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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


鏡の中の迷宮

オープニング

鏡の中に写った自分は、本当の自分だと思う?

―ドッペルゲンガー
自分と同じ姿、声を持つ人物をそう呼ぶ。
彼らは鏡の中から現れるとも言われているが
それが本当のことなのかは定かではない。

題名:鏡の中の迷宮
投稿者:レオナ
本文:夜中の零時ちょうどに鏡の中を覗き込むと鏡の中に引き込まれちゃうんだって!
それで鏡の中の自分と入れ替わっちゃうらしいの。

ゴーストネットに新しく書き込まれたのは、自分と同じ姿をもつドッペルゲンガーのことについてだった。
貴方は、その書き込みを見てふとした好奇心から鏡を覗き込んでしまい、
鏡の中に引き込まれてしまう。


視点⇒田中・緋玻


「…ホントだったのね…」
 昨日の夜に仕事の合間に見たゴーストネットの書き込みを思いだしながら緋玻が呟いた。緋玻が見た書き込みはドッペルゲンガーに関するものだった。夜中の零時ちょうどに鏡を覗き込むと鏡にうつっている自分自身に鏡の中に引き込まれるということ。緋玻はネット上のことなのでガセだろうと思いつつも実行したのだ。
 そして今に至る。
「…仕事は一段落してるから心配はないんだけど…ここから出られないものかしらね」
 ふぅ、と長い髪をかきあげながら回りを見渡す。見事に何もない部屋。たいして広いわけでもない、どちらかというと狭い方に分類されるだろう。鏡の中の世界というものがこういう場所だとは900年生きていて初めて知る事になった。それで一番焦らないといけないのは鏡の中の緋玻が外の世界に出てしまったという事。
「…壊せない場所じゃないわね…」
 緋玻は壁に手を触れて呟く。壊そうと思えばいつでも壊せる世界だ。
「…まぁ、『あたし』の行動も気になるし暫くは様子を見るかな」
 壊せない事はないが、無理に壊せば出られなくなる、という可能性もある。緋玻は『自分』を信じて暫くは放っておく事にした。
「向こうだってあたしと900年も付き合ってるわけだし滅多な事はしないでしょ。それよりもこんな機会なんて今後あるか分からないから歩いてみようかな」
 そう言って緋玻は鏡の中の世界を歩き回る事にした。
「何もないのね…」
 はぁ、と緋玻は溜め息をつきながら歩く。暫く歩いたところで大きなテレビのようなものを見つけた。
「…何かしら…」
 スイッチをONにすると、ヴント機械独特の音が響き映像が映り始めた。
「…あたし…?」
 そのテレビに映ったのは紛れもなく『緋玻』自身だった。鏡の中に引き込まれてからだいぶ時間が過ぎているのだろう。周りの景色などを見て、現在の位置はどこかの店屋のようだ。しかも店の雰囲気から見るにブランド店と見た。
「…あんなに買ってる…全財産使わないでしょうね…」
 別に使ってもいいのだけれど、ドッペルゲンガーの買っている服ははっきり言ってシュミではなかった。
「…なんであんなフリルばっかり買うの!?」
 画面の前に座り込んで緋玻は文句を言い始める。
「………頭痛くなってきた…」
 恐らく自分が戻れる頃には財布の中にお金というものが存在している事はないだろう。
「貯金…無事だといいけど…」
 人間の世界で生きるためには『お金』というものがどうしても必要不可欠だから。
「でも…楽しそうねー…」
 緋玻にとっては買い物など当たり前のことで、画面にうつるドッペルゲンガーのように楽しい顔で買い物をしたことなどあったかな?と考える。そして再度回りを見渡してみた。
「…こんな世界で生きてたんじゃ、たかが買い物でもはしゃぎたくなるわね」
 あたしだったらこんな世界は耐えられない、という考えも頭に浮かんだ。
「……退屈、だわね」
 こんな世界でたった一人で生きてきたのだろう。
「あれ…画面から消えた」
 ふと、画面に目を向けると今までいたはずのドッペルゲンガーの姿はなかった。
「…帰ってこないつもりだったのに、帰ってきちゃった」
 自分と同じ声が背後からして緋玻は座ったまま首だけを後ろに向けた。
「…ハジメマシテ、あたし」
 目の前にいるドッペルゲンガーは茶化すように手をあげて言った。
「どうも、初めまして」
 緋玻も立ち上がってドッペルゲンガーの目をまっすぐ見ながら挨拶を交わす。
「驚くくらい何もないでしょ?」
「そうね」
「あたしはずっとここにいたの」
「そう」
「一度でいいから外に出てみたかったの」
「そう、それで外はどうだった?」
 緋玻はそっけなく返事を交わしながら言う。するとドッペルゲンガーは、すぅ
と大きく深呼吸をして答えた。
「最高、楽しかった。あんなに楽しいものとは思わなかったわ」
「…そう」
 緋玻は満足そうに笑うドッペルゲンガーを見て、少しだけ笑った。馬鹿にするというような笑いではなく『良かったね』の意味で。
「なぜ帰ってきたの?楽しかったんでしょ?」
 そう、緋玻が疑問に思っていたこと。きっとドッペルゲンガーはこの世界に帰ってこないのだろうと緋玻は予想していた。だが、ドッペルゲンガーの行動は見事に緋玻の予想を裏切った結果となった。
「楽しかった、本当に夢みたいだった。900年間願って願って絶対に叶わない願いだと思っていたから」
 緋玻は満足そうに答えるドッペルゲンガーを腕を組みながら見ていた。
「夢は夢のままの方がいいのよ。貴方が無理やりにでも出てこようとしたら遠慮なく向こうの世界に入れたのに…。何もせずにずっと待ってる貴方を思ったら…あなたになりかわることなんてできないよ…」
 ヘヘ、と笑うドッペルゲンガーは本当に悲しそうだった。
「ありがとう」
 ドッペルゲンガーは握手を求めるように手を差し出してくる。
「握手、最初で最後のね」
 緋玻も手を差し出し、『自分』との最初で最後の握手を交わした。
「あそこの鏡を抜ければ元の場所に戻れるよ」
 ドッペルゲンガーは一つの鏡を指差して言う。
「…これからもよろしく」
 緋玻はそう言うと、振り返ることなく鏡を通り抜けた。


 鏡を抜けた場所は元いた自室。つけっぱなしのパソコンもある。
「…何だかよくわからない一日だったわね………ん?」
 寝室のところにあるタンスの引き出しが空いている。
「…あそこは…」
 通帳などを入れておいた引き出しだと思い出すとすぐさま引き出しに駆け寄る。
「…な、な、残高が…」
 通帳を見ると中には、言うのも恥ずかしいほどの残高しか残っていなかった。それから緋玻はしばらく鏡を見ることがなかったという……。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
2240/田中・緋玻/女/900歳/翻訳家
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■         ライター通信          ■
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田中・緋玻様>

初めまして、瀬皇緋澄です^^
今回は『鏡の中の迷宮』に発注をかけてくださいましてありがとうございます!
『鏡の中の迷宮』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです^^
では、またお会いできる事を祈りつつ失礼します^^ 

      -瀬皇緋澄