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0.
肩が重い。
草間武彦はその日、そんな重い思いをしていた。
何か乗っているような気がするのだが、荷物を背負っている訳でも、前日に重労働をした覚えもない。
「なぁ、なんか嫌ーな予感がするんだけど・・」
傍にいた草間零に呟いてみると、意外な答えが返ってきた。
「はい。草間さん取り憑かれてるみたいです」
「・・はい?」
「女性でとてもお美しいのですが、声が出ないみたいで何をおっしゃりたいのかよく分かりません」
「・・・」
零にはどうやら本当にその霊が見えているらしい。
零が霊を見るか・・。笑えない冗談である。
とりあえず、その手の類は月刊アトラスの方が情報が集まりやすいだろう。
「・・・という訳で草間興信所所長が我がアトラス編集部を頼ってきたの。ネタになるかもしれないから何とかその女性の霊とコンタクトして欲しいの。お願いね?」
碇麗香はニコリと微笑むと有無を言わさぬその圧倒的な存在感でこの出来事の発端を報告したのであった。
1.
「草間が幽霊と二股かけてたってホント!?」
海原(うなばら)みあおは月刊アトラス編集部に入るなりそう言った。
「人聞きの悪いコトをでかい声で言うなよ、おい・・・」
草間が悪態をついて言うが、誰一人としてそれを聞いてはいない。
「つくづく普通にいられないですね。草間さんって・・」
柚品弧月(ゆしなこげつ)が同情的に呟くが、顔が微妙に笑っている。
「大丈夫、俺が何とかしてあげるからね?泣いちゃ駄目だよ?」
相澤蓮(あいざわれん)は草間に取り付いている女性へとフォローを入れた。
なんだかチグハグな行動を目の当たりにした矢塚朱羽(やつかしゅう)は溜息をついた。
「早く本題に入りませんか?」
矢塚のその声は虚しくアトラス編集部に響く。
「あなたたち、やる気ある?」
碇麗香はピキピキッとこめかみに青筋を立てつつドスの効いた声でそう言った。
「あります」「みあおもありまーす」「もちろんですとも」「美人が悩んでるわけですし」
口々に麗香の怒りを少しでも治めようと4人は返事をした。
「・・まぁ、いいわ。私は仕事をしなくちゃいけないの。後は任せるから」
「あ、彼女について何か情報集まりませんか?」
仕事に戻ろうとした麗香に相澤がそう聞いた。
「・・そうね。後で三下君に調べさせておくわ」
「お願いしまーす」
相澤はヒラヒラと手を振って麗香を見送った。
「で、どうしますか?」柚品が聞いた。
「俺、霊と会話できるので俺にやらせてもらえますか?」
そう名乗り出たのは矢塚であった。
2.
矢塚は草間と向き合った。
いや、実際には霊と向き合っているのだが。
「君が話す気があるのなら、俺に伝えてくれ。君は草間さんに取り憑き何をしたい?」
女性がパチパチと目を数回瞬かせる。
が、瞬間的に目を伏せて悲しそうな顔をした。
そして人差し指を口に持って行き、そのあとに指でバツの字を作った。
「・・零さんの言ってたみたいに本当に口が聞けないみたいですね」
柚品が困ったように言った。
矢塚も微妙に困ったように溜息をついた後、女性をじっと凝視した。
「・・なに?あいつ。彼女に惚れたのか?」
「やた!草間は遂に三角関係のモツレ!?」
相澤が何気なく言った言葉にみあおが猛烈に反応した。
「じゃあ三角関係に疲れた彼女を俺が優しく慰めて・・・」
「いやーん!もうみあお、ドキドキ!!」
「君たちは何の話をしてるんですか・・」
相澤とみあおの話がエスカレートしていくのを聞いて柚品がさりげなくツッコミを入れた。
みあおは相澤はノリのいい男だと思った。
「俺は彼女に惚れたから見てたわけじゃありません」
さりげなく冷たい視線を相澤とみあおにくれ、矢塚は溜息をついた。
「俺に出来ることをやっていただけです。彼女、死人じゃありませんよ」
「死人じゃない?ってことは・・・」
「まだ生きている・・ってことです」
3.
「ウイジャ盤を使ってみましょうか」
そう言って柚品はアトラス編集部員から怪しげな板を借りてきた。
「ウイジャ盤?」みあおが首をかしげた。
「そう・・まぁ、コックリさんみたいな物かな。厳密には違うんだけど」
柚品はそういって数種類の言語でなにやら書き足した。
「どの言葉に反応するかわからないからね」
どうやら、すべての言語で「はい・いいえ」と書いてあるらしい。
そして、柚品は草間に振り子を持たせるとその紙の上に制止させた。
「ではまず、あなたは草間さんと面識があるのですか?」
柚品がそう聞くと、振り子が日本語で書いてある「いいえ」の部分に大きく揺れた。
が、ふと見ると草間の後ろの女性もフルフルと横に顔を振っていた。
「・・・もしかして、意味ない?」
柚品が引きつった笑いを相澤、みあお、矢塚に向けると3人は静かに頷いていた。
「話せない人間なら筆談とかが手っ取り早いんだろうけどなぁ・・。物動かしたり出来ない?」
相澤が女性に話すとしばし考えるようなしぐさをして見せたが、フルフルと首を横に振った。
と。
「こんなこともあろうかと、みあお特製羽ペンっ!幽霊も持てて書ける便利なお買い得グッズっ!今ならお買い得の1980円っ!」
海原みあおは某猫のロボットのようにその羽ペンを頭上高く掲げてみせた。
4.
「そんないいもん持ってるなら早く出せよ!」
草間が鋭いツッコミを入れるまで相澤と柚品、矢塚は目が点になっていた。
ある者はその羽ペンの存在があまりにも唐突過ぎて理解できないでいたし、ある者はなぜ今頃になって出すのかと思う者もいた。
が、みあおにその弁解をさせていたらこう言っただろう。
「だって、皆楽しそうだったんだもん!みあお、邪魔しちゃいけないと思ったの」
誰も弁解を求めなかったのが果たしてよかったのかどうか・・・。
ともかく、みあおは女性にペンを持たせて筆談を始めた。
「まず、お名前教えてくれる?」
<杉野唯です>
「ふんふん。じゃあ、どうして草間の肩についてるの?」
<この方にお伝えしたいことがあるんです>
「俺に?」草間が驚いた。
「何か覚えは?」柚品が草間に尋ねた。
「いや、そんなもんは・・」
「隠すと身の為になりませんよ?」少々低めの声で矢塚は草間をじろっと睨んだ。
「だから、俺はそんな覚えは・・」
「どこでナンパしたかもわからないような行きずりの関係とか・・」相澤がにやけた笑いで草間に茶々を入れる。
「俺に覚えはなーい!!」
草間が遂に爆発した。
が、三人はよってたかって何とか草間から情報を得ようと頑張る。
「で、何を草間に伝えたいの?」
みあおが男どもを静観しつつニコニコと聞くと、女性はこう返した。
<私が落とした500円を返してください>
5.
「500円・・・」
聞いたみあおですら目が点になった。
少しの間、5人の間に冷たい風が吹いていたが、三下忠雄が「あ、あのー」と声をかけてきたことで正気に戻った。
「あの、この女性の身元が割れました。杉野唯さんと言いまして元々声が出ない方のようです。先日事故に遭われて意識不明の重体だそうで・・」
その三下の報告を聞いた女性はコクコクと頷いた。
「・・できれば詳しく事情を書いてもらえますか?」
矢塚は苦虫を潰したような顔でそう言った。
<私がいつものように歩いていたら、500円を落としたんです。
それをこの方が拾って取っていってしまって。私はそれを追いかけて事故に遭いました>
「草間ってばネコババしたんだ!?貧乏くさーい!」
みあおが思いっきり草間を非難すると草間は口をあけたまま、なにやら声にならない声を発している。
「つまり、草間さんから500円を取り返して杉野さんにお渡しすれば今回の事件は終了ということですね」
柚品が気の抜けたように溜息をついた。
「じゃあ記念にみあお特製霊羽付与済みカメラで記念写真行きまーす!はい、三下撮って撮って!」
みあおは三下にカメラを押し付け、無理矢理草間の周りに相澤、柚品、矢塚を集め記念写真を撮った。
「じゃあ俺立て替えて今から彼女の体のトコに届けに行くよ。体のところまで案内してくれる?」
相澤がニコリと笑って女性に微笑むと、女性は草間の肩から離れ相澤とともにアトラス編集部を後にした。
「さて、草間さん。横領した500円をきっちり出していただきましょう」
矢塚がそう凄むとみあおは後ろで「そうだそうだー!」と囃し立てた。
草間をいじめる絶好のチャンスだった。
「一件落着だね・・。三下君、お茶入れてもらっていいかい?」
柚品がそういうと三下は足早に給湯室へと消えていった。
さぁ、どうやって草間をいじめてやろうかな?
6.
月刊アトラス1月号
月刊アトラス編集部お祓い記 東京都 K氏のケース
K氏は2、3日前から肩に霊をつけて困っていた。
我々アトラス編集部が総力を結集し、K氏の霊とコンタクトを試みた。
だが、K氏に取り憑いていた霊は現世で声を出すことの出来ない人間だったようで我々は非常に困難な壁にぶち当たってしまった。
しかし、我々はその霊と話をする事に成功し、見事除霊する事に成功した。
そして我々は知ったのだ。
その霊がK氏の浅はかな500円ネコババから恨みを持ったのだとういうことを!
すぐにK氏には500円を返還させ事なきを得た。
霊は我々にお礼を言って去っていった。
みなさんもつまらないことで恨みを買うようなことはしないよう・・・。
編集者・三下忠雄
編集長メモ・もっといい書き方できないの?要書き直し
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2295 / 相澤・蓮 / 男 / 29 / しがないサラリーマン
1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生
2058 / 矢塚・朱羽 / 男 / 17 / 焔法師
1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生
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■ ライター通信 ■
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海原みあお様
初めまして、とーいです。
お姉さま方には大変お世話になっております。
この度は「Voice」へのご参加ありがとうございます。
当初、私が考えておりましたシナリオとしましては恋愛方向へと向かう予定だったのですが、皆様のプレイングを熟考の結果このような形となりました。
みあお様のプレイングは大変楽しくて良いですね。
書き甲斐がありました。全部使いたかったです。(力量不足です・・)
それでは、またお会いできる日を夢見て。
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