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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


公園



■ オープニング

 電光石火のスピードで通り過ぎていく影に翻弄されてしまうのは人間が”アレ”と比較すると鈍い生物だからである。
 "アレ"が人間に捕らえられるはずもない。身体能力、取り分け脚力に特化した俊敏な生物。爪は鋭く、敵を近寄らせることさえ不可能だ。
 
「普通は市で管理するものではないのか?」
 草間が不機嫌に言い放つと、市役所からやって来た、まだ若い男性役員は恐縮してしまった。
「ですが、さすがに手に負えませんで…。なにぶん、捕まえることが不可能に近いので」
 公園に謎の生物が住み着いて荒らしまわっているという男の説明を聞いて草間は呆れ返った。草間興信所としては受けるべき依頼ではない。彼のポリシーに関わるからだ(ハードボイルド思考なのだ)。
「困ってらっしゃるようですし…」
 零が促すが探偵『草間武彦』としては動物と追いかけっこをするのは不本意なのだ。想像するだに眩暈がする。
 こんな依頼が来てしまうのは、きっと猫に餌付けをしてしまったからに違いないと草間は婉曲的に表現してみる(変な依頼を引き受けてしまったのが発端という意味)。
「はあ…」
 一気に心が荒んでしまった。
「お願いできませんでしょうか?」
 頭を深々と下げられた。草間は目を逸らす。
 市内にある森林公園の敷地面積は日本でも有数の広さを誇っている。その謎の生物とやらを捕まえるのはそうとう大変であろう。
「まあ、仕方ないですねえ…」
 妥協。
「あの、その生物に関してですが、攻撃してくるとの話も聞いています。それから、昼間は出てこないので夜行性なのかもしれません」
「そうですか…」
 溜息と承諾。
 流されるままに調査の依頼を引き受ける草間であった。



■ 調査1

 公園は東京ドームがいくつかおさまってしまうほどの広さを誇っていた。普通の公園としての機能を超えた施設の数々。サイクリングコースやキャンプ場まで完備された日本有数の森林公園だ。
「まずは聞き込み調査をしましょう」
 海原・みなも(うなばら・みなも)は調査のために用意した様々な道具を抱えて歩き出した。聞き込みは調査の基本だ。公園へ頻繁に訪れる人間であれば、この謎の生物の出現の話は聞いたことがあるだろうし、もしかしたら目撃した人間がいる可能性だってある。
「…広いですから場所の特定が難しいかもしれませんね」
 神崎・美桜(かんざき・みお)が静かに呟いた。背中まで届く艶やかな黒い髪が風になびいていた。
 事前情報によると謎の生物は主に夜に出現するとのことである。夜行性の可能性が高いが、単に人前に姿を現さない生物であることも考えられた。
「すばしっこい生き物なんですよね? 僕、あまり足が速くないから正攻法では厳しいかもしれないな…」
 西ノ浜・奈杖(にしのはま・なづえ)が控えめにそう言う。
「絶対に捕まえる…」
 不気味に言い放ったのはG・ザニ−(じー・ざにー)だ。彼は周囲を警戒しながら歩いている。不自然な臭いを追っているのだ。
 四人は森林公園でもなるべく人の多い場所に絞って調査を行った。手当たり次第だったので情報もかなり疎らだった。昼間に目撃したという情報がまったくなかったことから、事件の詳細を知っている人間もかなり限られていた。
「ホームレスの方に話を伺ってみましょうか?」
「あ、それはいい考えですね」
 みなもの提案に美桜が賛同した。
 人通りの少ない場所へと移動すると、それらしい人間がぽつりぽつりと見られた。
「あの、すいませんけど…」
 奈杖が話し掛けると中年ホームレスは迷惑そうな顔をして踵を返した。
「普通にやってもダメですよ。これを使いましょう」
 自信ありげに言ってから、みなもが取り出したものは一升瓶だった。
「いやー、最初は猫かと思ったんだがねえ」
「そしたら、いきなり飛び掛ってくるんだからなあ。全然、姿は見えなかったが」
「一番、驚いてたのはお前だろうが」
「何だと!?」
「いや、お前の方だ! 腰を抜かして驚いていただろうがよ!」
 酒に誘われ集まったホームレスが喧嘩を始めてしまった。しかし、それをザニ−が何とか制止した。
 時間は掛かったが有益な情報を得ることが出来た。得られた情報によると、様々な場所で姿が確認されている謎の生物が最も出現しやすい場所は林が乱立している湿地帯。暗くて身を隠しやすいので、夜行性である可能性が高い、その生物にとっては適した場所なのかもしれない。
「結局、謎の生物というのは何なのでしょうね…」
 美桜が言った。
「…何かなあ」
 みなもが図鑑をめくりながら集めた情報から分析を行うが結局、特定は出来なかった。

―――午後八時。

 静まり返った公園内。
 僅かに動く影。
 一番最初に気づいたザニ−が後を追った。
「速い!」
 奈杖が叫んだ刹那に影は遠ざかっていく。三人はザニ−が追った方向とは別の進路をとる。ザニ−が先に回りこんで残りの三人で挟み込む作戦だ。
「………」
 ザニ−が気配を殺して影に迫る。いつの間にか狭い通路に追い込んでいた。
「作戦成功ですね」
 その時、ちょうどみなもたちがザニ−の正面からやってきた。
「せーの」
 美桜の掛け声と供にみなもが虫取り網を振り下ろす。だが、網は空を切るのみだった。
「え?」
 何人かが驚く。
「上だ」
 ザニ−が指差す。
 影は壁を利用して高く飛び上がっていた。
 退路は上。
 瞬発力を利用した飛翔。
「えい!!」
 奈杖が帽子を脱ぎ、それをブーメランみたいに放った。空中に逃げたはよかったが、そこは自由の利かない空間。重力のみが作用する世界。
 帽子は対象に命中。
「あ、当たった」
 そして、落下。

―――シュッ!!

 ザニ−が軽々と飛び上がり謎の生物をがっちりキャッチした。



■ 調査2

―――午後一時。

 もう一組の調査。
 今回の調査に参加した八名は二組に分かれて散策することとなっていた。森林公園は広いので八人で行動するのは非効率的だ。
「ん? あんた、そんなに興奮してどうかしたのか?」
 現場に集まって他のメンバーに挨拶を交わしていた五代・真(ごだい・まこと)はやけに息んでいた流伊・晶土(ルイ・ショウド)が気になって話しかけた。
「…公園で弁当を食べていたんだ」
 拳に力が入っていた。
「…公園とは…この公園のことですか?」
 ベンチに座っていた漁火・汀(いさりび・なぎさ)がゆったりとした口調で問いかけた。
「まさに、漁火さんが座っているベンチですよ。ああ、我輩の弁当が…」
 晶土が、がっくりと肩を落とした。
「もしかして、例の謎の生物とやらに奪われちまったのか?」
 真柴・尚道(ましば・なおみち)がそう言うと、晶土は頷いた。
「それは災難だったな。ところで、今回の作戦なんだが…」
 真が言いかけたところで晶土が前に出た。
「ここは一つ、餌で釣るというのはどうだろうか?」
 食べ物の恨みは怖い。晶土は奮起しているようだった。
「じゃあ、俺が用意したかすみ網を利用するというのは?」
 尚道が用意してきたかすみ網を取り出す。かすみ網とは野鳥を捕獲する際に用いられるもので、とても危険な道具だ。
「…かすみ網は、対象を傷つける恐れが…あるのでは?」
 汀が言うと尚道は重々承知のようでこう答えた。
「ある程度細工してあるから大丈夫だ」
「…なるほど」
 こうして、作戦の一つとして食べ物で釣って、罠にはめるというものが提案された。四人で議論した結果、出現頻度の高い場所に仕掛けることとなった。もちろん、そのためには情報が必要だ。
「では、俺たち自身も行動するとしようか」
 真が言うと他の三人も頷いた。
 昼間のうちに情報収集をしてそれらを整理してさらに作戦を練ることとなった。
 休日ということもあり一般の客は多く、ある程度の情報は得られたが、出現する場所は様々で一つに絞ることは難しかったが数箇所に限定することはできた。その中でも最も遠い場所に罠は仕掛けることとなった。
「この公園が完成したのは三十年前か…。だとすると、自縛霊の仕業じゃねえよな」
「最近の話だから可能性は低いだろうね」
 尚道の意見に真が同意する。
 謎の生物が出現するようになった理由とは何か。これは、その生物を探し出さなければ明確には分からないだろうし、ただの動物が相手だとしたら何も分からない場合も考えられる。

―――夜。

 謎の生物は夜に出現する場合が多い。よって、昼間はどこかに潜伏しているのだろうが、それを探すのは困難である。やはり活動時間である夜を狙った方が捕獲できる確率は若干上がる。
「…少し待っていてくださいね」
 汀が暗がりの中に佇み、静かに目を瞑る。風に言霊を乗せ、風そのものを操る能力を持つ彼の力で公園に潜む対象に探りを入れる。出現可能性の高い場所だけを調査していく。
「風が…」
 尚道が呟く。比較的、穏やかだった園内を涼しげな風が走った。
「ふう…」
 真がラッキーストライクに火を点けた。彼の好きなタバコだ。
 再度、風が走る。
 風を操り、詮索する。
 静と動。
 動くものの存在をキャッチする。
「…どうやら、あちらが怪しいようだ」
 汀が指差した方角は開けた場所だった。整備された芝生が広がっている。
「いきましょう」
 晶土が先に走り出した。
 芝生は夜露で少し濡れていた。
 全員が周囲の気配を窺う。
「いた!!」
 尚道が動く。相手のスピードはこちらを上回っている。だが、そこは人数でカバーだ。他の三人が黒い影の周りを囲む
 だが、皆、俊敏な足に翻弄される。
 そして、五分ほど鬼ごっこは続いた。
「今だ、抑えるんだ!!」
 真が念を込めて放った投網に、謎の生物が足を絡ませた。その隙に尚道が覆いかぶさる。
「やっと、捕まえたぜ…」
「…さすがに…疲れましたね」
 汀が息を切らしながら言った。晶土はその場に座り込む。
「誰か、ライトで照らしてくれ。正体を拝まないとな」
 尚道がそう言うと真がライトを照らした。



■ 謎の生物

「それでは、説明していただけますか?」
 みなもが代表して尋ねた。
 二手に別れて行った今回の調査。
 捕獲した生物は二匹(数え方が間違っているのかもしれないが)。
「そやけどなあ…」
 その正体は人語を操るウサギだった。しかも、関西弁を操っている。
「あなた、仕方ないでしょう?」
 ウサギは夫婦だと言う。妻の方は標準語を操るようだ。
「…私たちが捕まえた方が旦那さんの方ですか?」
 美桜が言うと旦那のうさぎは首を振った。
「人間は雄と雌の区別もでけへんのかい。お、なんや姉ちゃん、食べ物もっとるやないか」
 美桜が密かに持ってきた食べ物に目を光らせる旦那。ウサギに有るまじき史上初の奇行である。
「ふふ…うまそうだ」
 ザニ−が夫ウサギに近づく。
「く、くわれるう!!」」
 夫は弱腰だった。
「ふう…私が説明します。私たち夫婦は市内のとある山で三百年ほど生活しておりました。そして、気づいたらこのような存在になっていたのです」
「精霊に近い存在なのかもしれないな」
 真が言った。
「そうでなければ人語を操ったりできませんもんね」
 奈杖が頷きながら言う。すると、旦那うさぎが目を光らせた。普通のウサギの数倍は長いであろう爪も同時に光った。
「当然や。ワイらはただのウサギとちゃうねん」
 胸を張って言う。
「…どうして、ここへ来たのですか?」
 今度は汀が尋ねた。
「森林伐採です」
「最近は、住む場所探すのも大変やでー」
 旦那がいきり始めた。
 環境破壊は生態系に大きな影響を与える。都会には森林が少ない。ここのように人工的な公園でも彼らにとっては貴重な自然なのだろう。
「で、結局どうしましょうか?」
 晶土が全員に問いかける。
 うさぎ夫婦に悪気などない。生きるために必要だから人を襲うこともあったようだが(食べ物に関してだが)、全ては夫が妻を気遣ってのことだったらしい。人間の法で裁くのは不当だ。人語を操る精霊に近い存在だから話せば話すほど、相手に悪意がないことが分かっていった。
「俺たちで住める場所を斡旋すればいいだろう」
 尚道が当然のように言った。
「おお、兄ちゃん話が分かるやないか」
「でも、ご迷惑では?」
 妻ウサギは夫とは正反対にとても律儀な性格をしていた。
「問題ないだろ。よし、決まりだな」
 こうして、謎の生物、ウサギ夫妻の処置は決まった。
 日本には自然がたくさん残っている。だが、一歩、都会に足を踏み入れてしまうとそこは人工的な建造物が集中している。
 公園は人工的な森。
「まったく迷惑な話やで」
 夫ウサギはブツブツ言いながら公園を後にしたのであった。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1974/G・ザニ−/男/18/墓場をうろつくモノ・ゾンビ】
【1252/海原・みなも/女/13/中学生】
【0413/神崎・美桜/女/17/高校生】
【2284/西ノ浜・奈杖/男/18/高校生・旅人】
【1335/五代・真/男/20/便利屋】
【2279/流伊・晶土/男/35/小説家】
【1988/漁火・汀/男/285/画家、風使い、武芸者】
【2158/真柴・尚道/男/21/フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)】

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■         ライター通信          ■
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担当ライターの周防ツカサです。ご参加いただきありがとうございました。
ウサギは夜行性かと思っていたのですが、半夜行性もいるそうです(与太話)。
皆さんの謎の生物に対する解釈が様々で(こちらの情報提供不足もあって)多少難航してしまったのですが、楽しんでいただければ幸いでございます。
次回以降は本格的な戦闘物が増える予定です。
それでは、またお会いしましょう。失礼します。