コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


インタビューという名を借りての診断

Opening:アトラス編集部と門屋心理相談所
碇は医療関係の雑誌や資料をみていた。
そして、興味を持つ記事を発見する。
『癒しの女神か?加登脇美雪』
「へぇ〜、彼女はかなり凄腕なのね…」
写真を見るととても優しい笑顔が印象的な女性精神科医で、かなりの患者を治癒している。
また、ネットなど調べていくと彼女は超常現象等で被害に遭った人物、能力者を中心にみていることに碇は興味を覚えた。
「かなりネタになりそう…彼女と接触するのも悪くはないわ」
そして彼女は、通称〈癒しの手〉と言われる総合病院精神科にいる加登脇に会うため電話を入れる。

許可を取れた物の、嘘を書かれたくない加登脇美雪はこういう条件を出してきた。
「悩みを持つ人や能力者方も連れてきて欲しい、その方とお話しをしたいので」
と。
「まぁ興味深い条件ね…」
早速、碇は悩める三下とほか今悩む人をこっそり募集することにした。



そのころ〈門屋心理相談所〉の所長である門屋将太郎も同じ記事を目にして過去を思い出していた。


1.門屋将太郎
「今更、色々書いていてもなぁ。おせーよ。」
と門屋将太郎は、医療雑誌で精神科記事を読んでいた。
彼の記憶が正しければ、精神病患者は世間で騒がれ始める前から沢山いたのだ。その時は、社会復帰など不可能なほどに偏見や差別、迫害が多い。結果、その患者は永久に入院か、自殺、最悪犯罪にはしる。犯罪者になった場合、精神鑑定を受けて、裁判で刑法39条より無罪を勝ち取るか、其れが適応されなく有罪となる。更に精神的な方でなく、内向的、倫理に反する趣味がいけないとマスコミが煽り立て、教育委員会、地域、同じ趣味を持つ健常者や無知な者が精神障害者を嫌う悪循環を生む。
やっとのこと、この所マスコミも医師会も情報を公開しているが、まだまだ不十分である。証拠として、一般的にかかりやすい「心の風邪」と言われる鬱病でも、単に薬で治るものではなく、家族や周囲の理解と助力があってこそ回復する可能性があるわけで、単に【薬で治る】という事を強調している。臨床心理士である将太郎には憤りを覚えているほどだ。
其れでも将太郎はじっくり読んでいくと、目を見張る記事に目が留まった。
『癒しの女神か?加登脇美雪』
彼は、遠い記憶を思い起こし、驚いた。
幼いとき、自分の読心能力に混乱し、母が連れて行った総合病院名、そして、担当医の名前とも同じだった。総合病院の正式名称は井ヶ田総合病院なのだが、〈癒しの手〉と呼ばれている。よい通り名があるほど名の通った病院と言うことだ。
昨今、医療ミスの多いご時世、有名になればそれに比例するほど、ミスが多くなる確率は高くなるのだが、まるでフィクションの病院のように医療ミスというスキャンダルがないのが特徴である。また、心の病に対しても偏見や差別が多い時代でも先進的に対応していた病院である。記事はこの時代にある心の病、闇を特集するために書かれたようなモノだった。
「まさかな…」
将太郎は鼻で笑う。
「俺があの人に診て貰ったのはかれこれ20年前…50そこらのおばさんになっている」
雑誌を机に置いて、ため息を吐く。写真を見てもその医師は似すぎている。昔のことが鮮明に思いおこされるほど。まるで昨日のことのようになって気になる。
「一度会ってみるのも、悪くないか」
ゆっくり彼は立ち上がり、〈癒しの手〉こと井ヶ田総合病院に向かう支度をする。
彼が出かけて10数分後、アトラスからの電話が鳴ったのだが、主がいないので留守電が起動した。
「もしもし…アトラス編集部の碇と申しますが…」

着流し姿で〈癒しの手〉に着いた将太郎は、驚いた。
「この病院、見覚えが!」
既視感。いやこれは現実か?多少改築はされているが、前に通っていた病院と同じではないか。
フラリと病院の中に入り、まるで体が覚えているか精神科の診察室まで歩いていった。
既に外来診断の時間は過ぎているので、窓口は閉まっていたが、看護婦と喋っている写真で見た女性を見つけた。
女性は、将太郎に気が付いたのか、ニコリと微笑みそして
「どうかしましたか?済みませんが、もう診断時間終わりましたが…」
と、聞いてきた。
将太郎は、その笑顔でハッと気が付き、
「あ、済みません。あんたが、加登脇先生ですか?」
と、聞き返す。
「ええ、そうですけど…あなたは…」
「先生お知り合いですか?」
と、不思議そうに看護婦が加登脇に訊ねた。
「先に戻っていて」
「はい」
看護婦は、何かを察したのか微笑みながら2人に会釈しその場から去っていった。
「私に用事があるようですね」
と、真剣な顔をして将太郎の目を見る加登脇美雪。
何もかもお見通しのような綺麗な目に魅入られそうになる将太郎。
―あまりにも似すぎている。
「俺…門屋将太郎というんだ。別んところで〈門屋心理相談所〉を開いている」
と、自己紹介。
「あ、あの相談所の所長さんですか?」
加登脇がビックリして答えた。
「え、そうだけど…って、総合病院にまで耳に届くほど有名では…」
「有名ですよ、ほとんどの方をカウンセリングだけで癒せるって」
「え、そうなの?知らなかった…」
一応患者は来るのだが、それほど繁盛しているわけでなく、立地条件の悪さか自分の性格が悪いと思いこんでいたらしい。ひょっとすると診断料を安く設定していたのかもしれない。
「良かったら、庭を散歩してお話しをしたいけど」
と、加登脇から誘われた。
「しかし、ミーティングとかあるんじゃないの…」
「大丈夫ですよ。すでに終わって、看護婦さん達と飲みに行くだけですから」
また印象的な笑みで答える加登脇だった。


2.お礼
夕日の美しい夕方の中庭。入院患者はこの緑に囲まれ、とても落ち着くこの場所で親しくなった患者同士楽しい談笑をしている。その中で、将太郎と加登脇は世間話をしていた。
医学に関すること、特に心の病について等専門的な話をしていた。
「良い意見を聞かせて頂いたわ。ありがとう」
加登脇は将太郎に笑って礼を言った。
「いや、俺もかなり勉強になったよ」
照れ笑いをする将太郎。
しかし真剣な顔になって、
「俺の昔話を聞いて欲しいんだけど…いいかな?」
「良いですよ?変な言い方だけど、聞き手の達人じゃないとカウンセリングは出来ないし」
「其れもそうだな」
将太郎は胸にしまっておいた箱を開けるような気持ちで
「俺…ガキの頃、あんたに似た先生に世話になったことがあるんだ。俺には読心能力がある。完璧じゃねぇけど。目覚めたての頃は他人の本心がダイレクトに伝わってきたんでノイローゼになりかけた。それ知ったおふくろに無理矢理連れられた病院の精神科師があんたに似ていた。その優しい笑顔とか、さ」
そこで彼は照れながらやや俯いた。彼女は目で続きどうぞと訴えていたので、話を続ける。
「その先生のカウンセリングのおかげで、俺は能力を完全制御でき、普段通りの生活を送ることができた。その人には、今でもすっげぇ感謝してる」
将太郎は、過去に出会った憧れの加登脇と、今の加登脇を重ねていた。
彼女の反応は、驚きもせず、偏見にも満ちず、彼の言葉を真剣に聞いている顔だった。
「なあ、代わりにあんたに礼を言っていいか?その人に似ているから…」
と将太郎は、照れながら加登脇に訊いた。
「いいですよ」
あの印象的な笑顔で答える加登脇。
「ありがとう、こうして俺は夢を持って今を生きている。あんたがいなかったら、どうなっていたか分からなかったよ」
その『ありがとう』という言葉は、昔の医師の礼と今いる若い女医に向けられていた。
しかし、加登脇本人の本心は、能力を制御して会話している将太郎には分からなかった。


3.懐かしき過去と期待される未来
将太郎は、20年ぶりに親しい人にあった感じで、浮かれていた。
帰宅後、アトラスの碇から直々電話が入っていたことに気が付き、急いで電話をかけた。
「もしもし、碇編集長、門屋です。電話の内容のこと詳しく聞きたいんだけど…」
と、今日の出来事を後々語る事約束を碇とする将太郎だった。

一方、看護婦達と飲み終わり、帰宅した加登脇は、
「まさか、あの子があんなに立派になるなんてね」
書斎に収めている『開業医リスト』を引っ張りだして、〈門屋心理相談所〉の項目をめくった。
「ほんと、将ちゃん…きくなって…それに立派に能力も制御していたわね」
彼女は実は超能力者。しかし、将太郎との会話では意識して発動させる【能力】は一切使っていない。自動発動している『声』と『不老』のみ。同姓同名の他人のそら似か、名を受け継いだ親戚だと思っても仕方ないだろう。
彼女は、1人の能力に悩む患者を救い、そして患者の笑顔を見ることが何より嬉しかった。
また、将太郎が彼女の正体と【能力】に気付くまでどれぐらいかかるだろうか楽しみでもあった。


4.アトラス記事掲載
アトラスに加登脇美雪の記事が公開されていたが、募った相談相手の名前は全員イニシャル扱いだったが、三下だけしっかり記載されていた。
相談内容は言わずとしれたものだ。
『ボクはいつも不幸です…どうしたら幸運になれるのですか?』
加登脇は、それでもじっくり彼の悩みを聞いてあげて最後にこういったそうだ。
「あなたは、よく頑張っているわ。だから、休むことも大事。でも、若いうちは苦労を思いっきりしなさい。何時来るか分からない『幸せ』を求めるのではなく、今を、命の限り生きていきましょう」
と、優しく彼を諭したのだ。
もちろん、碇に過労の危険性があると指摘し、長期休職をさせるようにと言った。
オフレコであるが彼の若返りの怪現象は、今のところ原因不明だが調査を開始したそうだ。
暫く彼はどんなにいぢめられてもドジをしても、必死に生きている。


End


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【1522 門屋将太郎 28 男 臨床心理士】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
滝照直樹です。

門屋様、調査依頼での初参加ありがとうございます。
色々序盤に書いてありますが、私が持っている知識や体験も含ませて頂きました。
カウンセリングと言うことなので、個別に書いております。
他の方のノベルはほとんど異なっています。どんな悩み事を加登脇にしているか読んでみるのも良いでしょう。実際の医療現場では守秘義務や信頼関係で成り立つので公開などあまり出来ないですけどね。

では、機会が有れば又お会いしましょう。

滝照直樹拝