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妖精さんいらっしゃい♪〜クリスマスVer
十二月二十五日が間近に迫った商店街。
通りは、色鮮やかなランプや装飾で彩られていた。
商店街の一角には小さな広場。その真ん中にはクリスマスツリー。
道の端にあるスピーカーから絶え間なく流れてくるのは明るく楽しいクリスマスソングだ。
賑やかな通りを歩く人々の様子も、心なしか浮かれているように見えた。
だがしかし、桜木愛華は浮かれてばかりもいられなかった。
「せっかくのクリスマスだっていうのに、お店の買い出しかあ‥‥」
愛華は溜息をつきつつ、呟いた。
別に家の手伝いが嫌いだと言うわけではないが、クリスマスには彼氏とデートだとか――いや、それ以前に彼氏はいないが――友達とパーティだとか。楽しめるイベントはいくらでもあると言うのに。こういう日くらいのんびりしたってバチは当たらないのではないだろうかとも思うのだ。
だがそれと同時に、やっぱりお店のお客さんの喜ぶ顔を見るのも好きだから。だから結局、最終的にはお店の手伝いをすることになってしまうのだ。
「えーっと‥‥」
気を取り直して、愛華は買い物メモに視線を走らせてから歩き出す。
と、その時。
目に飛び込んできたそれに、愛華はきょとんと目を丸くした。
「うわ、サンタさんの顔に落書き? 可哀相‥‥誰がこんなことしたんだろ」
呟いた瞬間、愛華の周囲でびゅっと風が吹く。同時に、声。
可愛らしくも甲高い少女の声が、二つ。
慌てて周囲に目をやるも、それらしき姿は見えず。だが、物や動物の声を聞ける愛華は、今の声を空耳とは思わなかった。
確信の元に周囲に目をやると、うっすらと見える妖精の姿。
ふんわり長い薄紅の髪、深緑を思わせる翠の瞳。四枚羽の薄く綺麗な羽を背に持ち、そっくり同じ姿の少女が二人、無邪気に笑いながら悪戯を繰り返した。
どうやら彼女らがサンタさんに悪戯書きをした犯人であるらしい。二人は愛華に気付かぬままに、広場のツリーの方へと飛んで行く。
慌てて追い掛けてツリーの方へ走ると、見知った顔に声をかけられた。
「よぉ、愛華。こんな日まで店の手伝いかよ。一人身は寂しいなぁ」
藤宮蓮。学校のクラスメイトだ。
「あ〜っちょうどいいところにっ! 蓮くんも捕まえるの手伝ってよぉっ。今度お店で珈琲おごるからさっ」
妖精が飛んで行く先を指差す。
「は?」
「妖精さんたちが、なんかいろいろイタズラしてるみたいなの。早く止めないと」
「はあ? んなめんどくせぇことできるかよ」
そこまで言って、蓮はにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「まぁ、今夜そのメイド服姿で奉仕してくれるってんなら話は別だけどよ?」
愛華が、ぎっと連を睨みつける。
「冗談だよ、んな怖い顔すんなよ。誰がお前みたいなお子ちゃま相手にするかよ。・・・まぁ、ちょっと退屈してたし手伝ってやっか」
こうして二人は、妖精を捕まえるべく商店街を駆け出したのであった。
妖精さんたちの気配を追いかけて辿り着いた先には、同じように妖精の悪戯を止めるべくやってきた者たちが集っていた。
まあ、同じ目的で同じ相手を追いかけていれば最終的に合流してしまうのは当然のことだろう。
集ったのは桜木愛華、藤宮蓮、鹿沼・デルフェス、シュライン・エマ、巽千霞の五人である。
ちなみに妖精たちは、シュラインの用意したケーキを食べつつ楽しそうに談笑している。ケーキにつられたのか、話せる相手がいたからなのか‥‥妖精たちは、あんがいあっさりと、あっけなく捕獲されてくれたのだ。
「良かったですわ。もしあんまり悪戯を繰り返すようでしたら、多少手荒でも止める方を優先させなければと思っていたんですの」
心からほっとしたように微笑んで、デルフェスが呟いた。
「それで、二人はどうしたいのかしら?」
シュラインは、前もって用意していた人形サイズの服を妖精コンビに着せてあげてから、そう問いかけた。
「くりすますなのっ!」
「パーティなのぉっ♪」
「つりぃなのっ!」
「遊ぶの〜〜〜〜〜〜っ!!」
プレゼントを貰って上機嫌の二人は、にこにこと満面の笑みで元気にくるんっと宙を踊った。
「そっかあ、なら、うちでパーティやろっか♪」
「突然お邪魔してしまって、大丈夫なんですか?」
デルフェスの問いに、愛華はにっこりと笑う。
「だいじょーぶっ。愛華のうちはお店やってるから、ちょっとくらい大人数が来てもなんとかなるよ」
そんな会話の横で、宙を舞う様子を眺めていたシュラインが、手持ちの袋からスプレー缶を一つ取り出す。
「そうそう、こんなの持って来たんだけど、どう?」
妖精たちがひゅっとシュラインの元に降りる。
じーっと見つめて、それから。
「これなあに?」
「キラキラ光るスプレーよ。これで飛んだらきっと綺麗じゃないかなって思ってつい買っちゃったのよ」
「へぇ、面白いもんがあるんだな」
女性同士の会話に入っていけなかったらしい蓮は、横目でその様子を眺めて呟いた。
妖精たちはといえば、思いきり、ノリ気である。
「やるやるーっ」
「可愛いの、綺麗なの」
「好き〜♪」
きゃらきゃらと笑いながら、スプレーを持ち出して、押す。
「うわあっ!?」
‥‥確かに目標である妖精コンビもスプレーを浴びたが、その直線上にいた蓮までも。運悪くというか、スプレーを浴びてキラキラになってしまった。
「蓮くんも可愛いよっ♪」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「‥‥いつまでも外で話していると風邪をひいてしまいますし、そろそろ移動しませんか?」
ツリー用のミニサイズの木を抱えた千霞が、おっとりと提案する。
「あ、そうだった。うん」
愛華の案内で、一行は喫茶店CureCafeへと移動したのであった。
CureCafeの一角は花が咲いたようという言葉がぴったりの、賑やかな雰囲気に彩られていた。
その中心となってるのは妖精コンビ。
千霞が持って来たツリーに飾りをつけるのが楽しくて仕方がないようなのだ。
「でも、妖精さんたちも飾りみたいですよね」
キラキラと光る身体であっちにこっちに飛びまわる様は、デルフェスの言う通り。まるで妖精たち自身がツリーの飾りのようであった。
「楽しんでくれたみたいで、よかったです」
千霞がにっこりと笑ったその時。
「お待たせしました〜っ」
全員分――どころか少し余るんじゃないかというホールケーキを持って、愛華がテーブルにやってきた。
「はい、蓮くんもどうぞ♪」
やはり女性の中に男性一人――同年齢の女子相手ならともかく、年上ばかりの中では多少の居心地の悪さも感じていたらしい。
愛華が声をかけると、なんとなくほっとした様子で愛華が差し出した珈琲を受け取った。
「ったく、なんであんな騒ぎ起こしたんだ、おまえら」
不機嫌そうに妖精たちに聞くと、妖精コンビはむすっと頬を膨らませた。
「話しかけたの〜」
「遊ぼうって行ったの〜」
「気付いて貰えなかったのっ!」
最後の一言は二人ぴったり同じタイミングで。ムーっと答えた二人に、一行は苦笑した。
「まあ、その気持ちもわからなくはねぇけど‥‥」
「そっか、寂しかったね。でもだからって悪戯なんかしちゃだめだよ」
「そうね。広場のツリーは皆の物だし、ある意味ウェルとテクスの物でもあるんだから、あんまり暴れて混乱させないでね」
蓮、愛華、シュラインの言葉を妖精は真剣な表情で聞いて、
「はいなの〜っ★」
明るく言って頷いた。
が、本当にわかってくれたのかどうかはなんとも謎である。
そして。
陽もとっぷり暮れた夜に、妖精たちのためのクリスマスパーティは終わりをむかえた。
一行が帰ったのち、CureCafeには愛華と蓮の二人が残っていた。
「蓮くん、帰らなくて良いの?」
愛華の問いに、連はわざとらしいため息をついた。
「‥‥俺は綺麗なおねえちゃんとデートの約束があったんだけどな」
しかし口調と表情から、その台詞が本気ではないことはすぐにわかった。
「ふふ♪ こんなクリスマスパーティーも、悪くないでしょ。ねっ蓮くん」
だから愛華はそう言って微笑を浮かべて見せる。
「そうだなあ‥‥別に、本命の恋人じゃねぇしな」
そこまで言って、連はニッと不敵な笑みを浮かべた。
嫌な予感がしたのは一瞬。
「その代わり、手伝った褒美にこれくらいはさせろよ」
すっと愛華を引き寄せた連は、愛華の頬に軽いキスをした。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
2155|桜木愛華|女|17|高校生・ウェイトレス
2359|藤宮蓮 |男|17|高校生
2181|鹿沼・デルフェス|女|463|アンティークショップ・レンの店員
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2086|巽千霞 |女|21|大学生
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、日向 葵です。
さて、クリスマスはいかがお過ごしでしょうか?
妖精さんたちのクリスマスも一緒に楽しんで頂けていれば幸いです。
>愛華さん
パーティ会場のご提供、どうもありがとうございました♪
おかげで妖精さんたちも楽しいクリスマスが過ごせた模様。
またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。
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