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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


童話劇 〜気弱でひ弱な桃太郎〜

東京のとあるところに、とても不思議な物ばかりがあるお店があります。
「いらっしゃい。良く来てくれたね」
薄暗いアンティークショップの中で、ゆっくりと白い煙が細く天井に昇っています。
店の主、碧摩 蓮はとても負けん気の強そうな視線をこちらに向けて、煙管を吸いました。
「実はね、また変わっちまった本を見つけてね」
少し肩を竦めて蓮は後ろの本棚から古い紙の本を取り出しました。
表紙には達筆な文字で『桃太郎』と書かれています。
「どうやらまだまだ他にもありそうなんだが……まぁ、いい」
蓮の持つ曰くつきの物の一つ。不思議なカードは絵本や小説、童話など様々な本に作用して、その中のキャラクターを変えてしまうのです。
なんでも、本好きだった人の気持ちが固まってそうさせるのだとか・・・
でも、どのキャラクターがどう変化したのかは読んでみるまで判らないのだそうです。
「今度も変化したのは主人公らしい。ちょっと読んだが、まぁ気弱で臆病になっちまってねぇ」
桃太郎のお話は皆さん知っていると思います。
桃から生まれた男の子が大きくなり、人々を苦しめている悪い鬼を猿、犬、雉と共に倒すというお話。
ところが、変化した桃太郎は村一番の臆病者で泣き虫で情けないという、とても鬼に立ち向かうとかそう言う事は出来ません。
「そういう訳だから、今回もよろしく頼むよ」

−−−−−−−−−

あるところに桃太郎というとても臆病で弱虫で泣き虫で意気地がなくて体力もない、やる事なすこと裏目に出る駄目な青年がいました。
ある日、おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯へ。桃太郎はおばあさんに作ってもらったきび団子を持って畑仕事へ出かけました。
いつものように鍬を担ぎ、てくてくとあぜ道を歩いていた桃太郎は雉【イヴ・ソマリア】に呼び止められました。
「はぁ〜い、桃太郎さん♪」
「えっと……あの……どうも」
突然現われた、妙に明るいノリの雉に桃太郎はおどおどと取りあえず頭を下げました。
「えっと、一応貰っておこうかな」
「あの、何をですか?」
「きび団子☆」
固く小さなくちばしを付け、体中を覆う濃緑色の羽毛と赤や黄色の美しい模様の付いた翼を持った雉は桃太郎に手を差し出しました。
「あ、はい。いいですよ」
気の良い桃太郎は腰に下げた袋からきび団子をひとつ取り出すと、雉の羽に包まれた手の上に置きました。
そのきび団子を器用にくちばしで掬うように口に入れると、雉はにっこりと微笑みました。
「おいしい。きび団子っておいしいのね」
「はい。僕のおばあさんの作るきび団子は一番おいしいんです」
おいしいと言われて、まるで自分の事の様に嬉しそうな笑顔を浮かべる桃太郎。
その後頭部をいきなり誰かが殴りました。
「……まったく。何故この私がこんな格好をせねばならないのだ……」
「まぁ、いいじゃない。似合ってるわよ、ケーナズ♪」
殴られた後頭部を擦りながら、桃太郎は後ろを振り返りました。
雉にケーナズと言われたのは顔の部分以外茶色い毛並の不機嫌な猿【ケーナズ・ルクセンブルク】でした。
「……なんつーか、お遊戯会並だな。こりゃ」
猿の少し後ろからは犬【忌引・弔爾】が鬱陶しいのか、被っていた犬のきぐるみの頭の部分を後ろに外し倒し、頭を掻いています。
猿はとてもとても不満そうな顔で眼鏡を押し上げ、もう一度桃太郎の頭の上に拳を落としました。
「あいたっ。何するんですかぁ……」
「うるさい。さっさときび団子をよこせ」
気弱な桃太郎は猿のあまりの迫力にしぶしぶ、きび団子の袋を手渡しました。
猿はそれを取ると、桃太郎にきび団子を手渡しました。
「……なにしてんだ?」
訳が分からず手の上のきび団子と猿の顔を何度も見比べている桃太郎に代わって犬が尋ねると、猿はさも当然といった口調で言いました。
「私がきび団子を渡したのだ。これから、お前は私の家来(=ペット)だ」
「えぇ〜!?」
驚く桃太郎の後ろから雉は猿に言います。
「ちょっと、ケーナズ。桃太郎を家来にしてどうするの?」
「そんなの決まっている。こんなだらしのない奴の家来になどなるより、私がこいつを家来にする方が道理に適っているし、第一村で一番弱い奴が鬼退治など、そもそも間違っているのだ」
「ま、そらそうだな。でもなあ、一応俺たちの役はコイツの家来って事だし……」
(あの馬鹿刀もそう言ってたしな……にしても、本の中にはあいつはこれねーみたいだな)
犬はチラリといつも日本刀を持っているはずの左手を見ました。
この世界は気まぐれです。眼鏡は可でも腕時計は不可。
役のない意識体は本の中に入る事は出来ないのです。
「そうよ。でもまぁ、わたし達がサクっと鬼を退治して絵本から戻れば残るのは桃太郎だけだから手柄は桃太郎のものだけど」
「そうだろう?なら、桃太郎が私の家来だろうとペットだろうと関係ない事だ」
「ちょっと待ってください!」
今までぼけっと三人の会話を聞いていた桃太郎は慌てて口を挟みました。
「誰が鬼退治に行くんですか?」
犬、猿、雉は一瞬顔を見合わせて、それから口を揃えて言いました。
『桃太郎』
「…………」
数秒の間固まる桃太郎。
「ええぇぇえぇ!?」
大声を上げた桃太郎に雉は耳を押さえました。
「もう、桃太郎ってばうるさい」
「あ、す、すみません。……って、違いますよぉ!なんで僕が鬼退治だなんて……そんな、無理ですぅ!!」
「煩い。さっさと終わらせるぞ」
有無を言わさず、猿は桃太郎の首根っこを捕まえると長い尻尾を揺らして桃太郎を引き摺りながら歩き出しました。
犬は涙ながらに引きづられている桃太郎の後から歩きながら、可哀想にと桃太郎に言いました。
「……諦めろ。あの馬鹿刀がいないだけでもマシなんだからな。腹、括れよ」
「そんなぁ〜」
「さて、じゃあわたしは先に行ってるからね」
そう言うと、雉の姿はすっとその場から消えてしまいました。
雉には不思議な能力がいくつかあり、そのひとつのテレポートで鬼ヶ島へと先回りしたのです。
雉が降り立ったところは海の上にぽっかりと浮かんだ岩だけで出来た島。
広場のように半円状の平たい岩の上。
そこに鬼はいました。
「やっほ〜シュラインさん」
「あら、イヴちゃん。いらっしゃい……って言うのかしらね?」
苦笑し小さく首を傾げた鬼【シュライン・エマ】は虎皮のビキニに腰には同じく虎皮の短いパレオ。頭には日本の小さな角が見えています。
「何してるんですか?」
「あぁ。暇だったから掃除してたのよ」
そう微笑んだ鬼の手には流れ着いた竹と縄と島に生えていた硬い草で作ったお手製の箒が握られています。
「ところで、桃太郎と他の人たちは?」
「後から来るわ。わたしは一足先に来たの」
『親分〜』
と、岩陰の奥から妙に高い声がしました。
『こんなの見つけてきました〜』
現われたのはぎょろりと目が大きく、五歳児くらいの背丈でひょろりと細長い手足と赤黒い肌と小さな一本の角を持った子鬼とずんぐりとした丸い胴体に同じく丸太のような手足を持った子鬼でした。
子鬼達は雉の姿を見つけると、蝙蝠のような耳をひくつかせて大きな目を更に見開いています。
「親分じゃないって言ってるでしょ。で、何を見つけてきたの?」
『あい。これっす〜』
丸太のような子鬼が見せたのは手桶でした。
「……ねぇ。この子ってもしかして、鬼?」
「えぇ。そうなんだけど……」
『貴方様はどちら様でしょうか〜?』
細い子鬼は礼儀正しく雉に尋ねました。
「あ、わたしはイヴよ」
雉は面食らったように慌てながらも答えました。
『親分のお知り合いでっすか〜?』
「……えぇ、そうだけど」
『そうですか〜あ、失礼しました。今、お茶をお出ししますね〜』
ひょこひょこと跳ねる様な歩き方で自然に出来た岩穴の中に入って行く子鬼達を見送り、雉は鬼に詰め寄りました。
「何!?一体、何がどうなってるの?」
「それが……あの子たち、鬼の子分らしくて。鬼たちはこの島に流れ着くものを使って暮らしてたみたい」
鬼は遠くに見える海岸線を見ました。
と、小船が一艘近づいて来るのが見えます。
船に乗っていたのは桃太郎たちでした。
「あー着いた。以外に早かったな」
犬は寝そべっていた体を起すと、大きな伸びをしました。
「当たり前だ。ちんたらと移動などに時間をかけている場合ではない。で、鬼はどこだ?」
「ここよ」
辺りを見渡す猿に鬼は大きく手を振りました。
「ひぃ……こわいよ〜帰りたいよぉ」
船の底でうずくまり、ずっと泣きじゃくっている桃太郎の首を掴まえると猿は船から引き摺り下ろしました。
それでも、前を見ようとしない桃太郎に犬は呆れたように言いました。
「おい、前見ろよ。あれが怖いのか?……まぁ、怒らせたらおっかないが」
「何ですって?」
耳聡く犬の言葉に反応した鬼が睨みつけると、犬は首を竦めて黙り、桃太郎はおそるおそる目を上げ、そして顔を真っ赤にしてしまいました。
「桃太郎?どうしたの?」
雉が首を傾げていると、桃太郎は口をぱくぱくさせ何か言おうとしていましたが声が出ないようで、ようやくこう言いました。
「え……あ……あの、えっと、鬼…さん?」
「そうだけど、あなたが桃太郎さん?」
「は、はい!」
鬼に名前を呼ばれると今まで震えていたのはどこへやら、背筋を伸ばしている桃太郎に猿は眉を寄せました。
「なんだ、こいつは?おい、分かっているのか?相手は鬼なんだぞ」
「ですけどぉ……あんな綺麗な人ですし、それに……」
言い篭った桃太郎はチラチラと鬼の体に横目を走らせては恥しそうに顔を赤くしています。
「ははぁ……成る程な。この世界じゃあの格好はちょいと刺激が強すぎたか?」
「いや〜ん、桃太郎ってばカワイイ☆」
犬と雉がからかうと、更に桃太郎は顔を赤くし困惑したように俯きました。
「……まったく、だらしのないヤツだ」
呆れたように首を振る猿に鬼は苦笑しました。
そこへ子鬼たちが岩穴からやって来ました。
『親分〜またお客様ですか〜?』
『どうひましょ〜?人数分の湯のみがありまへん〜』
子鬼たちはそう言うと、困った困ったと言いながら鬼の周りを回り始めました。
「二人とも、分かったから。ありがとう、大丈夫よ」
『そうですか〜?』
鬼を見上げる子鬼たち。
その姿を見て、桃太郎は呟きました。
「かわいいですねぇ」
その言葉を逃す鬼ではありません。
「そう思う?なら、何故人々は鬼を退治しようとするのかしら?」
「え……それは……」
桃太郎はちらりと猿を見ましたが、何も言えませんでした。
代わりに犬がやる気無さそうに答えます。
「恐いからだろ。……まぁ、実際の鬼がこんなチビっこいやつだってのには拍子抜けしたがな」
「それに、鬼を倒せばお宝も手に入るじゃない?それに村の英雄になれるし」
「えっと、良くは知りませんが鬼は悪い者って聞きました」
二人の発言に勢いを得たのか、桃太郎も言いました。
子鬼たちは良く分かっていないようで、頭を揺らしなが飛跳ねました。
『親分わるいもの〜』
『わるいもの〜』
「こらっ」
鬼が一喝すると、二匹は身を縮こませて静かになりました。
小さく咳払いすると、猿が尋ねます。
「で、結局何が言いたいんだ?」
「鬼が悪いというのは単なる決め付けじゃないかしら?実際の鬼の悪事の証拠はある?彼らの事を良く知らずに退治しようとするのはどうかしら?」
鬼の言葉に桃太郎は頷きました。
「そうですよね……僕、何も知らないでただ恐い生き物だと思っていました」
「……っつー事はなんだ?一件落着ってやつか?」
犬はそう言うと、瞬きをしました。

−−−−−−−−−

「おかえり。……ま、平和的解決ってのもありだね」
蓮は皆にあるページが開かれた本を差し出した。
そこに書いてあったのは村に戻った桃太郎と、島に流れ着いたたくさんの宝を持った二匹の子鬼の姿と
“一人と二匹は仲良く幸せに暮らしましたとさ。めでたし めでたし”
と言うくくりの言葉。
「また、変化した本があったらよろしく頼むよ」
そう言うと、蓮は本を閉じてゆっくり煙管を吸い込んだ。

『桃太郎』了
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1548/イヴ・ソマリア/女/502歳/アイドル兼異世界調査員】
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男/25歳/製薬会社研究員(諜報員)】
【0845/忌引・弔爾/男/25歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、壬生ナギサです。
童話劇第二弾『桃太郎』をお届けしました。
如何でしたでしょうか?
何と言うか……もっと、桃太郎を苛めても良かったですねぇ。
最後は丸く大団円?
兎にも角にも、皆様に気に入って頂けたら幸いです。

では、またご縁がありましたらお会いしましょう。

<補足>
眼鏡が可で腕時計が不可なのは、時代背景を守ろうとする働きによるものです。
武器等も武器所持の役ならば持って行く事も可能ですが、それ以外は不可。
……普通の村人が銃なんか持っていたらおかしいですからね。
あと、役の人数以外の人間(生物&意識体)は入れませんので、あしからず。
説明が足りず、申し訳ありませんでした。