コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人魚の傷跡

オープニング

不老不死と聞いたら、まず何を想像しますか?
色々な薬草?怪しげな儀式?
多分、みんなが思いつくのは『人魚』じゃないかしら?
人魚の血、人魚の肉は万能の薬としても知られているわよね。
女性だったら永遠に若く、美しくありたいと願うのは当然だと思うわ。
男性でも今の時代、女性に負けないほどの美しさを持つ人がいるわよね?
そして、今は『不老不死』が夢で終わる時代ではなくなったわ。
私の店には人魚の妙薬があって、必要な人にお売りしております。
どう?あなたの美しさを永遠なものにしてみない?



これが今朝の朝刊に挟んであったちらし。
ちらしには妖艶な情勢が写っており、その女性が店長だという。
その容姿は時男性だけでなく女性すらも魅せられるほどの美しさだった。
人魚の妙薬の効果なのだろうか?
「綺麗な方ですね、だけど…何か怖いとすら感じます」
零がちらしを見ながら呟いた。
確かに、と草間も小さく呟く。
何もかもが整いすぎて恐怖すら感じるのだ。


視点⇒雪ノ下・正風

「…草間さん、何見てるんですか?」
 正風が興信所に入ると草間武彦と零はなにやら一枚の紙を二人で見ていた。
「あ、雪ノ下君か…人魚の妙薬だとさ」
 そう言って草間武彦は正風に見ていた広告を渡す。その広告には不老不死の妙薬に人魚を利用しているのだと書いてあった。
「許せねぇな…」
 正風は広告を握り締めながら一言だけ呟いた。
「嘘だったら詐欺で許せねぇ、本当なら罪もない人魚から命を奪ってるってことで許せねえっ」
 嘘だった場合なら女性の心理を利用している悪徳商法になる、本当だったらなお悪い。人魚が犠牲になっているのだから…。正風は広告から何か嫌なものを感じた。それがどちらを指しているのかまでは分からなかった。
「俺、現地に乗り込んでみます。それで…ぶっつぶしてやる…」
「…無理はするなよ。こんな堂々としているのだから弱い相手ではないはずだ」
「…分かってます」
 じゃあ、といって正風は興信所から出て行った。
 熱くなるところが正風の良いところであり、悪いところでもあるな…と草間武彦は思う。



「ここか…」
 広告を片手にやってきたのは『フォーチュン』と言う店。大きな看板同様に内装も派手だ。からん、とベルを鳴らしながら正風は店の中に入る。中には当然のごとく女性客が大勢いる。大勢の女性の中で一人だけ男の正風は浮いた存在だった。
「あら、男性のお客様なんて珍しいわね。いらっしゃいませ。あなたも人魚の妙薬を求めてやってこられたんかしら?」
 くすくすと妖艶に笑う女性が出てくる。その気配は人間でないのは正風は一目で分かった。彼女がどんな存在なのかも、なぜ『人魚』の妙薬なのかも。
「えぇ…」
 回りの女性をちらりと一瞥しながら言いにくそうに言う。
「…申し訳ないけれど、貴方達はまた後でいらしてくれるかしら?」
 女性客に言うと正風は一気に冷たい視線を浴びる。
「そんな怒らなくても薬は逃げはしないわ、あとで来てくれた方は少しだけでだけど値段を割引にさせてもらうから」
 ね?と女性客をなだめる。女性客は「しょうがないなぁ…」などといいながら店を出て行く。
「…これでいいかしら?どうやら人魚の妙薬を求めてやってきた…ようには見えないわね」
 女性は腕を組みながら正風を見やる。
「あなたは、不老不死の薬なんて売ってどうするつもりですか八百比丘尼さん?」
 『八百比丘尼』
 その言葉を正風が出すと女性の目が大きく見開かれる。
「…まさか…今の世でわたしを知っているものがいるとはね…」
 クス、と笑いながら正風を見ている。
「貴方もただの人間には見えないけど?」
「ただの人間ですよ。オカルト作家をしてます、雪ノ下 正風です」
「へぇ、その作家さんがうちに何用かしら?」
「薬を売るのをやめてもらいに来ました、少なくとも東京からは手を引いてもらいたい」
 そういうと女性はけらけらと大きな声で笑い始めた。
「馬鹿をいわないで、こんな儲かる街で商売をやめてくれと頼まれて、はいやめますって答える馬鹿がどこにいるというの?」
「…俺は人と魔の平和のために交渉に来た。聞き入れてもらえないのなら…」
 正風は両腕に嵌められた黄龍の篭手のうち、片方をギュッと握り締める。
「…ふふ、やっぱり貴方は嘘つきだわ。それでただの人間ですって?」
「…人魚の生き胆」
 その言葉に女性の話す声がピタリと止まる。そして正風が差し出したものは…。
「人魚の生き胆、これがあれば人間に戻せる。だから―」
「貴方、馬鹿でしょう?生き胆が欲しいのなら今まで捕らえた人魚から取ってるわ」
 確かに、と正風は思う。人間に戻りたいがためにこんな事を始めたのならとっくの昔に人間に戻れているだろう。
「…この生活も慣れてしまえば苦痛ではないのよ。むしろ心地よささえ最近は感じるわ。だから人魚の妙薬を売り始めたのよ、今の時代、人魚なんかどこにでもいるわ」
「…薬の危険性も言わずにですか?」
 人魚の妙薬は万能の薬としても知られているが、同時に毒薬としても知られている。身体にあわないものが口にするとたちまち死に至る。
「…美のために死ぬのなら本望でしょう?」
 さも当然だといわんばかりの女性の態度に正風も怒りを抑えるのが精一杯だった。
「…あなたは…人間の心すらも捨てたのですか…」
「…人間?こんな長く生きる人間がどこにいるというの?わたしはとっくに人間ではないのよ」
 その声は正風には少しだけ悲しくも聞こえた。
「…せっかくだからその生き胆、もらっておくわ。手持ちの人魚も死んだし。そして、東京から手を引いてあげる」
 意外そうな正風の顔を見て女性が笑う。
「そうね、理由をあげるなら貴方の力を敵に回したくない事かしらね」
「…次はどこに行くんですか?」
「さぁ?教えると思う?」
「いいえ、聞いてみただけです」
「そう、だったら出ていってもらえるかしら?店じまいの支度をしなければならないから」
 にっこりと妖艶な笑みを見せて女性は笑う。正風は軽く一礼してから店を出て行った。
「…彼女は生き胆を何に使うのだろう…」
 店を出た後で正風はポツリと呟いた。願わくば人間に戻る事を選んで欲しいと思わずに入られなかった。


 そして、その後…フォーチュンを見たものはいない。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

0391/雪ノ下・正風/男性/22歳/オカルト作家

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

雪ノ下・正風様>

お会いするのは二回目ですね^^
瀬皇緋澄です。
今回は『人魚に傷跡』に発注をかけてくださいましてありがとうございました!
『人魚の傷跡』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです^^
では、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

            −瀬皇緋澄