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<東京怪談・PCゲームノベル>


妖精さんいらっしゃい♪〜クリスマスVer

 十二月二十五日が間近に迫った商店街。
 通りは、色鮮やかなランプや装飾で彩られていた。
 商店街の一角には小さな広場。その真ん中にはクリスマスツリー。
 道の端にあるスピーカーから絶え間なく流れてくるのは明るく楽しいクリスマスソングだ。
 賑やかな通りを歩く人々の様子も、心なしか浮かれているように見えた。
 しかし商店街を進むにつれて、その印象がガラリと変化していく。
 賑やかという以上に、何か‥‥なんというか、商店街の様子は騒然としていたのだ。
「何かあったのかしらねえ」
 草間興信所でクリスマスパーティをやろうという話を受けて――ちなみに、言い出したのは武彦ではなく零である。ささやかなもので良いから、パーティをやりましょう、と。‥‥おそらく、最終的には乱入者が入って内輪のパーティではなくなるだろうが――買い出しに来ていたシュライン・エマは、首を傾げて周囲の様子に目を向けた。
 途端、飛び込んでくるのはなにか普通は飾らないだろうと思われる飾りを大量にくっつけた大きなクリスマスツリー。
 てっぺんの星は赤いサンタの帽子をかぶり、オモチャや店先のディスプレイと思われる品が上部の方に無秩序に飾り付けられている。
 そしてまた。
 改めて辺りを見まわすと、悪戯書きされた店先のサンタ人形やら、眺めて放り出したらしい店先の品々。
 かなり思いっきり迷惑ではあるが、まるで子供の悪戯のようなその光景。だが普通の子供には出来ないであろう悪戯。
「‥‥ウェルとテクスよね、これ」
 思い当たった名前に、シュラインは苦笑を浮かべた。
 そうとわかればやることは決まっている。
 あの二人が騒ぎを起こす時はたいがい暇な時や面白い物を見つけた時と決まっているのだ。おそらくこのクリスマスの装いを見て、遊びたくなったのだろう。だが大概において彼女らは気付いてもらえない。ゆえに、彼女らは、自分の存在を気付いてもらうべく悪戯に走るのだ。
 まずシュラインは、商店街を歩いてオモチャ屋に向かい、お人形用の服を購入した。それから、二人のため――というか、二人を誘い出すためのケーキを買い。ついでに、これは半分シュラインが見てみたいだけなのだが、キラキラと光る装飾用のスプレーを一本。
 準備万端用意して。
「さて、二人を探しに行きますか」
 騒ぎの中心地点に行けば二人に出会えるだろうと考えたシュラインは、足早に商店街を歩き出した。


 妖精さんたちの気配を追いかけて辿り着いた先には、同じように妖精の悪戯を止めるべくやってきた者たちが集っていた。
 まあ、同じ目的で同じ相手を追いかけていれば最終的に合流してしまうのは当然のことだろう。
 集ったのは桜木愛華、藤宮蓮、鹿沼・デルフェス、シュライン・エマ、巽千霞の五人である。
 ちなみに妖精たちは、シュラインの用意したケーキを食べつつ楽しそうに談笑している。ケーキにつられたのか、話せる相手がいたからなのか‥‥妖精たちは、あんがいあっさりと、あっけなく捕獲されてくれたのだ。
「良かったですわ。もしあんまり悪戯を繰り返すようでしたら、多少手荒でも止める方を優先させなければと思っていたんですの」
 心からほっとしたように微笑んで、デルフェスが呟いた。
「それで、二人はどうしたいのかしら?」
 シュラインは、前もって用意していた人形サイズの服を妖精コンビに着せてあげてから、そう問いかけた。
「くりすますなのっ!」
「パーティなのぉっ♪」
「つりぃなのっ!」
「遊ぶの〜〜〜〜〜〜っ!!」
 プレゼントを貰って上機嫌の二人は、にこにこと満面の笑みで元気にくるんっと宙を踊った。
「そっかあ、なら、うちでパーティやろっか♪」
「突然お邪魔してしまって、大丈夫なんですか?」
 デルフェスの問いに、愛華はにっこりと笑う。
「だいじょーぶっ。愛華のうちはお店やってるから、ちょっとくらい大人数が来てもなんとかなるよ」
 そんな会話の横で、宙を舞う様子を眺めていたシュラインが、手持ちの袋からスプレー缶を一つ取り出す。
「そうそう、こんなの持って来たんだけど、どう?」
 妖精たちがひゅっとシュラインの元に降りる。
 じーっと見つめて、それから。
「これなあに?」
「キラキラ光るスプレーよ。これで飛んだらきっと綺麗じゃないかなって思ってつい買っちゃったのよ」
「へぇ、面白いもんがあるんだな」
 女性同士の会話に入っていけなかったらしい蓮は、横目でその様子を眺めて呟いた。
 妖精たちはといえば、思いきり、ノリ気である。
「やるやるーっ」
「可愛いの、綺麗なの」
「好き〜♪」
 きゃらきゃらと笑いながら、スプレーを持ち出して、押す。
「うわあっ!?」
 ‥‥確かに目標である妖精コンビもスプレーを浴びたが、その直線上にいた蓮までも。運悪くというか、スプレーを浴びてキラキラになってしまった。
「蓮くんも可愛いよっ♪」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「‥‥いつまでも外で話していると風邪をひいてしまいますし、そろそろ移動しませんか?」
 ツリー用のミニサイズの木を抱えた千霞が、おっとりと提案する。
「あ、そうだった。うん」
 愛華の案内で、一行は喫茶店CureCafeへと移動したのであった。

 CureCafeの一角は花が咲いたようという言葉がぴったりの、賑やかな雰囲気に彩られていた。
 その中心となってるのは妖精コンビ。
 千霞が持って来たツリーに飾りをつけるのが楽しくて仕方がないようなのだ。
「でも、妖精さんたちも飾りみたいですよね」
 キラキラと光る身体であっちにこっちに飛びまわる様は、デルフェスの言う通り。まるで妖精たち自身がツリーの飾りのようであった。
「楽しんでくれたみたいで、よかったです」
 千霞がにっこりと笑ったその時。
「お待たせしました〜っ」
 全員分――どころか少し余るんじゃないかというホールケーキを持って、愛華がテーブルにやってきた。
「はい、蓮くんもどうぞ♪」
 やはり女性の中に男性一人――同年齢の女子相手ならともかく、年上ばかりの中では多少の居心地の悪さも感じていたらしい。
 愛華が声をかけると、なんとなくほっとした様子で愛華が差し出した珈琲を受け取った。
「ったく、なんであんな騒ぎ起こしたんだ、おまえら」
 不機嫌そうに妖精たちに聞くと、妖精コンビはむすっと頬を膨らませた。
「話しかけたの〜」
「遊ぼうって行ったの〜」
「気付いて貰えなかったのっ!」
 最後の一言は二人ぴったり同じタイミングで。ムーっと答えた二人に、一行は苦笑した。
「まあ、その気持ちもわからなくはねぇけど‥‥」
「そっか、寂しかったね。でもだからって悪戯なんかしちゃだめだよ」
「そうね。広場のツリーは皆の物だし、ある意味ウェルとテクスの物でもあるんだから、あんまり暴れて混乱させないでね」
 蓮、愛華、シュラインの言葉を妖精は真剣な表情で聞いて、
「はいなの〜っ★」
 明るく言って頷いた。
 が、本当にわかってくれたのかどうかはなんとも謎である。

 そして。
 陽もとっぷり暮れた夜に、妖精たちのためのクリスマスパーティは終わりをむかえた。
 もちろん草間興信所に帰りついたのも夜。
「ただいま」
 声に応えてくれるのは、武彦と零の二人。
「おかえりなさい」
「遅かったな、何かあったのか?」
 武彦の問いに、シュラインは苦笑を浮かべた。
「いつかの妖精さんに会っちゃってね。クリスマスパーティをしてきたの」
 武彦の表情が、なんとも言えず複雑になる。
「ああ‥‥あの子らか」
 二人がこの興信所に依頼に来た時を思い出したのだろう。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「いいえ、お疲れさまでした」
 一番パーティを楽しみにしていたであろう零は、だがにっこりと笑ってお茶を出してくれた。
「クリスマスは明日もありますから」
 時間的には今日これからでも充分に間に合うのだが、疲れて帰って来ただろうシュラインに今からパーティをやろうとはさすがに言えなかったらしい。
 そんな零の気遣いに、シュラインはにっこりと笑みを返した。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2155|桜木愛華|女|17|高校生・ウェイトレス
2359|藤宮蓮 |男|17|高校生
2181|鹿沼・デルフェス|女|463|アンティークショップ・レンの店員
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2086|巽千霞     |女|21|大学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 さて、クリスマスはいかがお過ごしでしょうか?
 妖精さんたちのクリスマスも一緒に楽しんで頂けていれば幸いです。

>シュラインさん
 毎度お世話になっております。
 今回はいろいろと楽しい案をありがとうございました。
 キラキラスプレーは書きながら想像して、とても楽しかったです(笑)