コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


アフロンジャー 第一話

 ゴーストTVの番組にも、一応子供向けというジャンルがある。その中でそれなりの人気を博したのがこちらである。

 それは、バラエテ異界立体育館での出来事。老若男女を詰め合わせた観客達は、ステージである中央に注目していた。そこには何やら魔王っぽいのが一匹。
「ぐあっはっは、奴等はもう闇に葬った。これからはこのバラエテ異界は、大魔王であるわしが支配するのじゃあぁっ!」
 周りから阿鼻叫喚の悲鳴が渦となって響き渡った。「ぐえっへぇぇ、泣けぇ、叫べぇ、そして死ねぇ。おぬし達の悲鳴こそ魔王にとっての美酒だったりしちゃったりじゃあ」
 そうやって勝ち誇る魔王だったが、その時っ!ドガーン。
「何ぃ!?バラエテ異界立体育館の屋根の中央に穴がっ!?はぁ、あれはっ!」
 ―――それは五色の煌きを持つ流星、人々の愛が呼んだ奇跡。ドガーン。
「ああ!」「あれはっ!」「まさかっ!」(巫女っぽい人、隊長っぽい人、近所の子供っぽい人という順番で驚く
「き、貴様達は死んだはずではっ!」
「そのはずだったが、」五人の中央の人物が、ゆっくりと立ち上がり、「お前を倒すために甦ったぜっ!」
 そして五色は横一列に散らばるっ!
「アフロレッドッ!」「アフロブルゥ!」「アフロレモン味!」「アフロDEオフロ!」「アフロコットン100%!」
 五人揃ってぇっ!

 色とりどりのアフロが揺れた。
「「「「「ダンス戦隊アフロンジャーッ!」」」」」

 スタイリッシュなタイツ姿に、不釣合いなボリュームのアフロを装着した彼等にっ!
「何をこしゃくぐぎゃあ!」魔王っぽいの、文章量の都合上決めポーズの時五人の背後にあがった爆炎に巻き込まれて死亡。「ぐあー!やられたー!だが覚えとけアフロンジャーよ、お前達人間が憎しみ合う限り、わしは再び蘇るのだぁぁぁぁ、っていうか熱いって!焼ける!焼けるっ!あっちゃあぁ!」
 こうして魔王はあっという間にこげこげた。全治三ヶ月の重症である。担架で運ばれていく魔王を見送ってから、
「……やったんだ!とうとう魔王を倒したんだ!」「やったわレッドッ!」
 五人の歓喜に周囲の皆もはしゃぎまわった。暫く喜びの余韻に浸っていたが、突然、アフロンジャーレッドが、
「集まってくれた皆さんにぃ、今日はお知らせがございまぁすっ!」
 えー、なになにー?
「アフロンジャーをぉ、引退しまぁす!」
 そ、そんなぁやめないでぇアフロレッドォ!アフロレモォン!
「《お酢のパワーで百年経ってもヒーローだ》という本も出しましたぁっ!だけどぉ、もう体力の限界ですっ!毎日がサウナ通いなんですッ!」
 いやぁそんなぁ!待ってアフロンジャーっ!―――彼等の熱い声に涙しながらも
「私達ぃ!普通の一般人に戻りますっ!」
 そう言って彼等は、アフロを脱いで足元に置いたのじゃった。
♪ 夢を 見てました とても大切な 夢です ♪
「ありがとー!」「ありがとぉぉ!」
♪ 貴方の事が好きで 選んだ道だけど ♪
「お前達最高だったよぉっ!」
♪ さよならと言ったその後に 電車は走り出す ♪
「アフロンジャーは、永遠に不滅ですっ!」
♪ さよならと言ったその後に 未来行きの電車が ♪

 これが日曜日朝に放映されていた、アフロンジャー最終回である。脱いだ人がどうして行ったかは定かではないが、最終回なのである。……そう、最終回のつもりだったのだ。少なくとも放映元である、ゴーストTVの編集室は。
 しかしアフロンジャーは彼等が作ったのでなく、バラエテ異界で起きる実際の出来事である。つまり、
 密かに続編への胎動はあったのだ――その根拠、
 まずこのアフロが着脱式で、ぶっちゃけ誰でも被れる物で。しかもアフロはこの五種類だけでなく様々有り、異界全体そこら中にころがっていて、性質の悪い事にバラエテ異界の外にこのアフロが零れ落ちていて被った場合バラエテ異界ご招待、更に性質の悪い事に、このアフロを被った場合なんか正義っぽい活躍をしないと外れない呪いがかけられている事が、アフロンジャー続編の一番の根拠なのだっ!まぁ呪いというのは、
「あれ?局長はなんで大道具室で多種多様のアフロに何か細工してるんですか?」
「んー、いや、アフロンジャーグッズが売り残ってるらしいから、もうちょい番組を」
 という事があったかもしれないけど。
 とりあえずこのアフロを被った者は、一時的にアフロンジャーになって、そのアフロに合わせたカラーリングや装備のスーツを着る必要が出てくるのである。とりあえず、ダンサーに就職決定というレールの上から外れる為に、戦うのだ!アフロンジャーッ!
「でも今の所怪人とか出る様子無いですよ」
「まぁそん時はドブ掃除でもして」
 その程度で外れるアフロ。


◇◆◇


『わぁ、モコモコ世界……色とりどりで綺麗ねぇ』
 シュラインさーん。
『思わずほのぼのしちゃうわね、まぁ私自身が被る気はミクロもナノもないけど』
 いや、シュラインさんってば。
『でもナレーターとかは楽しそうかしら。ふふ、なんだか、学校の演劇に出演する気分ね。ちょっとだけならエキストラで出演して』
 シュライン・エマさんって!
『え?……私?』
 はい。
『……もう始まっているの?』
 はい。
『………』
 キッ!――彼女は天から用意されたマイクを戸惑わず受け取り手を交差足を広げどこかにある隠しカメラへ目線を送りそして開口高らかにッ
『長きの沈黙を、永久に至る前に破り』力強く、それでいて優美に、『今この異界に甦る、ファンキーな戦士達』静かながら、燃えるように熱く、『何の為?誰の為?浮上する問いの答え』締める。『今出ようとしてる――』

 帰ってきたアフロンジャー 第一話

『今ここに始動するっ!』
 ……はい、OKでーす。編集の人今のチェックしてしょっぱなに持ってくると思いますんで☆
『……それはいいんだけど、なんで貴方は大空に無駄に爽やかな笑顔を浮かべてるのかしら?』
 さぁて妹の恵はどうしてるかなぁ☆
『だからお料理番組の時とキャラが変わってるわよ、だいたいねぇ』
 そういえば今日、NEW-WORLDにあるお好み焼き屋さんが先着三十名に限り980円のデラックスセットを500円のワンコインランチに☆
『あら、素敵ねぇ。……全然話はそらせてないけど?』
 HAHAHAHAHA☆さぁてうちに帰って封筒作らないと☆
『内職の必要あるの?』


◇◆◇


「しかし局長、グッズを作りすぎたって、」
 場面は冒頭に戻り、ゴーストTV地下にある大道具部屋にて、床に散乱するモコモコアフロに囲まれている局長に、番組スタッフが一言、
「おもちゃ会社はたっぷりと甘い汁を吸わせてもらったって報告受けてますよ?珍しい事に、放送終了後の在庫のだぶつきも少ないみたいですし」
「え、あーいやぁ、それなぁ」
 目を斜め上に逸らしながら口篭る局長、訝しげだが、その気持ちを出すのは表情だけの番組スタッフを、
 代わりに言葉にする、「真実を申し上げれば、売れ残った物は」「え?」人影、
「恵様が個人でお作りになったのでは?」
「あ、あぁっ!?」
 それは実に唐突に、だがまるで重力のように自然な、恵の傍らへの降臨、漆黒の髪が美しく、絹のように白い肌、全身之美貌の女性―――
「働くおっちゃんのお姉さんっ!?」「ステラ・ミラです」
 名乗るとおりの彼女は、びっくりする恵に対して何時ものように会釈をした。
 ちなみに恵が今しがた、彼女の名の代わりに叫んだ言葉は、《働くおっちゃん》がゴーストTVの情報番組で、《お姉さん》が司会という意味である。企画制作はもちステラ・ミラ。果てしない真実の為に流浪する彼女が番組に出演する程に、このようなおちゃらけ異界に出没するかははてさてなぁだが、ともかく、恵にとっては初対面では無い。
「な、なんの用やねん!?ギャラの方はもう支給されとるはず」「あのぉ」「ん?」神出鬼没に恵と同様驚いていたスタッフが、上司である局長に気にかかる事を、
「個人でお作りになったって、まさか」「ま、まさかて別に」「恵様は―――」
 そこでステラは指を鳴らした、瞬間。
 雪崩のようにアフロンジャーグッズがクッション代わりにもなるアフロにドサドサと「あぁっ!?押入れにおしこんどったもんがぁ!?」「どんだけ作ってるんですかあんた!」
 もしこれ全てが収まっていたというなら、青猫ロボットの居住スペースは快適である。スタッフのつっこみはそれだけに収まらず、「てかなんですか、人形やTシャツだけならともかく、抗菌まな板とか漬物ってっ!」「ラ、ライガーズ(バラエテ異界の野球チーム)効果を狙ったんやっ!」「二匹目の泥鰌は無理ですってっ!実際ライガーズカラーの家売れてないしっ!」
 無計画な馬鹿局長を叱る番組スタッフ、それにキーキー反論する恵、ブラウン管の砂嵐よろしくやまかしい口喧嘩を、
 止めるのは原因を作った女、「実は私の経営する古本屋が破綻しかけていまして」
 突拍子も無い話題に、一時停止する恵、
「それでよろしければ、恵様の考えていらっしゃるアフロンジャーの続編計画に、便乗させていただけないかと」
「……つまりは、」恵、年上への対応で、「スポンサー、ですか?」
 敬語を使ってステラに聞けば、彼女はこくりとうなずいた。「ギブはアフロンジャーの宣伝、テイクは私の店の宣伝とグッズの販売による経営回復です。……アフロンジャーは私も視ていましたもので」
 それを聞いて恵嬢よっしゃーとガッツポーズ。その侭ステラの手を握りぶんぶんと振り、「いやほんまもう願ったり叶ったりですわッ!異界の外の人にスポンサーやってもらうなんて、界外進出やぁん!よーし今日の晩飯ははりはり鍋でー」
 一等賞のテレビ局が目標である恵にとって、ステラの申し出は本当に嬉しくはしゃぎ回った。ぶっちゃけ古本屋が噛んだ所で劇的な変化は臨めそうにないのであるが、それでも喜びを爆発させていた。ステラが呟いた、それ以降スポンサーを続けるかは視聴率次第ですがというのと、
 知らぬ顔でもないですから、という言葉聞き逃す程に。
 そんなこんなで暫しの間、舞台でも無いのに踊りまわった恵だが、「っと、スポンサーになるっちゅう事は」はしゃぐのストップ、
「姉ちゃんがアフロンジャーやってくれるん?」
 そう、ステラなる美貌へ訝しげに聞いた。アフロの素晴らしい所はサッカーのスーパースターであろうが南国の王子であろうが、一つ被ればギャグになる所であるのだが、流石の恵も彼女のような宝石に被せるのは抵抗があるような。
 そんな心配に、ステラはすでに手を打ってある。「私はプロデューサーですから、アフロを被る余裕はありません。でも二人程すでに確保しています」
「二人?」
「ええ、一人はいい身体してるから誘いました。本来ならもう伺ってるはずなのですが……」
「ふーん。ほな、もう一人の方は?」
 そう聞かれたステラ、視線で促す後ろ、には。
「……ステラ様」これまた絶世のカッコヨサがある、「一体何故、この異界に懇意を………」
 しくしくと泣くステラの使い魔、オーロラさんが黒いアフロを被ってと。
「似合ってますよ、オーロラ」
「少しも嬉しくないのですが………」


◇◆◇


『貴方様は、いい身体してますね』と聞かれてその次に続く言葉は、スポーツ選手や雑誌のモデル、あるいは徹夜に負けない作家仕事への勧誘であろう。当然この青年も、その手の勧いかと思って、自分の職が≪何でも屋という
『アフロンジャーになりませんか?』
 美貌の女性はそう言って、屈強な男はそう言われて、
 今、五代真は青色のアフロを被ってるのである。
 そして場所はなにやら暗い廊下、足下が見えなくバリアフリーがなってないワルワルさからみて、悪の秘密基地。
 それなりの冬の服を着ているのに、厚みが外からも伺える程の《いい身体》。顔つきも、その逆三角形なバディに似つかわしいのだが、注視が上方へと誘われてしまうのは、無論、アフロのおかげである。ウール100パーセントで出来ている空よりも青いアフロは、眠りの世界へ誘われそうな程付け心地が良い。しかし、彼の精神は落ち着かず、どうも首をひねってるようで。
 その理由は自分がアフロンジャーなる奇天烈に関わってる事に対する、なんでやらなあかんねん、という気分、彼はバラエテ異界より漏れる電波を偶然にも外の世界のアンテナがキャッチした場合のみ成立する異界外のゴーストTV番組視聴をしているので、「あれイロモノ戦隊物じゃん」との知識があるので尚更である。ヒーローに憧れるのは男の持つ悲しい佐賀とはいえ、あれは正直頂けない。なんか悪役と対決せずに、鍋囲む回とかもあったし。
 そう言う訳で、今一気乗りしないのである。それにヒーローよりかは、
「どっちかってぇと悪役やりたいんだよなぁ」
 何でも屋、悪事以外は受けた事ないし、と、ウール100パーを弄りながら呟いて、「そうだなぁ、例えば悪の秘密基地に先に侵入して」ステラに言われて今そうしてる訳だが、「んで、突然の背後からの不意打ちにあって、その侭洗脳ってパターンっていう」
 正義を悪に染められた悲しいヒーロー、
「そっちの方がかっこいいもんなぁ」「――それならば」
 暗い廊下で背後よりの声、「望みを叶えてやろう」
「いや、ベタすぎだろこの展」バコォッ!「開ぃっ!?」
 五代の後頭部にゲンコツが炸裂した。お約束通り意識が霞み始めたので、お約束通り倒れながら後ろを見て、「お、お前は……」お約束通りの台詞を履けば、
 何時ものライダースーツで無く、難攻不落の要塞が如き鎧を身に着け、
 手には光る鞭、両手で伸ばす、五代に負けない屈強な男。
 鳴神時雨――
「王道を突き進むのが、本来のヒーローの宿命だからな。平成に入って試行錯誤をしてる模様だが」
 そう言って、お望み通り不意打ちをくらった五代真を、担ぎ上げる。
「お、俺をどうするつもりだ」
 その問いに表情一つ変えず、鎧を装着した男は、
「まずは二十年程別の惑星へ」「二十年!?」
 衝撃的な単語で素に戻る五代だったが、「いや、俺の元ネタの設定だから、実際に貴様を連れて行く訳じゃない」「あ、そうですか」時雨のその言葉を聞いて再度気絶する五代、
「そこで貴様を改造し、悪の組織の一員としてやる」
「お、俺が、そんな事に屈すると思うのか」
「させてやる――」重く、冷たい声、「全てのアフロを無に屠る、取らせる気の全くないゲーセンの景品ゲーム並の悪としてな」
 悪の秘密基地の廊下に、二人と鎧分の重量を負った足音が、これからの運命への前奏のように響いていった。尚、
「……できればもう少しかっこいい方がいいんですが」「この異界に来て何を言う」という男達の会話があったかは定かでは無い。


◇◆◇


 その日、彼はバイトをしていた。
「着ぐるみのバイトか、」人混みで看板を目立たせる為のスタイル、「夏場に比べりゃ楽だけどな」
 バナナ売りから危ない仕事まで、様々な職業をふらふらと渡る彼にとって、これも経験ある仕事。慣れた動作で虎ぐるみの胴体部分を身に着けて、さて、後は頭を被るだけという所まで。黒スーツが普段着の彼だが、基がいい所為か、着ぐるみ、頭だけを外した状態で寒空を仰ぐ姿は、それだけでも絵になっていた。
 さて、此処までが彼の日常であった。様々な仕事にいそしむ彼の日常。
 しかし一つの間違いで、展開は一変するもの。「さぁてと、後は」
 頭の部分を被るだけ――
 ズボッ、と。
 それは実にしっくり馴染んだ。最高にハイって奴だぁくらいに馴染んだのだ。
 しかし違和感、確かにしっくりきて、かつなんだか暖かくて、新たな自分に生まれ変わったような気すらするのだが、どうにも何か、
 違うような――目に入ったのは放置されているガラス板、それに薄く映る自分の姿。
 カレー大好きな黄色のアフロ。
 しかも毛糸製で冬でもあったかである。「……なんだこりゃ」間違ってかぶったそれを脱ごうと手を頭に伸ばした時、藍原和馬は転送された。


◇◆◇


 その日、少女はテレビを見ていた。
 それは恋する乙女の瞳であった。ブラウン管には踊り狂う彼等の雄志があった。
「かっこいいぃ」
 そう呟くのは、102pの身長のてっぺん、頭に、二本の可愛らしい角を生やす鬼っ娘、葉山壱華である。まぁこの年頃の女性だったらジャージーズとか好きよねぇという近所のおばさん的な予想は、外れている。確かに踊るという共通点はあるのだが、踊っているのは、
 全力で、おっさんである。
 彼等は仮称するならおっちゃんダンサーズ、腹を揺らし、悲哀を漂わせ、短い手足をばたつかせる踊り子達。その特異性を認められ、某大御所ミュージシャンに茅ケ崎ライブにて登用され、それを切っ掛けに一気に踊る御殿の頂点へ上り詰めたのは記憶に新しいか古いかまぁどっちゃでもいい。そして何よりも壱華が憧れるのは、文字通りの中心。
「かっこいいなぁ」
 アフロが逞しいハハスキ須々木である。(仮称)憧れの対象、本来ならば魔法少女のヒロイン辺りだがそれよりもある意味ファンシーな彼の姿を、少女は妙に気に入ったのだ。ちなみにこの事を親代わりは犬もとい狼に愚痴った。
 まぁそういう訳だから、彼女が見逃すはずが無かったのである。
「……ん?」縁側の方に、「あれなんだろ?」
 雑草、とは明らかに違う、庭に鎮座する物体に、
「アフロッ!?なんでこんな所にあるかなぁ」不思議ながらも彼女が、己の髪の色と同じ白銀のモコモコを、「………」
 被らないはずが無く――ズボッ
 あらまぁフサフサアフロの下からは腰まで近い髪が出ていてこうなんともいえない不思議な一体感が、葉山壱華は転送された。


◇◆◇


 という事で、
「ま、事情は解った、やってやらない事も無いが」目を細めて、「ギャラはきちんと払ってもらうよ?ギブアンドテイク、健全なる商売が成立してこその世の中だろ?」
 そう見事に、藍原和馬はセリフをビシィッと決めて見せたのだが、
 鈴木恵は爆笑。「何笑ってるんだっての!」「い、いやっ、兄ちゃん何やってもギャグやわっ!なんでそんなもん被ってるっ」「恵ちゃんの所為だろがっ!」
 なし崩し的に今回のつっこみ代表となった彼で、さんざ笑い転げる恵、に、
「笑っちゃだめだよ恵ちゃん」葉山壱華、フォロー、「だって黒スーツにアフロってかっこいいじゃん、おじさん似合ってるよ☆」「おじさんじゃないし、似合いたくもないからな」
 黄色と黒は勇気の印である。
「何はともかく」
 ステラミラ、一人明後日の方向を見てるオーロラを背後に放置して、「規定の人数には足りませんでしたが、戦隊物も最近は三人からスタートする物ですし、よろしいですね恵様?」
 製作の言葉を聞いて恵P、「ん、OKOK、ほなこれから会議やって」「会議?」「ああ、どこらへんで戦うとか、どういう演出するとかな。ま、ぶっちゃけあんま関係あらへんけど」
「あーそれだったら恵ちゃんキーキャラで出演とかいいんじゃね?」「誰が出るかこんなイロモノ番組っ!」「だったら俺ら出すなよッ!」
 即製の漫才コンビのつっこみ、保護者よりも年上の為に《おじさん》と声かけて、落ち着きなよーと壱華が、言おうとした、その時だった。
「嘆かわしい――」
 それは童女の声ながらも、力強く、
「実に嘆かわしい事じゃ、」まさに龍の怒りのように、「脱着式のアフロ等、認めようにも認められぬ」
 声落とされる様は天よりの雷、その衝撃に、全員がその方を見て、見られて、童女は、
「神聖アフロ論を知らぬのかッ!?アフロとは神に捧げられる崇高な物、アフロとは聖性を纏った無二の物、アフロとは、」
 そこで野球少年が目指す星が如く瞳輝かせ、
「地毛で行ってこそのアフロッ!」
 後光が指した。無駄に壮大なBGMが流れ出した。パンパカパー。
「地毛によって構成されるアフロは、アフロパワー略してAPが二万宿るのじゃっ!」
 けして誰も、アフロパワーってなんだよ。ていうか二万という数字も何を根拠にしてんだよ。とは突っ込まなかったのである。
 余りにも衝撃的だったのだ――小柄に着ける華のような着物、くるりと回れば奏でがありそうな、容姿は可憐、愛しき子供、そんな、
 魅力よりも何よりも破壊力があったのは、少女の頭髪、
 ああそれは己の髪の毛を爆発させて―――

 余りにも巨大なアフロ。(紫色

「ほう」と一人淡々なステラを除き、残りの一同は無意識に意見を統一させた。
 間違いない、こいつがエースだ。
「ふふふ、わしの神々しい姿に皆心奪われたようじゃな」いや、呆然です。「わしの名前はアフロパープル、雅な色とは人の言う、じゃがわしは戦い忘れた人の為」
 そう言って本郷源、否、アフロパープルは、
「吹き荒ぶ風の中、戦い抜くのじゃ」
 静かに、だが力強く、笑ったのだった。颯爽と、決意して。今少女の瞳に映るのは平和という未来。
 だが一同はAPの影響か知らないが、少女の頭でモゴモゴ蠢いている紫色の巨大アフロに視線を注ぐのであった。とにもかくにもこうして二代目アフロンジャー第一話のリーダーは、紫色に決まったのであるっ!
「……シュライン様、」入り口でマイク握りしめた彼女に、オーロラ、「何をされてるのですか?」
「ナレーションよ」
 バラエテ異界観光を一通り終えた女史、モコモコ世界にうっとりしながら土産袋を下げてゴーストTVに初登。


◇◆◇


※主題歌をバックに今話の作成会議の様子をお楽しみください。

 ダンス戦隊アフロンジャー
 アフロンジャー:相原和馬/オーロラ/葉山壱華/本郷源
 敵っぽい:鳴神時雨/五代真
 ナレーション:シュライン・エマ

♪ ノリノリの 僕等のイカすヒーロー YEAH!

「ブタまん差し入れに持ってきたわ、スタンダードのこれが一番美味しいわよねぇ」
「ほなADにソースとってきてもらってと」「あれー?ブタまんだったら醤油じゃないの?」
「えー、カラシソースやろ?」「ふむ、ここは間をとっておでん汁で煮込むというのはどうかの?」「どの間やねん」「どんな出汁が出るのかしら」

♪ アフロ!アフロ!アフロ!アフロ!アフロ!アフロ!アフロ!

「敵なんてものは適当に黒い奴でいいんじゃね?キーっとか言ってもらえば台本いらないし」
「今回の敵は鳴神様ですから、そういう期待は裏切らないでしょう」「……ところでお姉さんさ、この仕事終わったら俺とこの異界回らない?」「折角ですが、予定がありまして」「予定?だったら俺も付き合うよ」「よろしいのですか?某唐揚屋のタキシードおじいさん人形の探索及び回収なのですが」「やめとくわ」

♪ アフロ!アムロ!親父に!ぶたれた!事が!無いよ!アフロ!

 主題歌:アフロンジャーとTシャツと私
 作詞:相原和馬/五代真
 歌:シュライン・エマ/五代真
「なんか変な歌だねー、シュラインちゃん恥ずかしくないの?」
「印税よ、印税の為なら多少の恥は構わないわ、フフフ………」
「遠い目してる所悪いけどCDは発売せんで?」「えぇ!?」

♪ アフーロ アフロー アッフーロ アフーロー アフロ

 総指揮:ステラ・ミラ
 プロデューサー:鈴木恵
「とりあえず、引き続きこちら側に仲間を呼び込む必要があるな。とりあえず女帝役は不可欠だ、こんな事もあろうかと衣装は用意していたッ!」
「あんた普段から何考えてるんですか」
「洗脳が足りないようだな」「ちょ、ちょっと待てアフロをそんな使い方、うおおぉう!?」

♪ 人間なんて アフーローロロロローロー

 敵デザイン:藍原和馬/五代真/シュライン・エマ/鳴神時雨
 ロボデザイン:藍原和馬
「あ、犬だっ」「え………いや犬では無く狼なのですが……」「犬はみんな同じ事を言うのっ!」「は、はぁ」「でね、犬のおじさん、ちょっとお土産買っていきたいんだけど」「お土産、ですか?付合えなくは無いですが」「それじゃ草を躾る為のハリセンをね」「………草?」

♪ アフロンジャーッ!(アフロンジャーッ!(アフロンジャーッ!))

 制作:ゴーストTV/アフロンジャー制作委員会

♪ アフロォォォォゲヘゲホッ!ゴホッ!……ロォォッ!!

『この番組は、まな板の上の万能包丁古本屋極光堂と、』「明日のおでんをみつめる屋台、蛸忠研究所の提供でお送りするのじゃ!」『ちょ、ちょっと源ちゃんっ!』
 ナレーションに乱入されたシュライン・エマ、「あの、私が言う事じゃないけど、スポンサーって」「折角だからわしの店も宣伝するのじゃっ!出汁とタネの狭間、薄茶の世界……」
 なんか猫を抱えてのセリフっぽいのに、恵が一言、
「スポンサーつくのはええけど、CM流すとしたら朝一番でも五十万近いで?」
「なっ!?……さ、さえずりをたらふくという事で勘弁できぬかのう?」
 苦笑い、物々交換で交渉を持ちかける源嬢、が、
「えぇー、昆布と一緒に煮込んで磯臭さが他にまわったんは正直なぁ〜」
「な、なんじゃとこの関西人っ!わしが出汁に気を使わないと思っとるのか!」
「どうやら出番が遅れた事を取り戻す為に、いろいろと絡みたいようですね」
『……ステラさん、今回は解説はしなくていいから』
 まぁ結局は、ギャラの方から天引きというあたりで落ち着いた訳、なので、


◇◆◇


 空に幕が下がる頃、今日に疲れたこの身体、
「らっしゃいなのじゃ」
 湯気に誘われふらふらり、のれんをくぐれば顔馴染み。
 おでん屋台蛸忠。
「そうじゃのう、おでんとは」多種のおでんに名品の酒、
「今日も元気に銭儲けなのじゃ」「意味繋がってないよ源ちゃん」
 暖かい心でお待ちしてます。


◇◆◇


「――って、子供向け番組で宣伝しても効果あるんかい」
 壱華が友情出演したCMをチェックしおいて、一人静かに突っ込んだが、相手はいない。独り言である。
 時間は経過してるのだ、アフロンジャーの面子はステラと供に既に撮影現場(悪との戦場)に移動して、鈴木恵はお留守番。CM開けという物はそういう物である。という訳で、今の場所はなにやら明るい廊下、壁に新番組告知のポスターが貼られてる所から見てテレビ局。
「しかし、うちほんまはアフロンジャーより、どっちかちゅうと筋肉番組やりたいもんなぁ」
 こう弾けるような筋肉の感触で間違いないお前はクォーラル人間だーみたいな、
「そっちの方がおもしろそうやもんなぁ」「―――それはやめろ」
 明るい廊下で背後からの声、「お望まない通りにやってやろう」
「いや、ええ歳した大人が中学生日記程度の恋愛を繰り広げるドラマ並にベタすぎやろこの展」バコォッ!「開ぃっ!?」
 恵の後頭部にゲンコツが(途中省略)
「う、うちをどうするつもりや……」「まずは二十年程別の惑星へ」「二十年!?」
 衝撃的な単語で素に戻る恵だったが、「いや、俺の元ネタの設定だから、実際に貴様を連れて行く訳じゃない」「あ、さよか」時雨のその言葉を聞いて再度気絶する局長って二度やる程のネタか。


◇◆◇


【 帰ってきたアフロンジャー 第一話 】
 新生×神聖×真性!あの日誓った僕らのアフロッ!
 新装開店一時間スペシャル!

 風吹き荒ぶ採掘場、爆発許可が出る少なめの地域、
『かつて、バラエテ異界の危機を救ったアフロンジャー』ちなみにシュラインの位置は状況を良く見渡せる崖の上辺りです。『しかし彼等が去って数ヶ月、人々の心の中からは、あのモコモコも、それに対する感謝も薄れ始めていた』そっと涙を拭うシュライン、もち演技である。
『そして忘れ去った時、奴らは必ず現れる。人が争いを繰り返す獣である限り、この戦いは終わらない、そして今』
 そこで言葉を句切り、シュライン、(ええと、時雨さんの寄せた情報だと西の方向に今回の敵が、と)ナレーションと言うよりか実況に近い自分の職務を果たそうと、僅かに太陽が向かう方へ首を回す。
 停止するシュライン。
 人間が絶句する状況は、餅を喉に詰まらせた時か衝撃的な出来事に頭がフリーズした時で、今のシュラインは後者。源の巨大アフロにもそれなりびっくらこいたが、彼女はモコモコフリークなので、あれは笑顔で迎えられた。
 だがこの様子はどう感じればいい物か、『……ええとまぁ、悪が現れた訳である』
 とりあえず見た侭を伝えようと、『地獄からの使者アフロンジャーの怨敵っ!それは今、人気のない採掘場でっ!』

 美容院を開いてるのである!

 いや、事実です。なんか青いアフロと供に赤い彗星の人みたいなマスクを付けた青年が「はい次の方ね」と屋外で次々と洗髪をし女の子達の黒髪を次々とアジュアンビューティーに、はっ!
『そう、この敵は折角のアフロをストレートパーマや縮毛矯正に施すまさに悪の輩なのだッ!』
 いや、そのネタ考えたの私だけど、まさか本当に反映されるとは思わなかったわ……。シュライン、そう考える。まぁいいとりあえず悪が生まれたのならば、対応して現れる力を、(招くとしましょうか)
 微笑を浮かべかし、誰もの髪が鏡のような煌めきをみせるようになるのを阻止する為、』普通は駄目だけど、『彼等が復活したっ!』
 シュラインの言葉が終わると同時―――「待つのじゃーっ!」
 一際高い童女の声が、痒い所ありませんかーとやってた何でも屋の鼓膜に触れた。
「な、何者だっ!」とおざなりの言葉を吐きつつ振り返れば、そこには、
 ―――ソウルフルなアフロの戦士

「光り輝くアフロな髪をー」白銀アフロ!
「闇の捨て場に葬る奴は?」カレー大好きイエローッ!
「え、ええ、お天道様が許しても……」アフロDEパウロブラック!
「わし等の仕置きが待っておる!」アフロパープルッ!
 時を隔ててここに復活、踊る正義に見る正義ッ!同じ正義はっ
「悪を討つーっ!」白銀が手を振り上げ叫んだ次に、
 四人は決めポーズに移行し、開口っ!

「「「「ダンス戦隊アフロンジャーッ!」」」」
 ドッカァァァウッ!

 四人の後ろに巻き起こる爆炎!「はん!来やがったなアフロン、……っておい」
 アフロDEパウロに飛び火。「あつ!?あ、熱いです!誰か消化をッ」
「なんじゃ騒々しい、寧ろ更にチリチリになって良いではないか」「いや、燃え尽きる可能性忘れてるぜ?」「綺麗だねー」
 などと人様の(狼様だが)危機をまさに対岸の火事のように傍観する三人、しかし、
「早速仲間が一人減ったか?」美容院のセットを大道具さんに撤収させて、「あーあ、楽しみが減ってつまらないぜ。お前等のアフロをストロングビューティーにする楽しみがな」
 そう言いながら仮面の男は歩いてくる。……アフロンジャーリーダーであるパープルは、彼の仮面よりも何よりも、青いアフロに注視して、言った。
「こちら側じゃろ?」地毛で無くとも、「頭にそれを翳してるからには、こちらに入るのが自然。寧ろ、お主が入って初めてわし等は五人戦隊となれる」
 いやまぁ一人は本当に炎上消失の危機なのだが。とにもかくにもパープルの言葉に、青いアフロの仮面の男は、
 突然何処からか整髪用クリームを、「な、何っ!?」
 それを彼は、青いアフロにわしわしわしっ!えーっと、『今アフロンジャーの目の前で、青いアフロの仮面の男はっ!』ナレーションが説明していく!
「俺はアフロを捨てるぜパープルゥゥゥッ!」「何ぃぃぃぃっ!?」
 仮面を付けていたのはこのセリフの伏線だったのかっ!どれだけの人が元ネタに気付くかもお構いなしで青いアフロは、否、五代真はっ!
『サラサラビューティーの髪に変身したッ!』
 バックに、花と煌めきが舞った。(シュライン演出
「な、なんという事をっ!」「正気じゃないよ!いろんな意味で!」「目を覚ますんだ色んな意味でっ!」
 様々な呼びかけに、サラサラ髪の青年は不適に微笑むだけだった。「俺はもうアフロンジャーじゃない、実体ある物をその場ですぐ武器化する能力を持つ」ご丁寧に能力の解説をしながら、
「ファイズ大佐だっ!」
 少女漫画に多様される背景スクリーントーンを背に負いながら、
 ファイズ大佐は美容専用鋏を取り出し念を込めるッ!肥大化する刃、それをシタ手からウワ手に振るえば、空気が切れるっ!
「くっ!?」
 アフロイエローの毛糸が、少しほつれた。「たく、これイロモノ戦隊の話だろ!?マジ戦闘ありってさぁ!」文句を言いながら連発するかまいたちをひらりひらり避けるイエロー。白銀もパープルも同じく。防戦一方の彼等の会話、「どうしようおじさん!」「おじさんじゃなくてお兄さんだっ、てっと!?」「え、だってにじゅうに以上でしょ?」彼女にとっての保護者がボーダーラインらしい、ので、「どうしようおじさん?近寄れたら私が一発くらわせるけど」
 イエローもそう呼ばれる事に諦め、「それが出来ないから苦労してるのさ、っと」屈んでも避ける、「なんか打開策考えないといけないね」
「大丈夫じゃ」「「?」」
 本来なら巨大な的である紫アフロを、一つも傷つけず防戦するパープルの一言、続けて、
「こんな事もあろうかと、わしは強力な助っ人を呼んできておるっ!とある方のパートナー、アフロドッグの《アフロ号》じゃっ」
「ア、アフロ号?」怪訝な顔をするイエローに代わって、好奇心一杯の顔で、「ねぇねぇみな……パープルちゃん、アフロドッグって何なの?」
 そう聞けば、よくぞ聞いてくれたという風に、
「それは古より人の傍らにあった獣、その中で柴を頭に冠する種族、鍛え込まれた四肢の身体に、」キラーン。「虹色のアフロをパイルダーオンしたのじゃっ」
「……それって唯の柴犬にアフロを被せただけじゃ」「その通りじゃ!」「えー逆ギレ!?」
 少女二人がやりとりをした後、「ともかくカモンレッツゴーなのじゃっ!アフロドッグの脚力ならば、あのサラサラ髪へも一直線なのじゃー!」
「そんな事、させるかよっ!」
 阻止する為に鋏で真空波をアフロパープルに放つが、彼女は風の刃を受け流しつつ背後に指をズビシィッ!
 ………って、
「「「「モザイクかかってるぅ!?」」」」
 ガビーンとなるアフロンジャーと大佐、「い、一体これは」
「バラエテ異界の特徴として、」あ、ステラさん。「商標上問題がありそうな物体はこのようにモザイクがかかる仕様となっています」
『いやだから、今回ステラさん解説しなくっても』「お言葉ですがシュライン様、ナレーションのお仕事お忘れになってますが?」
『そ、そうねッ!命より大事なアフロを狩られる危機ッ!だがしかし、サラサラ髪の攻撃の手が、止んだ――』
 え?止んだ?
 確かにシュラインの言葉通り、ファイズ大佐の手は止まっているのである。一体彼に何が、そう三人が大佐の様子を伺おうとした瞬間、
「さ、三下さん」
 その一言の途端、仮面が落ちた。同時にサラサラ髪もアフロに戻った。びくっとなる三人のアフロンジャー。だが、
 直ぐに、仮面の下にあった視線が自分達の背後へ注がれてる事に気付き、それに合わせて一斉に振り返る三人、
 眼に飛び込んできたのは、
 黒金仕立ての巨大なキャピラ、箱形ボディ、ドリルな腕に何よりも、
 三下忠雄みたいなド頭を持った、でっかいロボット。
 三者三様の反応が採掘場に響き渡った。ちなみにアフロDEパウロは火を消し止める為気力を使い果たし倒れ中。

 ―――ダンス戦隊アフロンジャー!


◇◆◇


 過去より今、今より未来、そして、未来より過去にすら遡る物。
 ――重厚な店内が映し出される
 全ての時を記した物、記憶を記録に変えた物、
 ここに来れば、世界の一辺を手に出来るかもしれません。
 古本屋極光堂。
「まな板の上の万能包丁として、お待ちしております」
 ※立ち読みに写本や謂れ無き風評等の迷惑行為はお控えください


◇◆◇


『まな板の上の万能包丁って』「ええ、このコピーを授かった時には天恵を受けた気分でした」
 なんだか彼女の属性が更に不思議に傾いたのを感じながら、
『大佐の仮面が落ちた瞬間、彼はアフロンジャーとして復活する』だがしかし、『その喜びに浸れぬ侭、仲間達は驚愕するしか無かった。目の前に、ロボが、それも良く見知った者のロボが現われたのであるっ!』
「三下さーん!おっきくなっちゃって何してるんですか!」
「いや、ありゃロボだろ?」
 まだ洗脳が解けてないのだろうか、と思いイエロー確認、「……というか洗脳は解けたのか?」
「洗脳?……ああそういや」アフロを軽く振るブルー、「俺なんでここに居るんだっけ?確か時雨さんにアフロをああされて」
 首を傾げるブルーに、世の中には知らない方が良い事があるとばかりにイエローは肩を叩いた。とにもかくにも突然現われたアレはなんなのか、その疑問を優先しないと、
 すると、答えはロボの肩に乗っていた。「あ」
「どうしたのじゃイエロー殿?」「ああ、あれあれ」
 そう言ってイエローの指さす先には、「少し予定を前倒ししたが」
 鎧を纏った寡黙な男―――
「いい加減、俺の出番だと思ってな」
 鳴神時雨、Bパートでやっとアフロンジャー出演で、異界に配備されたカメラが初めて彼を映した時、
 そのファインダーから、つまりはロボの肩の上から消えた。「え?」そして、
「あの、皆様……私の事は覚えて」バキャッ!「げふ!?」
「あ、アフロDEパウロっ!?」
 死に体からやっと復帰してきた彼にメガトンパンチ。新体操の規定演技のように身体をのけぞらせて吹っ飛ぶブラック。こういう話だとこういう犠牲者が出てくるのである。
 しかしその加害者が、いかつい鎧を着た侭で、「仮面ライダーってなぁ」
 鳴神時雨、改造人間ヴォイドに変身する男。銀の戦士と誰かが言う。
 イエロー苦笑い、「夢の共演って奴か?」あれが相手というのなら、お手当のギャラをもらうべきじゃ?と彼は思ったが、オーロラさんはまた受け答え不能の死に体である。
 当然、仲間を傷つけられたら黙ってられないのがアフロ魂。ゆえに、
 いつの間にかという魔法を使って、煙草、愛用のラッキーストライクを一つ吸った、男、足下に落とし靴裏で潰した後、それを律儀に拾ってポケットに捨ててから、「許さねぇ」復活したばかりのアフロを揺らして、
「許さねぇっ!俺を洗脳するばかりかあいつを殴ってそれどころか燃やしやがって」燃えたのは事故であるが、そんなの無視してファイズ大佐、否アフロブルーは叫び、
 掌から剣を取り出した。
「む!?あれは伝説の剣アフロソードじゃなッ!」「え、知ってるのパープルちゃん!」
「そう言えば聞いた事があるのじゃ、その剣は友を失った時沸き上がる涙の池より出でる刃、APが12800に達した時に起きる奇跡なのじゃっ!」
 いや、退魔宝刀《泰山》って奴だから。アフロとかは全く関係無いから。素に戻って心の中で少女'sにつっこんだが、
 カキャァァン!
「……ライダーが不意打ちですかっ!」
「ライバルキャラだからな」
 硬質性の鞭が喉元に食らいつく惨劇を、刀で防ぐブルー、「うおぉぉぉぉっ!」と声をあげ、アフロを揺らし、飛びかかるが、
『《キャンセラー》ッ!』改造人間ヴォイドの特殊アタッチメントアームの一つ、『力場による盾の形成で、アフロソードの一撃を防ぐっ!』
 とうとうナレーションから本格的な実況に移行するシュライン。『一対一の戦いが展開して、いや、ここで加勢が入りますっ!白銀アフロがピコピコハンマーを取り出し振り下ろし――地面が砕けたぁっ!?ピコピコでこの威力とは、いや、しかし避けられては意味がありません。鎧ライダーは空中に、あっ!イエローがアフロの中に忍ばれていた銃、取り出し、飛散する岩の合間を縫って発射ッ!無防備な身体めがけて、しかしこの弾丸も届かないっ!』
 アフロンジャーの一気呵成の攻撃を、全て受け流していく時雨、番組はモリモリとヒートアップッ!が、
「の、乗り遅れてしまったのじゃーっ!?」
 というパープルの声さえ、マイクは拾ってくれない状況。「い、いかん唯でさえ登場が遅れとるというのに、この侭では地毛のアフロの素晴らしさも伝えられぬっ!」
 頭を(アフロを)悩ますパープル、大切なクラリネットを壊した時の歌のサビの部分を、延々と詠唱しようとした時、
「……ん?」
 そういえば、とパープルはすっかり忘れてた問題に視線を移した。
 三下ロボである。大業に登場した割に、普段の彼が如く全く弄られていないこの物体、
「………そうじゃ!」
 パープルは何か閃いた。

 ―――ダンス戦隊アフロンジャー!


◇◆◇


 鳴神時雨は改造人間であるが、当たり前、人間である時の方が多い。そして人間の食物はスーパーにある為、彼だって時々買い物をする。アパートの食堂を利用しないという訳じゃないのだが、
「この料理は並ばないからな」
 そういうってかごの中に――野菜無しの大量の肉
 福沢諭吉が一人飛ぶ、かなりの出費である。だが美味を前提とした時は、金の問題は二番目あたりに持っていかなければならない。大量の荷物を軽々と抱え上げて、時雨は愛機のバイクにまたがった。加速する。
 ここが住宅街で無ければ、バイクは音の壁さえ破る。改造人間に姿を変えれば、《重力制御》を駆使して空を駆ける事さえ可能。
 だがやはり人目という問題があるので、時雨は普通に彼の寝床、あやかし荘に帰還した。玄関でゴミを履いていた管理人に軽く挨拶してから、食堂の方へ移動した。さて、料理だ。
 さてここで普通、料理の準備となると手を洗って包丁を用意しあらかじめ皿も並べとく、っていうのが常であるが、時雨の場合は違っていた。
 改造人間ヴォイドに変身するのである。
 実際その必要はあるのだった、「よし」と静かに気合いを入れた後、彼はおもむろに肉の固まりをまな板の上に置き、
 全力で殴った。《ヒート》高温のプラズマによって破砕された肉は、あっという間にウェルダン、一粒一粒うまみをとじこめたミンチに生成された。
 このように次は鶏肉を、《重力制御》豚肉を《アクセラレーター》羊肉《ブレイカー》馬肉《ミラージュ》
 どれをどうやって使うかは聞いてはいけないが、超人能力をフル活用して下ごしらえし終えた肉を、後は大鍋にぶちこみ、二日間以上煮込むのである。シンプルでありながらかなり真似出来ない彼のオリジナル料理、
「さて、今日は丼でも食おうか」
 未来の味を楽しみにしながら、時雨は台所を出て行ったのであった。


◇◆◇


『……ステラさん』
「はい」
『なんで時雨さんの映像が流れたのかしら?』
「ええ、出演者の意外な日常も、演出に加えようと思いまして」
 アフロンジャー全く関係無いじゃん、というツッコミは無駄である。ステラ・ミラゆえ。と、ともかく!
『鎧ライダーとアフロンジャーの壮絶な死闘ッ!しかし、』
「えぇぇぇぇいっ!」
 白銀がピコピコハンマーを振り回す、回転ノコギリ、触れれば即死の勢いっ!
 だが直線的な攻撃を、鎧ライダーはひらりとかわした。「え、きゃあ!?」勢い余って崖にぶつかる白銀、だが、その威力で崖が倒壊した。「い、痛いなーたんこぶ出来ちゃったじゃん!おじさん避けないでよッ!」
「いや、普通はよけるだろ」雪崩れる瓦礫をみつめながら呟く鎧ライダー、
「しかし、お前達の力はそんな物か?」
「何っ!」
 すっかり悪から正義へと鞍替えした、アフロブルーは叫んだ。演技力高い。
「これでは世界を救う等、夢のまた夢だな。初代の方が無駄に行動力だけはあったが?」
「……たく、俺達は確かにイロモノ戦隊だが」
 アフロイエロー、目をきらりっ!「そこまで言われちゃ黙ってられないな!今度は、アフロンジャー全員で一気に―――」
 と、そこまでイエローが言った時、とっとことアフロ白銀、まずはアフロブルーの所まで移動。「?」という疑問符反応の彼のポケットから、「え?なんで洗髪用クリームを」取り出して、今度はとっとこと鎧ライダーの所まで、んで、
「私もアフロをやめるぞアフロンジャー!」「「えぇっ!?」」
 そう叫んでから保湿分高いクリームをモコモコに撫でつけて自分の長髪に負けないストレートヘアにっ!裏切り・完・了!
「何してるんだよ壱華ちゃんッ!」
「だってこっちの方が面白そうだよー」
 そう言ってにっこりポーズ、葉山壱華、順応力の高いノリで生きる鬼っ子。
 という訳で、二転三転するアフロンジャーである。「戦いを通して、団結力を促すつもりだったが」鎧ライダー、「この程度の絆だったら、カタをつけた方が良さそうだな」
 そう言って彼は、硬質性のムチの柄にあるボタンを、押した。
 刹那、背後が機動する。
 三下ロボ。
「あぁっ!?」
『金属音が呻りをあげるっ!首が回って涙も流すッ!そんなぁ編集長という泣き声も完璧に再現していたッ!』
 巨大なロボでありながらそのおろおろっぷりは、「さ、三下さん逞しくなっちゃって!」とブルーが錯乱する程であった。悪夢のような光景である。
 そして、ひらりとロボの双肩に移動する鎧ライダーと白銀ストレート、
「三下にやられるという、世界にも類を見ない情けない死に様を晒すがいい」
「よくわかんないけど、末代の代までの恥っぽいね」
 いや、良くわかってんじゃん。とか突っ込む余裕は二人に無い!
「たく、だから俺は悪役の方が良かったんだよッ!なんで三下さんと争わなきゃ」
「だからあれはロボって言ってんだろがッ!」
 そう言い合いながら二人がキャタピラの恐怖から逃亡を開始、しようとした、時、
 グラァッ!
 地震ッ!?突然の大地の揺れ――しかしそれは自然現象ではなく、
『アフロンジャーの最後の希望ッ!』
 ナレーションが叫んだ刹那、主題歌が挿入されるッ!つまり今は大盛り上がりの場面!連呼されるアフロをBGMにして、展開は、
「これぞ、」パープルの声は、「地毛のアフロによる力」
 遙か上から。そうそれは、

 アフロを被った僕らのヒーロー、
「超合金アフロロボッ!」

 イエローが、その勇壮なる姿を叫んだ瞬間、胸部の辺りから光が放射され、二人は三下の目の前でアフロロボに吸い込まれていく―――
「ふふふ、巨大な敵との対決もまた巨大、これが戦隊物のお約束じゃからな」
 コクピットに配置される二人、アフロ同士が擦れ合うッ!
「という訳で、いくぞイエロー殿ブルー殿ッ!わしの指揮でこの鋼の城を、正義の為に」
 ………、
 ……ええと、
「ツッコミいいかのう?」「ん?何よ源ちゃん?」
 いっせーの、
「なんでイエロー殿が真ん中なのじゃあっ!?」
 リーダーであるアフロパープルの席、一番右端。
「いや、だってさ、アフロロボ出そうと言ったの俺だもの。DXセット8000円で発売中ってのもね」
 そう笑顔で答えるイエローとは対照的に、ガビーンなパープル。一人冷や汗なのはブルーである。
「しかし、意見聞いてくれるんだったら、露出の高いねーちゃんもヨロシクして欲しかったよな」
「わ、わしの、わしの晴れ舞台がぁッ!」
「ま、とにかく、力合わせて行くぜっ!」
 少女の嘆きも爽やかに振り切り、アフロイエローは操縦桿を握るッ!身構える三下ロボ、「面白い展開にはなってきたな」「だけどあのロボ、アフロ被ってるだけだよね」さりげに厳しいツッコミである。
「まぁ、ロボがあってこその戦隊物だからな。……ところで」
 鎧ライダー、気付く、
「お前の持ってるそのモザイクはなんだ?」
「アフロ号」
 にっこし笑いながら、今し方仲良くなったばかりの犬と戯れる白銀。
『今ここに、アフロンジャーとサラサラ団の戦いはクライマックスッ!』敵に適当な名前を与え、『果たして戦いの結末はっ!?帰ってきたアフロンジャー一時間スペシャルッ!テレビから目を離すなっ!』

 ―――ダンス戦隊アフロンジャー!

◇◆◇


「この前さ、ちょっとした事で待ち合わせに遅れちゃったんだよ」
 黒いスーツと黄色のアフロは、喫茶店でインタビュー。
「彼女の心を寂しくさせた俺が悪い訳だけど、あの時は困ったね」
 だけど、
「こいつがあってくれたおかげで」アフロロボDXセット、「……これ以上は、言う必要も無いだろ?」
 アフロロボDXセット、8000円。
 家庭円満に、肩凝り腰痛にもお勧めです。


◇◆◇


「何時の間にこんなCMまで撮っていたんじゃー!?」
 各操縦席に配備されているモニターを見て、パープル絶叫。キャラが壊れてるのはAP二万の所為だと思いたい。ちなみにアフロブルーは、やっぱりイロモノ戦隊だよなぁと遠い目している。
「とにかく、行くぜ」もともと彼にしたって、乗り気じゃないはずのこの仕事。だが、今はロボを駆れる事に、少しの楽しみを覚えてるのか、文句もつっこみも一言も無い。
 そう、巨大ロボは男の夢、失えなどしない男の浪漫、
「……始動ッ!」
 満身の力を込めて、今一歩を、
 踏み出す―――
 途端、ぐら。「え?」巨大アフロロボ、足をあげた瞬間、

 前のめりに倒れた。

「………おい」
「………あれー」
 もの凄い音と砂煙をたてて撃沈したアフロロボに、サラサラ団呆然。
 勿論、コクピット内の三人も同じくである。アフロがエアバッグ代わりとなって助かったとはいえ、
「……イエロー殿」
「ああ……」
「今度はイエロー殿がつっこんでも良いぞ」
「……そうさせてもらうか」「ああ、俺もしていい?」「じゃあ三人同時で行くかのう?」
 いっせーの、
「「「なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!?」」」
 バス、アルト、ソプラノの三重奏つっこみ。「なんだよこれ!?なんで倒れてる訳ッ!?」「APが二万あるのじゃぞ!」
『ええ……それについてステラさんから解説があるわ』
 最早実況ですらない、シュライン・エマの声が響いて、
『本来ロボットの二足歩行というのは危険極まり無い物で、最近になってようやっと、小型の二足歩行ロボットが出来上がりましたが、巨大な建造物にそれを応用する場合、重心等の問題から、まず必ず失敗すると。それからAPはハナから関係無いみたいよ?』
「いや、特撮で現実を応用するかッ!?」「APが関係無いとはどういう事じゃあぁっ!」
 叫ぶ二人。死ぬ一人。最早気力も枯れ果てた感じである。
「……なんだか良くわからんが」という正直な感想を漏らす鎧ライダー、「あれは轢くかどうか迷うな」
「ねーおじさん、このロボってキャタピラで轢く以外に攻撃方法ないの?」「三下にそんな器用な事が出来るはずがかなろう」「ふーん」
 カンベンシテクダサイヨヘンシュウチョウー、の声が空しく響くだけである。まさにぐだぐだ収集が全くつかない。バラエテ異界のお約束として、オチがみつからない場合爆発オチが起動するらしいのだが、
『今回もそのパターンなのかしら……』「シュライン様」
 何気に、シュラインの傍らに居るスタンスを崩さないステラ、が、
「この原稿を読んでくださりませんか?」
『原稿?ステラさん何を』
 我々はすっかり忘れていたのである。
 三下がいないこの異界で、三下っぽいのになってしまった青年を。ゆえに見逃す所だった。
 彼のアフロが、煌めいている。


◇◆◇


 大阪の姉妹都市サンパウロ。
「キリマンジャローサンバカーニバールー(訳:やぁ、トム!ワイフとの新婚生活はどうだい?)」
「アントニーオ(訳:それが聞いてくれよスティーブ、僕が日曜日に居間でごろごろしてたら、ワイフの奴が子供を遊園地に連れて行けっていうんだ。そこで僕が子供は《風の》子だから僕に頼んでもしょうがないよって言ったんだ。そしたらあいつなんて言ったと思う?『貴方はにしきのあ』)「ロ、ロナウド!?(訳:は!?あれはなんだッ!?)」「カポエラー(訳:おいおいスティーブまだオチを言ってな)」
 その時、トニーの後ろが眩く光った。何事と振り返ってスティーブと同じ方向を見た、瞬間、
 光の矢が西の方向へ放たれていく―――


◇◆◇


『アフロンジャーの始まりの前、』怪訝な顔で原稿を読んでいくシュライン、『更に始まりがあった事を、人は知らない』
 唐突なナレーションに、シュラインと同じ表情で耳を傾けるアフロンジャーとサラサラ団。『先々代のアフロンジャーに、出会った一人の女が居た』
 その中でステラだけは、目を閉じて、昔を懐かしむような顔。
『それは彼からの預り物、始まりの始まりである黒のアフロ』
 、
『パウロ二世の祝福を受けたアフロ』
 そこまでをスラスラと読み終えた、時だった、
「あれ?」
 最初に気付いたのは壱華、空の方に、光る何か。
「なんだ、あれは?」
 二番目に気付いたのは時雨、光る何か、こっちへ向かって。
 向かって、来るッ!?
『え、えぇと!?』シュライン焦る、『そのアフロはバラエテ異界との友情を表し、極限までの危機に瀕した時、放たれる正義の閃光ッ!否、それは聖なるパウロパワー』
 大阪とバラエテ異界は違うだろ、というツッコミもイエローが忘れるモニターの現象っ!光は、ある一点へ、ボロボロの身体のオーロラへ!
 着光――刹那、
 パウロのアフロが輝きだした。「何っ!?」そして、光を纏ったオーロラ、倒れた状態から一瞬で三下ロボの前、両手を、地面に突き付け。
 蹴るっ!「きゃあ!?」蹴る!蹴る!蹴るッ!
 揺れに声をあげる白銀、キャタピラの部分が爆発するッ!回転が止まる、鉄が削れる、三下ロボが涙する!破壊主を見て、鎧ライダー、
「ブラジリアンダンスかっ!」
 サンバのリズムが何処からか流れる。一音一音に呼応して、アフロDEパウロは加速する。
 ―――ブレイクダンスの元が、両手を縛られた奴隷が、監視の目を盗むために踊りを模したカポエラである事、その知識は知っていても、
 実際の威力を知る者は少ない。ゆえに、驚嘆する。ロボが生身による蹴撃で揺らぐッ!
「そ、そんな、APが四万五万六万七万……ぬおぉ!?スカウターが壊れおったッ!?」「そんなの持ってたのか!?」
 パープルとイエローの漫才も、聞く耳持たず目を広げるブルー、彼の眼はある事に気付いた。「泣いている?」
『それは、』シュライン、『相手に対する悲しみより紡がれる蒼き雫、陽気なラテンのノリでさえ、覆い隠せぬ悲しみの瞳』
 泣きながら、慈しみながら、戦いの愚かを嘆きながら、それゆえに、
『泣くのだ』
 ―――ってなんだかしんみりするような展開だが
「……違いますから」
 単純に嫌がっていただけだった。ここでその事を強く叫ぶと、主人の機嫌を損ねるからやめとくが。
 とにもかくにも危機を迎える三下ロボ、巨大敵が隊員一人にやられる展開が今まであったろうか。あった気がする。
「仕方ない、ここは退くか」
「えー、逃げちゃうの?」
「捨て台詞を吐いて退散する、お約束だからな」
 その時雨の言葉を聞いて、なんだかつまらない気分の壱華。まぁアフロ白銀やめた後は、保護者の為のお土産とか、みんなで観光、
 ふと、下を見たのだ。
 そこにはモザイクがあった。つまりそれはアフロ号だった。モザイクがかけられていたが状況は解ったのだ。
 三下ロボの機械の溝にしっぽが挟まって怖がっているの。
「あぁぁあぁ!?」
 鬼のような叫び声が響き渡る。全員の、パウロでさえ、視線が少女に向く。
 その時にはもう行動を開始していた、「このバカロボォ!」ピコピコハンマー召還、それに、「アフロ号を」鬼の発火能力×2tトラック持ち上げる怪力×そのハンマー、
 ×仲良き者を傷つける者への怒り、イコール、「虐めるなあぁぁぁっ!」

 燃えるピコピコを嵐を起こす勢いで振り上げて、
 三下ロボの脳天にぶちかます。
 ――……ソンナ
 ヒドイデスヨォォォォォォ!
 機械音声の叫びと供に、
 ハンマーが、ロボの鉄の身体を灼熱で溶かし、竹のように割った。
 その侭、呆然と足が止まったパウロより前に降り立った白銀、「この―――」
 バカロボバカロボバカロボバカロボバカロボバカロボ!
 ヒエェヒエェヒエェヒエェヒエェヒエェヒエェ!
 乱舞するピコハン!咲き乱れる鳴き声!巨大な黒金の身体は蹂躙され、そして、
「バカロボォォォッ!」
 とどめの一撃を繰り出した、瞬間、
 三下ロボは爆発炎上した。

 ……長めの静寂の間を置いて、「アフロ号大丈夫!?」
 白銀が爆発から逃げおおせたモザイクを、抱え上げ、笑う。「こらー、くすぐったいよ」
 微笑ましい光景である。三下ロボを爆発させて、犬を密かに危機一髪させた事を忘れれば。
 しかしこれには問題があった。この番組はアフロンジャーである。アフロな戦士達の物語である、だがしかし、
 アフロ関係ない。
 全く持ってアフロは関係ない。いやピコハンは白銀アフロの能力らしいけど、ぶっちゃけ鬼っ子の能力である。やばいこの侭では次回から鬼っ娘ICHIKA☆というピコハンを振り回す魔法少女のような番組が始まる可能性が高く、
「まぁ、視聴率が取れるのでしたら、引き続き私がスポンサーとして」
「ステラ様……それでは私がアフロをかぶった意味は」
 がくっとうなだれるパウロ、ロボから出てきて、新鮮な空気を吸う気力も無いブルー、屋台の事を考え始めるパープル、露出高いねーちゃんはいなかったなと思い返してるイエロー、煮込みはうまく行ってるだろうかと考える鎧ライダー。
 彼等の全てが、アフロンジャーに興味を無くし始めていた、だがしかし、
 まだカメラは回ってる。
「さてと、早い晩飯でも食って帰るか」
「飯か、……煮込み料理を仕込んでいるが、ここで串カツを食いたい気がするな」
「俺はさっさと帰って三下さんとカラオケにでも」
「ねぇねぇ源ちゃん、今日アフロ号連れて帰ってもいい?」
「今晩屋台に返しにくるのなら構わぬ、その時はおでんでもご馳走」
 和やかな会話が停止する。
 ―――唐突であるが、貴方は鬼鮫なる男を知ってるだろうか?
 異界現象を抑える為か、己の何かを満たす為か、それで、直刀を振るう元ヤクザで、バラエテ異界外では、ハードボイルドに活躍する御仁、渋みをもった男である。
 例えばである、それが誰かの思いつきで、
 鬼鮫さんプラスアフロ、
 とかなった場合の答えは――
「地獄絵図、ですか?」
 オーロラの力無い笑いに、グラサンとアフロの素敵なコラボは殺戮を開始し「誰なのじゃこんな危険を呼んできおったのはぁッ!」「逃げるが勝ちだな、走るぞ!」


◇◆◇


「まさかちょっとした一言が、」ナレーションでは無いので『』は外しました。「拾われて、使われるとはねぇ……」
 彼女が《鬼鮫にアフロを被せ》たかったのか、《グラサンのヤクザに被せ》たかったのかは判別がつかないが、とりあえずオチはついたようだった。
 という訳で番組終了後、バラエテ異界の外である。皆が知ってる草間興信所―――
「でも、あの異界はおもしろかったわ武彦さん、今度一緒に行ってみない?」
「それは構わないが、シュライン」
 ああそういえば、一つ語られてない事、彼女がアフロンジャーに参戦した理由は、
 眼鏡をグラサンに変えてもらいました。
「俺は何時までこれを被っていれば?」
「似合うわよ武彦さん」
 アフロを被った草間をみてうっとりする彼女。
 シュライン・エマ。クッキーモンスターに惚れ惚れする女性。(ハスキーヴォイスにめろり


◇◆◇


 後日談、アフロンジャーの続編は思いの外好評を呼び、出演者のルックスが高く主婦層を取り込んだ結果だが、グッズの売れ行きも好調、極光堂も前よりかは客が来るようになった。(狼状態のオーロラさんが、店の客がアフロDEパウロの話題をした瞬間、身体がびくっと震える様子も観察出来ます
 変化が見受けられない物もそれはある。地毛のアフロを存分に発揮した源は、おでん屋台で新しいタネを探して奮闘中だし、藍原和馬もフラフラと仕事を変えるし、五代真は某編集者を懇意としている。
 ただ、思いっきり変化のあった人もあったようで、それはうららかな日曜日朝に放送された一発番組、
 テレビに映るのは無限の荒野、その中央に浮く鎧の男、
「偽の正義を翳す輩が増えている」倒れた人々を前に冷酷に、「それはその報いだ。その痛みは、お前達が傷つけた者の痛みだ。……消えろ」
 鎧ライダーの声が、落とされた刹那、
「そこまでぇ!」
 張り上げられる少女の声、「――誰だ」
 振り返った先には、流れ星とかハートとか飛び交う背景、背にして、
「正義の少女、鬼っ子ICHIKA!ピコハン片手にここに参上ぉ!」
「………正義か」キッ!「ならば、俺にその正義を証明してみせろ!」
「言われなくても、行っくよぉー!」
 手にしたピコハンが紅蓮に燃える―――
 というような魔法少女が肉弾戦で縦横無尽な番組の、バラエテ異界より漏れたゴーストTVの電波を、アンテナが運悪く拾ってしまった事で、壱華の家のテレビに映ってしまって、………保護者は海よりも深くうなだれたそうな。
 まぁそんなこんなでバラエテ異界は、今日も明日も、「ちょ、ちょっと待てぃ!?うちはどないしたんやうちは!こんな女帝みたいな服まで出番待って」平和である。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
 1057/ステラ・ミラ/女/999/古本屋の店主
 1323/鳴神・時雨 /男/32/あやかし荘無償補修員(野良改造人間)
 1335/五代・真/男/20/便利屋
 1108/本郷・源/女/6/オーナー 小学生 獣人
 1533/藍原・和馬/男/920/フリーター(何でも屋)
 1619/葉山・壱華/女/12/子鬼

◇◆ ライター通信  ◆◇
 やりたい放題しすぎました。(挨拶
 という訳でギリギリガールでこんにちは、早めに仕上げようと思いつつ、結局は何時も通りのエイひとですごめんなさいごめんなさい来年はきっといい年に!いい年にー!それと第一話とありますが続きがある訳でなく(テンパリ
 ちゅう訳で今回は急ぎ足でライ通の方を;プレイング、ナンバーワンよりオンリーワンな代物ですさかい、優越つける物ちゃうんでっけど、今回のエースは源のPL様でした。(をい)おでん屋台の方何時も拝見してます(こら)牡蠣のおでん等はどうでしょう?(こらこら
 ただ、とある方のとあったんでっけど、どうもそれに見受けられるような犬が相関や商品にあらへんでしたので、当たり障りないように変えました。申し訳ないです;しかし二万パワーは凄かった(何が
 ステラのPL様、……ある意味うちの異界に最も合わないお方。(こら)せやけど縦横無尽にプレイング張ってくれたので、気持ちよくそれにノレました。てか先々代が居たんかとびっくり。これからもよろしゅうです。
 和馬のPL様、和馬の口調をどうしようかと迷いましたが、プレイングの方に準拠させていただきました。矢張りロボを引っ張り出してくれたのは大きく、……活躍してねぇですが(をい)ツッコミ役も買って出てくれておおきにでした。和馬みたいなんが一人いてくれるだけで助かります。
 壱華のPL様、ええ、勝手にオチ使ってすいまへん(平身低頭)保護者の方は既に書かせて頂いていて、……正直出来が不安だったものですから、こう再会出来るとは思いませんでした;鬼っ子楽しく書かせて頂きおおきにでしたー。あ、ツッコミとあったのですが、過去作と掲示板を見る限り《ボケへの》ツッコミって感じやなかったので、……もし希望に添えなかったのならごめんなさい;
 五代のPL様、……白状するとちょっと試行錯誤しました(えー)いや、普段はええんですけどどうしても三下っちと絡む姿が脳裏にちらついて。生かし切れてなかったらごめんなさいです。刀とかもおざなりなっちゃってすいまへん;もっとガタイがええ事を前面に押し出したら(駄目です
 時雨のPL様、ええと途中でシチュノベを織り交ぜるネタは、ステラのPL様のプレで、けして時雨の登場シーンの帳尻を合わす為では!……ごめんなさい。(こら)いや、プレイングが短めやったさかい、これは俺の好きにしていいという事だな!と思い(えー
 シュラインのPL様、ええ、アフロですか。クッキーモンスターですか。素敵です。(をいー)正味ナレーションってどう絡ませばええねんとか思いつつ居なきゃならへん存在やったんやなぁと書き上げた後思いました。唯、シュラインの個性が出たかは……。……まぁクッキーモンスター好きですし。(えー
 というわけで異界二作目でした、来年まではシチュノベ中心開こう思います。よろしければ。ほなまた皆様よいお年をー