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人魚の傷跡
オープニング
不老不死と聞いたら、まず何を想像しますか？
色々な薬草？怪しげな儀式？
多分、みんなが思いつくのは『人魚』じゃないかしら？
人魚の血、人魚の肉は万能の薬としても知られているわよね。
女性だったら永遠に若く、美しくありたいと願うのは当然だと思うわ。
男性でも今の時代、女性に負けないほどの美しさを持つ人がいるわよね？
そして、今は『不老不死』が夢で終わる時代ではなくなったわ。
私の店には人魚の妙薬があって、必要な人にお売りしております。
どう？あなたの美しさを永遠なものにしてみない？
これが今朝の朝刊に挟んであったちらし。
ちらしには妖艶な情勢が写っており、その女性が店長だという。
その容姿は時男性だけでなく女性すらも魅せられるほどの美しさだった。
人魚の妙薬の効果なのだろうか？
「綺麗な方ですね、だけど…何か怖いとすら感じます」
零がちらしを見ながら呟いた。
確かに、と草間も小さく呟く。
何もかもが整いすぎて恐怖すら感じるのだ。
視点⇒門屋・将太郎
今日も門屋心理相談所は閑古鳥が鳴いていた。
「…人魚の妙薬ねぇ、本物なのかよ」
将太郎は椅子をギィと倒しながら新聞の折込ちらしを見ながら呟いた。
将太郎が見ているのは今朝の新聞の広告。何でも人魚の妙薬を売っているという。
「そういや、こういう事にやけに詳しい幼馴染が言ってたな、人魚の肉を食べると不老不死になるって……人魚の妙薬ってソレの事か？」
将太郎は暫く広告とにらみ合いをしながら椅子を立った。
「本物かどうか調べに行くか…」
そう言って将太郎は『本日臨時休業』の看板を表に出して、自分は外に行く準備をする。
「まぁ、どうせ暇だから良い暇つぶしくらいにはなるかな」
将太郎はそう呟きながら広告の店『フォーチュン』に向かって足を動かし始めた。
「ここか……」
派手な外装に派手な内装の店、一言で言えば『趣味の悪い店』という印象が強い店、それがフォーチュンだった。
「…シュミはよくねぇな…」
店の前に立つ将太郎は一言ポツリと呟いた。
「まぁ、とにかく中に入ってみるか」
そう言って、将太郎はドアを開けて中に入った。中に入ると今は昼の休憩時間らしく人は誰もいない。
「…誰もいねぇのか…」
諦めて外に出ようとした時に『どちらさま？』といって奥から女性が出てきた。例の広告に店長として紹介されていた女性だった。
（…さすがに不老不死の薬を売ってるだけあってかなりの美人だな）
「あの？何か御用ですか？」
女性の美しさに暫くの間見惚れていたが、女性の声と自分がここに来た目的を思いだしハッと我に返る。
「あ、わりぃ。ボーッとしてた。あんたが人魚の妙薬とやらを売っている店長さんか。それ、見せてくれよ。本物かどうか知りたいんでな」
「あら、お客様？だったらまた時間を改めてきてもらえるかしら？今は見ての通り休憩時間なの」
妖艶な笑みを見せながら将太郎に笑いかける女性を見て、将太郎はゾクと背筋に悪寒が走った。
「…悪ぃけど、俺は客じゃぁないんだ。永遠なんか興味もねぇ。ただソレが本物かどうか知りたいだけだ」
「あら、お客様じゃないのね。本物かどうか知りたいって…どうしましょう」
どうやって証明しようかしら、と困惑している女性に将太郎は『証明できないんならニセモノじゃねぇか』と半分以上ニセモノと思っていた。
「分かりました、こちらに来ていただけるかしら？」
女性は金魚が何匹か入っている水槽の前に将太郎を呼び寄せた。
「これが人魚の妙薬よ」
そう言って女性は一つの小さな小瓶を取り出した。
「粉、なのか？」
「材料は貴方の察しの通りの人魚の肉。でも今の人間は肉を生で食べはしないでしょう？それに粉の方が腐らないから長持ちするのよ」
そういいながら女性は水槽の中にその粉を振りまいた。
「…金魚を不老不死にするのはもったいない気もするのだけれどね…」
金魚が粉を飲み込んだのを確認すると女性は一匹の金魚に持っていたシャーペンを突き刺した。
「……ッ！
いくら金魚と言えど目の前で殺しているのを見るのは気分的に良いものではない。将太郎は少しだけ顔を背けた、…が、次の瞬間に見たものは将太郎を驚かせた。
「…生きて、る？」
そう、先程女性にシャーペンで刺された金魚はまだ生きている。しかもよく見ると金魚の傷は異常なほどの早さで治り始めている。
「そう？本物だと信じていただけたかしら？」
「…あんたさ、こんなモン売ってどうするんだ？」
「…聞きたいのは本物かどうかだけじゃなかったのかしら？」
クスと嘲笑うように笑う女性に将太郎は怒りが沸々と沸いてきているのが自分でも分かるほどだった。
「他人をコイツの実験台にするつもりか！？永遠の美しさ？永遠の若さ？そんなモンがどうした！」
「綺麗事言わないで！」
将太郎が少し怒鳴るように叫ぶと女性も負けじと叫んだ。
「そんなものは偽善だわ、使えるものを使って何が悪いの！？自分が生きるためだったら他人なんか犠牲にするでしょう！」
女性は叫んだせいかゼェゼェと息が乱れている。
「俺はよ、最初あんたを見たときに凄い美人だなって思ったよ……だけど…」
将太郎は一呼吸置いてから言葉を言う。
「俺から見ればあんたは誰よりも醜いね。永遠なんてモンは存在しねぇんだよ！人間誰だっていずれは老い、そして死ぬんだ。永遠を得るより限られた時間、今という時間をどうやって生きるか、それが大事だろうが！」
将太郎の言葉に女性はけたたましく笑い始めた。
「馬鹿じゃないの。そんな綺麗事なんかこの世の中通用しないわよ！」
「馬鹿で結構だ。そんな当たり前のことすら忘れて生きていたかねぇや」
「……貴方は…正直なのね。馬鹿がつくくらい」
女性の言葉に将太郎は何も言わなかった。
「…店を閉めるわ。でも勘違いしないで。この地を離れるだけよ。人間という生き物が生きている限り『永遠』を望む愚かな人間はいなくなりはしない。私はまた別の地で人魚の妙薬を売るわ」
「…あんたは可哀想な奴なんだな。きっと今まで誰もあんたを分かってくれる奴がいなかったんだろう。もし、気が向いたらココにくれば話し相手くらいにはなってやるよ」
そう言って将太郎は門屋心理相談所の場所が書かれた名刺を女性に渡した。
「………そう、行くか行かないかは分からないけど、一応受け取っておくわ」
そう言って女性は名刺を受け取った。
「じゃあな、悪いほうで会わない事を祈るぜ」
将太郎はそういいながらフォーチュンを後にした。
その後、フォーチュンを見たものはいない。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
1522/門屋・将太郎/男性/臨床心理士
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■ ライター通信 ■
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門屋・将太郎様＞
お会いするのは二回目ですね＾＾
今回は『人魚の傷跡』に発注をかけてくださいましてありがとうございます。
『人魚の傷跡』はいかがだったでしょうか？
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです＾＾
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします＾＾
−瀬皇緋澄
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