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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人魚の傷跡

オープニング



不老不死と聞いたら、まず何を想像しますか?
色々な薬草?怪しげな儀式?
多分、みんなが思いつくのは『人魚』じゃないかしら?
人魚の血、人魚の肉は万能の薬としても知られているわよね。
女性だったら永遠に若く、美しくありたいと願うのは当然だと思うわ。
男性でも今の時代、女性に負けないほどの美しさを持つ人がいるわよね?
そして、今は『不老不死』が夢で終わる時代ではなくなったわ。
私の店には人魚の妙薬があって、必要な人にお売りしております。
どう?あなたの美しさを永遠なものにしてみない?



これが今朝の朝刊に挟んであったちらし。
ちらしには妖艶な情勢が写っており、その女性が店長だという。
その容姿は時男性だけでなく女性すらも魅せられるほどの美しさだった。
人魚の妙薬の効果なのだろうか?
「綺麗な方ですね、だけど…何か怖いとすら感じます」
零がちらしを見ながら呟いた。
確かに、と草間も小さく呟く。
何もかもが整いすぎて恐怖すら感じるのだ。


視点⇒ベル・アッシュ


「永遠の美…人間らしい望みねぇ…」
 草間興信所のソファでくつろぎながらベルが呟く。手には問題の広告が持たれている。
「いくら永遠の命を持ったところでそれに伴う心を持たなければ悠久の時なんて超えられるわけがないというのに…」
 人間って愚かよねぇ…と呟いて零が持ってきたコーヒー一口飲む。
「どうせなら人魚じゃなくて悪魔と契約してくれないかしら?ねぇ?草間さん、そう思わない?」
 隣にいた草間武彦に問いかけると「さぁ…?」という、短い答えが返ってきた。
「さってと…あたしもこの店に行ってくるかな」
 人魚の妙薬を求めて?と草間武彦がからかい混じりでベルに言う。
「失礼ね。そんな妙な薬に頼るあたしだと思って?」
 そう言って笑いながら興信所を後にした。


「…ここかぁ…」
 広告の地図を頼りにうやってきたのは大きな看板と派手な内装が特徴的な『フォーチュン』という店。
「…派手な店ねぇ…」
 店を見て一言『趣味が悪い』蛍光ピンクの看板がやけに目にチカチカとする。
「中に入ってみるかな…」
 カラン、とウインドベルを鳴らしながら中に入る。中には永遠の美を求める女性客がたくさんいた。
「人魚の妙薬、買えてよかったね」
 何人かの女性が嬉しそうに友人達らしき女性と話している。
「これから長い時間、不自然な事実と共に永い永い時を生きるのね。両親も友人も、みんな老いさらばえていく中で自分が不自然に年をとらずに。何故?と問われながら奇異の目に晒されて。ちやほやされた所で、そんな連中もいつの間にか棺桶の中。美しいってだけで永く生きたからって偉い訳でもない。惨めなだけ。花も人間も、醜く萎れるからこそ瞬間の美を愛しいと感じるのに」
 クスリ、と憐れみとも嘲るとも取れる笑みを見せて数名の女性客に言う。言われたほうとしては何を言われているのかすらわかっていないだろう。人間というものは身をもって味わわないと『後悔』も『自分が何をしたのか』すらも…。
「まぁ、だから人間らしいんでしょうけどね…」
 一周、店内を見て回るとあれほどいた女性客もいなくなり店にいるのはベルのみになった。
「人魚の妙薬をご入用でしょうか?」
「いいえ?商売敵だけど素敵な事情があるなら教えて欲しいわ?なんて。駄目?」
「商売敵?ということは貴方もどこかのお店をやってらしてるの?」
 妖艶な笑みを見せながら女性店長は聞いてくる。
「店、というわけではないのだけどね」
 すると、女性は不思議そうに首を傾げる。
「ただの行商人よ、自称だけどね」
「そう…。それで?そんな方がうちに何用かしら?」
 少しだけど、女性の雰囲気が変わる。どちらかというとそれは穏やかな雰囲気ではなくこちらにたいしての敵意だ。
「あらあら、怖いのね。これ以上こんなモノ売ってもらうとこっちの商売上がったりなのよねぇ」
 そう言ってベルは『人魚の妙薬』が入っている小瓶を手に取り、眺める。
「あなたの許可がいるのかしら?」
「あら、あたしに勝てると思う?相手の力が分からないほど馬鹿でもないでしょう?」
 ふふ、とベルも意味深な笑みを浮かべて女性店長を見やる。
「それとも、その下にいる人魚が気になるのかしら?」
 そう言ってベルは女性店長の足元を指差す。不自然な形でカーペットが敷いてある。明らかにその下に何かあります、といわんばかりの不自然さだ。
「聞いてもイイ?なんで人魚を犠牲にしてまでこんなことはじめたの?」
「お金よ、何をするにしてもお金が必要でしょう?人間でないのならなおさらよ」
 ふーん、人間じゃないんだ、などとのんきに考えながらベルは女性店長の話を聞き続ける。
「…あなた、綺麗ね」
「え?」
 突然、わけの分からない事を言われて女性店長は間抜けな声を出す。
「あなたは確かに誰よりも綺麗だと思うわ、それが人魚の妙薬の効果なんでしょうけど。でも…誰よりも醜いのね」
「あ、あたしは醜くなんかない!誰よりも綺麗なのよ。誰よりも努力したんだから!」
「努力?誰かを犠牲にして努力といえるのかしら?」
「うるさいっっっ!!」
 バシン、と硝子が割れる。そして破片がベルの頬を掠める。ベルは『痛…』と呟き頬を手でこする。ぬるり、とした血独特の生ぬるい感触と生臭さがベルの鼻と手を刺激する。
「…やったわね…」
 言い方は悔しそうに聞こえるが、ベルは笑いながら言っていた。女性店長はというとゼェゼェと苦しそうに息切れをしながらこちらを見ている。
「そんなにも美しさというものが欲しいのなら与えてあげるわ」
 ベルはクスと笑い、相手の組成を石に変え身動きできないようにする。
 女性店長は「きゃあ!」などと叫びながら何とか動こうとするが、簡単に破れるほどベルの力は弱くはない。
「こういう風に美という形を残す方がいいと思わない?芸術的で」
 ベルが言うと女性店長の顔がサーッと青ざめていくのが見ていて分かる。
「しばらくこうしていなさいな」
 それがあたしを攻撃してきた罰よ、といいながら店を去る。もちろん地下室に囚われていた人魚を助けた後に。別に人魚がかわいそうだから助けたかったわけではない。あの女性店長に対する嫌がらせとして助けたのだ。
「さぁてと、邪魔もなくなったし、あたしも仕事がんばるかな」


 そして、その後、『フォーチュン』を見たものはいない。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

2119/ベル・アッシュ/女性/999歳/タダの行商人(自称)

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■         ライター通信          ■
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ベル・アッシュ様>

いつもお世話になっております、瀬皇緋澄です^^
今回も『人魚の傷跡』に発注をかけてくださいましてありがとうございます!
今回の『人魚の傷跡』はいかがだったでしょうか?
少しでおもしろいと思っていただけたら幸いです^^
では、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

                 −瀬皇緋澄