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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人魚の傷跡

オープニング

不老不死と聞いたら、まず何を想像しますか?
色々な薬草?怪しげな儀式?
多分、みんなが思いつくのは『人魚』じゃないかしら?
人魚の血、人魚の肉は万能の薬としても知られているわよね。
女性だったら永遠に若く、美しくありたいと願うのは当然だと思うわ。
男性でも今の時代、女性に負けないほどの美しさを持つ人がいるわよね?
そして、今は『不老不死』が夢で終わる時代ではなくなったわ。
私の店には人魚の妙薬があって、必要な人にお売りしております。
どう?あなたの美しさを永遠なものにしてみない?



これが今朝の朝刊に挟んであったちらし。
ちらしには妖艶な情勢が写っており、その女性が店長だという。
その容姿は時男性だけでなく女性すらも魅せられるほどの美しさだった。
人魚の妙薬の効果なのだろうか?
「綺麗な方ですね、だけど…何か怖いとすら感じます」
零がちらしを見ながら呟いた。
確かに、と草間も小さく呟く。
何もかもが整いすぎて恐怖すら感じるのだ。


視点⇒海原・みなも


 その日のみなもは怒りが頂点に達していた。
「草間さん!」
 バンッと勢いよく興信所のドアを開き、叫ぶように草間を呼ぶ。草間は持っていた新聞を盾にするようにして、恐る恐るみなもを見る。
「何ですか!この広告は!」
 そう言ってみなもが草間に見せたのは草間もさっきまで見ていた『不老不死の妙薬を売る店』の広告だった。
「や、俺に言われても…」
 草間は少し驚きながら答える。その草間の姿にみなもも少しだけ気持ちを落ち着かせる事にする。
「美しくありたいというのは人の本音だから否定はしません。だけど…人魚の妙薬って何ですか…。人魚は道具ではありません」
 みなもは少し悲しそうに呟く。そう、みなもも人魚なのだ。だから今回の『人魚の妙薬』の件で一番悲しいのはみなもだろう。この話が本当なら同族が傷つけられているのだ。なにより『人魚』という種族が道具扱いされているのだ。これを許せるだろうか。
「あたし…この店に行ってみます。薬が本物かどうかも調べたいですから」
 みなもはキュッと唇をかみ締めて草間に言う。
「あぁ、でもきみも人魚なんだから十分気をつけろよ」
 草間がそういうとみなもは「はい、分かってます」と答えた。
「…あ、草間さん。もし…人魚が犠牲になってるのだとしたら助けたいと思ってるんです。…これはあたしのエゴでしょうか?」
 扉に手を当て、首だけを草間の方に向き聞く。
「いや、それは誰でも持つ当たり前の感情だと思うよ」
 草間が言うと、安心したようにみなもは笑って興信所を出た。



 その店は興信所からは結構離れた場所にあった。電車を乗り継いで目的の場所に到着する。その店は『フォーチュン』と言う店で大きな看板に中の内装も派手だった。
「売り切れてなくて良かったね」
「うん」
 そう言って店から出てきたのは女子高生の二人組み。手には小さな紙袋を持っている。恐らく(間違いなく)その紙袋の中に広告に載っていた『人魚の妙薬』が入ってるのだろう。その名前すら聞くだけで嫌悪感がはしる。
「…よし…」
 みなもは意を決して中に入る。ウインドベルがカランと心地よい音を奏でる。
「あら、いらっしゃい」
 振り向きながら愛想を振りまいてきたのはスリットが入った赤いチャイナ服を着た女性。顔を見ると広告に載っていた女性だ。
「貴方も人魚の妙薬が欲しいの?」
 にっこりと怪しげな笑みを見せながら女性はみなもに聞いてくる。
「え…えぇ」
「そう、それならばこっちについてきて」
 そう言って女性は裏の方へと案内する。その時、感じた気配でみなもの表情が変わる。
(…間違いない…人魚がここにいるんだ…)
 そう、女性が扉を開けた瞬間にみなもが感じたのは僅かだが人魚の気配。しかもかなり弱っている感じだ。
「あの、人魚って本当にいるんですか?」
「あら…だから薬ができているんでしょう?」
「でも、あたし…人魚って見たこと無くて…見せてもらっても構いませんか?」
 女性はみなもの申し出に暫くの間、考え込み「いいわよ」と答えた。
「人魚はこの地下室にいるの、一人で行ける?」
「あ、はい。この下ですね」
 みなもは女性の言う地下室へと降りていった。降りていくと最下層で泣いている少女を見つけた。その少女は鎖につながれている。
「あ…貴方が人魚ですか?」
「…誰?誰なの?」
 みなもは驚いた。確かに人魚ではあるけれども…それは…あまりにも幼い人魚。腕などを見ると切り傷だらけだ。ここでの生活の凄まじさを物語っている。
「パパやママに会いたい…」
 泣きながら訴えるその少女になんと声をかければいいかみなもは分からなかった。
「あなたのお名前は?」
 みなもは人魚の子供をあやす様にしながら話しかける。
「綺羅…海でママたちとはぐれちゃったの…」
 そしてまた泣き出す。そのとき、女性が地下室に降りてきた。
「どう?満足かしら?」
「…この子を開放してくださいませんか?」
 みなもは静かに、そして怒りを抑えながら女性に話す。
「いいわよ」
「え?」
 女性の呆気ない答えにみなもは面食らう。実はいい人?と思ったのもつかの間だった。
「だって…」
 バチンと身体に電流が走る。スタンガンを当てられたのだと気がついたときには、みなもは立っていられる状態ではなかった。
「新しい人魚が手に入るんですもの。こんなガキよりあなたの方が良いに決まってるじゃない」
 クスクスと笑う女性の声と泣き叫ぶ綺羅の泣き声だけがやけに耳に響いた。



 次に目が覚めたときには何か実験室のような場所にいた。
「あら、お目覚め?」
「あなた…っ」
 起き上がろうとみなもは身体を起こそうとするが拘束ベッドのような場所に寝かせられて、しかも両手両足は拘束されている。
「…なぜ…人魚を利用するの?人魚は道具じゃない!」
「道具よ、少なくとも私にとってはね」
「ひどい…」
「ひどい?人魚は不老不死に近いと聞くわ。美しさを求める者に少しくらい協力してくれたっていいでしょう?」
 女性は『当然だ』といわんばかりに答える。それが余計にみなもの怒りを煽る事になる。
「他者の犠牲になりたつ美しさなんて醜いものよ!」
「お黙りなさい、あなたはその美しさを生まれつき持っているからそんな偽善論が言えるの。持っていないものにとっては嫌味にしか聞こえないのよ」
 ねぇ?と聞きながら女性はみなもを見下ろす。みなもはというと別の場所を見ていた。
(…水場がある…)
 何とか水を操作して今の状況を抜け出そうと考えていた。
「…あなたは人魚を甘く見すぎている、人魚の中には残酷なものもいるのよ」
 そう言って水を操り、拘束ベッドを壊す。もちろん女性が邪魔しないように女性にも水は仕掛けてある。女性は「きゃぁ…」などと叫びながらみなもを捕らえようとする。
「…あなたは許さない。これ以上怖い目を見たくなかったらこの東京から出て行って」
 半ば脅すようにいうと女性は「ひっ」と小さく悲鳴をあげた。みなもは普段がおとなしいため怒ると他の人以上に高価は抜群だ。
「綺羅はどこですか?連れて帰ります。…今後もしこの店が開いているようなことがあったらあたしはあなたを絶対に許さない」
 そう吐き捨てるように言ってみなもは綺羅を連れて「フォーチュン」を出て行った。


「お姉ちゃん、ありがとう!」
 あれからみなもは綺羅を海に帰しに来ていた。綺羅は嬉しそうに海に飛び込むとみなもに大きく手を振る。みなもも少し笑いながら手を振り返す。
「…草間さんに報告に行こうかな」
 う〜ん、と大きく伸びをしてみなもは興信所に向かって歩き出す。

 その後「フォーチュン」を見たものはいない。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生
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■         ライター通信          ■
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海原・みなも様>

お久しぶりです^^
瀬皇緋澄です〜。
今回も「人魚の傷跡」に発注をかけてくださいましてありがとうございます!
海原様は人魚なので、その視点で書かせていただきました^^:
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです^^
では、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^
           
                 −瀬皇緋澄