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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


図書館の会

 ■外でうろうろ■

「ちょ、ちょっとお願いが……あるんだけどぉ」
 響かすみは学園内の図書館の一つ、神聖都スタディーホールの前でそこ行く生徒達やら人々に声をかけていた。
 おろおろおたおたする姿は、何とも可愛らしく、どこか哀愁が漂う。
 そう、響かすみは心霊関係が大っ嫌いだった。
 資料を探しておれば、他の図書館には無く、この中にあると言われてしまったのだった。
 学園内でも一・ニを争う巨大図書館が心霊が関係しているとなれば、中に入るのさえも躊躇われる。
 せめて、せめて誰か付いて来てはくれはしないかと、藁をも掴むような思いで声を掛けた。

―― ここって『図書館の会』とか言うわけのわかんない霊たちがいるらしいのよぉ〜〜〜

 霊の存在など絶対に認めたくは無いが、居たら居たで自分はきっと失神しかねない。
 それで、次の日に気絶してるところを発見などされてしまったら……

―― 嫌ぁあああッ! それは絶対嫌よぉおおおッ!

 内心焦りながらも、生徒を勧誘しにかかっているのだが、当の生徒達といえば放課後の楽しみのためにかすみの横を通り過ぎていくだけ。
「ねぇ、お願いッ! ついて来てぇっ!!」
 思わず目の端を過ぎった人影の前に踊り出て、かすみは抱きついた。
「一緒に……図書館に行ってッ!」
 何とも情熱的で、色気の無いデートの誘いだった。
「「うわぁっ!」」
 不意に抱きつかれて、大小の人影が声を上げた。
 抱きついたかすみはぎゅうぎゅうと力を込める。
 その度に豊かなバストが二人の体にムニュッと押し付けられた。
「お願いよー……もう人がいないのよー」
 泣きそうな声に顔を上げた小さい方の影、不城・鋼は目を瞬かせた。
「…本当に何をやっているのか」
 鋼は先生の姿にボソリと呟いた。
「あら、不城くん」
「図書館に付き合えねぇ……変わらずだなカスミ先輩。幽霊出るのか……そこ?」
 雪ノ下・正風が可笑しそうに言うと、かすみは思わず顔を上げた。
「ゆ、雪ノ下くん!!! ……きゃぁあああっ!私ったらみっともない!」
 二人を放したかすみは両手で自分の頬を包んで、うろうろとしてしまう。
 バレていた。
 自分の全てがばれている。
 かすみは心霊の否定と我が身の保証を天秤にかけて、自問自答を繰り返す。
 おまけに自分の過去を知っている人物に出会ってしまって、かすみは大弱りだった。

―― 過去のあーんなことや、こーんなこと知ってる人に会っちゃったわよ〜〜〜

 眉をハの字に下げて、かすみは雪ノ下を見上げた。
 心情としては『嫌だ、もう帰りたい』とジャンケンに負けて鬼になった小学生のような気持ちだった。
 本当に、本当に帰りたかった…が、資料が無くては帰れない。
 二人の服の端を掴かみ、じーっとかすみは二人を見つめた。
「お願い……そこの図書館に言って欲しいんだけど……」
 おずおずとかすみは言った。
 心霊の存在など、己が全霊を賭けて否定すべきなのだがやはり恐怖の方が勝る。
 かすみは諦めて同行する事を頼むしかなかった。
「わたくしもご一緒してよろしいかしら?」
 遠くで見ていた榊船・亜真知が声を掛ける。
 学園内の巨大図書館という事で知識収集の食指は動き、転入以来ちょくちょくと足を運んでいた亜真知は、丁度、ここに来ていたのだった。
 この図書館の司書さんとはすっかり顔馴染みになってはいたものの、噂の『図書館の会』になぜか今のところ巡り会っていない。
 今日も図書館に通う途中で、かすみ先生の姿を見かけ、そのことを思い出した。
「榊船さん、本当!!」
 二人を振り解いて亜真知に縋りついた。
「困った方ですわねぇ」
 亜真知はやんわりと言いながら苦笑した。
「図書館の会のことでございましょう?先生が怖がっているのは……」
「こ、怖くなんか……い、居ないハズなんだから幽霊なんて……」
「んじゃ、俺たちは行かなくていいのか?」
 鋼が言う。
「お願い、デートしてあげるから来てぇ!!!」
「だが……俺も幽霊事は初めてだからな…出てきてもどうにも出来ないが」
「詐欺……」
 かすみはポツリと呟いた。
 鋼が何か言おうとした瞬間、後方から声が掛かる。
「何をしてらっしゃるのかしら?」
 そちらを向くと、黒髪が美しい女性が立っていた。
「あら、デルフェスさん……」
 そう言うと、かすみは恥ずかしそうに肩を竦めた。
 20歳そこそこの印象を受けるが物腰が優美でおしとやかな鹿沼・デルフェスは、某国の王女をモデルにしたミスリルゴーレムで外見と異なる年齢であった。
 …と言うよりは、製造年齢と言うべきかもしれないが。
 錬金の恩恵を受けた貴婦人はたおやかに微笑む。
 片や、亜真知の方は清楚で愛らしい日本の少女独特の美しさがある。
 かすみのほうは、成熟した女性の愛らしさがあるといえよう。
 それぞれの美を眺めながら、正風はこの状況を楽しんだ。
 実にいい眺めである。
「今日は何がありましたの?」
 デルフェスがかすみに訊ねる。
 怪奇探検クラブがアンティークショップ・レンに注文した美術品を搬入した後では、デルフェスにはもう用事は無かった。
 何か手伝うことは無いかとデルフェスは申し出る。
「実は……本を借りたいんだけど……」
 恥じらいながらかすみは説明を始めた。
 実はお目当ての本を借りるたいが、『図書館の会』と言う名の幽霊集団がこの図書館に居るらしい、自分はそこに一人で行くのが厭なのでついてきて欲しいとのことだった。
 心霊には免疫が無く、出来れば図書館の会という霊集団の『真相を探る事』が出来たら、今後の対応も出来るからそれも調べて欲しいとかすみは皆に言った。
「他に何か情報はありませんか?」
 デルフェスは訊ねた。
「うーん、『図書館の会』は綾瀬海里っていう司書と仲が良いらしいのよね。あとは、一定の場所に出るってことぐらいかしら?」
「少々、伺いますけれども。先生はどのような本をお探しですか?」
 ふと、疑問に思ったことを亜真知は聞いた。
「えっと……『秋の御菓子名店集』と『楽曲用語辞典英語版』と『OL御用達秘湯へゆく』と……」
「まともなの……一つしかないじゃないか」
 正風はじーっとかすみを見た。
「しょうがないじゃない!! 教師って仕事は疲れるのよ。休養も栄養も必要なの!!」
 プリプリしながら、かすみは文句を言う。
 一同は呆れた。
 しかし、一つはまともな本があるわけだし、探しに行かなくてはならないようだった。


 ■司書と図書館の会■

 図書館に入った一同は手近なところで司書を探し、本のある場所を教えてもらう事にした。怯えるかすみが気絶しないように、亜真知はこっそりと『図書館の会』の事や出没エリアを司書に内緒で訊いてみた。
 出来れば経路などを地図にして紙に書いて欲しいという鋼の意見を聞き、司書に頼んで簡易地図を描いてもらう。
 『楽曲用語辞典英語版』は地下一階。『秋の御菓子名店集』と『OL御用達秘湯へゆく』は一階にあった。
 図書館の端の方でこっそりと話し合う姿が奇妙だったのか、他校生らしき人物が話し掛けてくる。
「何をやってるんだ?」
 いかにも怪しい皆の行動を見咎めて彼が言う。
 一同は顔を見合わせた。
「探し物ですけどぉ……」
 かすみがおずおずと言った風に答えた。
「本当か?」
 怪しい皆の様子に眉を上げて詰問してくる。
 確かに、静かな図書館の受付カウンターでひそひそ話をする姿は本を借りに来ているようには見えない。
「なんだ……あんた」
 不機嫌気味に鋼は眉を上げた。
「俺は雨宮・戒」
「そのあんたが何の用だってーんだよ」
「不振極まりない人物を見れば声を掛けるのが普通だろう」
「あほか……俺たちは本を借りに来たんだ」
 鋼は戒の視線を見つめ返し、どこかで感じた事があるような気がしていた。
「だったらなんで、こそこそしている?」
 戒はじっと鋼たちを見た。
 美女二人に美少女一人、緑色頭の男と口の悪い美少女のような少年が司書と一緒にコソコソしていれば誰でも注目するのだろうが。
 それでも、その視線が気になって鋼は睨み返した。
 どこかで見たことがあると思ったら、嫌々ながら番長にさせられた自分を追い回していた警官に目つきが似ているのだ。
「実は……」
 奥で震えていたかすみは、こっそりと手を上げる。
「ん?」
 戒はかすみのほうに顔を向ける。
 かすみは今までの一連の流れを離して聞かせ、一方、戒は険しい表情は変わらぬままにかすみを見ていた。
「つまり、その司書を探す必要があると……ところで、その司書は何処にいるんだ?」
 戒は司書を見た。
「綾瀬さんですか? さっき、地下の方にいましたけれど。海月さんと一緒だったような……」
「とりあえずは本を探しながらでいいんじゃないか?」
 戒はそう提案した。
 一同も納得したか頷く。
 とりあえず一階にある本を取りに行く事にした。
 図書館の会が一定の場所に出るなら、そこにかすみ先生を連れて行かなければいい。
 しかし、出る場所にお目当ての本があるのがお約束なものである。
 それを考えると、デルフェスは困ったような顔をした。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 現時点でかすみのボディーガード、もとい、お守りを正風と鋼が引き受けていた。
 亜真知は楽しそうに本を物色しつつ歩いている。
 戒は歩きながら、かすみを説得していた。
 本当は自分の能力が自然と発動していて、かすみの強がりを増幅させていたのだが、十分に効果はあった。
 しかし、戒から離れると効き目は弱まるらしく、正風たちがいないとどうしようもないのが現状だった。
 そして、このような会話が繰り広げられていた。
「…霊に関しては悪い噂を聞かないから…害はないだろう。どうせ霊感ないから見えないし」
 …と、鋼が言えば。
「不城君、ひど〜い」
 かすみはクスクスと笑って言い返す。
 戒が隣にいると気が大きくなるのか、余裕の表情だ。
 心霊スポットにいると言うのに怖がりもしない。
「図書館と言えば先輩には勉強見てもらいましたね、ケンカした後の俺をぶっ飛ばして連行された事は未だに覚えてますー」
 こちらも暢気に応答しているが。
 意外に鋼の方は、真剣に考え込んでいた。

―― まあ…恐怖で気絶する前になにかしらショックを与えて冷静にさせればいいのだが……ショックか……かすみにキス…

 ふと、そこまで考えて、鋼は真っ赤になる。

―― は! 何を考えているのだ! 俺はあああ〜。それじゃ逆効果だろうがあ!

 真っ赤になっている鋼に気が大きくなっているかすみ。
 見ている皆はおもいっきり違和感を感じていた。
 しかし、戒が離れると途端に叫びだす。
「雨宮く〜〜〜〜〜〜ん、離れないでよぉ〜〜〜〜〜ッ!!!!」
「まあまあ、かすみ先輩。霊だろうとなんだろうと気法拳で、先輩は守りますよ♪」
 隣にいた正風は笑って言う。
「うぇええん!! 正風くーん!」
 こんな感じで、正風のジャケットにしがみついて泣く始末。
 一同はそんなやり取りを乾いた笑いを浮かべて見ていた。
 案内役を無理矢理押し付けられた司書は目を白黒させてかすみを見ていた。
 亜真知とデルフェスに限ってはニッコリと微笑んでいたが。

 かすみと戒を地下へ向かう階段に置いたまま、他のメンバーは地下の書庫へと向かった。
 グランド一個分はあるかもしれない、巨大な書庫は可動式の書棚と固定式の本棚で一杯だった。あまりの本の多さに、書庫に埋め尽くされているような気分にさえしてくる。
 亜真知はナビ用に分体をかすみの傍に残して誘導を任せ、本体の自分はコッソリと向かおうと思っていたが、戒がいるのでそうしなくて良さそうだった。
 亜真知とデルフェス、正風、鋼、司書の五人で目的の場所に向かう。
 綾瀬がいるという場所は書庫の奥、古い入力用の図書カードを保管している倉庫部屋だった。
 そっと、倉庫に近づけば、女の子と思しき高い声が聞こえてくる。

「私は思うんですよ! この場所が本拠地だと」
 その声はかなり興奮しているらしく、元気な声で主張している。
「いや……僕はここだと思うんですよー」
 のんびりとした声が穏やかに違う意見を述べていた。
「えー、綾瀬さんはそこを主張なされるんですか? では、あたくしの方が間違っているのかしら……どうしましょう」
「いえいえ……ですからねー☆」
「ボクは海月さんの意見に賛成です」
「えぇえええ! そ、そんな……ただ可能性が高いかなぁ〜って思うだけでして」
 倉庫の前で皆は立ち止まり、会話の一部始終を聞いていれば『本拠地』だの『主張』だのと訳のわからないことを言っている。
 死んだ歴代の司書あたりが本の話を死後もしているのが『図書館の会』の正体かと思っていれば、どうやらその考えも怪しくなってきそうだった。
 デルフェスが小首を傾げて考え込む。
「皆様、どうなさいます?」
 デルフェスの言葉に案内の司書は暗い表情となる。
 どうやら、即行逃げ出したいようだった。
「わ、私はこれで……」
 そう言う相手の表情にデルフェスは苦笑すると頷いた。
「ここまでの案内を本当にありがとうございます。お仕事が残ってらっしゃるでしょうから、お帰りくださいまし」
「あ…本当ですか……じゃ、お言葉に甘えて……」
 そう言うなり、司書は走って逃げていった。
「さて、どうしましょう」
「このまま会いに行ってもいいんじゃないか?」
 正風が言った。
 中の会話が気になるらしい。
 オカルト作家として活躍している正風にとって、ネタになりそうな事件は大歓迎だった。
 そっと近づいていって覗けば、おっとりした感じの青年がマグカップを持って木の椅子に座っている。辺りにはコーヒーの強い香りが漂っていた。
 背を向けて座っているのは、先程の元気な声の持ち主だろう。
「あれ?」
 不意に綾瀬という司書らしき人物が声を上げる。
「あらまあ……」
 少女も声を上げた。
 こちらに気がついたようだ。
 こっそりと覗いていた正風の派手な髪の色が見えてしまったのかもしれない。
 仕方なく、皆はぞろぞろと倉庫の中に入っていった。
「貴方が綾瀬・海里さんですか?」
 正風か訊ねる。
 吃驚したままの綾瀬は頷くだけだ。
 乱雑に置かれた本と図書カードの小山に埋もれるように、小さなテーブルと椅子が置かれていた。
 その椅子に綾瀬と少女、あとは半透明の人の形をした物が座っている。その半透明な物は幽霊だった。噂は本当だったらしい。
 霊の形も様々で、中学生の少年らしい霊から妙齢の女性の霊までいた。
 狭い倉庫に霊と人間が十数人分居ると一層狭く感じる。
「ぼ、僕が綾瀬ですが…。ど……どなたさまでしょうか?」
「図書館の会っちのがここにいるらしいって聞いてきたんだけどサ」
 鋼が口を挟んだ。
「あんたたちだろ?」
「そう……ですけど」
「ここにかすみ先生の探してる本があるって聞いて……」
 正風が言った。
「あ……どんな本ですか?」
「『楽曲用語辞典英語版』ってやつ」
「それなら、あたくしが借りておりますですよ」
 少女がニッコリと笑って言った。
「『図書館の会』にご興味いただけて光栄です……でも、辞典は只今使っておりますからお貸しできませんわー」
 きっぱりさっぱりと、少女は言った。
 悪びれすに言う相手の様子に亜真知はクスクスと笑う。
「正式に図書館からお借りしている物をすぐに貸してくださいとは言いませんわ。よかったらお近付きの印に簡易お茶会を設けて見たいと思うのですけれども」
 亜真知は提案してみた。
 霊たちのほうは賛成のようで、ざわざわと賑やかな声が上がった。
 綾瀬のほうも厭ではないらしく、戸惑いながら頷いている。
 少女の方も賛成のようで、お茶会の言葉に反応していた。
「では、ちょっとお待ちくださいましね?」
 そう言うと、亜真知は手のひらを上に向けた。
 ポンッと弾けるような音がして、手の上にトレーが現れる。それをテーブルの上に置いた。置いた瞬間にティーセットが現れ、色とりどりのケーキやキャンディー、スコーンにサンドイッチもトレーの上に現れた。
「うわぁ……うわぁ、うわぁ……♪ 魔法ですわ!! 見ました、綾瀬さん!? 本物の魔法ですわよーぅ、ファンタジーに傾倒して幾星霜。あたくし、涙が……」
 そう言ってジャケットの袖で涙を拭いた。
 本気で泣いているらしい。
 亜真知の場合は魔法ではないのだが、乙女の夢のために黙っている事にした。
 ともあれ、『図書館の会』からはかなり好意的な様子で受け止められる形になったのは好都合であった。


 ■会の野望は果てしなく…■

 和やかに始まったお茶会に綾瀬・海里はニコニコだった。
 茶色のふわふわの髪と眼鏡がいかにもおっとり司書といった感じである。
 その外見そのままに、綾瀬と言う人物はおっとりさんのようだった。
 話に夢中になって砂糖の数を間違えたり、スプーンを落としたりと、少々忙しない。
「ところで……この会の趣旨は何なんだ?」
 綾瀬に砂糖の数を入れ間違えられた紅茶のカップを持て余しながら鋼は言った。さすがに甘くて飲めない。
「あ〜〜……はい。本当は面白い本とかの情報交換をする会だったんですよ」
 えへらっと笑いながら綾瀬が言う。
 良くありがちな理由である。
 しかし、その後の言葉に皆は小首を傾げた。
「実はですね〜、悪魔が復活したんです」
「「「「は??」」」」
 異口同音の言葉を聞いても、綾瀬は微笑んで頷いた。
 少女の方も頷いている。
「あたくしたち、悪魔が復活するって言う内容の預言書を発見したんです」
「は、はあ……」
 どう考えてもトンデモ本としか思えない。
 いや、こうやって幽霊も出てきているし、嘘ではないかもしれなかった。真偽を確かめるのは後に回すとして、とりあえず話を聞いてみることにした。
「それで、こうやって会議していたのでしょうか?」
 デルフェスは訊ねる。
「はいっ! 復活した悪魔を倒すべく、日夜、昔の智慧を……と言っても魔法の文献研究ですけれどもね。調べておこうという研究会になったんです」
 そう言って、得意げにアイレスター・クロウリーの著書『ゴールデンドーン』を持ち上げて見せた。本にはこの図書館のラベルがついている。
 そんなものの蔵書まであることに、正風は目眩を感じた。
 学校教育には、はっきり言って必要が無いものである。
 高校生と思しき少女が悪魔打倒を掲げて魔法の文献研究に没頭する姿に、近い日本の未来を感じて、皆は乾いた笑いを浮かべた。
 そんな皆の事にも気が付かず、少女は亜真知の方を見てキラキラと瞳を輝かす。
「本当に魔法使いさんが現れるなんて…あぁ…夢のようです。是非とも、智慧をお借りして戦わねば……やはり、聖なる物が必要なのかしらね。教会に行って聖水を……」
「まあまあ……」
 綾瀬は少女の妄想を止めるべく声を掛けた。
 そんな会話を繰り返していたところに戒が顔を出す。
「まったく……いつまで時間がかかっているんだ……」
 お茶会中の皆を呆れた顔で見ていた。
 おまけにかすみも顔を出しす。
「本は……見つかったのかしらぁ?………ん???」
「ゲッ!!」
 鋼は思わず顔に似合わぬ蛙を踏み潰したような声を出した。
「あら……たくさん人が……」
 かすみは倉庫の中の幽霊達をじーっと見た。
「は、半透明? 半透明の人……幽霊???」
「し、しまったあ!!!」
 正風が叫ぶ。
「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!……う〜〜〜ん」
 かすみは絶叫して、その場にばったりと倒れかける。
 寸でのところで戒が支え、頭が難い地面に激突するのだけは避けた。
「まったく……」
 苦虫を踏み潰したような顔で戒は呟いた。
 仕方なく、かすみの家に連れて行くことに決める。本も貸し出し中であればここにいても仕方が無い。
 とりあえずは『図書館の会』存在の確認と目的がわかったことだし、ここにいる必要は無かった。時間を見れば、既に八時を過ぎていた。
 五人はさっさと帰ろうということで話をつけた。
 別れ際、五人は『かすみとデート』権を賭けてジャンケンをする。
 デートがご褒美と知らなかった戒は微妙な表情でジャンケンをしていた。
 ジャンケン合戦の熱い闘いの末、勝者となったのは、雨宮・戒だった。本人は予想していなかったらしく、またも複雑な顔をしていた。
 後日、デートをしている二人を見かけたものがいたが、なんとも意外なカップリングに、暫し巷では有名になったそうである。


 そして、かすみが全てを記憶の隅に追いやった頃。
 再び、恐怖が蘇ってきたという……

 それはある放課後のこと。

「あ……探してたんですよー、かすみ先生」
 他の図書館にいたかすみにばったり会った綾瀬は、安堵したように笑って声を掛けてくる。小走りに近づいてくる相手に何がしかの危険を感じ取り、かすみは眉を顰めた。
 何か厭な思いが駆け巡る。
 綾瀬が近づいてくると、思わず避けてしまいそうになった。
「……ヒッ……な、何が……」
 怯えるかすみに近づいて、綾瀬はのほほんとした口調で切り出した。
「実は……ちょっとした手違いで悪魔が呼び出されてしまいまして……手助けしていただきたいんですけど」
「わ、私は関係ないわ!!」
「そんなぁ……お願いですよー、魔法使いの人と一緒だったじゃないですかあ」
 悲しそうな目で綾瀬は訴える。
 首をブンブンと振って、かすみは後ずさりした。
「い……厭よぉおおお!!! あたしは普通の生活がしたいの!!!」
「お願いしますよー、かすみ先生」
「厭なんですってばぁ!!!!!」
 平凡で平和な日常が音を立てて崩れていく。
 かすみの前には悪魔狩りの試練が続いていくのだった。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1821/雨宮・戒/男/19歳/大学生(気が向けばネゴシエーター)

2181/鹿沼・デルフェス/463歳/アンティークショップの店員

1593/榊船・亜真知/女/999歳/超高位次元生命体:アマチ…神さま!?

2239/不城・鋼/男/17歳/元総番(現在普通の高校生)

0391/雪ノ下・正風/男/22歳/オカルト作家

(以上、五十音順 総勢5名)

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、朧月幻尉です。
 皆様、いかがお過ごしでしょうか?

 神聖都学園依頼の最初の事件は図書館でした。
 なんだか、かすみ先生は大変な事になりそうですね。
 ご愁傷様です。チーン☆
 …と言う事で、お楽しみいただけましたでしょうか?
 気にいっていただければ幸いです。
 ご希望・ご感想・苦情等、承っております。
 何かございましたらご連絡くださいませ。

 なお、ジャンケンはチョキ2名、パー2名、グー1名
 …と、モノの見事に分かれてしまいました。考えてみれば当然ですねえ。
 仕方がございませんので、ここは必然的にグーだった方に『デート権』が回りました。
 ご参加ありがとうございました!

              朧月幻尉 拝