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<東京怪談・PCゲームノベル>


出現!天下無敵の暇人娘!

1.交渉
少しだけ草間興信所の扉が開き、細くしなやかな指が『おいでおいで』と手招きをした。
室内を物色していた三雲京子はそれに気がつかず、草間武彦は素知らぬふりをしてその招きに応じた。
「初めまして、功刀渉(くぬぎあゆむ)と言います。事の一部始終、僭越ながら聞かせていただきました。どうでしょう?僕にお手伝いさせていただけませんか?」
扉の向こう側にいた功刀は草間にそう提案した。
「あんた、手があるのか?」
「もちろん。そうでなければこのような提案はしませんから」
「・・・俺はあんたの力も何も知らない。非人道的なこととかはなしだろうな?」
「お嫌ならこの話、なかったことにしましょう。そこまで疑われてはこちらとしても、いささかプライドが傷つきますしね」
「いや、悪かった。頼みます。力を貸してください」
手のひらを返そうとした功刀に草間は平伏し謝った。
どうやらかなり追い詰められているらしい。
「では、交渉成立ですね。成功したら一緒に舞台鑑賞でもどうですか?成功報酬はそれで結構」
「・・・割りカンか?」
「すべて草間さん持ちに決まっているでしょう?」
「・・・よ・・よかろう・・・」
こうして功刀と草間の間に契約は交わされた。

2.演技
「は、初めまして、依頼人の功刀と言います」
功刀は少々怯えた風に三雲に言った。
「・・何?」
三雲が草間に訳がわからないと言った顔で聞いたが「いいから黙って聞け」と草間は功刀の話を聞くよう仕向けた。
「えぇ・・と、実は僕が今働いています建築現場で不可解なことが起こっていまして・・それの調査をお願いに来たんです」
「・・・あたしがやるの?」
「他に手が空いてるヤツがいない。行けるか?」
すがるような功刀を前に三雲は困惑顔をしていたが、草間にそういわれて悪い気はしない。
「い、行くわ!おじさん!あたしに任せなさいって!ちゃーんと解決してあげるから!」
この時の『おじさん』は実は草間をさしていたが、草間はどうやら功刀がそう言われたのだと誤解したようだった。
「さぁ!行こう!あたしの力見せてあげる!」
るんるんと三雲が草間興信所を後にする。
「・・確かにあれじゃこの興信所にとって有害以外の何者でもないですね・・」
三雲の足音が遠ざかったのを確認し、功刀がそう溜息をつくと草間がうんうんと頷き再び功刀に念を押した。
「絶対寄り付かないようにしてくれよ」
「わかってますよ。こちらも仕事である以上手は抜きませんよ」
功刀は草間に軽く手を上げ、三雲の後を追った。
案の定、三雲は草間興信所のビルの出入り口で功刀を待っていた。
当然と言えば当然。
功刀はまだ目的地を三雲に教えてすらいないのだから。
「現場はここからまだ歩きますから、歩きながら概要をお話します。あなただけが頼りなんです」
心底ほっとしたような笑顔をして功刀は三雲に不可解な出来事のあらましを話した。
「地下からうなり声のような恐ろしい声が聞こえてくるのです。まるで僕たち工事に関わる者すべてを呪うかの様な怨霊の叫び・・」
実際その不可解なことは存在した。
聞き手としては作り話と言うわけではなかったのでリアルに伝わったであろう。
ただ、その事象はすべて科学的根拠に基づいて解決できるものであり、功刀が話して聞かせたようなおどろおどろしいものが介入しているわけではなかったのだが・・・。

3.策略
「こ、ここです。今は昼間でも立ち入り禁止にしてあります」
「・・あ、案内してく、くれる?」
三雲の声がわずかに上ずった。
どうやら建設中のビル、しかも曰く付きと知ってビビったのだろう。
「こちらへ」
「・・エレベーターは?」
「今のところ階段が唯一のルートで・・・」
「・・・」
本当はすでにエレベーターも稼動していたが、そう刷り込ませることにより心理的に圧迫を与えておこうと功刀は考えた。
一応視認性の高い工事用の明かりは配置されていたが、あえて今回はそれを使わず懐中電灯を使ってさらに恐怖を引き立てる。
階段を使って地下へと下りる2人。
先導する功刀がちらりと後ろを振り向くとやや青ざめて口を閉ざし目が落ち着かない三雲の姿があった。
「怖いんですか?お願いしますよ?あなただけが頼りなんですから」
「こ、怖いわけ・・ないじゃない!だだだ・・大丈夫!」
声が震えている。どこが大丈夫なんだか。
功刀は「頼みますよ」と何食わぬ顔で地下フロアへと降り立った。
「・・ここです。この奥から・・」
「ちょっと、み、見てくるから・・」
ふらふらと三雲は奥へと進んだ。
さて、少し懲らしめましょうか。
功刀は数枚の紙を取り出した。そして、なにやら呟くと紙はひとりでにフワフワと三雲の後を追う様に飛んで行った。
普段は使役しない式神たち。まぁ、こんな風に使うのは僕ぐらいなものだろう・・・。
功刀はその成果が出るのを待つことにした。
結果はすぐに現れた。
「きゃああああああぁあぁあ!」
ものすごい悲鳴が地下にこだました。
どうやら効果がありすぎたようだ。功刀の耳が痛んだ。
「でたー!でたーでたーーーー!!!」
どたばたとものすごい勢いで走ってくる三雲の姿が奥から現れた。
「幽霊!火の玉!いやーーー!!あんなの出るなんて聞いてないよ!」
「ゆ、幽霊!?火の玉!?」
功刀は心底びっくりした・・・ように驚いて見せた。
「いやー!!もう帰る!!」
「そ、そんな!約束が違うじゃないですか!ちゃんと解決していただかないと!」
「知らないもん!男のくせに女の子に頼るなんてサイテー!」
三雲はそんな捨て台詞とともに階段を一気に駆け上って退散した。
「・・意外に呆気なかったな・・」
功刀は少し笑うと自分も建設中のビルを後にした。

4.終結
「・・東京公演のS席を2枚手配しておいた」
「ちょうど見たかったものです。お心遣いに感謝しますよ」
草間興信所で功刀は草間に三雲の件に関する報告をした。
草間は痛い出費なのか、少々苦虫をかんだような顔でチケットの話をした。
「ところで、本当に三雲はもう来ないんだろうな?」
「まぁ、仮に来たとしてもこう言えばいい」
そこで一旦功刀は言葉を切り、眼鏡を中指で押し上げた。
「『仕事に失敗した以上、君に仕事を回すことはできない。回せば草間興信所の信用がなくなるので今後立ち入らないで欲しい』・・と。前歴のない状態でこの言葉を言っても切り返されるだけでしょうが、今回の件があればいくらでも追い返すことはできるでしょう?」
「・・なるほど。俺もそこまで仕事にシビアにならなければいかんな」
草間がタバコを1本取り出した。
「いや、僕みたいな人間も居ればあなたみたいな人も居る。だからこの世は成り立っているんですよ。じゃなければ僕の仕事もなくなってしまいますからね」
功刀が薄く笑った。
タバコに火をつけた草間が、一息つくと「そうだな」と笑った。

この日から、功刀は草間の信頼を得ることとなった。
報酬は毎回費用・草間持ちの観劇・・という一風変わった関係であったという・・。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2346 / 功刀・渉 / 男 / 29 / 建築家:交渉屋

NPC/三雲京子/女/16/女子高生

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■         ライター通信          ■
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功刀渉様

初めまして、とーいと申します。
このたびは「出現!天下無敵の暇人娘!」へのご参加ありがとうございます。
ノベル商品は初めてのようでしたので、「嫌みったらしい口調」という感じが出ているか心配ですが楽しく書かせていただきました。
しかし、『演技をする』というプレイングにどこまで崩していいものだろうか・・?と悩みました。
三下のごとく失神・・させる前に三雲が音を上げました。(笑)
今後、三雲が草間興信所にもし来たとしても草間に入れ知恵したことにより草間本人が追い返すことと思います。
そういった意味で綺麗で後腐れのない撃退の仕方ではないかと思います。
それでは、またお会いできる日を夢見て。