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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


TheLordOfTheSpirits〜第二部:TheTwoSpirits〜

■Opening:TheTwoSpirits

草間興信所。朝。
けたたましいブザー音が鳴り響いて、草間は飲んでいたコーヒーを取り落としそうになる。
いいかげん慣れたはずでも朝の落ち着いた空気の中では少々不意打ちであった。
「おはようございます」
現れたのは、神城由紀(23)。
草間興信所に昨日、”いなくなった霊を探して欲しい”と、依頼に来た女性である。
彼女の探しているのは”十二支式霊”と呼ばれる式。
なんとか草間の集めた精鋭達の活躍で昨日のうちに十二体中九体は見つけて、
彼女の用意した”封札”という札に封印する事ができた。
今日は残り三体の捜索に出向く予定である。
由紀にとって昨日は色々な出来事があり精神的にまいっているかと思いきや、
元気そうな雰囲気で、どこか眠そうな草間と違いはつらつとしていた。
そして、8時に全員集合をかけていた草間は由紀が来た事で集合時刻が近いことに気付く。
時計を見ると7時55分。
「もうそんな時間か…?」
今日の仕事はどうやら自分が出かける事になりそうだ…と、
草間がコーヒーカップを置き、立ち上がる。
そして由紀にも今回は同行してもらおうと話し掛けようとした…その時。
カチャ…と音が響き。
ゆっくりと草間興信所のドアが開いた。



「あら、武彦さん…どちらへお出かけ?」
興信所のドアを開いて、シュライン・エマが微笑みながら声をかける。
冠城・琉人(かぶらぎりゅうと)がその後ろから会釈をして入ってくる。
さらに続いて、大神・森之介(おおがみしんのすけ)、御巫・傀都(みかなぎかいと)の二人が、
「早起きしたらやはり眠いな…」
最後に、石神・月弥(いしがみつきや)が入って来た。
一瞬でにぎやかになる草間興信所。微笑みかけるシュラインと目が合い、草間は苦笑いを浮かべた。
「遅いんだよ…」
「あら?予定時刻前には揃っていたはずだけど?」
「出たのは早かったんですけどね…たまたま一緒になったので外で立ち話していました」
シュラインと大神が答える。どこか嬉しそうな笑みを含めた溜め息をついて、草間は立ち上がった。
「今日は残っている三体の式霊を探して欲しいんだが…まず神城さんから話を」
神城由紀は頷いて、手にしていた”封札”を取り出した。
「皆さんのお陰でこの子達も戻ってまいりました…ありがとうございます。
本来ならわたしがこの子達を使って探せばいいのですが、まだ”十二支式霊”に関しての知識がわたしにはありません。
全員が揃っていない不安定な状態でこの子達を使う事は躊躇われます」
昨日とは違い、しっかりとした口調と雰囲気で話す由紀に、集まった者たちは少し驚いていた。
実は外で話していた内容の一つに彼女の事があったのだ。
一日で両親の死の真相を知り、十二支式霊の事を知り…色々な事に直面して落ち込んでいたりしないだろうかと…。
しかし心配するような様子は見えなかった。むしろ、一番しっかりしているように見えた。
「昨夜一番最初に式となった子々(ねね)と相談して決めたのですが…
皆さんにこの子達をを持って行っていただきたいのです。
封印した状態で力を最大限発揮する事は出来ません…ですが、きっと何かの役に立ちます…この子達も望んでいます」
「確かに見つかっていない三体…いえ、三人と言うべきかしら?三人も仲間の呼びかけには答えるかもしれないわね」
「そうですね。この中の誰も…戦いを望んではいませんから」
「じゃあ今回は三体って事でとりあえずやっぱ三方向に別れるのか?」
石神が草間に問う。草間はしばらく考え、揃っている全員の顔を見回し…
「神城さんの話だと、残っている『巳』『申』『酉』の三体は…他と違い戦闘向けだそうだ。
もし抵抗された時のことを考えると…君たちの身の安全を確保したいと思う」
「ご心配には及びませんよ…でも、お心遣いは嬉しいですね」
「そうね。…私は武彦さんの考えた事に従うわ」
シュラインの言葉に、全員が頷く。昨日も草間の分けたチームで上手く事が運んだのだ。
彼の采配を疑う余地は無かった。


■Mission:MIKANAGI&KABURAGI&KAMISHIRO

「私は日本の神社に縁があるみたいですねぇ…」
のんびりと、冠城・琉人(かぶらぎりゅうと)が神社の鳥居をくぐりながら呟く。
その隣で御巫・傀都(みかなぎかいと)が小さく笑みをもらした。
「いえ、実は昨日の捜索も神社だったのですよ」
「元々神社にいた式がいなくなったんだから…行くとしたらまあ…そうだろうな…」
「ああ!それもそうですね」
ぽんと手を打って、冠城は笑みを浮かべた。
「冠城さん、御巫さん。どうぞこちらへ」
鳥居の先の神社の建物の前で、神城由紀が二人を呼んだ。今日はこの三人での行動になる。
御巫は鳥形の式を使い、今上空から捜索している最中で、
冠城も昨日に引き続いて使役した霊を使っての人海戦術で捜索中である。
今のところ特に情報も無い状態だった故に、
草間の命で、由紀の自宅に行き…もう少し詳しく十二支式霊について調べるようにとの事だった。
まあ元々草間はそのつもりで、ある程度そちら方面の知識があるこの二人が抜擢したのだが。
由紀に案内されて、昨日、御巫が行った家とは別の…もう一つの日本家屋に向かう。
それは由紀が生活している建物のさらに奥にあり、二部屋しか無い小さな家だった。
中に入ると、日本家屋独特の臭いが漂ってくる。
靴を脱いで畳に上がると…二人はその部屋に何かの気配を感じた。
いや、実際そこにある気配というわけではなく…その部屋に残っている気配、といった様子だった。
「神城さん、この部屋はもしかして…」
「わかりますか?祖父母が使っている部屋でした」
由紀はどこか寂しそうに告げる。亡くなってからそのままにしてあるのか、生活感のある室内だった。
「この部屋に、式のことを記した何かが残ってないかと思って…昨夜一応調べたんですけど…」
「特に見つからなかった様子ですね?」
「はい」
「見てもいいですか?」
由紀は頷いて答える。そして、御巫と冠城の二人は部屋にある書物や書類、
押入れの中に入っている様々な文献に目を通し始めた。
十二支式霊に関係の無い物がほとんどだったがどれも興味深いものばかりで二人は黙ったまま読み耽っていた。
その間、由紀はどこかに姿を消していたようだったが、しばらくしてお茶を入れて二人の元に持ってきた。
緑茶好きの冠城が嬉しそうにそれを受け取る。御巫も一段落してからそれを受け取った。
「何か見つかりましたか?」
「このお茶、美味しいですねぇ…いえ…今のところは特に何も無いですね…御巫さんは?」
「こちらも同じようなものかな」
読み終わった書物を仕舞いながら答えた。
「失礼ですがご両親のお部屋は?」
冠城が不意に問う。確かに、両親のどちらかが元々は式を所持していた経験があるはずで、
そのことに関して何かを書いているかもしれない。
両親の部屋があればそちらも探してみればよいだろうと思ったのであるが…。
由紀は寂しそうな表情を浮かべ…。
「両親の部屋はありません。十二年前に…ええ。あの頃は祖父母に事故だと聞かされたんです。
わたしは眠っていて記憶に無いのですが、目を覚ますともう両親はいませんでした…
車の事故で炎上して遺体も残っていなかった…って…その後すぐ、祖父母は両親の部屋の中のものを処分してしまいました」
「――すみません。余計な事を聞いてしまいましたね」
冠城は申し訳無さそうに頭を下げた。しかし由紀は笑みを作ると首を左右に振り。
「いいんです。だって話さないといけない事かもしれませんし!
今は過去のことよりこれからの事を考えていかなきゃいけませんし!ね!」
元気に明るく言う由紀に、二人は顔を見合わせて笑みを交し合った。
そして小休止の後、再び文献を探しはじめる。今度は由紀も加わり、三人で読み耽った。
しばらくして…不意に御巫が押し入れの奥に、何かの気配を感じて顔を向ける。
はっきりとそこに何かが”見える”というわけではないのだが、何かを伝えたい思いが感じられた。
そこに手を伸ばす。すると、押し入れの奥の壁に…見た目ではわからない程度の段差があった。
白い壁の上に、何かを貼り付けてその上から再び白い壁紙か塗料を塗っている様子だった。
「由紀さん…これに見覚えは?」
「…え?いえ、なんでしょうか?」
「剥がしてみてもいいか?」
由紀に了解を得て、御巫はそれをはがし始める。冠城も手を止めて様子をうかがった。
長い年月そのままにされていたからか、力を入れるとすぐにボロボロと塗装が剥がれ落ちた。
完全に剥がしてみると…壁に小さなくぼみがあり、そこに1冊の小さな黒い手帳が隠されていた。
無言のままで御巫がそれを取り出す。そしてそれぞれに目で合図して手帳を開いた。
”十二月三十一日。とうとう明日…由紀が十二歳を迎える。
私も栞も子供達も…そして式霊達も出来る限り全力で抑えるつもりだ。”
「え…?」
その手帳の1ページ目にはそう書かれていた。
”一月一日。未だ始まらず。式霊達の不安が感じられる。由紀は”未”の式の術で眠っている。
全てが終わるまで眠っていてくれる事を祈るのみ。”
それは紛れも無く、由紀の祖父が記したもののようだった。日記とまではいかないものの…
祖父の思っている事が一ページに一つ書かれていた。
一日の次は、日があいて五日の日付になっていた。
”一月五日。娘と婿の葬儀を終えた。由紀はまだ理解できないのか涙も見せない。
或いは…全てを知って受け入れているかのようにすら思える。”
「由紀さん、これ…」
御巫が由紀に手帳を差し出した時、不意に厳しい顔をして冠城が立ち上がった。
「御巫さん!行きますよ!」
突然の事にどうしたのか自体が飲み込めなかったが、御巫もすぐに気付く。
ふわっと窓の外に御巫の放っていた式が舞い戻ってきた。
二人は顔を見合わせると同時に飛び出す。由紀もよくわからないながらも手帳を抱いたまま後を追いかけた。



「最悪ですね…」
神城神社から少し離れた場所…工場跡地まで三人は御巫の式を追いかけ走って来ていた。
そこで見たのは、大きな翼を広げて舞い上がり、冠城の使役していた霊に攻撃を仕掛けている『酉』の式の姿だった。
酉の式は中学生くらいの女の姿をしていて、背に羽根がある姿が天使にも見えた。
「翼っ?!」
男性二人から少し送れてきた由紀が、それを見て驚愕に目を見開く。
おそらく”翼”と言うのが『酉』の式霊の名前なのだろう。しかし名を読んだ由紀の声にも翼は反応しなかった。
「御巫さん…貴方はどう見ます?」
「誰かが使役しているというよりは…悪霊の類の毒気にあてられた様子だな」
「元々、式使いから離れた時点で式霊は不安定になりますからね…悪霊に意識を乗っ取られやすくなります…
おそらく由紀さんの事を思う心に悪霊がつけ込んだのでしょう…許せませんね…
私の能力で悪霊のみを祓う事が出来れば良いのですが…」
冠城はそう息を吐くと、翼に少し近づく。翼は自らに近づいてくる者全てを攻撃対象としているらしく、
羽根を広げるとそれをカッターのように鋭利に尖らせ、冠城に放った。
「笙乃!」
冠城に羽根が突き刺さる寸前、御巫の傀儡人形「笙乃」がその間に入り舞うように動き、羽根を払い落として行く。
笑みを浮かべて冠城は帽子に手を添えて御巫に頭を下げた。
「翼!しっかりして!あなたはそんな事をする子じゃないはずよ!」
由紀が叫ぶ。しかし、それが逆に翼を刺激したのか、今度は由紀に羽根を放った。
「由紀さん!…笙乃っ!!」
御巫の言葉に、素早く笙乃が動く。そして羽根が当たる直前、由紀を抱き上げ御巫の元に戻ってきた。
「よくやった」
笙乃は優しげに笑みを浮かべて由紀を下ろす。
由紀は翼を見つめたままで少し周囲の様子が目に入っていないようだった。
御巫とて気持ちはわからないでもない。笙乃が悪意の元に使役されてしまった時の事を考えると、
もしかすると自分もそうなってしまうかもしれない。しかし、今はそれを考えている場合ではない。
「御巫さん!」
ほんの一瞬、考えていた隙に、翼が御巫に向かって滑空してくる。
冠城が叫んだが間に合わず、体当たりを食らって御巫と由紀は後方に吹き飛ばされた。
すかさず笙乃が由紀のカバーに入り、地面に叩きつけられるのを防ぐ。
御巫は強か地面に身体を打ちつけたが…痛みを堪えて体勢を立て直した。
「翼さん、私の声が聞こえますか?聞こえるならあなたのその意識だけ耳を傾けてください」
冠城が翼に向かい声をかける。穏やかでいて、どこか力のある強い口調だった。
「あなたは由紀さんを傷つけるのが嫌で由紀さんの元を離れたのでしょう?
それなのにあなたは今、何をしているんですか?由紀さんの…」
言い終わらないうちに翼が今度は冠城に向かって突っ込んで行く。
殺傷能力は低いのだが、空からの攻撃ゆえに防ぐのが困難だった。避けるしかない。
「ネクロマンシーを使ってみますか…」
冠城は翼を避けながら呟く。悪霊に支配されていると言えども、おそらくは使役できるはず。
一度こちらに使役させて悪霊を祓えればそれに越した事は無い。そう。誰も戦いたくは無いのだ。
「御巫さん、あなたの傀儡人形で気をそらせて下さい」
「わかった」
地面に叩きつけられ痛めた腕をかばい、御巫は笙乃を呼ぶ。
笙乃は気を失っている由紀を物陰にそっと寝かせるとすぐに御巫の元にやってきた。
御巫が何を思っているのかがすぐに伝わり笙乃は翼の前に躍り出る。
目の前に現れた者に翼はすぐに標的を変える。そして攻撃をしかけた。
鋭い爪も武器になり、素早い動きで繰り出してくるのを笙乃は紙一重で上手く避ける。
それが翼には気にいらないのか、必死になって何度も笙乃を攻撃した。
その間に…冠城が翼を使役しようと試みる。しかし…
「これはいけませんね…翼さんの魂が見えてきません」
「どういうことだ?」
「悪霊が何体も翼さんの魂の周囲を覆ってる感じでしょうか。翼さん自身が深く心を閉ざしてしまっていますから…」
「どうにかできないのか…?」
「そうですね…翼さんを支配している悪霊を一体一体使役して離していく事は可能ですね…
悪霊自体を祓うこともできますが、もし翼さんの魂と一体化している者がいたら危険ですから」
「…どれくらいかかる?」
御巫の言葉に、冠城はしばし翼を見つめ。
「そうですね…十分…いえ、五分でやりましょう」
「わかった」
頷いて御巫は冠城の元を離れる。
冠城が翼から悪霊を離していく間、御巫は笙乃を使って翼の気を引く。
五分ならばなんとかなる…。御巫は鳥形の式も呼び出し、空中からも翼の気を引く事にした。
翼は案の定、動かない冠城には見向きもせずに、目の前を動く笙乃と鳥形の式に標的を絞る。
羽根をはばたかせてカッターを繰り出し、滑空し体当たりをしかけ、爪で切り付ける。
その攻撃のことごとくを避け、冠城が悪霊から翼を開放するのを待つ。
ほんの五分。普通ならば短い時間のはずではあるが…それはとても長く感じた。
やがて空を飛び回っていた翼の動きが僅かに変化してくる。
動きが少し止まり、それに合わせて笙乃も動きを止めた。
その瞬間、それまで物理攻撃だけだった翼が…風を巻き起こし、霊力を集めた弾を打ち出す。
「いけない!」
冠城の叫ぶ声も間に合わず、笙乃もろともそれは御巫に直撃した。
「御巫さん!」
大きく跳ね飛ばされはしたが、御巫はなんとか無事だった。
思いのほか、攻撃自体には威力は無いようだった。
しかしそれは要するに、翼自体の霊力自体が尽きてきているという事でもある。
冠城が御巫を助け起こすと、御巫は痛みに顔を顰めながらもしっかりと立ち上がる。
「俺は大丈夫だ…それより…」
「翼さんの魂を囲んでいた悪霊は一体を残して全て分離させて…成仏させましたよ」
「残り一体は…」
「翼さんの魂と深く絡み合っていますね…翼さん自身が離したくない様子です」
見上げた空には、翼が二人を見下ろすようにして羽根を羽ばたかせている。
今までの様子と違い、表情が見えて人格を窺い知る事は出来たが…その目は虚ろだった。
「話を聞いていただけませんか?翼さん」
『――ツバ…サ…』
「そうです!翼さん!あなたの事です。さあ、帰りましょう…由紀さんが待っています」
『ゆ…ユキ…ユキ!!』
翼は由紀の名前に反応を示し、頭を抱える。
『嫌だ!嫌だ!アタシは嫌だ!!帰らない!もう嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!』
「我がままを言うんじゃありません!」
怒鳴りつける冠城。まるで母親が子供を叱るような口調であるが、やはり力のある言葉だった。
もしかしたらある種の言霊なのかもしれない。
翼は不意に静かになり…再び虚ろな目で二人を見つめた。
「仕方ありませんね…」
「どうするつもりだ?」
「荒療治ですが、今の状態で悪霊を祓ってみましょう」
「もし…式の霊に影響したら…」
「翼さんもろとも天に召されてしまうかもしれません…消えてしまうという事ですね」
「成功する可能性は?」
「五分五分の確立ですね」
あまりにもリスクが大きすぎる…二人共それは充分に承知していた。
成功すれば悪霊を取り祓う事が出来る、しかし失敗すれば…。
『…消して…お願い…』
「?!」
『誰か…アタシを…この世から消して…消して…消し…』
「翼さん!!」
『消えろ…消えろ…みんな消えてしまえ!!消えてしまえっ!!』
翼は再び霊力の弾を作り出し始める。
「いけない…それ以上力を使っては…」
「翼…」
二人の呼ぶ声も翼の耳には届かない。
苦しそうな表情で作り出したその弾を二人に目掛けて投げ―――…
『翼――!!』
叫び声と共に、御巫が預かっていた”午の札”が光を放つ。
それと同時に札に封印されていた、昨日、御巫が封印した”午”の式霊の”宇摩(うま)”が出現する。
そしてそのまま翼に向かっていき…その弾を全身で受けた。
一瞬の出来事に言葉も出なかったが、それに触発されたように冠城の持つ”丑の札”の式霊、
憂志(ゆうし)も札から飛び出した。そして二人で翼を抑える。
『嫌だ!放せ!!放せっ!!』
『翼!もういい!もういいんだよ!!帰ろう!帰るんだ!!』
『由紀が悲しむ…おまえがいないと由紀が悲しむ!!受け入れるんだ…由紀も心を決めた』
『嫌だ―――!!』
二人に抑えつけられても、それでも暴れる翼。
御巫が笙乃を使い、さらにその上から翼を束縛するのを手伝う。
翼が完全に身動きを取る事ができなくなった瞬間、
『冠城さん!!』
憂志が冠城に目を向けて言う。言葉にはしなかったが、冠城は何を伝えたいのか感じ取ることが出来た。
『翼、由紀が迎えに来てるんだぞ…』
『ユ…キ…ユキ、…ユ…キ、由紀…』
『そうだ…帰ろう…由紀の元へ…』
『由紀…』
翼が小さく呟いた瞬間、翼の体から黒い煙が噴出す。
それに触れるのを避けて式と笙乃が翼から離れる。黒い煙は一瞬だけ、形を成したかと思うと…
「お眠りなさい」
冠城の言葉と同時に、空へ吸い込まれるように消えて行く。
全員が緊張のままその様子を見つめていると…空に浮いていた翼の体が、力なく落下していった。
それを受け止めて、宇摩と憂志は姿を消す。おそらく具現化する事で力を使い切ったのであろう。
翼は力なく地面へと倒れこみ…『由紀…ごめんね…ごめんね…』と、何度もうわ言のように呟いていた。
「御巫さん。とりあえず封印しましょう…具現化しているのは式の力を消耗します」
「わかった」
御巫はそう言うと、由紀から預かっていた封札を翼の額にあてる。
すると、どこかほっとしたような表情を浮かべ…翼は煙となり封札に吸い込まれていく。
そして封札には赤い『酉』の文字が浮かび上がった。



「由紀さん…由紀さん…」
「――あ…?」
御巫が声をかけると、由紀は意識を取り戻して体を起こす。
そして周囲を見渡して見て…。
「翼……翼は?!」
「封印しました」
御巫の見せた札を見て、由紀はほっとした顔でそれを受け取った。
そして大事そうに抱きしめる。
「憂志さんと宇摩さんが助けてくれました」
「え?あの二人が…」
少し意外そうな顔で由紀は冠城を見る。しかしすぐに嬉しそうな表情になって…。
「お二人の事を信頼して…気に入ったんだと思います…ありがとうございます」
「ですがあのお二人も無理をしたようで…」
「札に戻ったっきり反応が無いんだ…」
由紀は御巫の差し出した二枚の札を受け取ると、翼と一緒に抱きしめた。
式を使う者がそうする事で回復されていくはずである。
「ありがとうございました。お二人共、怪我をなさってますね…一度、うちに寄って下さい」
「大丈夫ですよ。大した事ありませんから」
「だからです。大した事があれば病院でしょう?」
由紀はくすっと笑うと立ち上がって服についたホコリをはらった。
そして二人を先導して神城神社に向かう。
「夢をみていました」
「夢…ですか?」
「祖父の手帳を見つけたからかもしれません…子供の頃の夢を見ていました」
そう話す由紀の顔は、嬉しそうでもあり寂しそうでもあった。
どんな夢をみたのかは…あえて聞かずに二人は由紀の後に続く。
「残りは『申』と『巳』ですね…」
「もう一組がどちらかを見つけているといいんだが…」
そう冠城と御巫が言葉を交わしている頃。
もう一方のチームも一筋縄ではいかない『巳』の捕獲に苦戦していたのだった。


■Ending:See you again again...?

一日を終え、草間興信所には仕事を終えた面々が集う。
結局、それぞれが『巳』と『酉』の式霊を見つけ、封札に封印する事はできたものの、
最後の『申』だけはどうしても見つからなかった。
誰もが予想はしていたが、やはり一筋縄では行かない。
夜を徹しての捜索も視野に入れていたのだが、由紀の願いで残りの捜索は明日に持ち越されることになった。
興信所のソファや零が用意した補助椅子に腰掛ける面々は、
昨日と違い今日はどちらも一筋縄ではいかなかった事もあり、疲れの色が濃く見えていた。
由紀はそんな面々を気遣ってお茶と自作の和菓子を用意していた。
皆が必死で探している時に呑気にお菓子作りをしていた事を気にしている様子だったが、
疲れている時には由紀の作った甘い和菓子がありがたかった。
「そう言えばカイスさんとギルバさんは?」
「あの二人はここに入れないからな…」
そう言って草間が窓の外を見る。
眼下の街灯に照らされた路上で、由紀からの和菓子を不思議そうに見つめる二人の姿があった。
彼等も少し誤解があったものの同じ依頼を受けて仕事をした仲間である。
もし強大な敵に立ち向かわなくてはならないような依頼があったら、
彼らほど頼りになる味方はいないだろうと思いながら草間は視線を室内に戻した。
それから、十分程して。
全員がお茶と和菓子でとりあえず落ち着いた頃。
草間が椅子から立ち上がり、一つ咳払いをする。
何を言おうとしているのか全員予想がついて…彼に注目した。
「昨日に続いての捜索…ご苦労だった…それで、だ…」
「わかっているぞ武彦。明日も捜索はあるけれど強制では無いって言いたいんだろう?」
石神がニッと笑みを浮かべながら言う。その言葉に、草間を始めとした全員が苦笑して。
「武彦さん…言わなくてもみんな承知しています」
シュラインが少し真面目な、それでいて優しげに微笑む。
「昨日も言いましたが、明日の予定は明日になってみないとわかりませんからね…」
冠城はそう呟いて今日も緑茶をゆっくりとすすった。
「あの、私はやっぱり学校も気になるのでどうなるかわからないんですが…」
倉前は自分でもどうしたいのかわからずに戸惑いながら言う。
「帰りに下の二人にもそれを伝えておけばいいんだな?」
御巫が窓から下のカイスとギルバを見つめながら言う。
その隣で由紀はこちらを見上げている二人に手を振っていた。
「では…先に失礼します」
大神が腰を上げる。それが合図になったように、全員が立ち上がった。
「明日は満月になりそうだよ…」
石神の言葉に全員が見上げた夜空には、
ほとんど満月の状態の蒼い月が疲れた彼らを癒すように優しい光を注ぎながら浮かんでいたのだった。



<END>

第三部〜TheReturnOfTheSpirits〜に続く

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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チーム1:
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家・幽霊作家+草間興信所事務員】
【2235/大神・森之介(おおがみ・しんのすけ)/男性/19歳/大学生・能役者】
【2269/石神・月弥(いしがみ・つきや)/男性/100歳/つくも神】
チーム2:
【1953/御巫・傀都(みかなぎ・かいと)/男性/17歳/傀儡師】
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84歳(外見20代前半)/神父(悪魔狩り)】
チーム3:
【2182/倉前・沙樹(くらまえ・さき)/女性/17歳/高校生】
【2319/F・カイス(えふ・かいす)/男性/4歳/墓場をうろつくモノ・機械人形】
【2355/D・ギルバ(でぃー・ぎるば)/男性/4歳/墓場をうろつくモノ・破壊神の模造人形】

NPC
【***/神城由紀(かみしろゆき)/女性/23歳/心霊便利屋・巫女】
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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。この度は依頼をお受け下さりありがとうございました。
今回は前回の続きという事だったのですが、前話に参加して下さった皆様が引き続き参加して下さり、
また加えて新しい二方も参加して下さりありがとうございました。
初の連載ものなので不安だったのですがたくさん参加していただけてありがとうございます。
さて。
今回の構成は本来なら二つに分ける予定だったのですが、
多くの方に参加していただけましたので三つに分けさせていただきました。
シュライン様、大神様、石神様のチームと、倉前様、カイス様とギルバ様のチームがリンクしています。
御巫様、冠城様のチームは個別になっております。
例の如く、他の方の様子も覗いてみるとより一層楽しめるかもしれませんし、
ややこしくなるかもしれません。(笑)
もう少し戦闘を描くつもりだったのですが、人数の事も考えまして少し抑えました。
期待しておられましたらすみません。<(_ _)>
今回は全体を通して長くなってしまったので読んでいただけて嬉しい半分、申し訳ない気持ちです。
読んで下さりありがとうございました。そしてお疲れ様でした。

次回で完結です。
最後に残った『申』を捜索に協力して下さると嬉しいです。
皆様にまたお会い出来るのを楽しみにしております。


:::::安曇あずみ:::::

>御巫・傀都様
2話連続でのご参加どうもありがとうございました。<(_ _)>
前話で書き忘れてしまっていたのですが、笙乃さんの描写に関して、
気に入っていただけていたら良いのですが…(^^;
NPC由紀との絡みを希望していただけて嬉しいです。ありがとうございます。
楽しんでいただけたら幸いです。またお会いできるのを楽しみにしております。

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。