 |
天才美少女呪術師黒須宵子・一月早いクリスマスパーティーの巻
〜 最後の手段は前倒し 〜
自称「天才美少女呪術師」、黒須宵子（くろす・しょうこ）。
秋も深まり、冬の足音が聞こえてくる頃、彼女は決まって憂鬱になる。
「今年も、もうすぐクリスマス、かぁ」
実は、彼女は「クリスマスパーティー」というものに参加したことがないのだ。
といっても、別に誘われたことがないわけではない。
誘われたことは何度もあるのだが、彼女には、誘われても参加できないわけがあった。
十二月は、呪術師にとっては最大の書き入れ時である。
ただでさえクリスマス絡みの依頼が多いところに、「今年の恨み、今年のうちに」という大量の依頼が重なるため、十二月後半は毎年寝る間もないほど大忙しになるのだ。
十二月のことを「師走」と書くが、呪術師は走るどころか家から一歩も出られない日が続く。
当然、クリスマスパーティーなどに出席している暇はない。
心惹かれつつも、彼女がクリスマスパーティーのお誘いを全て断らなければならない理由はここにあった。
そして、今年もすでにいくつもの依頼が彼女のところに舞い込んでいる。
確固たるポリシーを持っている彼女ゆえに、引受ける仕事は半分にも満たないだろうが、今届いている分など、最終的に届くであろう依頼の十分の一もない。
（今年も、クリスマスシーズンは仕事かなぁ）
そう考えて、小さくため息をついたその時。
彼女は、ふとあることに思い至った。
その翌日、彼女はゴーストネットの掲示板に次のような書き込みをした。
〜〜〜〜〜
投稿者：黒須宵子
題名：クリスマス（？）パーティーのお誘い
皆さんお久しぶり、宵子です。
来る十一月三十日に、私の家でパーティーを開こうと思います。
クリスマスパーティーと言うにはさすがに少し早過ぎるとも思うのですが、
十二月は呪術師にとっては書き入れ時なので、パーティーどころではないのです。
それでも、どうしても一度参加してみたかったので、
まだあまり忙しくないこの時期に自分でパーティーを開いてみることにしました。
少し時期外れではありますが、参加して下さると言う方は私までメールでご連絡下さい。
お待ちしています☆
〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 ツリーとウサギとミスルトゥ 〜
（これで、よさそうですわね）
鹿沼・デルフェス（かぬま・でるふぇす）は、ツリーの飾り付けがちゃんとできていることをもう一度確認してから、料理の準備をしている二人を呼んだ。
「このような感じでいかがでしょうか？」
その言葉に、宵子と榊船亜真知（さかきぶね・あまち）がキッチンから顔を出す。
「わあ……」
「綺麗ですわね」
感激したような声をあげる宵子と、満足そうに微笑む亜真知。
そんな二人に、デルフェスはこう言った。
「すみませんが、お皿にミルクを入れて持ってきていただけますか？」
「ミルク、ですか？ いいですけど……」
少し釈然としない様子ながら、とりあえず言われた通りにミルクを入れたお皿を持ってくる宵子。
デルフェスはそれを受け取ると、そっとツリーの下に置いた。
すると、ツリーに飾られていたランプが淡く光りはじめ、ベルがひとりでにクリスマスソングを奏ではじめる。
「すごい！ どうなってるんですか？」
「このベルを演奏したり、ランプに魔法の灯りをつけているのは、妖精たちなんです。
宵子様がミルクを持ってきて下さったので、妖精たちが目を覚まして働きはじめたんですわ」
感動したようにツリーを見つめる宵子にそう説明しながら、デルフェスも改めてツリーの幻想的な美しさを楽しんだ。
シュライン・エマがやってきたのは、ちょうどその時だった。
「ひょっとしたらだいぶ変わったことになってるんじゃないかと心配してたんだけど、私の杞憂だったみたいね」
安心したように言うシュラインに、宵子は嬉しそうな笑みを浮かべて答える。
「亜真知さんや、デルフェスさんが手伝ってくれたおかげです」
そんな彼女に、シュラインは苦笑しながら部屋の隅を指差した。
「まぁ、あのウサギと卵は違うと思うけど」
その言葉通り、彼女の指したところには、ウサギの置物と、色とりどりの卵が入ったバスケットが置かれている。
「きっと、イースターとごっちゃになってしまったのでしょうね」
「えーと？ クリスマスがイエス・キリストの生まれた日で……？」
少し考え込む宵子。
「イースターは復活した日。日本語で復活祭って言うこともあるでしょ。
まあ、普通は人間が復活したりしないから、その辺りで混乱したのかもね」
そう教えながら、シュラインはふと上を見て、そこで少し不思議そうな顔をした。
つられて、デルフェスも目線を上に向けると、今まではあまり気づかなかったが、よく見ると天井から「リボンと宿り木の枝のついた飾り物」がいくつもぶら下がっているのが目に入った。
（そう言われれば、そんな風習もありましたわね）
デルフェスがそんなことを考えていると、宵子が突然こんなことを言い出した。
「この飾りの下にいる女の子には、キスしてもいいんですよね？」
「うーん……まぁ、いろんな説があるけど、とりあえず間違ってはいないわ」
シュラインが不思議そうな表情のままそう答えると、宵子は意味深な笑みを浮かべて亜真知の方に向き直った。
「だって、亜真知さん」
「ええっと……宵子さん？」
予想外の展開に、困惑した表情を浮かべる亜真知。
宵子はそんな亜真知をなおもしばらく見つめていたが、突然ぎゅっと亜真知に抱きついた。
「亜真知さん、今ちょっとドキッとしたでしょ？ かわいいっ！」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 魔法を、ほんのひとかけら 〜
パーティーも大分盛り上がってきた頃。
デルフェスは、一人の少年が魅入られたようにツリーを見上げているのに気がついた。
確か、遊佐勇（ゆさ・いさむ）と名乗っていた、中学生くらいの少年である。
「ツリーは気に入っていただけましたか？」
デルフェスが声をかけると、勇は嬉しそうな顔でうなずいた。
「ええ。
このベルの音色も、なんだか心が安らぐような感じがします。
それに、この優しい感じの光が、何とも言えず綺麗で……」
そして、最後に一言こうつけ加える。
「でも、デルフェスさんの方がもっと綺麗ですよ……なんて」
最後に照れが出てしまうところが、いかにも微妙な時期の少年らしい。
「まあ。お上手ですね」
「一度言ってみたかったんです。
……あ、デルフェスさんのことを綺麗だと感じたのは、本当のことですから」
二人がそんなことを話していると、ちょうどそこにやってきた藤井葛（ふじい・かずら）が、窓の外を見ながらぽつりと言った。
「これで、雪でも降ってれば言うことなしなんだけど、さすがにそれはムリだよなぁ」
「ホワイトクリスマスですね」
「ん、そうそう。
でも、この辺りじゃ本番のクリスマスでさえ雪なんかそうそう降らないんだし、ましてこの時期じゃね」
と、葛が苦笑いを浮かべたその時。
「こんな感じでどうですか？」
微笑みを浮かべながら、勇が外を指差した。
二人が窓の外に目をやると、いつの間にか、外は一面の雪に覆われている。
「雪！？」
驚いた様子で、窓際に駆け寄る葛。
彼女は急いで窓を開けると、狐につままれたような顔をした。
「……あれ？ 降ってない？」
その声に、デルフェスももう一度外を見てみるが、雪などひとかけらも見当たらない。
二人が顔を見合わせていると、勇の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「さすがに、この時期に雪を降らせることなんて出来ませんよ。
今のは、窓をスクリーンとして雪の映像を合成しただけです」
そう言われて、デルフェスはもう一度窓を閉めて、改めて窓越しに外を見てみた。
辺りの景色は、再び先ほど見えたのと同じ雪景色に戻っている。
「それならそうと先に言ってくれよ。本当にびっくりしたじゃないか」
ほっとしたのが半分、残念なのが半分といった様子の葛に、勇は少年らしい笑みを浮かべてこう答えた。
「先に種を明かしちゃ、面白くないじゃないですか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 酒はいつでも乱に終わる 〜
パーティーも始まってから大分時間が経つと、だんだん「自分と共通点のある人間は誰か」というのがわかってくるものである。
そして、今回のような少人数のパーティーでは、そういった「共通点を持つ人々」が、いつの間にかグループ化していることも少なくない。
本郷源（ほんごう・みなと）、真迫奏子（まさこ・そうこ）、そして金山武満（かねやま・たけみつ）の三人も、その例外ではなかった。
「ほら、あなたももっと飲みなさいよ」
武満の飲むペースが落ちていることに気づいて、奏子が彼を促す。
源もそれに便乗しつつ、そのついでに自分の杯にさらに酒を注いだ。
「そうじゃそうじゃ、もっと飲むのじゃ！
言われんでもわしはもっと飲むぞ」
その様子を見て、武満が呆れたような声を出す。
「いまさらな気もするけど……子供にお酒はどうかと思うな、俺は」
もちろん、源がそんな言葉に聞く耳を持つはずもない。
「無礼講じゃろう？ 気にするでない」
「そうそう。細かいことは気にしないの」
当の本人である源に一蹴され、さらに奏子にまで追い打ちをかけられて、武満は小さく一つため息をついた。
その様子を見ながら、奏子がふと思い出したように口を開く。
「それよりさぁ、さっきのアレもっかいやってよ」
「アレって？」
きょとんとした顔で答える武満。
どうやらとぼけているのではなく、本当になんのことか理解出来ないらしい。
そんな彼に、奏子は楽しそうに笑いながら言った。
「さっきやってたじゃない、ケーキに頭から突っ込むヤツ！」
奏子の言葉に、武満の顔に焦りの色が浮かぶ。
ということは、思い当たるフシがある、ということか。
「そんな面白いことをやっておったのか。
生憎わしは見逃してしまったから、ここでもう一回やって見せるのじゃ！」
源がそうけしかけると、武満はますますあわてた様子で首を横に振る。
「いや、そんなこと言われても……」
と、その時。
「やだやだやだ！ やってくんなきゃやだあっ！！」
突然、奏子がだだっ子のように暴れ出したのである。
（なんじゃ、奏子殿は酒乱の気があったのか）
そう冷静に分析しつつも、使えるものは使えとばかりにたたみかける源。
「ほれ、こう言っておることじゃし、一度あることは二度あるとも言うぞ？」
「な、ちょっ、そんな子供みたいにだだこねないで下さいよ」
なおも武満が拒否すると、再び奏子が豹変し、今度はいきなり怖い顔で武満に詰め寄った。
「……それじゃ何？ この私のいうことが聞けないっての？」
よく「泣く子と地頭には勝てない」と言うが、それ以上に酒乱の酔っぱらいに勝つのは難しい。
これには武満もすっかり参ってしまったらしく、とっさに辺りを見回すと、たまたま近くにいたデルフェスに助けを求めようとして席を立った。
「あ、デルフェスさん！ ちょっと……」
ちょっと助けて下さいよ、と彼が言い終わるより早く。
「こらぁ！ 逃げるなぁ〜！！」
奏子が、武満を捕まえようと手を伸ばした。
その手が届くか届かないかと言うところで、奏子はバランスを崩して椅子から転げ落ち、それと同時にようやく彼女の手が武満の足を掴む。
それによって、奏子が武満の足を強く引っ張ったような格好になり……その衝撃は、大分酒が回っていた武満の体勢を崩すには十分すぎた。
「うわわわわわっ！？」
急に後ろから足を引っ張られ、前のめりの体勢になる武満。
持ち前の運動神経のおかげで転倒だけは免れたが、そのままたたらを踏むようにして前方へと突っ込んでいく。
そして、そこには……ちょうどこちらを振り返ったデルフェスがいた。
彼女の目に、酔っぱらった武満が奇声を発しながら飛びかかってきたように見えたであろうことは想像に難くない。
「きゃあああああっ！」
次の瞬間、武満はおかしなポーズのまま石像と化し、床に転がった。
それと同時に、デルフェスの悲鳴を聞きつけた他の参加者が集まってくる。
さすがに、ここまでくると源も同情を禁じ得なかったが、とても「実は自分たちが原因で」などと言い出せる状況ではない。
それに、これ以上この場に留まっては、奏子が次なるターゲットとして自分を狙うことも十二分に考えられる。
（三十六計逃げるに如かず、なのじゃ！）
そう結論づけると、源は大きなハムスターの姿に変身し、追及の手が――あるいは、奏子の手が――伸びてくる前に、とっとと黒須邸を脱出したのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 その後 〜
……と、このような感じでいろいろあったものの。
パーティーは、全体としては比較的平穏無事に終わった。
シュラインの持参したブッシュ・ド・ノエルや、葛や亜真知のお手製のケーキなどを皆で食べ。
クリスマスソングを皆で一緒に歌い。
存分に、「一足早いクリスマス気分」を満喫することができた。
帰り際に宵子にもらったプレゼントの袋には、「魔よけに」と注釈のついた銀色のブレスレットと、アロマキャンドルとおぼしきろうそくが数本（ただし効果は不明）、そして「皆さんが楽しいクリスマスを過ごせますように」と書かれたクリスマスカードが入っていた。
なんとも微妙な品ではあるのだが、それがまた彼女らしいといえば彼女らしく思えて、デルフェスは軽く苦笑してしまったのであった。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1108 ／ 本郷・源 ／ 女性 ／ ６ ／ オーナー 兼 小学生
1312 ／ 藤井・葛 ／ 女性 ／ ２２ ／ 学生
1650 ／ 真迫・奏子 ／ 女性 ／ ２０ ／ 芸者
1593 ／ 榊船・亜真知 ／ 女性 ／ ９９９ ／ 超高位次元生命体：アマチ（神さま！？）
2181 ／ 鹿沼・デルフェス ／ 女性 ／ ４６３ ／ アンティークショップの店員
0086 ／ シュライン・エマ ／ 女性 ／ ２６ ／ 翻訳家＆幽霊作家＋時々草間興信所でバイト
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
撓場秀武です。
この度は私の依頼にご参加下さいまして誠にありがとうございました。
さて、「ライターより」にあった「頭上注意」ですが……本文をお読みいただければわかるとおり、ミスルトゥのことでした。
ああ書けばピンと来る方もいらっしゃるかと思ったのですが、どうやらどなたも気づいて下さらなかったようで、ちょっと不発気味です。
・このノベルの構成について
このノベルは全部で五つのパートで構成されております。
そのうちオープニング以外のパートについてはＰＣによって内容が異なっておりますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。
・個別通信（鹿沼・デルフェス様）
今回はご参加ありがとうございました。
デルフェスさんには、主にほのぼのとしたシーン（一部例外あり）で登場していただきましたが、いかがでしたでしょうか？
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
|
|
 |
