コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人魚の傷跡

オープニング



不老不死と聞いたら、まず何を想像しますか?
色々な薬草?怪しげな儀式?
多分、みんなが思いつくのは『人魚』じゃないかしら?
人魚の血、人魚の肉は万能の薬としても知られているわよね。
女性だったら永遠に若く、美しくありたいと願うのは当然だと思うわ。
男性でも今の時代、女性に負けないほどの美しさを持つ人がいるわよね?
そして、今は『不老不死』が夢で終わる時代ではなくなったわ。
私の店には人魚の妙薬があって、必要な人にお売りしております。
どう?あなたの美しさを永遠なものにしてみない?



これが今朝の朝刊に挟んであったちらし。
ちらしには妖艶な情勢が写っており、その女性が店長だという。
その容姿は時男性だけでなく女性すらも魅せられるほどの美しさだった。
人魚の妙薬の効果なのだろうか?
「綺麗な方ですね、だけど…何か怖いとすら感じます」
零がちらしを見ながら呟いた。
確かに、と草間も小さく呟く。
何もかもが整いすぎて恐怖すら感じるのだ。


視点⇒セレスティ・カーニンガム

「人魚の妙薬…ですか…」
 セレスティは今朝の朝刊に挟んであった広告を見ながらポツリと呟いた。別に本当だと思っているわけではない。…いや、本当であって欲しくないと言うのが本音だろう。なぜならセレスティ自身も人魚なのだから。このようなことが起きるのは美を求める人が今の世に多いからだろう。それは当然だと思う。美しくありたい、その美しさを永遠のものにしたいと願うのは当たり前だとも思える。
 だけど、もし同族が犠牲になっているのであれば話は違ってくる。人の犠牲の上に成り立つ美など醜いも同然だ。
「さて、これは放っておくわけにはいきませんね」
 運良く自分が犠牲にならなかっただけで、今もこの『人魚の妙薬』で苦しんでいる同族がいるのなら助けてあげたいとセレスティは思う。
「調べてみますか…」
 車椅子をキィと音をたてて進めパソコンがある部屋までいく。ある程度調べてからの方が動きやすいと考えたのだ。

 それから一時間ほどセレスティは調べもノに没頭した。

「…悲しい事ですが…人魚が犠牲になっているのは本当のようですね…」
 『人魚の妙薬』を売っている問題の店、フォーチュンのホームページを見ていると見知った人魚がいた。もちろん『人魚を犠牲にしています』と堂々とかくわけがない。ある特殊なやり方でのみ見ることができるページのようだ。
 店の店長は広告に載っていた女性で間違いはないようだ。経営状態も良好。美を求める女性は飽きるほどいるのだから当然の結果だろう。材料、つまり人魚をどうやって捕らえたのかは分からない。取引先はなく、個人でしている店のようだ。
「…助かりますね」
 セレスティはポツリと呟く。取引先がないということは『フォーチュン』のみを潰す事ができれば『人魚の妙薬』が出回る事はもうなくなるからだ。
「では、このフォーチュンという店に行ってみることにしますか…」



 そして、今に至る。

 店の外装、内装を見てセレスティは絶句した。センスの欠片もない悪趣味な店。美を売る店がこれでいいのかと思うほどだった。あまりの矛盾さに、つい笑いがこみ上げてくる。
「すみません」
 一応声をかけてから中に入ってみる。今は休憩中らしくお客の姿もなく、中には広告に載っていた女性店長が一人だけいる。
「あら、ごめんなさい、今は休憩中なの。またあとで来てもらえるかしら?」
「いえ、私は人魚の妙薬を求めてやってきたのではありません」
 セレスティの言葉に不思議に思ったのか女性店長は怪訝そうな顔を見る。
「あら、じゃあ…何の御用できたのかしら?」
「そうですね、このような事をしている理由を聞きに、という事ではいけませんか?」
 セレスティはにっこりと笑いながら言う。だが、女性店長の警戒心はまだ解かれていない。
「そう、理由ね…お金に決まってるでしょう?この世の中は便利になったわ、だけどお金がなければ何もできないのよ。美しさもお金も何もかも持っているあなたにはわからないでしょうけれど…。ねぇ?リンスターの総帥さん?」
 その言葉にセレスティは少しだけ驚いた。
「私の正体を知っていたんですか?」
「何かの雑誌であなたの顔は見たことあったわ。それとあなたが人間でない者だということも。あたしも同じ生き物だから」
 セレスティはさらに驚いた。女性店長がフッと肩をおろしたとたんに感じた気配は…
「人魚…?」
 そう、紛れもなく自分と同じ生き物、人魚だったからだ。
「貴方は…同族すらも犠牲にしてまでお金が欲しいのですか?」
 セレスティのその声はひどく傷ついているようにも聞こえた。同じ人魚が人魚を犠牲にして金を得る、それは許される事ではなかった。
「欲しいわ、さっきも言ったでしょう?何もかもを持っているあなたには決して分からないわ」
 キッと女性店長はセレスティを睨むかのように見つめた。その表情はセレスティを嫉妬するかのようだった。
「…あなたは人魚をどうやって捕らえていたのですか?」
「最初は親、友人から始まったわ。今の時代、人魚なんてものはどこにでもいるわ、あたしはもう躊躇うことはなった…。親ですらも犠牲にしたのだから!」
 その顔はまるで狂気に満ちていた。お金、人間を狂わせる事はあっても人魚を狂わせるとは思っていなかった。
「…あなたには店を閉めていただきます。これは強制的にでもです」
 今度はセレスティが睨むように女性店長を見る。
「…そう、いくらあたしでも相手の力を見間違えるほど馬鹿ではないわ。力であなたに適わないのは分かってるもの」
 ふぅ、と女性店長は溜め息をついた。
「……ここを引き上げるわ」
 女性店長の言葉にセレスティは驚いた。
「だって、ここであなたと戦って死ぬより他に移ってまた商売をしたほうがいいに決まってるでしょう?」
「あなたはまだ続けるおつもりですか…」
「当然よ、不老不死を望む愚かな人間は消える事はないもの、人間がこの世界に生き続けている限りずぅっと消える事ない欲望。縁があったらまた会いましょう」
 そう言って女性店長は姿を消した。
「…また続けるおつもりでしたら…私はあなたをどこまでも追いかけます。あなたが愚かな事をやめるまで…」
 主のいなくなった店でセレスティは小さく呟いた。



 その後、フォーチュンを見たものはいない。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

セレスティ・カーニンガム様>

いつもお世話になっております、瀬皇緋澄です^^
『人魚の傷跡』に発注をかけてくださいましてありがとうございます!
今回の『人魚の傷跡』はいかがだったでしょうか?
少しでもおもしろいと思ってくださったら幸いです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^


               −瀬皇緋澄