コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人魚の傷跡

オープニング




不老不死と聞いたら、まず何を想像しますか?
色々な薬草?怪しげな儀式?
多分、みんなが思いつくのは『人魚』じゃないかしら?
人魚の血、人魚の肉は万能の薬としても知られているわよね。
女性だったら永遠に若く、美しくありたいと願うのは当然だと思うわ。
男性でも今の時代、女性に負けないほどの美しさを持つ人がいるわよね?
そして、今は『不老不死』が夢で終わる時代ではなくなったわ。
私の店には人魚の妙薬があって、必要な人にお売りしております。
どう?あなたの美しさを永遠なものにしてみない?



これが今朝の朝刊に挟んであったちらし。
ちらしには妖艶な情勢が写っており、その女性が店長だという。
その容姿は時男性だけでなく女性すらも魅せられるほどの美しさだった。
人魚の妙薬の効果なのだろうか?
「綺麗な方ですね、だけど…何か怖いとすら感じます」
零がちらしを見ながら呟いた。
確かに、と草間も小さく呟く。
何もかもが整いすぎて恐怖すら感じるのだ。



視点⇒作倉・勝利

「ここか…」
 勝利は少し派手めの店の前に立ち、見上げながら呟く。手には一枚の広告。今朝の朝刊の広告だ。不老不死を得られるという『人魚の妙薬』、その妙薬をこのフォーチュンという店は発売しているという。
「…永遠が楽しいものか…」
 勝利は広告に大きく書かれた『人魚の妙薬を飲んで永遠を楽しみましょう』という言葉に舌打ちをしながら呟く。勝利が望みはしなかったが人魚の肉を食べてしまい不老不死になってしまった。もしかしたらこの店に来れば不老不死の解除ができるのでは?と淡い期待を持ってやってきた。
「あら、随分と小さなお客様ね」
 店の中から出てきたのは派手な衣装を身に纏った女性。広告に載っていた店長だという女性だ。
「貴方も人魚の妙薬が欲しいのかしら?」
 勝利を見て妖艶な笑みを見せて問う。勝利はその問いに答える代わりに首を立てに一度だけ振った。
「そう、なら中にお入りなさい。こんな所で立ち話をするには寒すぎるから」
 そう言って女性店長は勝利を店の中へと招き入れた。時間は午前九時半、店は十時からなので当たり前の事だが、客はいない。
「あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」
 女性店長は暖房をつけながら勝利に名前を聞いてくる。
「………作倉・勝利」
「勝利?いい名前ね、えぇと、人魚の妙薬だったわね」
「本物だという証拠は?」
 勝利はぶっきらぼうに言うと、女性店長は少し驚いた顔をした。そして、次に困った表情をする。
「証拠…ねぇ?どうすれば信じてもらえるのかしら?」
「…不老不死が確実に訪れるという確証がなければ買うわけにはいかない」
 勝利はジャケットのポケットに手を突っ込みながら女性店長に言う、なにやらこの女性は不穏なものを感じるため、いつでも取り出せるようにポケットの中の手にはナイフが握られている。
「そうねぇ、ちょっともったいないけれど…」
 そう言って女性店長は小瓶を取り出し、小瓶の中の粉を水槽の中の金魚に与えた。
「これが証拠」
 そう言って女性店長は金魚にシャーペンを突き刺す。思わず顔を背けたくなるような光景だったが、刺されたはずの金魚は血を流しながらも生きている。今も元気に水槽の中を泳いでいる。
(偽物じゃない、本物の人魚の妙薬だ…)
 勝利の心には不思議な感情があった。本物であって嬉しい事、それは不老不死の解除ができるかもしれないということ。
「どのようにしてこの妙薬を手に入れたのですか?どんな方法で精製を?人魚のどの部分を使っているんですか?」
「一気に質問されても困るわ、入手方法は今の時代、人魚なんて珍しいものじゃないからいくらでもいるのよ。捕らえればすむこと、精製方法はあたしの能力かしらね、人魚の部分…そうね尻尾の部分かしら…」
 これで満足?と聞いてくる女性店長に勝利はコクリと小さく頷く。
「あと」
 勝利が言葉を区切る。女性店長は『まだ何かあるの?』と言いたげな目で勝利を見ている。
「不老不死の解除はできるんですか?」
 少し小さめな声で言ったが、女性店長にはちゃんと聞こえたらしい。
「……生半可な覚悟ならおやめなさい、少なくとも…あたしの知る限りでは解除なんて聞いたことないわ」
「…違う、俺は不老不死なんだ」
 その言葉に女性店長が驚きの表情で勝利を見る。そして勝利は事情を話した。過去に人魚の肉を食べてしまった事、それからずっと彷徨っているということ。女性店長は何を話す事もなく勝利の言葉をジッと聞いていた。
「…ふぅん、それで解除の方法を探しているの?」
「…店長さんは何のためにこんなことを?」
「………お金よ。お金がほしいからしているの」
 その言葉に勝利のナイフを握る力が強くなった。
「…この世の中は何でもできるわ、お金さえあればね。だからはじめたの。不老不死を願う人間なんていくらでもいるわ、人間という生き物がいなくならない限りね!」
「…人魚を庇うわけじゃないけれど…あなたは他人を犠牲にしてまで私腹を肥やしたいのか」
 勝利の言葉に女性店長は暫くの間何も言葉を発さなかった。
「…ククク…あなたなら分かるんじゃなくて?人間でない者がこの世界で生きていくのがどれほど辛いのかを」
 確かにとって彷徨ってきた日々は辛いものがあった。人の生きる様と死んでいく様、それをどれだけ見てきただろう。
「だけど…俺はお前のように逃げはしない」
「逃げる?」
「俺はありのままを受け入れている…いつか元に戻れるかもしれないという希望を抱いて…」
 その言葉を言い終わるか終わらないかの時にパシンと渇いた音が店内に響く。
「…あたしはあんたみたいに強くない、あんたに何が分かる!」
「分からない、自分の苦しみは自分にしか分からないのだから」
 勝利は女性店長を見上げながら、視線を逸らさずにはっきりと見据えて答える。
「……帰って、あなたは知りたいことは分かったでしょう。だったら帰って」
 女性店長は力なく椅子に倒れこみ、勝利はその姿を見ながら店を出た。


「解除の仕方はわからなかった。また流浪を続けるしかないか…」
 勝利は店を見上げた後に踵を返して歩き始めた。その次の日に勝利が店の前を通った時にはもう『閉店しました』という看板が立ててあった。彼女がどこに向かったのかは誰にも分からない。


 その後フォーチュンを見たものはいない。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

2180/作倉・勝利/男性/757歳/浮浪者

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


作倉・勝利様>

初めまして、瀬皇緋澄です^^
今回は『人魚の傷跡』に発注をかけてくださいましてありがとうございます!
『人魚の傷跡』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです^^
では、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^


            −瀬皇緋澄