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<東京怪談ノベル(シングル)>


青年の主張

1・
僕、空木崎辰一(うつぎざきしんいち)はここに声を大にして言いたい。
僕は断じて女ではない!
女じゃないんですよ!本当に!


2・
細身・さらさらの黒髪・青い目・高い背・・。
どこへ行っても目立つらしい僕。
中性的よりもやや女顔のせいか、僕は幾度となく嫌な目に遭っていた。
僕が入り浸っている幼馴染みところに行くには電車を使う。
乗り換えなし、一本で行ける所なのだが・・。
いつもではないが、通勤時間だったりするときもあるので僕は非常に憂鬱になる。
なぜだろう?
僕よりも女らしく綺麗な人(もちろん女性)はいるはずなのに・・・。
気がつくと、僕はなぜか痴漢に遭っている・・。
ギュウギュウ詰めの電車の中で巧妙に尻に手が回り、頑張って振り向いても誰が触っているのか見当もつかない。
さすがにこんな状態では四神を使役するわけにもいかない。
ギュウギュウ詰めでなかったら甚五郎に犯人を突き止めてもらって僕が男だと説得するんだけど・・・。
僕は我慢するしかない。
歯を食いしばり、目をつぶり、僕はなるべく尻を撫で回す手の感覚を努めて感じないように努力した。
僕がどうやったって男であることには変わりないというのに。
僕はどうしてこんなことに毎回耐えなければならないというのか・・・。


3.
「そこの君!女優にならないかい!?」
駅に降りると、僕はそんな声を聞いた。
だが、女優というからには女性に声をかけているはずだ。
僕はそのまま改札口へと向かった。
だが、声は追いかけて聞こえてくる。
「君だよ!君!ちょーーっと!!」
だんだんと近づく声。
僕は少しずつ嫌な予感がした・・・。
立ち止まり振り返る。
「やっと止まってくれたね!お〜、やっぱり美人だねぇ!」
ありったけの爽やかさを振りまき、サングラスの男はニコニコと僕の目の前に立ちふさがった。
反対に僕はクラクラした。
またか・・・また言わなければならないというのか・・・。
「・・・僕は男なんです。こう見えても」
「・・・まっさかぁ!こんな綺麗な男なんているわけないじゃない。あ、俺こういうもんだけど・・・」
男は僕の言葉を一笑し、名刺を僕に渡した。
『◯×企画』と書かれたその名刺に少し違和感を覚えたものの、僕はとにかく僕が男であることをこの人に認めさせるのが先決だと思った。
「だから、僕は男で・・・」
「いやいや、俺の目はだまされないよ〜。君ならすぐに売れっ子になれるからさぁ。どう、少し事務所で話聞いてってもらえないかなぁ?」
「だからですねぇ・・・」
どうしてこう人の話を聞いてはくれないのだろう?
僕は頭痛がしてきた。
なるべく困ったような顔をして頭を抑えた。
これで何とか退散してくれないだろうか。
・・・と思ったのだが。
「あ、なんか顔色悪いね?うちの事務所で休んで行きなよ、ね?」
う。しまった。逆効果だ。
男は僕の腕をガシッとつかんだ。
腕ずくでも事務所とやらに連れ込む気らしい。
こうなったら甚五郎を呼び出すしかないだろうか?
だが、救いの神は現れた。


4.
「困ってるじゃないか、手を離してやれよ」
聞き覚えのある声。
「な、なんだよてめぇは!部外者は黙ってろ!」
腕をつかんでいた男は僕への対応とは打って変わったドスの聞いた声で言った。
だが、相手が悪い。
「ほう。俺に喧嘩売るか?どこの組だ?」
「・・・し、失礼しました〜!!」
草間武彦が少し睨むと男は速攻で逃げていった。
その落ち着き様と派手なチンピラ独特の服を着てないその姿からヤバイと思ったのだろう。
「・・つまらんな。あんな脅しに引っかかるとは・・・」
「草間さん、ありがとうございました」
僕はホッと息をついた。
さすが草間さん。
男一匹で事務所を切り盛りし、尚且つ妹を養うだけのバイタリティーを持った人。
僕は心から感謝し、感心した。
だが、草間さんから出た言葉は・・・
「お前・・・本当に男か!?」
・・・がーん・・・。
まだ数度とはいえ、面識のある人からいわれるとは思わなかった・・・。
「で、何だったんだ?ナンパにしちゃ、いやに強引だったが・・・」
「名刺を頂きました、女優にならないかと・・・」
僕は男からもらった名刺を草間さんに渡した。
「ホントは女じゃないのか?おまえ」
「違いますって・・。なんででしょうね・・・。僕が知りたいくらいですよ」
僕たちは改札口に向かって歩き出した。
と、草間さんがプッと噴き出した。
「?どうかしました?」
僕は怪訝に思って聞くと草間さんはニヤリと笑っていった。
「おまえ、今の男についてったらきっと引ん剥かれてただろうよ」
「??引ん剥く??」
「そう、今の男AV製作会社のスカウトだ。◯×企画は有名どころだ」
「・・・」
「まぁ、さすがに引ん剥かれればおまえが男だってことは証明されるだろうな」
草間さんの笑い声が・・・段々遠くに消えていく。
僕の意識も・・・遠くなる。
こんなの・・・あんまりだ・・・。

心から誓って言う。
僕は・・・僕は・・・僕は男なんですっ!!