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<東京怪談ノベル(シングル)>


 帰路旅行

 今日もいい天気。梅田・メイカは空を見上げてそんなことを思案した。
 そんな彼女は、高校での本日一日の授業を終え、現在帰路についたところだ。本来なら天気を考える時間ではないような気もするが、この日は何となく、そう思ったのだ。
 メイカの家から学校は、そう近くもなければ遠くもない。登下校はもちろん徒歩。なかなか健康的であろう。
 耳にはシアターサウンドヘッドホン。高音質のそれは、最近買ったばかりの曲を楽しませてくれる。
「…〜♪」
 テクノ系の音楽が、彼女の耳に合っているのだろう。時折瞳を伏せ、胸中でリズムをとる。
(今日は……こちらを行きましょうか…)
 一度だけ立ち止まり、分かれた道をぐるりと見渡すと、そのうちの一つへ歩を進める。
 通学ルートは様々だ。
 近い道遠い道中程の道。閑静な住宅街を横切ることもあれば、ビル立ち並ぶ大通りを通ることもある。
 そんな中から選んだのは、緑豊かな並木通り。今日はのんびりとした気分で、帰りたいのだ。そよぐ風は心地よく流れて行き、気持ちがいい。
 何より、この通りにはメイカがいつも買っているいきつけのクレープショップがあった。
 メイカのお気に入りはバニラミントとチョコバナナ。
 カウンタのお姉さんと視線があえば、にこりと微笑まれる。
「今日和。クレープお願いしてもいいですか?」
「いらっしゃい。いつものやつね。ちょっと待ってて」
 流石にメニューも判っているようで。メイカの言葉を受けるなり、手際よくクレープを作っていくお姉さん。その手元を見ながら、メイカは相変わらず、音楽に耳を傾けリズムをとっていた。
 ヘッドホンからわずかに漏れるその音が、ほんの少しだけ、静かな店先を彩った。
「ハイ、お待たせ」
「ありがとうございます」
 クレープを受け取り代金を渡すと、メイカはぺこり礼をして、また道を行きだした。
 甘いクレープを一齧りし、満足げに笑みを零す。
「やはり、ここのお店のは格別です…♪」
 クレープを食べながら笑み携えて道行くメイカに、すれ違っては振り返る男性もちらほら。
 メイカの容姿は一言で言えば清楚。黒いブレザーに白い髪という、淡色系の中に浮かぶ、淡い瑠璃色の輝き。それを携えた瞳は、はっきりとした意思を宿し、より美しく魅せる。
 女性としては少し高めでかつ、すらりとした体は、モデルとして働いても映えるのではないか。
 そんな女性が微笑浮かべて佇んでいれば、思わず見つめたくもなるというものだ。
 当のメイカは、そんなことこれっぽっちも意識していないようではあるが。
 クレープを食べ終えると、鞄に両手をかけ、のんびりと歩いていったのであった。

 この日選んだメイカの帰路には、色々なものがあった。
 例えば、フラワーショップ。いつも軽く覗き込んでいるその店先には、今日は蘭の花があった。
 柔らかい花弁が、そよぐ風に吹かれて泳ぐような揺らめきを見せながら、鮮やかに咲いている。花の女王と歌われるだけあって、ぱっと見たその瞬間にさえ、ほぅ、と眺めてしまった。
 家に飾れば、さぞかし華やかなことだろう。
「今度、買えるといいですね…」
 飾った様子をちょっとだけ思案して、にこりと微笑むと。店内に所狭しと咲き誇る花々をぐるり眺めてから、再び歩を進めた。
 更に例えば、ペットショップ。ウィンドウから覗けば、犬やら猫やらウサギやら、可愛らしい動物達が鳴き声をあげながら、並んでいた。
 ケージの中をくるくると回る犬や、檻にかじりついているハムスター。何か考え事でもしているのか、ぼんやりと佇むフェレットなど、動物達の無垢な姿は、愛らしかった。
 そんな中で、メイカの気を惹いたのは、小さな猫。
 生まれてまだ間もないのか、ころりと身を横たえては、甘えるようにころころ転がっていた。その様子はとても、可愛らしい。
 やがて、子猫は覗くメイカに気がついたのか、傾げたような首を持ち上げ、目を一生懸命開いて、見つめてくる。
 軽く微笑み手を振ると、メイカはそんな子猫に別れを告げ、店の前を後にした。
「綺麗な花に子猫…今日は少しラッキーですね」
 何てことを呟きながら。町の喧騒からわずかに離れた郊外の、静けさと緑を残したその道を行った。
 頬を撫でて髪をすくい、そよそよと流れていく風は、やはり気持ちがいい。
 歩き慣れ、ともすればつまらないものにさえなる道も、今日は上々の気分で、行くことが出来た。

 閑静な町を行き、メイカが入ったのは、際立ちはしないものの、それなりに広い敷地を持つ家。
 今日通ってきた並木道のように、沢山の木が植えられている庭。広さで言えば、わりかし大きめ155坪といったところだろう。
 そんな庭を過ぎ、手をかけた扉は、3階建てでそこそこいい作りをした、メイカの自宅、その玄関だ。
 扉を開けて中に入る前に、メイカは一度だけ、振り返った。
「今日は、とても楽しかったですね…」
 帰路を思い起こし、満足げに微笑むと。扉を閉めて、下校を終了したのであった。

 帰り道も一つの旅行。
 本日の満足度は、勿論大きな二重丸……。