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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


「プラントショップ『まきえ』」〜お店を盛り返せ!?〜
●オープニング●
いつも何かしら騒動が起きている草間興信所。
…今現在、そこには…実に異様な空気が流れていた。

「…と、言うわけなんです」

まるでおばけのような女性…もとい山川・まきえは、月並みな台詞で話を締めた。
病気のおっかさんのように結われ、ところどころ解れたように数本垂れた髪に、白を通り越して青白い肌。
何故か物凄く血走った目と、その下に深々と縁取られた隈。唇は見事な赤紫色。
不健康な人はこう言う人だよ、と言えば簡単に納得してもらえそうなくらい不健康そうな女性だ。
真っ白な着物とか着て道端に立っていれば確実に人を気絶させられると思う。間違いなく。
心なしか背中からおどろおどろしいオーラが立ち昇ってる気が…。

幽霊やら妖怪やら凶悪犯やら、一般人が言う所の『怖いもの』を見慣れている草間達でも、彼女が入ってきた途端に反射的に叫んでしまったほどだ。
零に至っては叫び声をあげながら草間の背中に隠れてしまった。
…ぶっちゃけ零は草間を『盾』にしたわけだが、唐突の出来事に混乱している彼らにしてみればツッコむ余裕もなかったのでスルー。
実際、彼らが落ち着くのには三十分近くを要したくらい驚か(脅えら)れたのだった。

――まきえの話を要約するとこうなる。
  彼女は夫が死んでから必死に金をため、念願の植物専門店を建てたと言う。
  しかし、其処は立地条件の悪さから、中々客も来ず。
  折角来た客も何も買わずに逃げるように去ってしまうそうだ。
  で、気づけば赤字寸前。
  母子家庭の極貧生活改善のためにも、何とか店を盛り返していただけないか、とのこと。

「…でも、お店自体がいいのなら場所に関係なくお客さんがくるんじゃあ…?」
零の疑問もご尤も。
するとまきえは困ったように目を伏せ、ぼそぼそと呟いた。

「…私、人見知りが激しくて…」

じゃあ店なんてやるなよ、と何人が心の中でツッコんだことか。
だが話の途中で遮るのもなんだし、とツッコミは心の中に留めておいて、一応は彼女の話に耳を傾ける事にした。

「その…お客様が花を買って下さるか気になるんですけど、やっぱり恥ずかしくて…。
 …カウンターに隠れてじっと見てると…急にお客様が皆逃げてしまうんです…」
こんな感じで、とソファーの陰に隠れるまきえ。
……鼻から上だけのまきえの顔が、目を剥いてこちらを凝視している。

―――あぁ、原因は絶対それだ。

瞬間、全員の心が一つになった。
だけど、口に出す勇気が彼らに有る筈も無く。

「…息子も手伝ってくれてるんですけど…申し訳なくて…」
「息子?」
改めてソファーに座りながらさめざめと嘆くまきえを見つつ、口に出た単語に草間は首を傾げた。
「えぇ、今年高校を卒業したんですが、そのまま私の店の店員として働いてくれて…」
これが息子です、と差し出された写真に写っていたのは。

黒い毛が顔中を多い尽くし、やや四角い眼鏡をかけた(?)…男?
顔すらも判別出来ないほど顔を覆っている毛(髪とヒゲ)が凄い。毛玉顔、と言った方が分かり易いだろうか?
極一部だけが気づいたことだが、眼鏡の向こう側が全く見えないのは何故だろう。
これっぽっちも透けてない。眼鏡の向こうは真っ黒なはずなのに。

「……」
じっと写真を見ていた零が、ゆっくりと口を開く。
「…………妖怪毛玉男?」
「息子は普通の人間です」
即行でまきえから切り返しが入ったが、どう見ても普通の人間じゃないだろうと心のツッコミが多数入ったのはお約束。
「これでも主人似でとても綺麗な顔をしているんですよ?ほら、これが主人の写真です」
そう言って差し出された写真に写っていたのは…確かに、美形だった。とてもじゃないが30超えたオッサンには見えない。
―――隣に写っていた綺麗な女性は敢えてツッコまないでおくべし。
それが恐らく一年前のまきえであろうとも!!例えおもっきし「2002年11月、主人と」とか書いてあったとしても!!!!
…どうやったら一年でここまで変わる事が出来るのだろうか。「女は化ける」とはこのことなのか!?(多分違う)

「…そう言うわけで…どうか、店を盛り返すのを手伝っていただけませんでしょうか?」
「うちは便利屋じゃな…」
「駄目ですか!?駄目なんですかぁ―――ッ!?!?!?」
断りかけた草間に血走った目を見開いて思いっきりにじり寄るまきえ。
「わ、わかった!!
 わかったから顔を近づけるな―――っ!!!」
叫ぶ草間から漂う希薄はかなり必死だ。
流石の草間でも、まきえの形相には勝てなかったらしい。

…かくして。
「面白そう」と好奇心に駆られて遊びに行く者。心の底から心配して店を手伝いに行く者。強制的に行くことになってしまった者。
まぁ理由は様々としても、一向はまきえの案内により、「プラントショップ『まきえ』」へと足を運ぶ事となったのだった。

●こんにちは、息子さん。
プラントショップ『まきえ』は、興信所から二時間近く歩いた場所にあった。

――…これじゃあ客も寄り付かないわけだ。
辿り着いた面々は、心の底からそう思った。
店自体は全く問題ないのだが…問題は店の周り。
――見渡す限り一面草野原。そのど真ん中にぽつんと、店。
「PLANTSHOP『MAKIE』」というロゴの左右に彼岸花とサボテンが描かれた看板が、無性に虚しさを煽る。
一応道路は敷かれているようだが…こんな所に店があるなんて誰が思うだろう。
「…ここが入り口です…どうぞ…」
そう言って、まきえはドアノブに手をかけ、開く。ドアの上端についた鈴が、その動きに合わせてちりん、と鳴った。
「…ただいま、聡。お手伝いしてくれる方々を連れてきたわよ…」
中にいるらしい息子に声をかけるまきえ。
そこにいたのは…。
「…あぁ、母さん…お帰りなさい…。
 ……お手伝いにきてくださった方も、どうも有難う御座います…」
…看板と同じ物が描かれたエプロンを着ている毛玉男。
確かに写真で見た通りだが…何か変。毛玉(頭部)が肩幅より大きいってどういうことですか。
「えーっと……貴方が聡さん…?」
硬直からいち早く脱した誰かが、切れ切れながらも声をかける。
「は、はい…不束者ですが、どうぞよろしくお願いします…」
そう言いながらぺこりと頭を下げる聡。
…何故眼鏡が落ちないのか聞きたい。物凄く聞きたい…!!
―――ある意味衝撃的な御対面は、こうして幕を閉じた。

●見た目改造計画!(まきえ編)
とりあえず2日間だけ、と言う条件で彼女等がバイトを始めてから早くも1日が経過。
1日目は葛西・朝幸の提案により、宣伝するビラを皆で町中に配り(まきえと聡は留守番)まくった。
シュライン・エマはまきえ達と一緒に店に残り、怪奇系統サイトの掲示板に宣伝を書き込む作業。
宣伝効果か、2日目はぽつぽつとお客がくるようになった。
流石に電話の注文はなかったが、人が出入りするようになっただけでも有り難い。

2日目は店番作業オンリー。メンバーの一人であるエマと葛生・摩耶は、まきえと客間にいた。
「まぁ、人見知りが激しくても興信所には来れたんだから、何とかなるわよ。
とにかく、焦りすぎず、でんと構えて色々やってみましょ」
「は、はい…」
微笑みながらまきえの肩をぽむぽむと叩くエマ。不安そうに頷くまきえ。
摩耶はそのやり取りを横目で見ながら、どーんと椅子に座って煙草を吸っている。
折角考えた自分の提案を纏めて却下され、ちょっぴし御機嫌ナナメ。
面白いと思ったのに…とぼやきつつ、わざわざ持ってきたらしいお面を指先でくるくる回している。
「まずは…そうね…接客業なんだから、もう少し外見に気を使いましょ?」
「が、外見…ですか…?」
「まぁ、平たく言えばお化粧しましょ、ってこと。
 店番は他の子達がやってくれているからそっちは心配ないし、折角持ってきたコレが勿体ないでしょ?」
ね、とにっこり微笑みながらどこからともなく化粧品一式が入った鞄を取り出すエマ。
それにしても、この鞄は今まで一体何処に…。…いや、深くはツッコまないでおこう。
「お、化粧するんだったら私も手伝えるよ」
化粧と言う言葉に反応した摩耶が携帯灰皿に煙草を片付け、楽しそうに近寄る。
「本当?だったら是非お願い」
まきえの前に立ったエマは、化粧箱を開きながら摩耶の申し出に嬉しそうに答えた。
「ほら、早くそこに座って」
「は…はい…」
エマに進められるまま、まきえはおそるおそる椅子に座る。
「そうね…まずはその目の下の濃い隈からなんとかしないと…」
「だね」
…こうして、エマと摩耶による、「写真の時に近づけよう大作戦」が始まったのだった。
化粧の最中にカウンターのある方がやけに騒がしかったが…集中してるエマは勿論、まきえにも気にしてる余裕はなく。
手伝ってるだけで暇だったのか話に耳を傾けた摩耶が、楽しそうに笑っていたことは…まぁ、置いておこう。
―――そんなこんなで二時間後。
「…ふぅ」
「ご苦労さん」
摩耶から差し出されたハンカチを受け取って額の汗を軽く拭い、エマは化粧道具を箱に戻す。
まきえは手渡された鏡に映った自分見て、驚いたように目を見開いた。
「…まあ…」
「残念ながら隈は消せなかったけど、大分昔に近づいたでしょ?」
「ってゆーか。あんたの目の隈、幾ら何でも濃すぎ。ちゃんと休んでるの?」
流石に相当の濃さの隈を消すのは難しくて諦めたが、それでも大分写真の頃のまきえに近づいた。
摩耶の言葉にちゃんと休んでます、と苦笑気味に返しながらも、まきえはどこか嬉しそうだ。
「どう?ちょっとは度胸ついた?」
と言いながら微笑んだエマに、まきえは優しく微笑んで頷く。
「そう、その笑顔よ。
 頑張ってその笑顔で接客をやって御覧なさいな?」
「は…はい…」
「そうそう、一回慣れちまえば後は簡単だからさ、頑張りな!」
やや緊張した面持ちながらも、まきえは決心したように、エマと摩耶と共に店の方へと出て行った。
―――そこで、毛玉じゃなくなった聡の姿を見て驚いたのは、また別の話。

●青い星は恋の花?
午後から交代しましょうか、と切り出したまきえ達に是非にと頷いたのは、秋月・霞波、朝幸、桜木・愛華と、何時の間にか来ていた神島・聖の四人。
四人はまきえが作った昼食を食べてから、聡を(無理矢理)引き連れ、例の『危険な温室』の探索に行った。興味をそそられた摩耶も同伴。
残った二人は店番をこなしつつ、エマの希望により余暇時間に花の説明を行っていた。飲物はオプションで。
「…あら?これは?」
説明を聞きながら花を見ている途中、ふと一つの花が目に入った。
淡い青色の楕円形の花弁が星の形に並んだ花。それが枝分かれした茎に綺麗に咲き誇り、花弁についた水滴が光を反射する様は、まるで空に青い星が輝くかのよう。
「…あぁ、それは『ブルー・スター』と言う多年草です…。
ちょうど今朝咲いたばかりなんです…。…綺麗でしょう…?
…青い花は幸せを呼ぶ花とされていて、ヨーロッパでは花嫁のブーケや赤ん坊の誕生日に贈る花として使われてるんですよ…」
「へぇ…」
まきえの話を聞きながら花を興味深げに見つめていたエマの耳に、凄い話が入ってきた。
「…ですから、草間さんとの結婚式の際は、是非このブルースターを使ったブーケを作らせて頂きますね…?」
「ぶっ!!」
その台詞にエマは思わず口に含んでいたコーヒーを噴出す。地面に茶色い水霧が飛び散った。
「あらあら…」
「なっ、な、なん…!!」
まきえはタオルと雑巾を取ってきて、微笑みながらタオルをエマに手渡し、床を雑巾で拭く。
エマは唐突に言われた言葉に戸惑いを隠せないらしく、顔面真っ赤だ。
「好き、なのでしょう?草間さんのこと…。
 …私は、応援、してますから…」
「……えぇ…どうも有難う……」
渡されたタオルで口を拭きながら、何でバレたんだろう、とエマは肩を落とすのだった。

●やっぱりオチはつきます。
「うわあぁぁぁぁああ!!どいてどいてぇ――っ!!!」
途中で(飽きて)帰ってきた摩耶と一緒に暫く店番をしていると、後ろから唐突に朝幸の叫び声が聞こえ、三人は驚いて同時に振り返る。
―――なんと、聡達とジャック・オ・ランタンのような姿のでかいカボチャが此方に向かって爆走してくるではないか。
…それも、後ろに巨大な靫蔓(ウツボカズラ)を引き連れて。
心なしかかなり怒ってる気がする…多分気のせいじゃないけど。
「うわっ!デカ!!さっき温室行った時はあんなの見なかったぞ!?」
「ちょ、な、何したのよあんた達っ!!」
自分がいた時には見当たらなかった植物の出現に摩耶も驚いている。
エマもまさかこんなのが出てくるとは思わなかったのか、うろたえ気味に六人+一体に叫んだ。
「愛華ちゃんが余計なことするからー!!」
「アイツ自分の飯盗られてしもた思てメッチャ怒っとるやないかー!!!」
「だってだって、ネズミさんが怪我しちゃうと思ったんだもんっ!!」
「あまりにも激しく怒ってるせいで、私の能力も効かないんです…!」
それぞれが口走る言葉を聞き、エマは頭痛い…と呟いて顔を片手で覆う。
「…あらあら…しょうがないですね…」
当のまきえはといえば、別段驚いた様子もなく朝幸達と入れ違いにすたすたと巨大靫蔓に近づいていく。
巨大靫蔓はまきえを見るなり其方に攻撃を仕掛ける。物凄いスピードで目の前に迫る蔓。
まきえ、絶対絶命!?
「ちょ、ちょっとまきえさん!危な…」
エマが慌てて走り出そうとした瞬間、まきえはバシィッ!と、いとも容易くその蔓を掴む。
「「「「「「…え?」」」」」」
「…よい、っしょ」
驚く面々を他所に、小さな掛け声と共にまきえは野原に向かって巨大靫蔓を軽々と投げ飛ばす。
ズズゥ…ン、と大きな音を立てて、その巨体はあっさりと野原に沈んだ。
「これでよし…と」
その場に残ったのは、パンパンと何でもないように手を叩くまきえと、安心したようにへたり込む聡。
―――そして、たった今目の前で起こった事態を把握しきれていない、エマ達だけだった。
その後、靫蔓に全員で謝り、この事件は無事(?)収まった。
ただ、彼女等の中でまきえに対する謎が深まったのは…言うまでも無い。
こうして、2日間に渡る彼女等のバイトは終わりを告げたのだった。

数日後、宣伝・山川親子の外見改造・店番の手伝いなどのサポートのおかげか。
「人手が足りないから助けてくれ」とまきえ達から電話があり、上手く行ったと分かった彼女等は喜んで手伝いに行くことになる。

―――ちなみに。
興信所にまきえからエマ宛てに小包が届き、小包の中身―バイト料の入った封筒と、ブルースターの鉢植え―を見て、エマが脱力するのは…その更に数日後の話。
ちなみにその鉢植えは、そのまま興信所に飾られたとか飾られなかったとか。
…真実は、エマ本人のみが知る。

終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0696/秋月・霞波/女/21歳/フラワーショップ(ノワ・ルワーナ)店主】
【1294/葛西・朝幸/男/16歳/高校生】
【1295/神島・聖/男/21歳/セールスマン】
【1979/葛生・摩耶/女/20歳/泡姫】
【2155/桜木・愛華/女/17歳/高校生・ウェイトレス】
○○ライター通信○○
お待たせいたしました。異界第一弾、「お店を盛り返せ!」をお届けします。…いかがだったでしょうか?
これからも頑張ってまきえ達を突っ走らせたいと思いますので、よろしければお相手お願い致します。

エマ様:こんな無茶苦茶な話に御参加頂いて有難う御座います。その上まきえに沢山関わった頂き恐縮です。
ほぼ暴走無しでほのぼのな雰囲気を醸し出してしまいました…(汗)
花の話(とは言っても短いですが)に草間さんとの関係ネタを交えさせて頂きましたが…どうでしょうか?

まだまだ未熟ゆえ色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
今回、個別の文章として仕上げさせていただきましたので、暇な時にでも他の方の文章を見てみると面白いかもしれません。
それでは、またお会いできることを願って。