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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


サンタの手伝い、いたします

●サンタの準備
 朝、目が覚めると天王寺・綾(てんのうじ・あや)はプレゼントの箱に囲われていた。
 寝ぼけ眼で辺りを見回すも、いつも使っている自分の部屋と代わりはない。そう……寝る前は影すらも無かった、大量のプレゼントボックスの山以外は。
「あ、おっはよー! ごめんーっ! 場所借りてるねー!」
 元気な柚葉(ゆずは)の声に綾は少々二日酔いの頭を抱える。綾の様子には気にも止めず、柚葉はバタバタと箱を綾の部屋に積み重ねていった。
「ちょっ……ちょっと! 何よこの箱の山は!」
「んー? それ? それはねぇ、今年の配送分だよー。あともう少ししたらトナカイさんが来るから、それまで我慢しててねー!」
「は……? トナ、カイ?」
 綾は何となく嫌な予感がしつつも、思わず空を眺める。薄い雲が流れる爽やかな青空だ。これといって……変な所は……
「え……」
 鈴の音を鳴り響かせて、鹿のような生き物がそりを引いて滑空してきた。そりには何も乗っておらず、空のままだ。
 そりはそのまま緩やかに綾の部屋の前で止まり、それを合図に、柚葉は次々とプレゼントの箱をそりに乗せていった。
「ねぇ、ちょっと! もしかしてそれって……!」
「あー……今年のこの辺りの担当、柚葉なんだよ。嬉璃(きり)ちゃんもやるはずだったんだけど……今年は『トロビオの泉』見るから忙しいんだって」
「そうじゃなくて! も、もしかして……サンタ?」
「ほえ? 綾ちゃん知らなかったの? この辺りのプレゼントはね、あやかし荘の人が配ることになってるんだよ♪ サンタさん1人じゃ大変だろうって皆で決めたんだ」
 想像の世界だけだと思っていたサンタクロース伝説を目の前にし、綾は軽いめまいを起こした。もちろん、柚葉はそれに気付くこともなく、言葉を続けていく。
「んー……でも嬉璃ちゃんいないんじゃ結構辛いかなー……そだ。皆にも協力してもらおうっと♪」
 ひょいとそりから飛び下り、柚葉は軽やかに階段を駆け降りていった。
 独り残された綾は自分の部屋にあるプレゼントボックスとそりとを交互に眺める。
「……とりあえず、荷物の移動だけでも手伝っておきますか……」
 
◇冬は鍋が一番!
「うーん。こういう寒い時に食べる鍋はまた格別だね」
 ほくほくと円満の笑みで鍋を突き、蒼月・支倉(あおつき・はせくら)は満足な笑みを浮かべた。鍋の材料を適当に小皿に移し、隣に座っている賈・花霞(じあ・ほあしあ)に小皿を手渡す。
「花、熱いから気を付けてね」
「はーい♪」
 息を吹きかけて一生懸命冷ます花霞をじっと見つめる視線があった。その視線の主に、巳主神・冴那(みすがみ・さえな)はぽつりと耳元に囁くように話しかける。
「……あの子が気になるのかしら?」
「へっ……!? だ、だれがあんなガキを気にしなくちゃならねーんだよっ!」
 突然声をかけられ、芹沢・火嵩(せりざわ・ほたか)は慌てて返事を返した。そう……とつまらなそうに呟き、相変わらず無表情のまま冴那は再び食事を再開させる。
「いや、まあ……可愛い子だなーっとは思ったけどな……」
「将来が楽しみ、といったところかしら」
「だーかーら、別にそんな風に思ってないっていってるだろう!」
「はいはい。それよりたくさん食べて栄養を取っておかないと後が辛いわよ?」
 そう、彼らは単に鍋を食べるために招待されたのではない。この後控えているクリスマス一大イベント、プレゼントの配布の手伝いのために来ているのだ。今日の夕飯は、少しでも寒い夜を乗り越えてもらおうと、因幡・恵美(いなば・めぐみ)が夕食を提供したもので、鍋の内容はいつも以上の豪華さだった。
「それぐらい言われなくても分かってる」
 穂高はかき込むように料理を口にほお張りはじめた。冴那の言う通り、冬の夜は思う以上に厳しいものだ。少しでも栄養と体力をつけておくにこしたことはない。
「でも、そんなに大変なのか? 別に夜中じゅう走りっぱなしというわけじゃないんだろう?」
「……それはどうかしら?」
 すっと冴那は外の庭に視線を向ける。庭には2台のそりが鎮座しており、山のような大きな袋が荷台に置かれていた。
「もしかして、あれ全部か?」
「でしょうね。少なくともすぐには終わらないんじゃないかしら」
 表情は変わらないが、冴那はどことなく楽しそうな口調で呟いた。
「2人とも食べないの? 花と僕で全部食べちゃうよ?」
 きょとんと首を傾げる支倉と花霞。脇にいた柚葉も思わず2人の動作のまねをする。
「食事ぐらいゆっくり食べさせろよなっ」
 どかりと座り直し食事を再開しつつも、火嵩は横目で荷物が満載のそりを見やる。
「……アレ全部か……確かに難関だな……」
 ちょっぴり貫徹してまでやれるか不安になり、誰にも知られぬようにこっそりとため息をもらすのだった。

●配送開始
「サンダー、ダッシャー、プランサー、ドンダーは東方面を時計回りに。ヴィクセン、コメット、キューピッド、ブリツェンは西方面を反時計回りに回ってね。荷物の一覧はさっき渡したノートに全部載ってるから、間違えないようにお願いね」
 てきぱきと用意を調え、柚葉は口答で指示を与えていく。無論のことだが、初めての作業に難航していた。一通り作業が終えて出発出来る頃には夜もすっかりふけてきていた。
「いーやーぢゃー! これから『黒い巨塔』が始まるんぢゃー!! 行かぬ、行かぬー!」
 じたばたと暴れ、引きずられるように嬉璃が表に出て来た。袖口を引っ張りながら本郷・源(ほんごう・みなと)は楽しそうに言う。
「このような面白いことを棄権するなど勿体ないじゃろうて! 嬉璃殿……手伝わんというのなら、もうわしの店に来ても酒を飲ませんのじゃ」
「う……」
 嬉璃の頭の中にある天秤が大きく揺れた。お酒とテレビ……どっちも捨てがたい大切な娯楽だ。
 だが、外に出た瞬間吹き寄せた冬の風に、嬉璃の天秤はテレビに大きく傾いた。
「こんな寒い中外に出ては風邪をひいてしまうぢゃろう! やっぱり行かぬ!」
「嬉璃様、この衣装を羽織っていれば暖かいですよ?」
 鹿沼・デルフェス(かぬま・ー)がふわりと優しくサンタの衣装を嬉璃にかけてやる。襟につけられたやわらかな羽毛に顔を埋めるもどことなく不満そうだ。
「あの……そんなに無理にお連れしなくてもよいのではないでしょうか……?」
 おずおずとバードは控えめに意見を述べた。柚葉の呼びかけのおかげで人手は足りているし、嫌な者を無理に連れていっても足でまといになるのがオチだ。
「さて、時間も勿体ないし出発しんこー!」
 柚葉がかけ声をあげると、そりはゆっくりと空へ駆け上がっていった。
 いよいよ、プレゼント配布の始まりだ。
 
◇サンタさんも大変なんです
 プレゼントを配りはじめてもう何時間たったのだろう。
 袋に満杯だったプレゼントもそろそろ残りわずかになってきていた。だが、それと同時に乗っていた男性陣の体力の限界も近付きつつあった……
「……さ、さびー……っ! おい、ちょっと休憩していこうぜ……!」
「だ、だめだよ……! まだ花にプレゼントをあげていないんだ。それまでは眠れないよ……っ!」
 ガタガタと身体を震わせながらも、支倉はしっかりと小さな箱を抱きかかえている。本人の希望により、花霞に渡すプレゼントだけは自分の手で渡したいらしい。それまでは寝たくても寝られないのだ。
「あら、花霞ちゃんならもう少し先よ。番がきたら起こしてあげるから、それまで一眠りしておくとよいわ」
 全く眠そうな気配すらさせない冴那がさらりと告げた。いま、このそりに乗っているメンバーの中では彼女が一番元気のようだ。寒さは得意ではないようだったが、羽毛のコートのおかげで充分暖かいらしい。
「心配は結構! 大丈夫だぜっ!」
 完全に冷えきったドリンク剤を一息で飲み干し、火嵩はビシッと鞭をひとつ振り下ろす。トナカイ達はさらに速度をあげて都会の空を駆け巡りはじめた。
「ちょ……っ、ちょっと早すぎっ!」
 何とか必死にしがみつくも、支倉は今にも振り落とされそうだ。平然として荷台に座る冴那に涙目で訴える。
「も……もし僕が力つきたら、代わりに花のプレゼントを……お願いしま、す……!」
「分かったわ。安心しなさい」
 ガクン、と急にそりは急降下を始めた。突然の無重力状態に、一行は宙に投げ飛ばされそうになる。
「わったったた! こ、こら……! おまえら一体どうした……!」
「あら……次の届け先……この下にある陸橋の裏ね」
「陸橋!?」
 はっと気付くと支倉の姿がみられない。どこかで振り落としてしまったか……
 後戻りしようとそりを引き返そうとするも、まるで何かに導かれているかのように、そりは速度を緩めずに真っすぐ陸橋の下へと向かっていく。
「大丈夫、彼の意志は受け継いでいるわ。安心して……」
「そういう問題じゃないだろうって!」
 ビシィと火嵩はすかさずツッコミをいれる。
 そりの速度が弱まったのを確認し、冴那は花霞に渡すプレゼントをちゃっかり手に持ちながら、プレゼントを渡す相手ー陸橋裏に住む子猫の傍にそっとプレゼントを置いた。
「良い夢を……」
 安らかに眠る子猫の頭を冴那はそっと撫でてやる。そのまま音もなく荷台に戻り、冴那は素早く身体を固定させた。
「さ、トナカイ達の気が変わらないうちにUターンしましょう」
「ああ、そうだな……しっかし見つかるかなー……」
 街灯りが点々を灯るだけの商店街を眺め、火嵩は深く息を吐いた。
 
○そりに秘められた謎
 凍えそうな北風を真正面にうけながらも、そりは速度をゆるめずに空を駆け抜けていた。
「少し寒いけど……この服は本当に暖かい……」
 ほう、と白い息をもらし。冴那はふわふわの毛皮に顔をうずめる。アンゴラウサギの毛で出来ていると言われた襟元は風の冷たさを感じさせない程の暖かさを冴那に与えていた。
 背の高い冴那用にと特別に長いコートを羽織らせてもらったのだが、下が短めのスカートのため少々冷えてしまう。毛布があれば完璧といったところだろうが、さすがにそこまでの贅沢は言えない。
 ちらりと視線を荷台にある袋の方に向けた。どういう構造かはわからないが、この暴風のなか、プレゼントを入れた袋はしっかりと荷台におさまっていた。中身が少なくなっても吹き飛んでいく様子はみられない。
「なにか特別な力でもこもっているということかしら……」
 さらりと状況を受け止め、冴那は冷静なつぶやきをもらした。よく考えてみればそりが宙を走っている事自体、ありえないことなのだが、自分自身「蛇の化身」という特殊な存在であるため、大して気にしてはいないようだ。
「……次の場所は、と……あら……」
 住所をみやり、冴那は小さく笑みをもらす。
「私には来なかったけど、あの子達には来るのね。ちょっと妬けちゃうわ」
 冴那はぴしりと鞭を振り下ろし、トナカイ達に指示を与える。
 そりは涼やかな鈴の音色をたてて、まっすぐに目的地へと走っていく。
 彼女の経営するペットショップに向けて。
 
●配達を終えて
「皆おかえりー!」
 一行を出迎えたのは、バードと支倉に連れられて庭に出て来た花霞の満面の笑顔だった。その笑顔にふっと一瞬やわらげられ、心地よい疲れと重なり一行の心を落ち着かせる。
「おかえりなさーい、寒かったでしょう。はい、これで温まってください」
 恵美の明るい笑顔と温かなバターティーを一人一人に渡した。少し甘く、バターの風味が満点のバターティーはすっかり冷えきった身体にしみ込んでいく。
「結構早く終わりましたね」
 厚い雲に覆われているため朝が来たのかは確認できないが、深夜ごろ降り始めた雪はもうずいぶんとつもりはじめている。そろそろ新聞配達のバイクが街中を走り回る時間だろう。
「あー、疲れた……とりあえず風呂入りてー……」
 ぼさぼさになった髪をなんとか整えながら、火嵩はよろよろとあやかし荘の中へと入っていった。
「天気予報ではずっと晴れてるとか言っていましたけれど、ずいぶんと降ってきましたね」
 ふわりと白い大地を踏みしめて、亜真知は穏やかな視線で見つめあげる。今はまだ雲に覆われているが、青空が覗けば辺り一面銀世界で輝くことだろう。
「ああ、そうそう。多分袋にいくつか箱が入っていると思うんですが、それはサンタさんからの皆さんへのお礼ですので、お好きなの持っていってくださいね」
「どれでもよろしいのですか?」
 袋を覗きながらデルフェスは適当な箱を選びだした。恵美の話では本人達が選んだものの中身が自然に自分達の望むものだという。
「ううむ……このような小さな箱に入っているものなのか……?」
 渋い顔をさせてじっとプレゼントボックスを見つめる源。どうやら望むものと想像がかけ離れているため、少々混乱しているようだ。
「私はこれを頂ければ充分だけれど……そうね、蛇達のおみやげになるかしら」
 すっかり眠りこけた柚葉を恵美に手渡し、冴那も袋の中身を物色しはじめる。
「お風呂沸いてますから、どうぞごゆっくりしてくださいね。お腹もすいているようでしたら何かお作りしますよ」
「それでしたらわたくしもお手伝いさせて頂きますわ」
 全員に甘酒を振舞うため、亜真知は酒粕を用意しておいたのだ。寝酒として一杯やるには丁度いいだろう。
 すっと何かを感じたのか、トナカイ達は一斉に空を見上げて、首の鈴を鳴らしながらそのまま宙へ飛び上がっていった。
 段々遠くなる鈴の音を聞きながら、恵美達は雪降る静かな空を眺めていた。
「また……来年、会いましょう、ね……」 
 
 おわり
  
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/   PC名    /性別/ 年齢/ 職業】
 0376/ 巳主神・  冴那 /女性/600/ペットショップのオーナー
 1108/ 本郷 ・  源  /女性/ 6 /オーナー 小学生 獣人
 1111/ 芹沢 ・  火嵩 /男性/ 18/高校生
 1593/ 榊船 ・ 亜真知 /女性/999/超高位次元生命体……神さま!?
 1651/  賈 ・  花霞 /女性/600/小学生
 1653/ 蒼月 ・  支倉 /男性/ 15/高校生兼プロバスケットボール選手
 2126/ラッキー・ バード /女性/ 24/フリーランスのモデル
 2181/ 鹿沼 ・デルフェス/女性/463/アンティークショップの店員
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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせ致しました。
「サンタの手伝い、いたします」をお届け致します。
 遥かに予想を上回る参加に、かなりびっくりしています。ネタ的に参加し辛いのでは? と思っていただけに、嬉しい悲鳴のかぎり。
 何はともあれ配布のお手伝いをして頂き、大変有り難うございました。
 
 実はこの依頼を書いている間に、サンタクロースにまつわる話などを読んでいたのですが、最近のサンタはどんな扉でも開くことのできる鍵を使って、訪問されているそうです。
 たしかに昔は入り口として一般的だった、煙突なんてものは今や稀少価値となってしまった(あってもカラス避けにと、入り口がネットでふさがれていたり)ので、サンタも日々進化してるんですね。もっとも、この話を聞いたとき、鍵っ子であった私は某鍵っ子の味方であるおばあちゃんを思い出しましたが。
 
 今回のお話は大まかな流れは同じですが、それぞれ違った視点からのシーンを描写しています。もし他の方も見られる機会がありましたら、合わせて読んで頂くと一層面白みがわくと思います。
 
 それではまた別の物語にてお会い致しましょう。
 
文章執筆:谷口舞