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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


鏡の中の迷宮

オープニング



鏡の中に写った自分は、本当の自分だと思う?

―ドッペルゲンガー
自分と同じ姿、声を持つ人物をそう呼ぶ。
彼らは鏡の中から現れるとも言われているが
それが本当のことなのかは定かではない。

題名:鏡の中の迷宮
投稿者:レオナ
本文:夜中の零時ちょうどに鏡の中を覗き込むと鏡の中に引き込まれちゃうんだって!
それで鏡の中の自分と入れ替わっちゃうらしいの。

ゴーストネットに新しく書き込まれたのは、自分と同じ姿をもつドッペルゲンガーのことについてだった。
貴方は、その書き込みを見てふとした好奇心から鏡を覗き込んでしまい、
鏡の中に引き込まれてしまう。



視点⇒月見里・千里


「…はぁ…」
 今日何度目かの溜め息、最初は数えていたそれも数が多くなるにつれて数えなくなった。そして携帯電話を見る。

―着信なし

 念のためセンターにメールが届いていないか確かめてみる。

―新着メールはありません。

「はぁ…」
 また溜め息。『着信なし』『新着メールはありません』この言葉を何回、何十回見ただろう。

「…ばか…」
 この言葉も何度も言った。そんな追い詰められている時だった。ゴーストネットの書き込みを見たのは…。
「…鏡の中の自分と入れ替わる?」
 入れ替わったら、自分はこんなに苦しむ事はなくなるだろうか…。その思いが千里に鏡を見させる事となった。
「本当に鏡を見ただけで鏡の中の世界にいけるのかなぁ」
 零時ちょうどの時計の音を頼りに鏡を覗き込む。
「え?」
 ふと、鏡にうつった自分がこちらを見て笑いかけている。
「きゃ…」
 千里は怖くなって鏡から離れようとしたが、時はすでに遅し。鏡の中から現れた手によってグイッと思いっきり引っ張られる。
「いたっ」
 引っ張られる際に髪の毛まで引っ張られ千里は小さな悲鳴をあげた。




「こんばんは」

 そして、今に至る。
 目の前にいるのは千里、そして自分も千里。どうやらここは本当に鏡の中のようだ。
「はぁ…これが自分だなんて嘆かわしいなぁ…」
 ドッペルゲンガーの千里がポツリと呟いた。もちろん千里としては心外だ。
「何が嘆かわしいのよ!」
「…自分勝手なところ、うじうじ悩むところ、例えをあげればキリがないわよ」
 はぁ、ドッペルゲンガーは溜め息をつきながら答える。千里としては本当のことなので言い返すことはできなかった。
「な、悩むのが悪いの!?」
「そしてすぐ感情的になる。しかも私だけがつらいのよ…なんて悲劇のヒロインぶっているところがもっと嫌」
 ドッペルゲンガーは千里を追い詰めるかのように物事をはっきり言ってくる。
「たった一週間そこそこ会えないくらいで浮気がどうのって…あ〜嫌嫌」
 ドッペルゲンガーは手をひらひらとさせながらオーバーリアクションをしている。
「あなたなんかに…あたしの気持ちは分からないわよ…」
 千里は下を俯きながら小さく呟いた。そんな千里を見てドッペルゲンガーは「はぁ…」と溜め息を一つ漏らした。鏡の中での千里も、現実での千里も溜め息をつく癖があるようだ。
「そんなに苦しいのが嫌ならここにいれば?考えなくてすむでしょ?代わりにあたしが向こうの世界で生活してあげるわ」
 いいアイデアでしょ?とドッペルゲンガーは言う。
「そうね…それもいいかもしれない」
 元気のない声で千里は呟く。その態度がまたドッペルゲンガーの怒りを煽る事になるなど千里は気づいてなかった。
「だったらここで暮らせば?じゃあね。あたしは現実の世界で暮らすことにするから」
 クス、と意味深な笑みを浮かべてドッペルゲンガーが消えた。そして、残された千里は何をするわけでもなく、その場に座った。ヒヤリとした床が気持ち良い。
「…………どうするかなぁ………これから…」
 鏡の中の世界といっても漫画のように自分の部屋と同じ場所がそこにあるわけではない。静寂と孤独のみが支配する鏡が無数に置かれた場所。はっきり言って10分で飽きる世界だ。
「【私】はこんなところで16年間も暮らしてたのかぁ…、あ…携帯持って来ればよかった」
 でも電波届かないかも、と結構楽天的に考えている千里。
 −自分勝手なところ。
 ふとドッペルゲンガーに言われた言葉を思い出す。
「自分勝手、なのかなぁ…」
 好きだからこそ、連絡は取りたいと思うのはワガママなんだろうか…?
 −うじうじ悩むところ
「…悩んでは…いるけど…」
 お互いがすれ違ったりして悩むのはいけないこと?
「………帰りたい…」
 色々思い出していたら現実の世界が恋しくなってきた。
『どう?その世界は』
 目の前の鏡から声が響く。千里が目をやるとドッペルゲンガーのうつった鏡があった。周りのものを見ると自分の部屋にいるようだ。
『外の世界って楽しい事ばかりね。かっこいい人はたくさんいるし。おいしいものはあるし』
「ちょ…ちょっとかっこいい人って…」
『街であった人だけど?』
「やめてよ!何してるのよ、友達とかに見られたら…」
『関係ないでしょ?あなたはもう、こっちの世界とは関係のない人間なんだから、そこの鏡からあたしのすることを指をくわえてみてるのね』
 ドッペルゲンガーはクスクスと笑いながら千里を見る。
「や、めて。悩むのもわがままになるのも当たり前の事よ。あたしはそっちに戻りたいんだから!」
 そう叫ぶと同時に回りの景色が変わる。
『半日か、結構長かったわね』
「え?」
『あなたが元に戻りたいって思えば戻れるようにしておいたのよ。いつまでも戻りたいって思わないから本当にあたしはこっちで暮らしていいのかなぁ、なんて思っちゃったけど』
 クス、と鏡の中のドッペルゲンガーが悪戯っぽく笑う。
『あなたは悩めばいい。悩んで何を手にするかはあなただもの』
 じゃあね、といってドッペルゲンガーは消えた。千里の目の前の鏡にはいつものように自分の姿がうつっている。

 ただ、このどうしようもない気持ちだけが今までの事を夢ではないと千里に分からせていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生

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■         ライター通信          ■
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月見里・千里様>

初めまして、瀬皇緋澄です。
今回は『鏡の中の迷宮』に発注をかけてくださいましてありがとうございます!
『鏡の中の迷宮』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです^^
では、またお会いする機会がありましたらよろしくお願いします^^


        −瀬皇緋澄