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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ホワイト・フラワーを取り戻せ!

■Opening:Letterfrom...?

「拝啓、お日柄も宜しく…この度は誠に失礼ながら…ってなんだよこの滅茶苦茶な文章の手紙は…」
今日届いたばかりの手紙を開封して目を通しながら、草間は思わず呟く。
支離滅裂というか文法や手紙の書き方をまったく無視しているとしか思えないその手紙は、
もしかしたら暗号かもしれないという疑念を思い浮かばせた。
しかし…どうも暗号があるような雰囲気でもなく、ただ文章が下手な人が書いた手紙のようだった。
「なるほど…ね」
「なにがナルホドなんですか?」
草間の呟きに、零が首を傾げながら問い掛けてくる。
「依頼だ。しかも遠方からの、な」
「へえ…」
「しかし問題はこの近辺らしい」
草間は手紙を開いたまま、電話に手を延ばした。
コール音が一回、二回、三回、四回…
「電話には三回以内に出ろって教わらなかったのかよ…」
イライラしつつ言う草間を見ながら、零はくすっと微笑んだ。
電話のコール音が三十回目に差しかかろうかという時…不意に電話が繋がった。
「仕事が欲しくないと見えるな…お前?」
電話を待たされたお返しにと少々皮肉をこめて言う草間。
相手は少し慌てた様子だった。
「依頼だ。あいにくこっちは別の依頼を抱えてるもんでね…」
「あら?何かありましたっけ?」
思わず素直に言ってしまった零を、草間は軽く睨みつけた。
「仕事はこの東京の某所にて行われている取り引きを阻止してブツを取り返して欲しいとの事だ。
取り引きされているのは”ホワイト・フラワー”…推測だが、おそらく”薬”だろうと思う…
詳しくは来てから話そう…すぐ来られるな?」



草間からの電話を受けたシュライン・エマは、
ちょうどシャワー中だった為に濡れた髪を乾かしながら仕事着に着替えて支度を整えるとすぐに家を出た。
どんな仕事内容なのか電話だけではよくわからないのだが、
基本的に危ない…いわゆるヤバイ仕事をまわして来るとは考えられない。
電話の話だけで単純に考えれば”麻薬”。その取引きを阻止すると言う事は…
…と、色々と考えながら草間の事務所に行くと、
電話では他の依頼があると言っていた張本人が呑気に新聞を読みながら零の入れたコーヒーをすすっていた。
「お忙しいんじゃなかったかしら?」
「情報収集作業だよ」
新聞を折り畳みながら言う草間に、零がおかしそうに笑みをもらす。
「それで…詳しい事を聞きたいんだけど…?」
「依頼主は地方の大手商店の主人。本人の希望により名前は伏せる…
取引が行われているのは”池袋”のカフェ”HANAMARU”だ…知ってるか?」
草間に問われ、シュラインは「いいえ」と首を左右に振る。
それを見た零が徐に地図…と言うか観光マップを取り出して、「ここです」と指し示した。
写真付きで案内まで載っている人気のカフェらしい。
「取引きされているのは”ホワイト・フラワー”」
「それって別名”麻薬”って言わない?危ない仕事じゃないでしょうね?」
「ま、行けばわかるさ。他にも数名声をかけてる…仕事の決行日は今週末の日曜だ。その時に顔合わせになるかな」
日曜日というと、あと3日ほど時間に余裕がある。
シュラインはそれまでにある程度、取引き場所の下調べが出来るだろうと予定を組み立てる。
「その他詳細は合流した時に”指揮者”に聞いてくれ」
「了解しました。それじゃ、お仕事頑張って下さいね。”お忙しい”武彦さん?」
シュラインはそう微笑んで零から資料を預かり、興信所を後にする。
「まいったな…」
草間はシュラインの言葉に苦笑いを浮かべつつ、まんざらでも無さげな表情だった。


■Mission:Cafe"HANAMARU"

集合予定の時刻が近付き、シュラインは指定の集合場所に到着する。
そこには草間から仕事依頼を受けた者達がすでに揃っていた。
セレスティ・カーニンガム、伍宮 春華、大黒屋平太の面々。
シュライン自身、初顔合わせの相手もいれば中には見知った顔もありそれぞれに簡単に挨拶を済ませた。
「ところで…今回のコンダクターさんは…?」
「私ですよ」
シュラインの言葉にそう言って微笑んだのは…見知った顔…セレスティだった。
「取引き時刻は午後三時。カフェの最奥のボックス席で行われます。
対象の人物は20代前半の男性と、50代半ばの男性の二人です」
セレスティは人物の外見的な特徴を説明し、取り引きに使われるものと同じ鞄を取り出して見せた。
それは某社製のどこにでも売っているようなスポーツバッグ。
中には零お手製の新聞紙札束を詰め込んでいるらしく、重い。
「その鞄なら対象物は胡蝶蘭や裏で品種改良された花かもと思ってたけど違うようね」
「こちょうらん…って?なんで花をわざわざ隠れて取引きするんだ?」
「春華さんはご存知ありませんか?胡蝶蘭はとても高級な花なんですよ」
「へー…セレスティって物知りだなー」
春華の感心したような言葉に、セレスティは微笑んで頭を下げた。
「えーっと…話を戻していいかしら?」
シュラインの咳払いに全員がそちらを向き、そしてこれからの手筈を打ち合わせる。
カフェの雰囲気に自然に溶け込めそうなシュラインは取引きの証拠を掴む為にボックス席の近くに陣取る事に。
そして春華と平太はカフェを出た後に受取人と接触し、鞄を掏りかえる。
その後、別の離れた場所で待機しているセレスティが鞄を草間興信所まで運ぶという計画だ。
今回は皆それぞれ極力”特殊能力”を使わない方向で仕事を遂行すると言う事で最後に話はまとまった。
「それでは一時間後に中央公園で会いましょう」
セレスティの言葉と共に、それぞれ持ち場に散って行った。

三時。
カフェ内の奥のボックス席には、話通りの風貌の二人組が座っていた。
若い男性の方がスポーツバッグを大事そうに抱えたまま中年男性と向かい合っている。
その席から一つあけた隣の席で、シュラインは二人の様子を窺っていた。
『…”ホワイト・フラワー”は持ってきたか?約束通りの量はあるんだろうな?
もし無かったら二度と誰とも取り引き出来なくなるぞ?』
『大丈夫や。とりあえず5キロや…重かったで』
どうやら若い男性は関西方面の人物らしく、方言が混じっている。
それよりも5キロと言う言葉にシュラインは一瞬我が耳を疑う。
もし本当に”ホワイト・フラワー”が薬だったとしたら…5キロもあればかなりの額になる。
『金は?』
『ブツそのものの金額に…運び賃を上乗せして…これで』
中年男性が手で示す金額に満足したのか、若い男性は小さく笑みをもらした。
ちょうどその時、ウェイトレスがコーヒーを運んでくる。
二人はその間オドオドとする様子もなく平然とした顔で対応していた。
『アンタも悪いやっちゃな…』
コーヒーに砂糖を混ぜながら、若い男性が不意に中年男性に話し掛ける。
中年男性はコーヒーを口に運びながら口元に薄ら笑いを浮かべ、
『お前程じゃないよ…アイツもまさか自分の息子がこんな事をしてるとは思ってないだろうよ』
『俺はゼニさえ満足にあったらそれでええんや』
『このホワイト・フラワーも少し前まではただの白い粉だったのにな…』
『それがこの東京で流行し始めたお陰で高値がつくやなんてな…俺も予想外やったわ』
『ホワイト・フラワーの味は一度使うとやめられなくなるからな…』
くくっと互いに喉の奥で笑うと、互いにコーヒーをあおった。
そして若い男性は鞄を、中年男性は封筒をそれぞれ交換し合い立ち上がった。
シュラインは気付かれないよう、友達にメールを打つような仕種で待機している二人コールをする。
メールではサーバの状態で送信されない場合があり、電話の方が確実であるからだ。
そして、二人の男が支払いを済ませ店内から出て行ったのを確認し…シュラインも立ち上がった。



「ひったくりだ!!」
カフェから少し離れた路上で男から叫び声が上がる。
その叫び声に思わず振り返った人々は、一瞬だけ、
小柄な少年がスポーツバッグを抱えて全力疾走して行くのを見た気がして足を止める。
しかしその動きはあまりにも素早く、風と共に吹き去り…常人の目では追いかけられなかった。
「大丈夫ですか?」
一瞬の出来事にあっけにとられて路上で座り込んでいた男に、程よく色の焼けた体格のいい男…平太が声をかける。
男は慌てて立ち上がるが気持ちに身体が追いつかずに自ら足をもつれさせて転んでしまった。
「か、鞄…鞄を…!あの鞄を誰か!!」
「俺に任せてください足には自信があります!」
平太はそう言うと、少年が走り去って行った方向へと全力で走って行く。
そして角を曲がり、建物と建物の間の細い路地へと去って行った少年を追いかけて…
「はい。ニセモノカバン!」
「よーし!よくやった!でも”特殊能力”使ったな…お前」
ニッと笑みを浮かべ、平太は少年…春華から”新聞紙入り鞄”を受け取った。
「ホンモノ鞄は?」
「あれ重かった〜!もうセレスティが持って行ったよ。じゃあ、最後の仕上げな」
「任せろ!」
そう言うと、平太は”ニセモノ鞄”を手に…路上で座り込んでいる男の元に向った。
例え男が中身を確認してそれがニセモノだとわかったとしても、
”善意”で犯人から鞄を取り返した平太には何のことやらわからない。
姿すら見えなかった少年がいつの間にかすり変えていた…ただそれだけの事なのだ。
「おっさん、鞄取り返してきたぜ!」
平太はニッと微笑みを浮かべながら、へたり込み落胆している男にスポーツバッグを差し出したのだった。


四時。中央公園。
今回の仕事に集った面々は屋根付きの休憩所で仕事終了の顔合わせをしていた。
現物はセレスティがすでに草間の元に運んでいる頃だ。
何事もなく上手く事が運んだ事を喜びながら、お互いに言葉を掛け合う。
「…にしても結局”ホワイト・フラワー”が何なのかわからず仕舞いね?」
「簡単すぎてちょっとつまんなかったけど、楽しかった!」
「おいおい。不謹慎だぜ?でも何かあったらまた集まりたいもんだな」
それぞれ別れの挨拶を告げると、それぞれ思い思いの方向に散っていく。
この後、再び出会う者もいれば二度と出会わない者もいるだろう…
もし出会うことがあればその時もまた…と、それぞれが胸に思いながら。


■Ending:"TheWhiteFlo...!"

彼らのそんな思いは意外と早く叶う事になる。
それから3日後。草間の連絡で全員が草間興信所に召集をかけられたのだ。
一体今度は何の仕事だろうと、ソファに座り全員が草間の様子を窺っていると…
「はいお待ち!!」
突然、見知らぬ来訪者が…いや、「おかもち」を持った出前の男性がやって来る。
青年は「おかもち」を手に微笑みながら深く頭を下げた。
そして徐に、おかもちの中からどんぶりを取り出してそれぞれの前に並べ始める。
わけがわからずきょとんとする面々に、草間は笑みを浮かべ。
「さ。仕事の成果だ!思う存分”ホワイト・フラワー”を食べるといい」
そう告げた。その言葉に全員が一斉に目の前のどんぶりに注目する。
「ホワイト・フラワーって…これ…」
「…うどん…ですよね?」
呟きあう彼等を絵に描いたとしたら、おそらく目が点になっていた事だろう。
しかし不意に、シュラインが何かに気付いたらしく小さく吹き出し、
「私とした事が気付かなかったなんて…そう…フラワーね…そう言う事…」
「え??どういう事?俺にもわかるように言ってくれよ?」
「だからね、フラワー…flour…英語で”小麦粉”の事を言うのよ」
「ご名答。今回の依頼は今出前を持ってきた”讃岐うどん”の老舗の主人からだったわけだ」
草間の言葉に、出前の男性が再び深く頭を下げる。
「うちの店独自で配合している小麦粉の名前が”ホワイト・フラワー”と言うんですがね…
馬鹿息子がそれを東京で店舗拡大をしようとしている他店の連中に流してる事に気付いたわけで…
口で言っても効かない奴はいっぺん痛い目でも見て懲りてもらわにゃならんと思いましてね」
頭を掻きながら恥ずかしそうに言う男性に、一同はなんとも言えない気分になった。
そんな事の為にわざわざ草間興信所に依頼をしてきたのか?と。
「みなさん、せっかくのおうどんが伸びちゃうと美味しくないですから食べましょう?」
しかし、零のほのぼのとした言葉に空気は一瞬で和んだ。
「それもそうね…仕事の成果…いただこうかしら」
「仕事のお代はいただいてますし…」
「いっただきま〜す!」

一仕事を終えた寄り抜きの人々が集う草間興信所。
いつもならけたたましいブザーが鳴り響いているそこで、
今はただ…うどんをすする音だけが響いていたのだった。



<END>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家・幽霊作家・草間興信所事務員】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1892/伍宮・春華/男性/75歳(外見15歳前後)/中学生】
NPC
【***/大黒屋平太(だいこくやひょうた)/男性/18歳/フリーター】

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■         ライター通信          ■
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シュライン・エマ様。
はじめまして。この度は依頼をお受けいただきありがとうございます。
タイトルからシリアスかと思いきやちょっとコメディ系です。
シリアスに期待をしていらっしゃったらスミマセン。
今回は全体の流れは全員の視点から、
部分的にシュライン様の視点で書かせていただきました。
特に最後のオチ部分気付く点が上手くシュライン様の職業と合っていて、
その偶然に少し感動いたしました。
ただシュライン様の特性を生かしきれなかったのが少し心残りです。

またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。