかし、その時に私の耳朶に届いたのは鶏鳴ではなかった。
 それは人の断末魔の声だ。
 その声を聞いた私は焦った。なぜならその断末魔の声は盛友様の物で、そして確かにその悲鳴が聞こえてきたのは彼が殺された場所からであったのだから。
「そんな馬鹿な。まだ時間に余裕があるはずなのに」
 その時、時の巫女の声が聞こえた。
『なるほど。これが時の糸を巻き戻した影響か。あなたが知っている過去とは微妙なズレが生じてしまったようね』
 微妙なズレって? 一番重大な事柄でズレが生じてしまったらしょうがないじゃない!
 私は全力で走った。
 その私の鼻腔を向かう先から吹く風が運ぶ血の香りがくすぐる。そして果たして私が見た物は・・・
「そんな・・・そんな事って・・・そんな事って。いあやぁーーーーーーーーーーー」
 私は口を両手で覆って悲鳴をあげた。
 私が見た物は赤い血の水溜りに沈む変わり果てた盛友様だった。
 そしてその隣にいるのは周りに式神6体を控えさせた野盗であった。
(何が野盗だ。野盗の格好をしているがこいつは陰陽師だ。さな、俺に代われ。こいつ、相当に手強い。おまえじゃ無理だ)
 しんの切羽詰ったような声。彼がこんな声を出すのならばそれは本当に手強いのだろう。
(そうよ。さな。しんか私に代わりなさい。あなたには無理よ)
 真も言う。
 だけど私は顔を横に振った。
「嫌ぁ。こいつは私が倒します」
((さなぁ))
 強い声を出す真としんにしかし私は顔を横に振る。
「自暴自棄とかになってるんじゃありませんわ。でも、ただそう。こいつは私がやらなければいけないんですの。お願い。じゃなければ私は前に進めない」
(さな。おまえ・・・)
(やれやれ。あなたもいい加減に頑固よね。なら、私もしんも出ない。その代わり疾風は譲らないわよ。式神は彼に任せなさい。あなたはあの陰陽師を)
「ええ。ありがとう」
 私は頷く。そして真・しんの能力だけを借りて大気凝縮・武器創造。その手に握るは長刀。
「行きますわよ、疾風」
 襲い掛かってくる式神は疾風に任せる。私は風の力を借りてその勢いに任せて長刀を間合いに飛び込むと同時に横薙ぎに振るう。しかし、彼はそれを紙一重で後ろに飛んでかわすと、印を結んで、
「オン・ビラ・ケン・ソワカ」
 陰陽師より放たれる新たな蛇の式神。私は牙を剥いて襲い掛かってくるその蛇の式神に向かって長刀を放つ。風に包まれた長刀は見事にその蛇の式神を壁に縫い付けるが、
「はん。所詮は女。武器を手放すとはぁ」
 彼は腰に吊り下げた鞘から刀を鞘走ばらせる。貴族などが持つ飾り刀ではなく正真正銘の人斬り用の刀だ。その殺気は鬼神のごとく。
「神を己が身に降ろしている? だけどぉー!」
 大気凝縮・武器創造。
「な、に。刀が現れただぁ? この物の怪がぁー」
 突き出される刀。
 私は風の力を借りて跳躍し、そして、
「「「てりゃぁーーーーー」」」
 そしてその時、私は、真にしんの力を借りて、刀を振るった。その一刀は見事に陰陽師を斬り伏せたが、しかしそれで私が心に抱く悲しみは消えはしなかった。
「盛友様・・・」
 それは声にならぬ声。だけど、その声は・・・
「・・・・・・・・うぅ」
「盛友様ぁ!」
 私は刀を捨てて、盛友様に駆け寄ると、彼を抱き起こした。彼は虫の息だが、生きていた。いつかのあの時と一緒。本当にこの方はお強い。
 私は涙を流しながら、彼の唇に己の唇を重ね合わせた。
 私たちを照らす日の光。そしてその日の光に誘われるように彼は意識を取り戻した。ゆっくりと瞼を開く彼に私は囁く。
「大丈夫ですか? 盛友様」
「さなさん・・・俺は・・・」
 靄のかかる思考を探るように彼は虚ろな瞳をさ迷わせてからおもむろにその目の焦点を私にはっきりと合わせた。
「さなさん。そうだ、俺は。俺は・・・野盗に襲われて。いや、それ以前にも鬼に・・・」
 忘れ草で忘れさせた記憶を彼は取り戻していた。私はそれにわずかに目を見開くと、小さく息を吸って、そして混乱しながらも無意識にすべてを悟ってその答えを求めるべく私を見る彼に微笑んだ。
「さなさん。あなたはあの夜もおられた。初めて出会ったあの夜。友の顔を持つ鬼に殺される夢を見た夜も。あなたはその夢を見た後に目を覚ました俺にすべてが夢だと言った。だけど俺は思い出しました。すべてを。そう、あの鬼も、そして野盗もあなたが倒された。そもそも俺はあの晩に死んでいたはずだった。今回ですらも・・・。さなさん、あなたは一体・・・?」
 私は彼の頬に手を触れる。
「私は神。神ですの。私は人ではありませんの。ですからあなたとは行きませんの。ごめんなさい。だけど・・・だけど、私は・・・」

 私はあなたを愛しております

 私の瞳から零れ落ちた涙に濡れた彼の顔に浮かんだのは微笑み。私が大好きだった盛友様の表情。
「さなさん。俺は上手く笑えておりますか?」
 私は頷く。そして彼はその優しい笑みを深くする。
「ごめんなさいはやめてください。ただ、ありがとう、と。そう、ありがとうとおっしゃってください。それで俺はいいですから。俺はずっと昨夜から後悔しておりました。なぜに昨夜、何かを言いたげにしていた…とても悲しい表情をしていたあなたから逃げてしまったのか、と。そう、あなたはそんな秘密を胸に抱きずっと独り苦しんでおられたのですね。すみません。さなさん。あなたは俺に優しくしてくれ、そして俺にたくさんの力をくれたのに。俺はあなたの苦しみに気がついてあげられなかった」
「盛友様・・・」
「しかし、もういい。もういいのですよ、さなさん。俺はあなたが好きだ。心の奥底から。そしてそれはあなたが神だと知っても変わらない。だって俺が好きなのは明るく元気で、そして少し間の抜けた…そんなかわいらしいあなただから。だからさなさん。あなたはただありがとうと俺に伝えてください」
 私の頬を伝う涙をぬぐう彼の手に私は手を重ね合わせて、そして嗚咽をあげながら何度も何度も彼に頷いた。

『ずっと、今が続けばいいと思います、さなさん』

 別れは皆哀しい。けれどいつかまた会えるから、きっと。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1891/風祭・真(さな・しん)/女/987/『丼亭・花音』店長/古神

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。
連続でのご注文、本当にありがとうございます。^^(順番は逆になってしまいましたが。滝汗)

さてさて、さなさん、乙女パワー爆発です。
鎌倉時代とプレイングに書かれていたので、ならば鎌倉幕府を作り上げた源家の呪われた運命とか、北条氏の闇などを絡めてみようと、このような設定にしてみました。
ちなみにこの後、北条時政は息子との確執とかでごちゃごちゃと忙しくなって、盛友を気にしている余裕がなくなったので、盛友の所には以後、刺客は放たれていません。そして盛友は生涯独身であったそうです。

さなさん、永い間、抱き続けてきた想いに決着をつけられて良かったですね。
これは真と基信の話の時にも書きましたが、本当に『別れは皆哀しい。けれどいつかまた会えるから、きっと』という言葉が素敵で、切なくって。
今回もどうにかこの言葉とこの言葉に込められた想いという奴をどうにか一番上手く表現できるように書ける事を第一の目標として書きました。
上手くそれが表現できていたらいいと想います。^^

それでは本当にご依頼ありがとうございました。
またよろしければ、書かせてください。

失礼します。