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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


求職大作戦

【オープニング】

 「もしもし?ごぶさたしてます。浅野です」
 けたたましいベルの後、受話器の向こうからはこんな風に切り出された。
 「あぁ、久しぶり。ホシに帰ったのかと思ってたよ」
 冗談ではない声で、それも顔をしかめつつ草間は答える。電話の相手、浅野龍平はなんと自称宇宙人だ。彼と関わって良い思いをした事がほぼ皆無な草間は、決意のある眼差しで次の言葉を待った。…待った時点で勝負は決まっていたのかも知れないが。
 「星ですか…最近は特に懐かしく思えます」
 皮肉を言っても通じない、いつもの笑いで話が進むのかと思っていた草間は浅野の低いテンションに驚きを禁じ得なかった。
 「何かあったのか?」
 あまつさえ、そう訊いてしまう。
 「僕、無職なんです」
 「…は?」
 草間は、そんなもんハローワークに相談しろ、と言わんばかりの声を上げた。しかし浅野は続ける。
 「何故だか、バイトはやってもやってもクビになるし正社員として雇ってくれる会社も皆無なわけで…」
 「…それで?」
 何となくわかる気がするなぁ、と思いつつ草間は相づちを打った。
 「このままじゃリアルに生活が危ないんで、職に就きたいんですよ。草間さんなら知り合いも多いだろうし、僕を雇ってくれるような所を探して欲しくて…。親に苦労も掛けられないしねぇ」
 浅野にしてはあまりにも所帯じみてマトモな言葉だった。自称宇宙人としてあるまじき発言ではないだろうか。草間は何か、心配になってしまった。
 「わ…わかった。ちょっと訊いてみるよ。ただ俺も暇な訳じゃないから、色んな作業の後回しになると思うが、いいか?」
 そう言った瞬間だった。興信所の扉が勢いよく開き、黒スーツに茶髪、はやりっぽい黒縁眼鏡を掛け、片手には通話中の携帯電話を持った若者が入ってきた。おどろく草間を前に、彼は満面の笑みを浮かべる。
 「さっすが草間さん!いい仕事、待ってまーす☆」
 そう言うなり、その男は部屋を出て行った。草間は黒い受話器を持ったまま呆然としている。
 「そこにいるなら最初から入ってくればいいじゃないか…」
 やはり彼の行動は理解不能だった。

***

 空は晴れ、空気は澄んでいる。そんな年末のある日、人で賑わう街角のとある有名喫茶店に彼らは待ち合わせていた。常人とは少々違った雰囲気を持つ彼らも、雑踏の中ではさほど意識されないからという理由もある。今日集まった5人は店の一番奥のテーブルを囲んでいた。
 「いやぁ、今日は冷えますね」
 いつもの黒スーツに灰色のコートを着た青年、浅野龍平はカップをゆっくりとテーブルに置きながら言った。中身は、湯気を立てる緑茶である。
 「本当ねぇ…」
 ふと窓の外に目をやって頷いたのはシュライン・エマ。彼女の青い瞳は行き交う人々の足早な歩みを映していた。
 「僕、寒いの苦手なの。でもマフラーってあったかくていいね!」
 綺麗な緑色の髪をした少年は藤井蘭。彼はにこにこしながら首に巻いたマフラーを触っていた。
 「みあおも寒いのは嫌いだけど、雪は好きだよ。白くて綺麗だもん」
 銀色の髪に銀の目をしてフワフワのコートを着た少女、海原みあおは暖かいココアを飲みながら笑う。
 「…とりあえず、本題に入りませんか」
 漆黒の髪と目を持つ美しい女性、ステラ・ミラは苛立つ訳でもなく静かにそう言うと、今回の依頼者である龍平が頷いた。
 「そうですね。お願いします」
 「はーい!」
 蘭がいきなり元気良く手を上げ、他の4人の視線が彼に集まる。
 「浅野さん、僕うちゅうじんさんと会うの初めてなの。握手して欲しいのー」
 「え?別にいいですよ」
 龍平が答えると蘭は自分の椅子を降りて彼の隣に向かった。そして二人が握手を交わす。もちろん、その場に微妙な空気が流れた。嬉しそうな蘭と何故握手を求められたか良くわかっていない龍平、胡乱げな目のシュライン、みあお、ステラ。
 「…えっと、職探し、だったわよね?」
 そこでシュラインが場を取り繕うような笑顔で話題補正をする。
 「あのね、龍平みたいな人は自分の好きな事以外絶対一生懸命やらないと思うの。だからまず、龍平がやりたい事を聴きたいな」
 みあおは少々失礼な(しかし的を得た)言葉を交えつつ、龍平に質問した。
 「う〜ん、趣味といったら廃虚めぐりとかですかね。仕事になるとは思えませんが…」
 「そんなことないわよ」
 シュラインが心持ち身を乗り出して言う。
 「職種には色々あるのよ。廃虚を題材にしたってね…。例えばそういうあんまり普通の人が行きたがらない所のレポートを作ったりする、ライター的な仕事とか。浅野くん、発想が面白いから案外イケるかも知れないわ。やる気があるなら編集者の知り合いに声を掛けてみてもいいわよ?」
 「なるほど、ライターですか…」
 龍平は頷きながら手元のメモ帳に何かを書き込んだ。
 「私、実は浅野様を雇いたいと思っているんです」
 ステラが不意に言って、龍平は驚いたように彼女を見る。
「私は古本屋を経営しているんですが、そこの店員になるのはいかがでしょう?聞いたところによると、浅野様は宇宙人だそうですね。ならば睡眠・休息・労働基準法の適用、保険等も必要ないですから実働24時間で、お盆は関係ありませんから、年末年始の休みが二日、完全年休二日制という事になります。と言う訳で完全年休二日制・実働24時間・普通免優遇・食事有・福利厚生施設有という条件で雇いますよ。ちなみに給与応談です」
 すらすらと鬼のような条件を出してきた彼女を前に、龍平は考え込んだ。
 「言い忘れましたが、店員以外に駅前でキャッチコピーの入った宣伝ティッシュを配ったり、宇宙人としてモルモット・解剖実験につきあったりして頂きますね」
 ステラは表情も変えずに補足した。龍平は恐怖のあまり勢いよく立ち上がり、その衝撃でカップが倒れた。
 「ぎゃぁぁああ!あっ、もったいない!!」
 「店内では静かにしてね」
 「そうだよー龍平大人げない」
 シュラインとみあおは黒い笑みをたたえて龍平に注意した。唯一の助け、と蘭に情けない顔を向けると彼はにっこり笑った。全く悪意の欠片もない顔で。
 「うちゅうじんさんは、モルモットのお仕事するの?」
 「イヤァアアアア!!絶対!嫌です!お断りします!だいたい、両親は完璧な宇宙人だけど僕は日本生まれ日本育ちで国籍ちゃんとありますからね!労働基準法適用するし生存権だってあるんですからねっ!」
 龍平が半ば叫ぶように主張した途端、ウェイトレスがすまなそうな顔でやって来た。
 「ホラ、あんまりうるさくするからだよ」
 みあおはそう言ったが、ウェイトレスは何故かテーブルの上を指さした。
 「あのぅお客様…当店は持ち込み禁止となっているんですが」
 その一言に4人の視線がそこへ向かう。すなわち、銀色の水筒の元へ。
 「僕は緑茶が好きなんです。だってここ置いてないじゃないですか。ちなみにそれ、魔法瓶ですよ☆」
 私利滅裂に、しかも自慢げに言われてウェイトレスは困っていた。そしてその彼に呼ばれてこの場に居る4人も、色んな意味で困っていた。
 「前にも似たようなことがあった気がするけど…」
 シュラインが胡乱げに龍平を見たが、彼は鞄から水筒を覗かせて「飲みます?」などと嘯くだけだった。

***

  居心地の悪くなってしまった5人はその喫茶店を出ることにした。各々に勘定して表に出ると、店の看板の棒に一匹の犬が繋がれているのが目に入る。北風の中、かなり寒そうだ。
「待たせてしまいましたね、オーロラ」
 ステラがその犬…もとい白い毛並みの美しい狼に声を掛けた。するとオーロラは姿勢を整え、まるで首肯でもするように動いた。なかなか賢い狼であるようだが、一見すれば少し変わった犬だ。みあおや蘭は恐れることもなく彼を撫で回している。
 「次はどこに行くのー?」
 蘭がオーロラを撫でながら訊くと、みあおが向かいの通りを指さした。
 「あっちにネットカフェがあるんだ。インターネットは活用しなくちゃ☆」

 みあおの提案で5人はネットカフェに居た。オーロラはもちろん外に繋がれているが、その時可哀相なくらい悲壮な顔をしたのをシュラインは見ていた。
 「外、寒そうね」
 何となしに話を振ってみても、ステラは相変わらず無表情だ。
 「そうですね。オーロラも、澄んだ空気を味わって心地良いでしょう」
 その言葉にシュラインは苦笑して、諦めた。哀れオーロラ。
 「わぁ〜<きゅうじんじょうほう>がいっぱいなのー」
 蘭はみあおの操作するパソコンの画面を見てはしゃいでいる。
 「結構色々ありますねぇ」
 龍平も感心したようにその画面を覗き込んでいた。
 「これなんかどうですか?」
 「怪しい!恐ろしい!!なんでそんなん募集してるんですか!」
 ステラが指さした先に、メスのマークの間に妙にポップな字体で<動物実験スタッフ募集>と書かれている。
 「じゃ、これは?」
 「…僕に犯罪者になれと?」
 みあおがカーソルを合わせたのは<道ゆく女の子を激写!カメラマン募集>と言う項目だった。みあおは首を振って画面を睨む。
 「こんな気持ち悪い仕事は龍平に潜入してもらって根絶やしにしたらいいんだ!」
 「誰がお金払ってくれるんですか…」
 龍平が珍しくまっとうな見解を示しつつ溜め息を吐いた。
 「あっ、これいいんじゃない?」
 シュラインは<宇宙と交信しよう!ひみつ倶楽部>という紫に光る文字を指し示す。
 「これ仕事じゃないじゃないですか…。それにこの手の人達って苦手なんですよ」
 苦い思い出でもあるかのように、龍平は首を横に振った。
 「これはこれは〜?」
 蘭はにこにこしながら画面をつつく。そこには<日帰り温泉旅行!格安チケットのご案内>とある。
 「いいですねぇ〜。ってこれ全然求職と関係ないじゃないですか!なんか逸れてますよ!!」
 「ごめんね〜ちょっと気になって…」
 いつのまにかみあおと交代していたシュラインは手をぱたぱた振って弁解した。
 「<被験者募集中>…」
 「なんでそんな怪しげなのばっかり見つけるんですか、あなたは…」
 ステラがぼそりと呟いたのを聞いて龍平は身震いする。
 「もう!なんでもかんでも嫌だって言ってたら全然決まんないじゃん!!」
 「今までの候補から選ぶのが間違ってますよ!」
 そんな風に龍平が言い返してきて「じゃぁ自分で選びなよー」と、みあおは口を尖らせる。
 「そのカバンには何が入ってるの?」
 不意に、蘭が龍平の持っている黒い鞄を示した。
 「これですか?」
 言いつつ、龍平は鞄を開ける。中には、先程の水筒とメモ帳とペン、そして数冊の求人誌だった。
 「ちゃんと自分でも調べてたんじゃないの」
 シュラインが折り目や丸の付けられた求人誌をめくりながら言う。
 「こんなに候補があるのに全部駄目だったんですか?」
 ステラがシュラインとは別の本を見て訊いた。すると龍平は首を振る。
 「いえいえ。自分で調べてちゃんと電話もーーー」
 言いかけたとき、龍平の携帯電話がバイブで着信を知らせた。彼は電話に出るが、他の4人は一様に『電話?』と龍平の言葉を頭の中で反芻している。
 「ーーーそうですか。わかりました。では、よろしくお願いします」
 そう言って龍平は電話を切った。みあおが「何の電話?」と訊ねると彼はにっこり笑ってこう言った。
 「仕事、決まっちゃいました☆」

***
 
 「つっこむ間もなかったな…」とシュラインは後から思っていた。
 あの後龍平は、「じゃ、早速仕事行ってきます〜」と言っていなくなってしまったのだ。残された4人は少しの間呆然と立ち尽くしていたが、蘭が「お仕事決まって良かったね」と笑ったのを見てそれぞれが無理矢理納得する事となった。その時訊きそびれた為、龍平が何の仕事に就いたのか謎のまま数週間が過ぎた。
 そんなある日。シュラインのポケットで携帯電話が鳴った。知らない番号からだったが一応出てみると、聞き覚えのある声が聞こえる。龍平だ。
 「あら浅野くん。新しい仕事頑張ってる?」
 訊ねても、返ってきたのは沈黙でシュラインは「おーい」なんて呼び掛けた。
 「…実は、またしてもクビになってしまいまして…」
 「えぇ?!」
 シュラインは頓狂な声を上げた。一体何をどうすればそんなに仕事をクビになるものか、と。
 「と言う訳で、また探してもらうかもしれません…よろしくおねがいしまーす」
 「ところで何の仕事してたの?」
 そう訊いても龍平はもう一度「よろしくおねがいしまーす」と言って電話を切った。彼の謎がまたひとつ増えた訳だ。そして謎がもうひとつ。
 「私、浅野くんに電話番号教えてたっけ…?」
 
オワリ

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)    ■
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0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生
2163/藤井・蘭/男性/1歳/藤井・葛のアパートに居候している。普段は人化状態。
1057/ステラ・ミラ/女性/999歳/古本屋「極光」店主
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

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■         ライター通信            ■
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いつもギリギリな佐々木洋燈です。こんにちは(最悪!
 今回はいつもに比べてパンチが少なくて物足りないような気がしますがまぁ、これはこれで(えぇ…。
 前回から間が空いたにも関わらず、シュラインさんにはすっかり常連さんになっていただいて、ありがたい限りです。これからも日々精進で頑張ります!
 ここに書くネタ、あんまりなくてごめんなさい…(笑。
 では、またどこかで〜!