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調査コードネーム:伝説の魔獣
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :草間興信所
募集予定人数 :1人〜4人
------<オープニング>--------------------------------------
季節は晩秋を過ぎ、街は嫌々ながらに冬の装いを始める。
気の早いビジネス業界などは、すでにクリスマス商戦の準備に手抜かりはない。
もっと気の早いファッション業界は、もう春の新色の発表までおこなっている。
首都東京が壊滅的な大打撃を受けた後だというのに、元気なことだ。
「アンタが噂の嘘八百屋か」
男が言った。
「あなたが、お噂の怪奇探偵どのでございますね」
もう一人の男が言う。
場末の喫茶店。
ファッションとは無縁の男たちがテーブルを挟んで額を寄せている。
一方は今時珍しい着流し姿。他方は着崩したスーツだ。
テーブルの上には新聞が置かれ、見出しに不吉な文字が躍る。
曰く「クールトーの再来か!?」
ここ数日、都内で獣に殺されたと思われる死者が相次いでいる。
すでに被害者は八名。
北海道の片田舎ですら、羆に殺されるなどという事件は稀であるのに。
「フランスの狼王ねぇ」
「いかに凶猛でも、シートンが著したクールトーは普通の動物でございました」
「普通の狼が人間を食うかよ」
「飢えればなんだって食しますよ。それは人間も同じですね」
「ま、そりゃそうか」
「ですが今回は、自然界の法則の外側にあるようでして」
「それでわざわざ北海道から出てきたってわけか。ご苦労さんだな」
草間武彦の言い草に、嘘八百屋が苦い笑いを浮かべた。
和装の男が住む北の島は、現在は安定している。
将来に渡ってもそうとは限らないが、東京の混乱に比べればはるかにマシだ。
「ちなみに、この件を怪奇探偵どのはどうお考えです?」
「金持ちが猛獣をペットとして飼うのは良くある話だ。それが逃げ出しただけって考えるのが普通だよな。けど‥‥」
「保留付きですか」
「それなら届けが出ていてもおかしくないだろうし、八人も被害者が出るのはおかしいな」
「まったくその通りです」
「となれば、アンタの言った自然法則の外側ってやつが正解だろう」
にやりと笑った草間が、さらに付け加えた。
「もちろん心当たりがあるんだろ?」
「キマイラ。獅子と山羊の顔を持ち、蛇の尾と竜の翼を持つ怪物です」
淡々と応える嘘八百屋。
怪奇探偵の頬を汗が伝う。
汗が噴き出す気温などではないのに。
※バトルシナリオです。推理の要素はありません。
敵は合成獣(キマイラ)。バトルフィールドは東京の市街地です。
合成獣なわけですから、だれかが合成したわけですね。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
受付開始は午後8時からです。
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伝説の魔獣
人と獣の戦いといえば、クールトーとフランス騎士団が有名だろう。
舞台は英仏百年戦争の末期。
パリを襲う狼の大群。
次々と喰い殺される人間たち。
この狼群を率いていたのがクールトーという名の巨大な狼だ。
悪魔のように奸智に長けていたという。
戦争と飢饉で痛めつけられた花の都を奔る黒い影。
凍結したセーヌ川を駆け抜け、ノートルダム寺院の聖職者たちを喰らい、フランス騎士団と死闘を繰り返す。
最後、クールトーは騎士団長の剣に胴体を貫かれながらも、相手の喉に食らいつき相打ちとなる。
この壮絶な物語は、動物文学で有名なシートンが小説化している。
日本語タイトルは「フランスの狼王」だ。
おなじ狼王でも、ニューメキシコのロボとは大きな違いである。
ロボはけっして人間を襲わず、詩的ともいえる孤高の生涯を送った。
ひるがえってクールトーは、冷酷非情な悪魔そのものである。
「でも、こいつはクールトーより悪魔だね」
御影涼が言った。
左肩から血が流れている。
キマイラの爪で浅く薙がれたのだ。
午前四時の東京。
大都会に突如として出現した戦場。
戦うのはフランス騎士団とクールトーではなく、怪奇探偵たちとキマイラだ。
「ぐちらないぐちらない」
光月羽澄の鞭が唸り、
「手負いにしてしまった以上、完全に息の根を止めしかない」
守崎啓斗の手裏剣が飛ぶ。
戦況は、一進一退を続けていた。
数の上なら人間たちの方に軍配が上がるが、なにしろ相手は魔的な力を持った合成獣である。
致命傷にはほど遠いものの、無傷の仲間は一人もいない。
「くっ!」
巫灰慈が繰り出した闇色の刀が、獅子の牙に受け止められる。
「灰慈っ! 前に出すぎっ!!」
シュライン・エマが矢継ぎ早に撃ち出された不可視の矢が、次々とキマイラの周囲に着弾し、土埃をあげる。
もちろん胴体を狙ったのだが、この世のものとは思えぬ反射神経で回避されてしまった。
大きく飛び退さがるキマイラ。
巫の腕に、痛いほどの痺れが残る。
刀をもぎ取られなかっただけでも幸運というべきだろう。
「これならどうです」
斎悠也が呪をつむぎ、雷光が槍となってキマイラに降りそそいだ。
が、
山羊の首がひときわ高い嘶きを発すると、風に溶けるように雷の槍が掻き消える。
「アンチマジックシェル‥‥」
羽澄がうめく。
魔術に詳しい彼女には、判ってしまったのだ。
魔獣が、どのような手段で斎の術を無効化したのかを。
それは、魔法防御と呼ばれる魔術。
魔法を打ち消すための魔法。
このキマイラを創造したものは、かなり魔法に精通した人間らしい。
「気を付けて‥‥魔術攻撃は意味ないわよ‥‥」
「ああ。そうらしいな」
「厄介だね」
それぞれ愛刀を構え直す巫と御影。
肉弾戦では敵に軍配があがり、魔法戦は意味を持たない。
状況は、けっして良くなかった。
だが、むろん逃げるわけにも退くわけにもいかない。
どのような獣が相手でもそうだが、一度手負いにしてしまった以上、完全に息の根を止めるしかないのだ。
それが「狩り」の鉄則である。
怪我をした獣は、それがたとえ草食獣でも凶猛さを増す。
「ここからが正念場ね‥‥」
「ああ」
「あまり気は進みませんが‥‥」
シュラインの言葉に啓斗と斎が頷いたが、黒髪の大学生の表情は複雑だった。
夜明けまで、あと数時間。
人の目に触れる前に、片を付けなくてはならぬ。
至難を極めたとしても、一般人にキマイラを見せるわけにはいかないのだ。
キマイラ退治の依頼を聞いたとき、斎は、殺すのではなく自分が保護しようと申し出た。
何のために生み出されたのかは判らないが、命は命だからだ。
都会で飼うなど論外であるが、実家に連れて行けばスペースだけは充分にある。
その提案を一笑に付したのが巫と御影と啓斗の三人だ。
作戦前の興信所。
実戦部隊六名が参集していた。
キマイラを飼うなど、非現実すぎる。
それに、問題の魔獣は八人もの人間を喰い殺しているのだ。
人の味を憶えてしまった獣を飼うなど、無謀を通り越して不可能だ。
その程度のことが判らない斎ではない。が、しかし、やはり可哀相になってしまう。勝手に生み出され、意味も価値も与えられぬまに殺戮に駆り出されたキマイラが。
だれが、なんのために、こんな哀れな生命を作ったのか。
「それなんだけどね。一応、羽澄が絞り込んではくれたわ」
優しげな瞳でシュラインが言った。
彼女も、基本的にはキマイラを殺すことには反対である。
生来の優しさもあるが、それ以上に、たくさんの死を見てきたから。
陰陽の一族、ロシアの魔術師たち、バチカンのクルセイダー、何百人もの自衛隊員。それに、イーゴラに玉ちゃん‥‥。
もうこれ以上、命が失われるのは見たくない。
それは衷心からの思いだ。
だが、キマイラを放っておけば、もっと多くの人が犠牲になるのだ。いやだろうとなんだろうと、戦わざるをえない。
「佐島浩介。一八歳。キメラを造ったと思われる男よ」
羽澄がメモを読み上げる。
キマイラを殺さずに済むかもしれない唯一の方法を、女性二人で探っていたのだ。
つまり、製作者の命令によって殺戮をやめさせる。
簡単ではないかもしれないが、やってみるだけの価値はあった。
そこで浮かび上がったのが、佐島という男である。
「一八‥‥? そんなガキに合成獣が作れるものなのか?」
首をかしげる巫。
当たり前の話だが、魔術を教える学校などない。
その佐島とやらは独学で魔術を学び、キマイラの生成まで辿り着いたということだろうか。
にわかには信じられないような話である。
「信じられなくても」
「事実は事実なんだろうね」
啓斗が目を伏せ、御影が腕を組んだ。
魔術に限らずどんな技術そうだが、一人前になるのは大変で、一流になるのはさらに難しい。
幼少の頃から訓練を受けてきた啓斗ですら、まだまた一人前の忍者とはいえないのである。
にもかかわらず、一八歳でキマイラ作成などという超高等技術を修めるなど。
「べつに魔術の家系ってわけじゃないわよ。念のために言っておくけど」
先回りしたシュラインが微笑した。
「となると、どういうことなんだろうなぁ」
ぽりぽりと頭を掻く御影。
どうも、想像が負の方向にしか向かわない。
「どういうことかしらね‥‥」
暗然と呟くシュラインだった。
『破っ!!』
貞秀の黒い剣光と黄天の白い剣光が交差し、魔獣に無数の傷を刻む。
堪らず上空へ逃れようと翼を広げるキマイラ。
だが、
「3D戦闘になると、しんどいんでね」
数本の手裏剣が空を裂き、竜の翼を貫いた。
不敵な微笑を浮かべる啓斗。
怒りの咆吼。
モンスターが大きく息を吸い込んだ。
得意のファイアブレス。
一瞬後、探偵たちに向かって炎の舌がのびる。
「大いなる‥‥風!!」
シュラインの手から放たれた風が、壁となって炎を押しとどめた。
「長くは保たないわよっ! 羽澄っ!!」
「判ってるっ」
いうがはやいか鞭が閃き、キマイラの尾に絡みついた。
「あとはお任せあれ」
少女の横から斎が声をかける。
軽く頷いた羽澄が鞭を渡した。
「あまり手荒なことはしたくありませんが‥‥」
大きく腕を振る金瞳の大学生。
振り回された魔獣が、二度三度と地面に叩きつけられる。
見かけによらず、すさまじい剛力だった。獅子の口から血の塊がこぼれる。
「すまねえが」
「片を付けさせて」
「もらうよっ!!」
巫、御影、啓斗が最接近戦を挑む。
貞秀が、黄光と黄化が、小太刀が禍々しい軌跡で見るものの目を奪う。
斬れ飛ぶ翼。
抉られる胴体。
貫かれる山羊の首。
戦闘開始から一時間あまり。
勝敗は、ほぼ決した。
人間たちの勝利という形で。
危険な場面は幾度もあったが、チームワークと作戦が勝因であろう。
たしかにキマイラは強大な力を持っている。
しかし、結局のところ多勢に無勢だった。衆寡敵せずという箴言の通りだ。
「トドメを、刺させてもらいます‥‥」
ゆったりとした足取りで、斎が魔獣に近づく。
もはや、キマイラを救う手段などない。
だからせめて、これ以上の苦痛を与えずに殺してやろうと思ったのである。
偽善かもしれない。
だが、ほかに何ができるというのだ。
静かに青年の手が振り上がる。
そして‥‥
「わざわざ手を汚してくれようというのはありがたいが、ペットの始末は飼い主の責任だろう」
闇の彼方から響く声。
滑稽なほど軽い音を立てて爆発四散するキマイラの肉体。
それが、勝手に造られて、都合よく使役されきた魔獣の最後だった。
「‥‥やっとあらわれたわね‥‥佐島浩介」
シュラインが、わずかに掠れた声を絞り出す。
じりじりと後退しながら。
圧倒的なまでのプレッシャー。
「よく僕がくると判ったな。怪奇探偵」
無造作に歩を進める一八歳の少年。
さっとフォーメーションを組み直す探偵たち。
前衛に巫、御影、啓斗。中衛に斎と羽澄。後衛にシュライン。一秒の遅滞もなく戦闘態勢に移行する。
ふっと佐島が笑みを浮かべた。
異様なまでに白い顔が、まるで能面のようだった。
「見事なチームワーク。僕のキメラが負けるわけだ」
「お褒めにあずかり光栄の極みだぜ‥‥」
巫の軽口すら、やや精彩を欠く。
それにかまうことなく、五メートルほど距離を挟んで対峙した少年が口を開いた。
「ところで、まだ質問に答えてもらっていないんだが」
「あなたは行方不明ということになっていた。キメラに喰い殺されたのでなければ、行動を共にしているってことでしょ」
答えたのは羽澄だ。
「なるほど。帰納法的な推理というわけか」
「いったい何をたくらんでるんですか?」
次に言葉を紡いだのは斎だった。
端正な顔には、苦々しい怒りが広がっている。
「べつになにも。僕は、逃げ出したキメラを追ってきただけだ」
「嘘ね」
飄々と答える少年に、冷水のような声を浴びせるシュライン。
「ほう?」
「アンタは、その哀れな魔獣に命じて人を殺させていた」
「どうしてそう思う?」
「殺された八人が、全部アンタの関係者だから」
「繋がりなど、なにもないはずだがな」
瞳を細める佐島。
まるで、猫科の肉食獣の笑いのように。
「繋がりはあるわ。間に一人はさむことによってね」
「‥‥‥‥」
「伊藤美奈。アンタが中学生の時にお世話になった教師。一年前、生徒たちからのいじめを苦に飛び降り自殺を図っているわ。一命は取り留めたけどずっと植物状態ね」
「‥‥‥‥」
「復讐ってわけ?」
「そう‥‥それもあった。だが、僕の目的は復讐だけではない」
「‥‥もしかして!?」
はっとしたように呟く御影。
巫と啓斗、斎と羽澄もそれぞれ顔を見合わせた。
おぼろげながら気づいてしまったのだ。佐島の目的に。
「てめぇ‥‥『人間』を造るつもりだな‥‥?」
「ご名答。現代の医学では先生を元に戻すことはできないからな。だから、キメラに部品を集めさせていたんだ」
闇色の刀を構えた青年に、無造作に立った少年が笑いかける。
彼は、人間を『合成』するつもりなのだ。
医学によって不可能なことを、魔術によって可能にしようとしている。
「狂ってるぜ‥‥」
啓斗が呻く。
「そうかもしれんな」
佐島は否定しなかった。
さらに彼の言葉は続く。
「僕には力が必要だった。だから、契約を結んだ」
シャツの胸を大きくはだける。
「ダビデの‥‥星‥‥」
羽澄は知っていた。
少年の胸に刻まれた刻印が、悪魔との契約によって印されるものだということを。
そして、もうひとつの事象も明らかになる。
どうして何の修行も積んでいない一八歳の少年に、伝説の魔獣が創造できたのか。
解答は、悪魔との契約である。
これによって、彼は膨大な量の魔導知識を手に入れたのだ。
「‥‥なにを差し出しました?」
質問は、斎の口から発せられた。
黒髪の大学生には悪魔との契約についての知識がある。闇の眷属たちがなんの見返りもなくボランティアなどしないことも知っている。
「僕には、姉がいた」
淡々と過去形を使う佐島。
「‥‥外道め‥‥」
ぎりりと奥歯を噛みしめる御影。
少年は、自分の目的のために実の姉を犠牲にしたのだ。
「外道だったらどうする?」
「決まり切ったことを聞くなっ!!」
積極攻撃型に属する巫が突進した。
啓斗と御影も続く。
そして‥‥。
「く‥‥っ!!」
佐島の三〇センチ手前。
闇の刃も、霊刀も動きを止めていた。
ばちばちと火花が散る。
防御結界と魔剣たちの攻撃力がせめぎ合い、霊力の共食い現象が起きているのだ。
それにしても、三対一で、なお守りきるとは。
「こいつも契約の力かっ!?」
「そういうことだ」
「じゃあ」
「五対一ならどうかしら」
攻撃に加わる斎と羽澄。
じりじりと削られてゆく結界。
「甘いな」
佐島が魔力を解き放つ。
弾き飛ばされる探偵たちだったが、
「まだまだぁ!!」
一瞬後、ふたたび突撃する。
いくつもの傷を負いながら。
退くことなく。飽くことなく。
「力押ししか芸がないのか?」
青白い魔力塊で斎を打ちのめした佐島が嘲弄した。
「雨だれだって、ずっと続けば意志に穴を穿てるんですよっ」
弾き飛ばされざまに伸ばした爪が少年の頬をかすめ、ごく微量の鮮血が宙を舞った。
ついに防御結界が破れたのだ。
「小賢しい世迷い言をっ!!」
ふたたび脹らみ解き放たれる魔力。
先ほどよりもさらに強かった。
けっして小柄とはいえない巫や御影が数メートルは飛んでビルの外壁に叩きつけられ、啓斗と羽澄は無様に地面に転がる。
このときになって、佐島は気が付いた。
探偵たちの後ろにいた女の姿がないことに。
「逃げたか‥‥?」
「いいえ」
婉然たる声は上から聞こえた。
「なっ!?」
慌てて振り仰ぐ佐島。
上空で変なポーズを取っているシュライン。細密に観察すれば、それは弓を引き絞る姿勢であることに気づくだろう。
「これで終わりよ‥‥滅びの風‥‥」
右手が見えない弦を弾き、見えない矢が四本一体となって撃ち出される。
「く‥‥けっか‥‥」
佐島は最後まで呪文を紡ぐことすらできなかった。
崩れる。
崩れ去ってゆく。
風に吹き散らされる砂の城のように。
少年の身体を消滅させてゆく。
長い時間のようにも思えたが、実際には一秒足らずの出来事だった。
ふわりとシュラインが軟着陸した。
不可視の弓、シルフィード力を使って宙を舞っていたのだ。
その行動を隠すため、仲間たちが単純な攻撃を仕掛けていたのである。
またもや作戦勝ちというべきであろう。
だが、シュラインの蒼い瞳には勝利の喜びは一グラムも浮かんでいない。
「‥‥とうとう人を殺しちゃったわね‥‥私‥‥」
呟き。
自嘲を込めた。
黙ったまま、巫がその肩に手を置く。
空が明度を増してゆく。
大都会に、朝が訪れようとしていた。
エピローグ
翌日。
東京都内のとある廃倉庫で火事があった。
火の手は意外に強く、一体の倉庫群を全焼させてしまったが、幸いなことに死者は出なかった。
もともと使われていなかった場所であり、根城にしているホームレスたちもしばらくは倉庫に近づいていなかったから。
「放火犯か‥‥いまさら嘆くほどでもないけどな」
「ハクがついてしまったね。また」
啓斗の言葉に、御影が肩をすくめる。
「まあ、あれを人目に晒すわけにはいかないですから」
「そうよね」
斎と羽澄が微笑した。
放火という大罪を犯した四人組が、興信所の応接間でくつろいでいる。
燃やされた倉庫は、佐島が研究室兼実験室として使っていたのだ。
後始末というわけだ。
「みんなご苦労さま。お茶でも煎れるわ」
シュラインが言う。
普段の彼女だった。
やや気遣わしそうな視線を、巫が同年の美女に送る。
午後の日差しが窓越しに降りそそぎ。
スチーム暖房がウォーターハンマーを打ち鳴らしながらレゾンデートルを主張していた。
終わり
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/ シュライン・エマ /女 / 26 / 翻訳家 興信所事務員
(しゅらいん・えま)
1282/ 光月・羽澄 /女 / 18 / 高校生 歌手
(こうづき・はずみ)
0164/ 斎・悠也 /男 / 21 / 大学生 ホスト
(いつき・ゆうや)
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / フリーライター 浄化屋
(かんなぎ・はいじ)
0554/ 守崎・啓斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・けいと)
1831/ 御影・涼 /男 / 19 / 大学生 探偵助手
(みかげ・りょう)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「伝説の魔獣」お届けいたします。
先週に引き続き、後味の良くない話です。
どうも最近、作品が暗いですねぇ。
わたしのバイオリズムが低下してるんでしょうかー
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。
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