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■TWO COLORS■
「一也く〜ん、久しぶりー!」
「要、元気だったか!!」
委員長と恩師が俺を見つけるなり叫んだ。
同窓会の二次会ともなるとノリは最高潮になる。
俺は要・一也。
日本の中学に2年通った俺は、再び日本の土を踏む機会に恵まれて、今ここに居る。
本当のところは、交換留学生として日本に来ていたところ、運良く連絡だと退いたと言うわけだ。
みんなの事を見る限り、今夜は本音一色のようだった。
酒が入ってる所為かもしれない。
普段はやっぱり誰でもどこかに本音を隠して生きている。
俺は何となくだけどそれがわかった。
超能力者じゃないからな。全部はわからない。
ただ……言ってる事と思ってることにズレがあれば分かるってだけだ。
俺はさっきからアイツの視線を感じていた。
何か言いたい事がありそうだけど、多分言わないかもしれない。
そんな考えが俺の頭にはあった。
日本のクラスメイト達にこうして久しぶりに会う事が出来たのは本当に良かったと思う。
その中にかつて親友だった奴を発見し、俺は複雑な思いに駆られた。
さっきからこっちを見てるのに、アイツは何も言ってこない。
別れ方が最悪だった所為だと思うけどな。
今考えれば、アイツが俺に嘘をついたのがショックだったんだった。だから、それを必死に嘘だと認めさせようとした。
本心を聞きたかったなんて、今更だけど、俺が子供だったんだろう。
何故そんな嘘を付くのかなんてことにしがみ付いていたら、どんな関係だって壊れる。
実際、俺たちの関係は壊れた。ものの見事に。
親友同志なら、怒りとか相手への気持ちが特に団子状態になりやすい。
アイツは嘘を貫いた。
俺は心を閉した。
そう言えば、かっこはいい。
本当は俺が子供だっただけだ。
他人が何故笑顔で嘘をつくのか本心を隠すのか考えないようにして、嫌な可能性までもが肥大して怖くなっていった。
今考えれば分かるかもしれない事でも、どうしてだなんてあの時はわからなかったし。仕方なかったのかもしれない。
さっきからこっちを見ている様子だと、気持ちは変わってないのかもしれないしな。
そんなことを考えて見ていたら、アイツが視線を外した。
―― どうせ、またこっち見るだろうし……
そう思って、俺は幹事の宴会芸の方に集中した。
酔ってフラフラになった幹事がトイレに言った後、俺はアイツが見てるんじゃないかと思って振り返る。
それはかなり確信めいた思いだった。
だけど…
―― …う……見てなかった……
「…………むぅ…」
俺は唸った。
何か気に入らない。
アイツがこっちを見てなかったことに、何で怒らなくちゃいけないんだろう?
そんな感情を持て余したくなくて、俺はアイツの方へと歩いていった。
「……よっ!」
「……ん?」
顔を上げる。
その目ときたら、まるで死んだ魚みたいだ。
「どうしたんだよ」
「何でもないさ……元気だったか?」
そう言って、新しいジョッキを二つ頼もうとした。俺とアイツの分らしい。
胸の奥がチクッと痛んだ。
「元気に決まってるだろ」
「そうか……」
それだけ言うと視線を逸らした。
何でもないと言ったのは絶対にウソだ。
さっきの胸の痛みはなんだ? 嘘じゃないのなら、胸なんか痛まない。
俺はじっとコイツを見た。
コイツは俺を見ない。
「そんだけかよ」
「何が……」
「友達ね……」
奴は言った。
「何だよ……それ」
「あぁ? だって、あんな……」
「あんな? 何だよ」
俺は思わず呟いた。
「別れ方……」
ぽつっとコイツが言った。
零した言葉の重さに気がつくのに、俺は暫くかかった。
ホール係の店員が中ジョッキを持ってきて、コイツは手を上げた。
愛想良く店員がやってきて、それを置いていく。よいしょと呟いて体を起こすと、自分の方にジョッキを引き寄せた。
しんみりとした様子で話し始める。
「お前と馬鹿やるのが楽しかっただけなのにな……知らない間に」
「知らない間に?」
「好きになってた……」
そう言ってコイツはジョッキを煽った。
俺は言われた事の真の意味に気付くまで立ち尽くしていた。
―― 好き? LIKE? 好き? LOVE? え……ぇええええ????
俺はあんぐりと口をあけたまま見つめる。
こっちを見ないまま、飲みつづける。半分飲んだところでジョッキを置いた。
ふっとこっちを見た。
「…う……」
思わずうめくような声を俺は零してしまった。
―― め……目が、すわってやがる……
思わず俺は辺りを眼だけで見た。
ここで食い付かれるような身の危険を感じて、逃げ道を探してしまう。
だけど、コイツは何もせずに黙々と飲みつづけていた。
じーっとこっちを見据えたまま無言で飲み続けている。
大抵の事なら怖くも何とも無いし、逆に俺は戦う気満々になるだろう。しかし、その気を湧かせないほどに、奴の視線は俺をじっと見つめていた。
と言うか、ここまでくれば不気味なほどだった……
ジョッキの中身が無くなると、コイツはそこらへんにあったグラスの中身を飲み干していく。色からするとモスコミュールっぽい飲み物だ。
大して量もないから、そのうちに次のグラスに手を出すかもしれない。
半分ぐらい飲み干した後、ふと、視線がカンパリオレンジの方に向かう。
やはり、カンパリオレンジに手を出す気らしい。
「お前……飲みすぎだぞ」
二次会が始まって、丁度、一時間半が過ぎている。食べ物も入った胃袋に大量に酒が流し込まれれば、吐くのは時間の問題だ。
流石にやばいと思って俺は声を掛けた。
「うっせぇ……馬鹿」
ポツッと奴の口からそんな言葉が零れる。
思わず俺は顔を上げた。
相変わらず、食いつかんばかりの視線をこっちに投げかけたまま、酒に手を出そうとしている。
酒が無くて、手近かな所にあるいよかんジュースに手が伸びる。
「お前の所為だ」
「はァ?」
「俺はなぁ……ばいーんとでっけぇ乳が好きだったんだ!!!」
「へ?」
「顔はへちょでも、性格の可愛い、あの二つの膨らみがでっけぇ彼女を作って、楽しい二人だけの夜の時間に触らしてもらうのが夢だったのに……」
―― おいおい……(汗)
「なのに、お前の事しか考えられないし。秘蔵のGカップギャルのピンナップはただデカイだけに見えるし! 朝しか○○ねぇしッ!!!!!」
―― はァ!?
「みんな……みんな、お前の所為だ……」
奴はドンッ!!と、いよかんジュースのジョッキを置いて俺を睨んだ。
「どうしてくれよう……」
「しッ、知るかそんなことッ!!!」
「一也ァあああああ!!!」
奴が飛び掛ってきた。
避けたつもりが座布団に足をとられて俺はコケる。
立ち上がる隙を与える前に奴が圧し掛かってきた。
「一也ァああああああああああ!!!」
「酒臭ぇ!! 離せッ!」
奴のホールドを解こうとするが無理だった。
体勢が悪すぎる。
「……ぅ……うぇっ」
「吐くなあああああああああ!!!!!」
俺は瞬時に頭を引っ込めた。
引っ被る不幸はかろうじて避けて、奴を蹴り飛ばす。
すかさず逃げて難を逃れた。
遠くから同窓生の歓声に似た声が耳に届く。
「一也ァ〜、愛されてるじゃーん!」
「お前ら仲良かったからなあ」
「会った早々に、ゲ○ハグなんてお前ららしいよなァ〜」
そんな声の後に弾けるような爆笑か聞こえてくる。
「やかましい!!」
俺は怒鳴り返した。
それでも爆笑は止まらなかった。
■END■
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