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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


TheLordOfTheSpirits〜第二部:TheTwoSpirits〜

■Opening:TheTwoSpirits

草間興信所。朝。
けたたましいブザー音が鳴り響いて、草間は飲んでいたコーヒーを取り落としそうになる。
いいかげん慣れたはずでも朝の落ち着いた空気の中では少々不意打ちであった。
「おはようございます」
現れたのは、神城由紀(23)。
草間興信所に昨日、”いなくなった霊を探して欲しい”と、依頼に来た女性である。
彼女の探しているのは”十二支式霊”と呼ばれる式。
なんとか草間の集めた精鋭達の活躍で昨日のうちに十二体中九体は見つけて、
彼女の用意した”封札”という札に封印する事ができた。
今日は残り三体の捜索に出向く予定である。
由紀にとって昨日は色々な出来事があり精神的にまいっているかと思いきや、
元気そうな雰囲気で、どこか眠そうな草間と違いはつらつとしていた。
そして、8時に全員集合をかけていた草間は由紀が来た事で集合時刻が近いことに気付く。
時計を見ると7時55分。
「もうそんな時間か…?」
今日の仕事はどうやら自分が出かける事になりそうだ…と、
草間がコーヒーカップを置き、立ち上がる。
そして由紀にも今回は同行してもらおうと話し掛けようとした…その時。
カチャ…と音が響き。
ゆっくりと草間興信所のドアが開いた。



「あら、武彦さん…どちらへお出かけ?」
興信所のドアを開いて、シュライン・エマが微笑みながら声をかける。
冠城・琉人(かぶらぎりゅうと)がその後ろから会釈をして入ってくる。
さらに続いて、大神・森之介(おおがみしんのすけ)、御巫・傀都(みかなぎかいと)の二人が、
「早起きしたらやはり眠いな…」
最後に、石神・月弥(いしがみつきや)が入って来た。
一瞬でにぎやかになる草間興信所。微笑みかけるシュラインと目が合い、草間は苦笑いを浮かべた。
「遅いんだよ…」
「あら?予定時刻前には揃っていたはずだけど?」
「出たのは早かったんですけどね…たまたま一緒になったので外で立ち話していました」
シュラインと大神が答える。どこか嬉しそうな笑みを含めた溜め息をついて、草間は立ち上がった。
「今日は残っている三体の式霊を探して欲しいんだが…まず神城さんから話を」
神城由紀は頷いて、手にしていた”封札”を取り出した。
「皆さんのお陰でこの子達も戻ってまいりました…ありがとうございます。
本来ならわたしがこの子達を使って探せばいいのですが、まだ”十二支式霊”に関しての知識がわたしにはありません。
全員が揃っていない不安定な状態でこの子達を使う事は躊躇われます」
昨日とは違い、しっかりとした口調と雰囲気で話す由紀に、集まった者たちは少し驚いていた。
実は外で話していた内容の一つに彼女の事があったのだ。
一日で両親の死の真相を知り、十二支式霊の事を知り…色々な事に直面して落ち込んでいたりしないだろうかと…。
しかし心配するような様子は見えなかった。むしろ、一番しっかりしているように見えた。
「昨夜一番最初に式となった子々(ねね)と相談して決めたのですが…
皆さんにこの子達をを持って行っていただきたいのです。
封印した状態で力を最大限発揮する事は出来ません…ですが、きっと何かの役に立ちます…この子達も望んでいます」
「確かに見つかっていない三体…いえ、三人と言うべきかしら?三人も仲間の呼びかけには答えるかもしれないわね」
「そうですね。この中の誰も…戦いを望んではいませんから」
「じゃあ今回は三体って事でとりあえずやっぱ三方向に別れるのか?」
石神が草間に問う。草間はしばらく考え、揃っている全員の顔を見回し…
「神城さんの話だと、残っている『巳』『申』『酉』の三体は…他と違い戦闘向けだそうだ。
もし抵抗された時のことを考えると…君たちの身の安全を確保したいと思う」
「ご心配には及びませんよ…でも、お心遣いは嬉しいですね」
「そうね。…私は武彦さんの考えた事に従うわ」
シュラインの言葉に、全員が頷く。昨日も草間の分けたチームで上手く事が運んだのだ。
彼の采配を疑う余地は無かった。


■Mission:SYURAIN&O-GAMI&ISHIGAMI

「取りあえず先に『巳』を探すべきだと言うのね?」
シュラインが由紀から預かった”子の札”に話し掛ける。
子の式霊、子々(ねね)が自ら望んでシュラインと共に行動する事を望んだのだ。
『はい。申の”焔(えん)”の力は我々全員を凌ぐ可能性があります…
考えたくはないのですが、もし戻る意思が無く抵抗したり、或いは何者かに使役されていたら…』
「なるべくなら全員揃っているに越した事はないでしょうね」
大神・森之介が同意する。彼は由紀から”戌の札”…太郎(たろう)を預かっていた。
『巳の式霊は”大蛇(おろち)”と言い…巨大な蛇に化ける事が出来ます…』
「こんな事を聞きたくはないのだけれど、聞いておくべきだと思うから聞くわ…
もし戦闘になった時、その二人と戦う為に有効な手段や…ウィークポイントがあれば聞いておきたいわね」
シュラインの言葉に子々は沈黙する。戦闘になる事など考えたくもないのだろう。
長い間仲間として…家族や兄弟として過ごしていたのだから。
しかし、子々は一番最初に式霊になった者としての責任感もあった。
何より由紀を悲しませる事だけはしたくないと…それに…
『もしもの事があった時、由紀は全力で止めて欲しいと言っていました…
その結果、仲間を傷つける事になったとしても…ですから、私達の力の事、お話します。』
子々はそう言って放し始める。話によると、彼等には得手不得手の属性があるとの事だった。
水属性の子々。そして巳の大蛇は火。残る申と酉は共に金。
『私は火属性の大蛇よりは力的には有利なはずです…ただ…戦った事が無いのでわかりませんが』
「なるほどね…それで”巳”を探せって事…」
シュラインは納得して頷く。一応、大神の持っている戌の属性を聞くと土との事だった。
子々はあまりそういった話をしたくはない様子だった。
シュライン達とてなるべくなら戦わない方向でなんとかしたいと思ってはいるのだが、
もしもの事を考えておかないといざという時の対処が出来ない。
「一つ聞いていいかしら?もし…戦って相手を倒してしまう事になったらどうなるのかしら?」
『その時の頭(かしら)さえ無事ならば、戦いの結果例え深手を負ったとしても由紀の元で休めば回復します。
ですが頭そのものが悪意を持つ者に使役されていたり倒されてしまった場合は…我々は離散し…消滅します』
「――焔さんに何事も無く…私達の話を聞いてくれる事を祈るのみね…」
小さく子々は『はい』と答えると、それっきり何も話さなかった。封印されている状態では会話する事も力を消耗するらしい。
もしものことを考えて、彼女もまた力を温存しておきたい…そんな様子だった。
「それじゃあ捜索に入りましょうか」
「そうですね」
シュラインと大神はそう言葉を交わして周囲に目を向けた。
現在居るのは、東京でも田舎の方にある地域にある廃園になった小規模遊園地の敷地内だった。
昨日の探索で全員が探した場所をとりあえず地図上で消して行くとだいたい残った地域が絞られた。
もし移動していなければの話であるが、どのみち広範囲担当で探索している者が他グループに二名いる。
何か見つかれば連絡を取り合う事になっている。
とりあえずシュライン達は残った地域の中で、子々が仲間の意識を感じた方向を辿ってここまで来たのだが…
先ほどの話から、おそらくここに居るのは”巳”である事を承知で連れてきたのであろう。
遊具はほとんど撤去されて、ただ荒廃した土地が広がっているだけなのだが、
その中で不自然なまでに残されている回転木馬が空恐ろしい雰囲気をかもしだしていた。
「さて、捜索の前にこちら側のあと一人はどこに行ったのかしら?」
「話を聞いてみると言って姿を消したっきりですね」
二人が話し出すのを待っていたかのように、残り一人がひょいっと前方の茂みから顔を見せる。
そして二人がまだそこに居る事を確認して足早に近づいてきた。
「お帰りなさい。何か聞けたかしら石神さん?」
「ここにいる石達は皆寂しがっているだけで”式”の手がかりになるようなものは無かったよ…」
そう言う石神・月弥(いしがみ・つきや)もどこか寂しそうな様子だった。
彼は外見こそ中性的な少年であるが、その実は弱100歳の蒼月石のつくも神。
自分と同じ”石”に触れて彼らの魂の言葉を聞くことが出来る。
彼はここに来るなり、”石”から話を聞いてくると言って別行動になっていたのだ。
「エマと森之介はどうだったんだ?」
「子々さんから色々話は聞いたわ…”巳”を探す事になったから」
「属性の話を言っておこうか?俺のわかる範囲になるけど」
「いや、いい。長いこと色々見てきたからだいたいわかるし…それに戦闘には元々加わるつもりはないし」
石神はそう言って肩を竦めて見せた。
「石神さんは”亥の札”を持って来てたわね?」
「属性は水だよ」
まるで先ほどの話を聞いていたかのように石神は答えた。
「それじゃあ…それぞれ札は持っているわけだし…探索する事は出来ると思うわ…
それらしい霊を見つけたら連絡する事…いいわね?封札は私が持っているんだから」
間違っても勝手になんとかしないように、と釘を刺すシュライン。
「わかっています…シュラインさんも気をつけて」
「もともと何かしようなんて思ってないけどな」
大神は丁寧に頭を下げ、石神はニッと笑みを浮かべ…それぞれ散って行く。
シュラインも子々の札を手にして…廃墟と化した園内を歩き始めた。



『へえ〜…月弥って石のつくも神なんだ〜』
「昨日も言わなかったか?」
『聞いてない〜』
園内のゲート付近を歩きながら石神は『亥の札』…”亥”の式霊、瓜亥(うりい)と話していた。
今は札となってしまっているが、瓜亥の見た目は可愛い少女である。ただかなり力が強い。
昨日の神城家の探索において、敷地内の池に潜んでいるのを石神が見つけて封印した。
しかしその際に少しだけ抵抗されて石神は池に落ちたのだが…瓜亥はそれを助け、水を蒸発させて濡れた服も乾かしてくれた。
「おまえは一番末っ子なんだろ?」
『うん〜。そう。一番最後に式霊になったから』
「じゃあ由紀はおまえの姉さんなわけだな」
『そう!瓜亥はね〜何も出来ない子だけど由紀ネエの事大好き〜』
どうやら瓜亥は外見が幼いだけというわけではなく、元々幼いままで式霊になった様子だった。
『だからね…瓜亥はみんなが由紀ネエの家を出るって言っても、
よくわからんなかったの…だけど、それが由紀ネエの為なんだよ〜!って言われて…』
瓜亥は寂しそうにそう呟いた。
わけもわからずに他の式霊たちの言うままにしていたのかと思うと、石神はどうもやるせない気持ちになった。
『だけど瓜亥は由紀ネエのそばから離れたくなかったから、近くで見てたの』
「そのお陰で早く見つけられて良かったよ」
石神はそう言って優しく微笑んだ。
…と、その時。後方で大きな爆音が響き、石神は驚いて振り返る。
すると、その爆音と共に発生したらしき爆風が吹き付け、慌てて両腕で顔を覆った。
余程の力だったのか、飛ばされた石つぶてが石神の頬に当たる。
そのうちの一つを手に取り…石神は目を伏せた。
砕け散っているが、元々は何か大きな石のオブジェだったのだろう。
目を閉じて、声に耳を傾けると…突然、身を砕かれ離れ離れになった寂しさを嘆いていた。
怒りと悔しさの入り混じった感情で、石神は顔を上げる。見ると、前方の上空に伸びる炎の柱が見えた。
『火…大蛇ニイの火!』
「なんだって?あれが?」
『うん!あんまり大蛇ニイは火を使わないけれど…瓜亥にはわかる』
「何かが起こったんだな…」
石神はそう呟くと、空を見上げた。今は昼間で見えなくとも…天空には必ず月が輝いているはずだ。
満月が近いこの時期である幸いに感謝しながら、石神は炎の柱へと向かっていった。



「これは…!」
炎の柱に辿り着いた者の目に、炎上しながら回っている回転木馬が映る。
電源は入っていないはずなのに高速で回転を続けているそれは、
炎と共に空気を巻き上げ竜巻と化し…それが離れた所からは炎の柱のように見えていた。
三方向から集まってきたシュライン、大神、石神の3人は…
目の前で何が起こっているのかわかっていない様子で立ち尽くしていた。
燃え盛る回転木馬の様子を窺いながら、自然と一箇所に集まる。
「どういうこと?」
「いや…俺が知りたい…爆音がして来てみたら…」
「同じだよ…来た時にはもう燃えていた」
という事は、この中の誰かが接触して刺激したと言うわけではないという事になる。
しかし…
「あちらからのコンタクト…とも思えないわね」
「巳の気配は?」
『します!ですが…怒りに充ちている…』
どうして?!と、全員が思った瞬間、今度は三人の後方で爆音がする。
振り返った彼等は、天空に巻き上がる炎と…何者かの砲撃の瞬間を目にし驚きに顔を見合わせた。
そして一斉に走り出す。一体何が起こっているのか、三人は言い知れない不安感を抱きながら其方に向かう。
そしてその先。
そこはここが営業をしていた頃は家族連れがピクニックに使っていたであろう芝生広場があり…
広大なその真ん中で、二体の何者かと…一体の大きな蛇が向かい合っていた。
『大蛇!!』
子々が叫ぶ。おそらく、一体の蛇が”大蛇”という事はわかる。
しかしその大蛇と対峙している人間でも霊でも無いロボットのような二体は、一体何者なのかわからなかった。
「どういう事…?」
「いえ、俺に聞かれても…わかりません」
三体はシュライン達には気付きもせずに、互いに殺気を込めて向かい合っている。
そして招待不明な二体のうち一体…白いボディが、大蛇に向かい両腕を突き出す。
すると両腕の先に光が集まり…そこから力の塊が弾き出され、大蛇を砲撃する。
連続で砲撃され、大蛇は避けきれずに砲撃を受けて低い悲鳴をあげた。
『大蛇兄さんっ!』
「太郎!駄目だ!!」
その声に反応したのか、大神がポケットに入れていた”戌の札”が光を放ち、太郎が姿を実体化する。
由紀もいない状態でそれほどまでに力を使ってしまえば…本人に大きく負担になる。
しかしそれを承知で太郎は力を搾り出して自分を実体化、さらに巨大化させたようだった。
そして大蛇を守ろうと走り出す。
「くっ…」
大神は小さく呟くと、目を閉じ…精神を集中させる。
そしてふっと目を開くと同時に、何も無かったその手に…淡く光を放つ”霊刀”が具現化される。
「――大神君!待ちなさい!」
そしてシュラインが止める間もなく、大神は太郎の後を追い…戦っている者たちの間に割って入った。
飛び込んできた太郎に目掛けて正体不明の白いボディが放った砲撃を大神はその”霊刀”で弾く。
その衝撃に大神は数歩後ろに下がったが…太郎が後ろに入り、倒れこむのをカバーした。
『何をしてるんですか!危険ですよ!!』
「お互い様じゃないか…誰も傷つかずに無事に帰ると約束しただろ?」
大神の言葉に、太郎は黙り込んだ。そして大神が正体不明の者に向かい、”霊刀”を構えた。
「何者だてめぇ…俺はその蛇に用がある…どけ…」
白いボディのそれは大神にそう告げる。しかし、大神は動く気配は無かった。
「そうか…ならてめぇも一緒に…」
そう言うと、今度は大神に向かって両手を突き出し、躊躇いも無く砲撃する。
一撃目を霊刀で弾き飛ばし、二撃目は当たる直前に身体をひねりかわす。
しかし三撃目が避けきれずによろけ、大神に直撃するかと思われた時…
『!』
大きな衝撃音がして、大神は弾かれて地面に転がった。
すぐに顔を上げると…自分が立っていた場所に、太郎が倒れこんでいるのが見えた。
何が起こったのかをすぐに理解し、大神は目を見開いた。
「太郎…!馬鹿野郎…!!」
「触るな森之介!!」
大神が慌てて太郎を起こそうとすると、石神の叫び声が聞こえる。
見ると石神がいつの間にか太郎の元に走り寄って来ていた。そして太郎の身体にそっと手を添える。
すると…実体化していた太郎の身体は煙となり…封印されていた”札”に戻った。
石神はそれを大事そうに両手で拾う。
「回復ならこの俺にも少しは出来る…幸い、満月が近い…心配するな」
そして大神にそう告げると、そっと目を閉じた。
「――なんなんだてめぇらは…俺の仕事の邪魔しやがって…」
突然の出来事で、思わず黙ったままその様子を見つめていた白いボディは、
我に返り吐き捨てるようにそう言うと再び両手を前に構えた。
『逃げろ…』
不意に、石神をかばいつつ、戦闘態勢を取る大神の頭の上から声が降ってくる。
見上げると大蛇が大神を見下ろしていた。
『何者か知らぬがお前たちは太郎の味方のようだ…傷つけるつもりは無い…危険だ…下がっていろ』
「出来ない。俺もこの仕事を受けた以上は最後までやり通したい…それに俺は太郎と約束した…」
『お前たちは一体…』
「神城…いや、由紀さんに頼まれて無傷で連れて帰るよ』
『由紀の…』
大蛇は少し動揺したようだった。
「…話は済んだか?」
二人の会話を遮るように、白いボディが声を荒げる。そして大神達に再び攻撃の的を絞り、大神達も構え…
「そこまでだ!両者とも手を下ろせ!!」
「!?」
「!!」
突然聞こえてきたここにはいないはずの人物、草間武彦の声に全員が動きを止めた。
大神はともかく、白いボディと…もう一体もだ。
「同じ依頼を受けた者同士が戦う必要など無いはずだ…その手を下ろせ」
「この声は草間…」
白いボディはそう呟き、構えていた手を下ろす。警戒はしたままで、大神達も攻撃態勢を解いた。
「どこにいる?」
「ここよ」
周囲を見渡す白いボディは、今度は聞こえてきた女性の声に目を向けた。
そこにはシュラインが携帯を手に腕を組んで立っていた。どうやら、今の草間の声は彼女の特殊能力の声帯模写だったらしい。
シュラインは両者が対峙する真ん中までゆっくりと歩いてくると、正体不明の二体に向き、組んでいた腕を解く。
「草間興信所で事務をしています。シュライン・エマと申します」
「シュライン…そう言えばお見かけした事があります」
彼女の言葉に、それまで戦闘に関わるわけでも何かを話すわけでもなく傍観に徹していた正体不明の二体の片方がその外見に反して丁寧な口調でそう答えた。
「それなら信じていただけますね?草間から先ほど貴方達のことを伺いました…F・カイスさんとD・ギルバさんね」
「いかにも…俺がF・カイス。そしてこっちがD・ギルバ」
正体不明の二体はそう名乗った。ギルバと言うのが白いボディで…今まで戦っていた方である。
「シュラインさん…一体どういう…」
事態がよく飲み込めず、大神が眉を顰める。シュラインは少し振り返り一度頷き。
シュラインの後方には昨日一緒に仕事をした倉前・沙樹(くらまえさき)が立っていた。
「おかしいと思ったのよね…今回の事はうち(興信所)にしか依頼が来ていないはずなのに…
このお二人は”仕事の邪魔をするな”と言った…もしやと思っていたけど…
倉前さんから話を聞いて武彦さんに連絡を入れてみたら…」
シュラインはふう、と息を吐いて。
「最後まで武彦…いえ、草間さんの話を聞かずにあなた方は依頼を受けて来たんですね?」
「失礼。最後までと言うのは…」
「この仕事の条件として”十二支式霊”は無傷で連れて帰るという事と…見つけ次第連絡を入れるという事。
もっともほとんど強引にこの仕事を受けたみたいだけど?」
「ギルバが受けると言ったので…俺も同行したのだが…知らなかったとは言え済まなかった」
「あぁ?なんだ?俺が謝る必要があるのか?」
カイスが静かに告げたが、ギルバはどうも納得がいかないようだった。
まどろっこしい事は関係無く、ただ戦闘がしたい…そんな雰囲気が滲み出ていた。
「まあ、最初に釘を刺さなかった武彦さんも悪いわね…そう言う事でこの戦闘は無意味よ?」
シュラインの言葉に、カイスは小さく頷いた。そしてギルバと共に後方に下がる。
「シュラインさん…」
「大神君ももうそれを仕舞っていいわよ。突然飛び出して…冷やっとさせないで」
「すみません」
大神は言われるままに”霊刀”を仕舞うと、太郎の回復をしている石神に眼を向けた。
じっと目を閉じて札を抱いていた石神だったが…ふっと、蒼い二つの瞳を開くと…微笑んで札を大神に差し出した。
「もう大丈夫。そう大きいダメージでも無かったみたいだよ」
「そうなのか?」
「けど俺の回復では限界がある…やっぱ由紀の元で回復させるのが一番だよ」
石神はそう言って今度は大蛇を見上げた。先ほどまでは怒りと殺気にに満ちていた気配も今は落ち着いている。
「むしろそっちの大蛇のダメージの方が大きいね…由紀が心配するよ」
石神のその言葉に何かを思ったのか、十数メートル程の大きさまで巨大化していた大蛇が、
空気が抜けて行くようにその大きさを減らし…僅かに光が発せられると同時に一メートル程まで小さくなった。
『世話をかけてしまい申し訳ない』
そして、穏やかな優しげな男性の声でそう告げた。
『大蛇…わかってくれるのね?』
子々が嬉しそうに声をあげる。
『子々?子々がいるのか…?』
大蛇の言葉に、シュラインは”子の札”を取り出して大蛇に見せた。
実体化こそしないものの、子々は少しだけ霊体化させて立体映像のように札から姿を現す。
『あなたとは戦いたくは無かった…だから安心しました…。
翼と焔以外の者はもう既に由紀の元に帰りました…由紀とも話をして決めたわ…私達はもう逃げない…』
『由紀に…由紀にあの事を話したのか?!』
子々は静かに頷いた。大蛇はその事に驚愕したようだった。
『それでも由紀は我らを必要としているのか?憎くは無いのか?』
その言葉に、子々は微笑む事で答えた。言葉にしなくても、その想いは伝わっている。
微笑みに応えるように大蛇は頷き、シュラインに顔を向けた。
『申し訳ない…我を由紀の元へ…』
「…きっと待っているわ」
シュラインは微笑み、封札を大蛇の額に当てる。大蛇の身体は煙となり…封札に吸い込まれる。
そして、赤い『巳』の文字。
とりあえず式との戦闘にはならずに済んだ事にほっとしつつ…シュラインは石神にそれを手渡す。
完全回復とまではいかないが石神の回復能力で応急処置は出来るであろう。
なるべくなら傷ついていない状態で由紀の元に連れて行きたかった。
「あの…私、タクシーを待たせているので…先に失礼します」
倉前が、全員にそう言ってぺこりと頭を下げる。
一緒に行動すればいいと誘ったが、なにか理由でもあるらしく、倉前は先に去って行った。
「カイスさんとギルバさんのお二人はこれからどうなさいます?まだあと二体の捜索が残っていますが」
「俺は一度戻り、草間氏に指示をもらうつもりだ」
「なにを?!どうせ戦えぬなら俺は下りる…!」
「ギルバ…」
「なんだ…?!」
「どちらにせよとりあえず戻らなければいけないだろう…」
諭すように言われ、ギルバは黙る。好戦的なギルバに対し、カイスは冷静なようだった。
そしてカイスが小さく頭を下げ…ギルバと共に去って行く。
それを見送りながら、シュラインはふう、と安堵の息を吐いた。
「場が治まってよかったわ…一時はどうなる事かと思った」
「すみません…」
「いいのよ。気持ちもわかるし、責めてるわけじゃないから」
「しかしなかなか強いんだな森之介は!見直したよ!」
「いや、俺なんかまだまだ…」
「充分強い!回復しか能が無い俺が思わず飛び出して行ったくらいだからな」
石神が感心しながら言う。大神はどう答えればいいのかわからずに苦笑いを浮かべていた。
「さあ、話は後にしましょう…次の場所に移動しなくては」
「そうですね…日が落ちないうちに」
「満月が近くてよかった…休んでるうちに消耗した力も戻ってくるだろう…」
三人はそう言葉を交わすと、揃って歩き始める。
途中、ほとんど燃え尽きて灰になった回転木馬の残り火を子々の力で消す事も忘れずに。
そしてとりあえずもう一組と落ち合う為に…集合場所へ向かったのだった。


■Ending:See you again again...?

一日を終え、草間興信所には仕事を終えた面々が集う。
結局、それぞれが『巳』と『酉』の式霊を見つけ、封札に封印する事はできたものの、
最後の『申』だけはどうしても見つからなかった。
誰もが予想はしていたが、やはり一筋縄では行かない。
夜を徹しての捜索も視野に入れていたのだが、由紀の願いで残りの捜索は明日に持ち越されることになった。
興信所のソファや零が用意した補助椅子に腰掛ける面々は、
昨日と違い今日はどちらも一筋縄ではいかなかった事もあり、疲れの色が濃く見えていた。
由紀はそんな面々を気遣ってお茶と自作の和菓子を用意していた。
皆が必死で探している時に呑気にお菓子作りをしていた事を気にしている様子だったが、
疲れている時には由紀の作った甘い和菓子がありがたかった。
「そう言えばカイスさんとギルバさんは?」
「あの二人はここに入れないからな…」
そう言って草間が窓の外を見る。
眼下の街灯に照らされた路上で、由紀からの和菓子を不思議そうに見つめる二人の姿があった。
彼等も少し誤解があったものの同じ依頼を受けて仕事をした仲間である。
もし強大な敵に立ち向かわなくてはならないような依頼があったら、
彼らほど頼りになる味方はいないだろうと思いながら草間は視線を室内に戻した。
それから、十分程して。
全員がお茶と和菓子でとりあえず落ち着いた頃。
草間が椅子から立ち上がり、一つ咳払いをする。
何を言おうとしているのか全員予想がついて…彼に注目した。
「昨日に続いての捜索…ご苦労だった…それで、だ…」
「わかっているぞ武彦。明日も捜索はあるけれど強制では無いって言いたいんだろう?」
石神がニッと笑みを浮かべながら言う。その言葉に、草間を始めとした全員が苦笑して。
「武彦さん…言わなくてもみんな承知しています」
シュラインが少し真面目な、それでいて優しげに微笑む。
「昨日も言いましたが、明日の予定は明日になってみないとわかりませんからね…」
冠城はそう呟いて今日も緑茶をゆっくりとすすった。
「あの、私はやっぱり学校も気になるのでどうなるかわからないんですが…」
倉前は自分でもどうしたいのかわからずに戸惑いながら言う。
「帰りに下の二人にもそれを伝えておけばいいんだな?」
御巫が窓から下のカイスとギルバを見つめながら言う。
その隣で由紀はこちらを見上げている二人に手を振っていた。
「では…先に失礼します」
大神が腰を上げる。それが合図になったように、全員が立ち上がった。
「明日は満月になりそうだよ…」
石神の言葉に全員が見上げた夜空には、
ほとんど満月の状態の蒼い月が疲れた彼らを癒すように優しい光を注ぎながら浮かんでいたのだった。



<END>

第三部〜TheReturnOfTheSpirits〜に続く

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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チーム1:
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家・幽霊作家+草間興信所事務員】
【2235/大神・森之介(おおがみ・しんのすけ)/男性/19歳/大学生・能役者】
【2269/石神・月弥(いしがみ・つきや)/男性/100歳/つくも神】
チーム2:
【1953/御巫・傀都(みかなぎ・かいと)/男性/17歳/傀儡師】
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84歳(外見20代前半)/神父(悪魔狩り)】
チーム3:
【2182/倉前・沙樹(くらまえ・さき)/女性/17歳/高校生】
【2319/F・カイス(えふ・かいす)/男性/4歳/墓場をうろつくモノ・機械人形】
【2355/D・ギルバ(でぃー・ぎるば)/男性/4歳/墓場をうろつくモノ・破壊神の模造人形】

NPC
【***/神城由紀(かみしろゆき)/女性/23歳/心霊便利屋・巫女】
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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。この度は依頼をお受け下さりありがとうございました。
今回は前回の続きという事だったのですが、前話に参加して下さった皆様が引き続き参加して下さり、
また加えて新しい二方も参加して下さりありがとうございました。
初の連載ものなので不安だったのですがたくさん参加していただけてありがとうございます。
さて。
今回の構成は本来なら二つに分ける予定だったのですが、
多くの方に参加していただけましたので三つに分けさせていただきました。
シュライン様、大神様、石神様のチームと、倉前様、カイス様とギルバ様のチームがリンクしています。
御巫様、冠城様のチームは個別になっております。
例の如く、他の方の様子も覗いてみるとより一層楽しめるかもしれませんし、
ややこしくなるかもしれません。(笑)
もう少し戦闘を描くつもりだったのですが、人数の事も考えまして少し抑えました。
期待しておられましたらすみません。<(_ _)>
今回は全体を通して長くなってしまったので読んでいただけて嬉しい半分、
申し訳ない気持ちです。読んで下さりありがとうございました。そしてお疲れ様でした。

次回で完結です。
最後に残った『申』を捜索に協力して下さると嬉しいです。
皆様にまたお会い出来るのを楽しみにしております。


:::::安曇あずみ:::::

>石神・月弥様
2話連続でのご参加どうもありがとうございました。<(_ _)>
今回は石神様の回復の力がとても役に立ってありがたかったです。
やはり相変わらずの不安定な口調ですが(笑)気に入っていただけると嬉しいです。
戦闘においての回復キャラクターは重要になって参りますので石神様の存在は重要でした。
この度はありがとうございました。またお会いできるのを楽しみにしております。

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。