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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


カウントダウン! 闇鍋の怪

■□オープニング
 年越しも近い師走某日。
 その日も、<アンティークショップ・レン>の店主である碧摩・蓮(へきま・れん)は、暇そうに煙管をふかしていた。
「ま、うちの場合は客がない方が平和で良いってことなんだけどねぇ」
 それにしても、年末とはいえ連日この調子ではさすがに退屈だ。
 暇潰しに仕入れにでも行こうかと思っていた矢先、店の扉が勢いよく開かれた。
「聞いたよ蓮。アンタ面白い鍋仕入れたそうじゃない」
 現れたのは古書店【天幻堂】の悪名高いアルバイト店員、刑部(おさかべ)・きつねであった。
 おおかた、店番が面倒だと暇潰しにやってきたのだろう。
 この時期、曰く付きの品を扱う店はどこも閑古鳥が鳴くらしい。誰しも、年越しの時期まで厄介ごとに関わりたくはないのだろう。
 ただ一人、嬉々として店を訪れたきつねを除いては。
「さっき店に来た客に聞いたんだ。何でも、『神』の憑いた鍋を仕入れたって?」
 ああ、あの鍋ね。と呟き、蓮は店の奥からひとつの箱を持って来た。
「憑いてるには憑いてるけど、コイツは『神』じゃなくて『お奉行さま』だよ」
「『お奉行さま』ぁ?」
 きつねは物珍しそうに箱から出された鍋を覗き込むが、どこから見てもそれはフツーの土鍋にしか見えない。
「『奉行』つったらアレでしょ。鎌倉幕府が始めた、役所みたいな感じの」
「そ。だからコイツは、鍋に憑いてるだけあって『鍋奉行』なんだよ」

 鍋奉行。

「そうと決まったら、年忘れ鍋パーティーをやるしかないでしょう!」
 きつねは懐からいらない広告を取り出し、油性ペンを手に取って裏に何やら書き始めた。
「あんた、まさかそれをウチの店先に張り出そうってんじゃないだろうねぇ」
「何言ってんの蓮。『鍋奉行』よ、『鍋・奉・行』! 会わずしてどうして年が越せるの!?」
「わけわかんない理屈吐くんじゃないよ」
 蓮はきつねの頭をぺしっとはたいた。
「大体、あんた『鍋奉行』をどうやって召還するつもりだい。あいつは気難しくてね、気に入った相手の元でないと出てこないって言うよ」
「フフン。だったらそれを逆手に取れば良いんじゃない」
 はたかれた頭を押さえながら、きつねは得意げに笑った。
 そんなわけで。

 『<鍋奉行>召還・闇鍋パーティ要員ボシュウ。
  持ち物:闇鍋の具、一人一品。
  その他・御用店主話掛。』


■□ それは魔女の釜の如く。
 数日後。
 バイト先に『店員、骨董屋にて豪遊中につき本日休業』という張り紙を出した後、きつねは<アンティークショップ・レン>にてウキウキと鍋の用意をしていた。
 傍らには蓮が立っている。呆れた様子で煙管をふかし、ぼやく。
「そんなに暇なら、自分の店でやりゃぁいいものを……」
 結局、パーティーの行く末が気になるので蓮も店を休みにしていた。どのみち客の見込めないような日だ。かといって、店をめちゃくちゃにされても困るのだが。
「間違っても、店の品を壊すんじゃないよ」
「はいはい。わかってますって」
 店の奥にある部屋にこたつを設置し、鍋を置く。
 人数分の皿と飲み物の用意が整った夕方には、続々と参加者が集まってきていた。
「邪魔するぜ」
「お邪魔しまーっす」
 一番最初に現れたのは、鬼柳・要(きりゅう・かなめ)、芹沢・火嵩(せりざわ・ほたか)の二人組高校生だ。
「こんにちは。時間には間に合ったかしら?」
「……こんな罰当たりなパーティーに、待ち合わせ時間も何もない気がするけど」
 次に現れたのはシュライン・エマ、綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)の二人だ。
「こんにちはー。鍋パーティーこれからですか?」
 そして、最後に現れたのが刃霞・璃琉(はがすみ・りる)。
 これに、きつねと蓮を足したメンバーが闇鍋の参加者である。

「よくぞ集った皆の衆! さぁ、このアタシに闇鍋の具を献上なさい!」
 よほど鍋奉行に会いたいのか、きつねはいつも以上にテンションが高い。
 蓮はきつねに肘鉄を喰らわせつつ、とりあえず鍋に火を入れた。
「ま、目的は鍋奉行の召還だからねぇ。無難な具から入れていくのが一番だろうね。余計な不興は買いたくないし」
「ちなみに、召還目的の鍋だから食べるのはナシね。食べたいものがあったら遠慮せずどーぞ。誰も止めないから」
 にっこりと微笑みながら、きつね。
 もちろん、彼女は食べない気満々である。
「じゃあ俺からいいですか?」
 最初に名乗りを上げたのは璃琉だ。
「はい。うちで飼っているうさぎの餌が余っていたので、それを持ってきましたー」
 言って、買い物袋の中から橙色の物体を取り出す。
「人参ね」
「まごうことなく人参ですね」
「なんだ、普通の具じゃねぇか」
「でも、うさぎの残り餌なんだろ……?」
 一見一般的な具ではあるが、うさぎの餌と言われると位置づけが微妙だ。
「で、この人参、どうしましょう?」
 璃琉の人参は、今そこで抜いてきましたといわんばかりに泥まみれだった。
「決まってるじゃない」
 言うなり、きつねが璃琉の手から人参を奪う。
「そのまま入れるのよ」
 有無を言わせず、彼女は人参を鍋に突っ込んだ。
 鍋は無言のままぐつぐつと人参を煮込んでいる。鍋奉行のお怒りには触れなかったらしい。

「あのー、土が」
「さ、次の猛者は誰?」
 きつねは璃琉のセリフをかき消すように声を張り上げる。
「じゃ、次は俺が」
 次に名乗り出たのは火嵩だ。近くのコンビニで買ってきたのだろう。ロゴ入りの買い物袋から、長方形の箱を取り出した。
「激辛か甘口か迷って、結局激辛に」
 彼が手にしていたのはカレーのルー(固形)だった。
「それ具じゃねぇし」
「うるさい。俺はカレーが食いたかったんだよ!」
「でも、これで人参がおいしく頂けそうですねー。俺激辛食えませんけど」
「今日はカレーパーティーかしら?」
「趣旨が違ってきているような……」
「何でも良いから、パーッと入れちゃって、パーッと」
 きつねに言われるまま、火嵩は入っていたルーを全部鍋に投げ込んだ。
 この主催者にして、参加者あり。
 鍋は無言のままどろどろと人参とカレールーを煮込んでいる。鍋奉行のお怒りにはまだ触れなかったらしい。

「じゃあ、三番手は私が」
 名乗り出たのは、この企画自体乗り気でなかった汐耶である。何だかんだ言って、結局具は持ってきたらしい。
「きつねさんの様子見とはいえ、参加するからにはちゃんと用意しました」
 言って、彼女が取り出したのはチーズである。
「無難に呼び出せそうなものって言ったら、視点を変えてこんなところかなと」
「カマンベールチーズとは、これまた豪勢な具ですねー」
「カレーにチーズは美味いらしいぞ」
「美人の出したものなら俺は食う」
「もったいないわ。ひと切れもらって良い?」
 あまり動じない辺り、さすがおかしな企画に集まった参加者たちである。
 そしてもちろん、きつねはためらうことなくチーズを鍋に放り込んだ。
 鍋は無言のままごぽごぽと人参とカレールーとチーズを煮込んでいる。鍋奉行のお怒りにはまだまだ触れなかったらしい。

「それじゃあ、四番手は私でいいかしら?」
 次に名乗り出たのはシュラインだった。
「これだけカレーが入っていたら、味で負けそうな気はするけど。まぁ、召還用の鍋だしね」
 彼女が取り出したのは、葱、豆腐、椎茸、竹輪等々――を模した和菓子であった。要するに、練りきりである。
「わぁ、綺麗ですねー」
「これで、見た目だけは鍋に……なると良いんですけど」
「良ければ鍋に入れる前に俺にください」
 その練りきりを見て、要が声を上げた。
「お。丁度いいや。俺のも和菓子なんだ。一緒に入れていいよな」
 彼が取り出したのはあんころ餅だった。
「老舗の名品で、上品な甘さが絶妙な一品だぜ」
「そうそう。そこの和菓子、おいしいのよね」
「カレーに……あんこ……」
「おまえ、それいくつ入れるんだ……」
「あはははは。何だか鍋が混沌としてきましたねー」
 きつねは、やはりためらうことなく練りきりとあんころ餅を鍋に放り込んだ。

「おっかしーわねー。これだけ入れてもまだ何も起こらないなんて」
 鍋をかき混ぜながら、きつねがぼやく。
「蓮ー。アンタまがいもの掴まされたんじゃないのー?」
「なに言ってるんだい。そういうあんたは何も入れないのかい?」
 言われてみれば、きつねはまだ具を入れていない。
 ちなみに、蓮は鍋の提供者ということで具の提示を免除されていた。
 鍋奉行とはいえ、鍋に憑いているものである。共犯者になって祟られたくないらしい。
「仕方ないなぁ。アタシの食料だから、出したくなかったのよね」
 渋々、きつねは手荷物の中から具を取り出す。
 彼女が取り出したものを見て、一同の顔に衝撃が走った。
「はい。板チョコ七人前」
 チョコレート。闇鍋の場でも、入れた瞬間に確実に鍋が台無しになるとして敬遠される具。それが、七人分。
「おおー。これで鍋奉行もイチコロだな!」
「俺のルーの方がよっぽど良心的のような……」
「刑部さん。鍋の後始末は、もちろんあなたがやるのよね?」
「食料って、きつねさん。あなたいつも何食べてるんですか」
「鍋ー、鍋ー、鍋奉行ー♪」
 璃琉に至っては歌いながら鍋をかき混ぜている。
「板チョコ七つもあったら一ヶ月は生き延びられるわよ? これで鍋奉行が出てこなかったら鍋売って元手を取るしか」
「その鍋はうちの商品」
 再度蓮の肘鉄がきつねに食い込む。
 めげずにチョコレートを入れようとしたところ、鍋が沸騰せんばかりに煮立っているのに気付いた。
「あれ……。璃琉、火力いじった?」
「いいえ。俺は混ぜていただけですよー」
 火力を落としても鍋はやはり煮立ったままだ。
 ため息と共に蓮が煙管をふかす。
「やれやれ。やっとおいでなすったようだねぇ」
 その言葉に、一同は鍋に注目した。


■□ 鍋奉行見参。
「ならんならんならんならん、ぜーんぜんなっとらん!」
 怒声と共に現れたのは、風折烏帽子(かざおりえぼし)をかぶった袴姿の男だった。
 いつの時代の人間かは不勉強でわからなかったが、どっかの偉そうなお公家様、というのがきつねの印象だ。
「なんじゃこの鍋は! わしの鍋を愚弄するつもりか!」
 チョコレートを入れようとしていたきつねに向かい、鍋奉行扇子を突きつけて怒鳴った。
「やっと出てきた。もうちょっと早く出てこられなかったの? おかげでカレーとかチーズとかもう凄い匂いなんだから」
 きつねは彼の話を聞いていない。
 それどころか、闇鍋をどかして新しい鍋を用意し始めている。
「璃琉、鍋片付けるの手伝ってくれる?」
 きつねの言葉に、璃琉は笑顔で承諾した。
「鍋奉行さんが出てきたら、この鍋用無しですからね。今時使いませんよねこんな古い鍋ーあはははは」
「こんな鍋って言うなー!!」
 璃琉の毒舌に鍋奉行が叫ぶ。
 反論されるも、璃琉は「はい?」と笑顔を返した。彼は天然な毒舌さんなのである。
 一方、鍋奉行が男と見るや、火嵩はあからさまに肩を落として落胆していた。
「……男の鍋奉行か……。きつねさん、俺もう帰っていい……?」
 うってかわり、要は鍋奉行を足蹴に威嚇している。
「おら、お望みとあらば、火を起こしてやるから、とっとと美味い鍋を作りやがれ」
「ななな、なんと無礼な……! あいたっ、暴力反対! 反対ッ!」
 そんな状況を見かね、シュラインと汐耶は、蓮に目配せをして別所へ引っ込んでしまった。
 どうかしたのかと思っていると、三人は台所から新たに鍋の具を持って戻ってきた。
「はいはい皆。お奉行さまをいじめるのはそれくらいにして」
「せっかく出てきてくれたんですから、ちゃんとお鍋を作ってもらいましょう」
 三人で打ち合わせ、前もってきちんとした鍋の具を用意していたらしい。
「蓮ー! 『あたしゃ具なんて出さないよ』とか言っておきながら! 裏切りものー!」
「何いってんだい。気を利かせた、と言って欲しいねぇ」
「そうですよ。どうせきつねさん、闇鍋の準備しかしていなかったんでしょう?」
「うっ……」
 図星だった。
「そういうわけですから、これまでの非礼は丁重に詫びます。その代わりと言ってはなんですが、私達に鍋奉行さまの鍋をご馳走していただけないでしょうか?」
 シュラインは手に持っていた具を鍋奉行に差し出した。
 野菜を始め海の幸、山の幸、旬の食材がよりどりみどりである。
 きつねや男性陣にいじめられていた鍋奉行は、それを見るやころっと機嫌を直した。
 ここ長いこと、気味悪がられるばかりで鍋としてロクな扱いを受けていなかったらしい。
 蓮が闇鍋をした鍋を綺麗に洗って戻ってくると、鍋奉行は上機嫌で彼らに鍋を振る舞った。


■□ エンディング
 夜も九時を回る頃、一同は鍋奉行の鍋を平らげ、満腹していた。
「こんな豪勢な鍋を作る機会を与えられて、わしは幸せじゃ……」
 との鍋奉行の言葉通り、本格鍋料理店もびっくりの極上の鍋づくしだった。
 おかげで彼も満足したらしい。パーティが終わる頃には、鍋から鍋奉行の気配が消えていた。
「きつね、蓮、また闇鍋大会やるときは呼んでくれよな!」
「そうそう。今度はもっとこう、雰囲気のある場所でデートでも……」
 要と火嵩は鍋のほとんどを平らげて帰っていった。さすが育ち盛りの少年たちである。
 鍋奉行は彼らの食べっぷりに感動していたりもしたので、出会い頭の行動はともかく、少年たちも彼の成仏(?)に一役かっていたのだろう。
「それじゃあ、俺もそろそろお暇しますね。今度はうちのうさぎも是非一緒にー」
 笑顔で手を振って帰った璃琉も、鍋奉行の成仏に一役かったらしい。彼はひたすらお奉行さまと喋っていた。
 璃琉が天然毒舌とはいえ、“憑きもの”である彼は話し相手に飢えていたらしい。ひとときの会話は彼に喜びをもたらしたのだろう。

 そして、きつねはというと。
「きつねさん。闇鍋はあなたの為に包んでおきましたから」
「家に帰ってじっくり味わうと良いよ」
「これだけ残っていたらもったいないものね。はい、刑部さん。夜食にどうぞ」
 汐耶、蓮、シュラインのに有無を言わさず闇鍋を持たされていた。
 さすがのきつねも、この三人が揃っては逆らえないものがあった。
 ひきつり笑いを浮かべつつ、包みを手に取る。
「……有難く頂いて帰ります」
 きつねは、カレーとチーズとその他なんだかよくわからない匂いのする残り物を手に、ヨロヨロと帰途についた。


 その後、【天幻堂】に戻ったきつねが店に入れてもらえなかったのは言うまでもない。



 Successful mission!



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【1358/鬼柳・要/男/17/高校生】
【1111/芹沢・火嵩/男/18/高校生】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23/都立図書館司書】
【2204/刃霞・璃琉/男/22/大学生】

※発注申込順

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■         ライター通信
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 初めましての方も、お馴染みの方もこんにちは。
 「カウントダウン! 闇鍋の怪」へのご参加ありがとうございました。
 この冬、皆様はもう鍋料理を食べられましたか?
 我が家でも先日鍋を食べたのですが、その後三日間鍋だったので、もうしばらく鍋料理はご遠慮願いたい感じです。はい。

>シュライン・エマさま
 闇鍋、プレイング通りしっかり持ち帰らせました。
 きっと、強烈な匂いで歌留太も寄りつかなかったに違いありません(笑)
 綾和泉さまとプレイングがバッティングしていたので、蓮と結託させていただきました。
 機会がありましたら、またきつねと遊んでやってくださいませ〜。

 それでは、みなさま良い年の瀬をお過ごしください。
 今宵も貴方の傍に素敵な闇が訪れますように。

 西荻 悠 拝