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<東京怪談ノベル(シングル)>


凍る夜

1・
初めての依頼・・・。
12月に入り、クリスマスの楽しげな雰囲気が街中を満たす。
だが、僕はそれを横目で見ながら今からのことを考えた。
そう。僕・志木凍夜は今から人を殺す。


2・
近頃、深夜の街に現れるという『切り裂き魔』。
だが、ロンドンの街に徘徊していた様な可愛い殺人鬼じゃない。
被害者はみな人形が分解されたように綺麗に胴体を切り分けられている。
一目でわかった。
これは僕と同じ糸使いの仕業だと。
被害者の一様に苦痛に歪んだ写真を見た僕は、殺し屋としての最初の依頼にふさわしいものだと確信した。
僕は深夜の街へと繰り出した。
この街の中に、僕の殺す相手がいる。
そう思うと笑みがこぼれた。
今日は久しぶりに楽しめそうだ・・。
「お兄さん!私と遊ばない?」
ふと、僕は髪の長い女に声をかけられた。
「・・人を待ってるからどっか行ってくれないか」
突然思考を遮られ、僕はすこぶる不機嫌になった。
こんな時間にナンパする女にろくな女はいない。
それに女は1人いればいい。
「なによー!ずーっと待ってるみたいだったから声かけてあげたのにぃ」
女は眉間にしわを寄せ、プイッとそっぽを向いて立ち去ろうとした。
その動きで空気が動き、女の匂いが鼻腔をかすめた。
・・・血の匂い・・・。
ふわっと流れ落ちる髪の中に、きらりと髪とは明らかに違う異質な光を放つ物。
「ちょっと待て」
「なによ。今更遊んでくれなんて言っても遊んであげないわよ?」
「僕が待っていたのはおまえだ」
はぁ?っと顔全面に訳がわからないという文字が張り付いた女の顔に向かい、僕は言う。
「糸使いの切り裂き魔・・・」
女の顔からさっと血の気が引き先ほどまでのおちゃらけた表情は消えた。
そして女は駆け出した。雑踏の中へ・・・。


3・
僕は女の後を追った。
時折女は後ろを振り向く。
追い駆けっこの用意はしていなかったらしい。
ヒールつきのブーツがその足枷となり、人にぶつかっては僕との距離を縮める。
「ちっ」
女の舌打ちが聞こえ、髪を大きくかき上げる仕草をした。
反射的に僕は左によけた。
「きゃあああぁあぁあ!!!」
ものすごい悲鳴が聞こえ、振り向くとバラバラにされた死体にすがりつく人の姿。
周りにいた人間にまで血が飛び散り、辺りを赤く染めていた。
あの女、よほど焦ってきたな。
こんな街中で僕を殺すつもりらしい。
だがおまえに殺せるような人間じゃないんだ、この僕は。
おまえとの違い、今すぐに見せてやる・・。
逃げすがら女は何度か僕を殺すべく仕掛けてきた。
髪に仕込まれたピアノ線がいくつもキラキラと光っては僕に向かってきた。
僕はそれをすべてかわしていく。
その度に悲鳴が起こり、街が赤く染まっていった。
女は逃げられないとふんだのか、路地裏に逃げ込んだ。
その様子を見て、僕は結界を張る準備をした。
僕が女を追って路地裏に入ることは女も承知の上だろう。
そこで必ず攻撃を仕掛けてくるはずだ。
路地に足を踏み入れると同時に氷魔結界発動!
女の糸が、僕の手足に絡みつこうとうねる。
だが、僕には効かない。
糸は霧散し、傷1つ残らなかった。
「な・・!」
僕を殺したと確信していた女がその表情を驚愕の表情へと一変させた。
「もう・・逃げないのか?」
立ちすくんだままの女に、僕は一歩一歩足を進める。
女は微動だにせずにじっと僕を凝視していたが、突然奇声を発し飛び掛ってきた。
糸は、人体の急所と言われる場所をすべて的確に狙ってくる。
だが、結界内の俺には何をやっても無駄だ。
糸は凍りつき、霧散し、跡形もなくなる。
「あ・・あ・・・」
女は遂に座り込んだ。


4・
「ま・・待ってよ!あんた同じ糸使いでしょ!?何で私を殺そうとするのよ!」
女は必死で懇願する。
「おまえと一緒にするな。僕は自分の悦楽のために人を殺すんじゃない。仕事だから殺すんだ」
「一緒じゃない。人を殺すことのどこが違うって言うのよ!見逃してよ・・。目障りならあんたの前には絶対姿見せないようにするからさぁ」
女は命乞いをした。
あれだけの命を無差別に殺し僕を殺すために全く関係のない命を奪いながら、自分の命は助けて欲しいと・・・。
「・・く・・あははは・・・」
「な、なによ?何で笑って・・」
「おまえと一緒にするなといったのが聞こえなかったか?」
あまりの馬鹿馬鹿しさに僕は笑った。
だが、それ故に僕は怒りに震えていた。
「おまえの殺し方はあまりに汚い。死んでいった者たちすべてが苦痛を味わって死んでいった。だが、僕は違う。おまえとは力も何もかもが違うんだ」
僕は女に手の平をむけた。
「?」
女がきょとんとした。
「すべて凍れ」
糸は女に向け放出された。
糸が女に触れると同時にその部分を凍らせていく。
「あ!?」
女が声を上げたのはその一言だけ。
大量に放出された糸により、すべてが凍りついた。
そして、糸は女をバラバラに切り刻んだ。
「痛みを感じる暇なんてなかっただろう?おまえとは力が違う。一緒にするな」

結界を解くと、雪が降ってきていた。
初雪・・この雪であの女の発見は遅れるかもしれないな。
「まさか、『切り裂き魔』の最後の犠牲者が『切り裂き魔』本人だとは誰も思わないだろうな・・」
僕は笑った。
街が、雪に包まれていく。
明日の朝はきっとすべてが凍っているに違いない。
僕は再び雑踏へと足を踏み出した・・・。

    終