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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


楽しいお正月の祝い方。


●オープニング
狐族の幽霊の銀狐。
彼の名は「狐族の銀」。狐族は、悪霊退治・依頼をする存在である。
確実な依頼を届けに来るとこでも有名だ。
なん度かゴーストネットで出会い、実際に会っている者たちもいる。
『おいなりさん』には相変わらず目がない。


「お正月・・」
銀が手にしているのは『お正月特集』と題された一冊の雑誌。
近くの大きな神社で開催される「餅搗き」の話題を目にしている。
様々なイベントがあり、銀が興味を示す。
「人間達のお正月ってどんな感じかな??」
嬉しそうに銀は忙しそうにする瀬名・雫(せな・しずく)の袖を軽く引っ張り、そして尋ねる。
「うーん・・お餅食べたり、神社に行ったり・・。お正月の神社は人が沢山いるんだよ」
目を輝かせ、話を聴く銀を見て一瞬嫌な予感がする。
「ボク、行ってみたい!」
「だ・・駄目だよ!!一般客が沢山いるんだよ。銀君、人間の姿になれても耳と尻尾を
隠せないでしょ?
見られたら大変だよ」
正月の神社は何処も大勢の人で賑わっており、いくら帽子で隠したり、服で誤魔化しても、
銀の正体がばれてしまう可能性が高い。
そうなっては困るのだ。
雫の優しい配慮。
銀は雫が自分の為に言ってくれているのだと察したのか何も言わない。

「銀君・・?」
「大丈夫。だってボクの我が儘だよ?」
無理をして作る笑顔がいつもの銀の笑顔とは違う。
「分かった。じゃー誰かに同伴を頼む。それならどう??」

「本当??」

いつもの笑顔が銀に戻る。


●年越し蕎麦を食べよう!
〜大晦日〜
2LDKのアパート。ダイニングキッチンと続きに10畳ほどのリビングには炬燵がある。
ここは綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)が提供してくれば物件だ。

「銀君に兄の着物・・・サイズ合うかしら?」
一応準備した着物を汐耶が銀に着せてみる。
「似合うかな??あっ!樹お兄さん!!」
「やぁ、銀君、元気だった?着物ですか。銀君、似合ってますよ。頭には着物に似合う帽子でカモフラージュすれば大丈夫ですよね」
何時もと違う格好の銀に葛城・樹(かつらぎ・しげる)は新鮮さを覚える。
「お正月かぁ。俺も異界出身だからこっちのお正月っていうのは良く分からないんだよな。お餅だの御節だの美味しい物が食べられるって聞いたんだが・・」
着物を着終えた銀を天音神・孝(あまねがみ・こう)が軽々と持ち上げ、炬燵へと連れて行き膝の上に乗っけ、ノート型パソコンの前に座る。
「銀、一緒に正月って何なのかネットで調べていって楽しもうぜ!」
「うん!ボクも知りたいな♪」


「銀君の事は孝さんお任せして・・人ごみの中をどう歩くかですね・・」
毎年ほとんど挨拶周りなど多忙で疲れるだけで終わってしまうことが多い白里・焔寿(しらさと・えんじゅ)だが、今年は少しでも銀達とお正月を満喫したいと思い来た。
だが、人が多いのでは満喫は少しばかり難しいだろう。
「大晦日から二年参りという事で夜中に出かけたらどうでしょう?昼間よりは多少人手が少ない所もありますし、もちろん屋台も出てますから。」
「お正月をめいっぱい満喫させていろいろ教えてあげたいですし・・いい案かも知れませんね」
「そしたら後は・・・振舞い酒とかあるから、その辺は気をつけておきましょうか?」

秋月・霞波(あきづき・かなみ)は汐耶の案に賛成する。
「何時もは簡単にお雑煮だけなんだけど、腕のふるい甲斐がありそうね」
「汐耶さん、霞波さんと私もお手伝いしますね」
台所へ向かう汐耶に続いて、霞波と焔寿も台所へと足を運ぶ。
今日は大晦日なので、出発前に年越し蕎麦を用意するとしよう。
「あら、ありがとう・・、そしたら明日の御節も作って置きましょう」
明日のお正月に合わせて伊達巻に、田作り、数の子などの立派な御節作りを汐耶は思い浮かべる。

「じゃー僕はお茶を入れましょう・・」
紅茶や珈琲の味を引き出すのが上手い樹は拘りのお茶にチャレンジする事にした。


「銀、あったぞ・・えっと・・一年の最初の月。特に新年の祝いをする期間の、三が日あるいは松の内をいうことが多い・・なるほど」
「ボクには分からないよ・・」
納得する孝の顔を見て、少し悔しいのか理解しようと画面に釘付けになり、一生懸命に理解しようとする。
だが漢字を読めない銀には言葉の知識以前の問題のようだ。
「大丈夫だ!俺も分からないから」
「えっ・・・(今、なるほどって・・)」
孝の言葉に不思議そうに顔を傾げる。
「あははっ・・ちょ・・くすぐったいよ」
「銀、危ないから動くなよ・・転げ落ちるぞ」
突然笑い出す銀の体が動くため、孝は確りと腕に力を込めて支える。
「だ・・だって、チャームとアルシュが炬燵の中で動くんだもん・・」
「2人共なにしてるんですか??」
2人の様子を見ていた樹が台所から、お茶を淹れた急須と人数分の湯飲みをお盆に乗っけて持ってくる。
炬燵の中に入ると、樹の膝の上に2匹の猫が顔を出す。
「あれっ、焔寿さんの猫達ですか・・」
「あー、なるほど・・つまり猫の毛が擽ったかったのか」
樹の言葉に納得する孝だが、銀の方は笑いすぎて苦しいのか顔を孝に埋めている。

「皆さん出来ましたよ。食べたら神社に行きましょうね」
出来立ての蕎麦を霞波が並べる。
「銀君、ご挨拶にお手製のお稲荷を持ってきたのよ」
「焔寿お姉さんありがとう〜」
銀は焔寿が持参して来てくれたお稲荷さんと初めての蕎麦に食べる前から幸せそうにする。


「「いただきます〜」」
全員で手を合わせて美味しい蕎麦を話談しながら食べる。


●小さな小さなアクシデント。
「さて、そろそろ行きますか??」
先に片付けを終えた汐耶が出かける準備を始めながら言う。
「銀君、そろそろ行きますから起きて下さい・・って・・あれ?」
鱈腹食べ、眠ってしまった銀を樹が起こすがびくともしない。
持ち上げても、ぐっすりと幸せそうに眠る。
「起きろってば・・・」
頬を引っ張ってみる孝だが起きる気配は全くない。
「この様子だと朝までは無理みたいですね・・諦めて朝、行きましょうか」
苦笑するしかない霞波は風邪をひかないように毛布をかけてあげる。
そして、少しばかり皆で仮眠をとる事にしよう。


●豊島神社
「すごい人・・この格好だと歩きにくいかしら・・」
「焔寿さんとてもお似合いですし、いいじゃないですか。」
汐耶の言葉に焔寿は少しばかり照れながら確りと猫達を抱える。
焔寿は藤色の振袖に髪は結い上げ、汐耶も久しぶりに好きな海松色の色無地の着物に袖を通して来た。
「うん!2人共とっても似合ってるよ。私服の時と違う感じだね」
銀の言う通り、2人は共に昨日とは違った雰囲気を見せる。

「わぁ〜人が沢山いるね!」
「銀とネットで色々と調べたが・・やっぱり肌で感じるのが一番だな!!」
銀と同じくらい、初めての正月に孝のテンションも高くなる。
「あれぇ?!わぁぁ〜」
「銀君!!」
一緒に手を繋いでいた霞波の手から離れ、みるみる内に人ごみの中へと流されていく。
「ぷはっ。けほけほっ・・苦しい」
「銀!大丈夫か??お参りはもっと人ごみが凄そうだ。はぐれるなよ・・」
「・・・孝お兄さんありがとう・・」
孝は男らしく力いっぱい、呆然とする銀の手を引き寄せる。
「銀君、今度ははぐれない様にもっと確りと手を繋ごうね」
「うん!絶対離さない」
銀は霞波と約束する。
そうでなくても小さい銀を見失ってしまいそうなのに、人ごみの中を歩くとなると更に大変である。
「まずは御神籤を引きますか??」
「いいですね。早速、引きましょう!」
地図案内を見る中ではもっとも大きな御神籤所を樹が遠目に発見し、焔寿は楽しみにしていたのか嬉しそうにする。
「御神籤って引く時にドキドキするんですよね・・」
一番手に焔寿が引く。見た目は平常心を保っているように見えるが、内心はかなりドキドキしている。次に霞波が銀を持ち上げ取らせた後に、緊張しながら御神籤を引く。そして次にレディーファーストで汐耶が引く。
「良い結果だとイイが・・・」
孝が恐る恐る手を突っ込み勢いよく引く。そして最後に受験生の樹が祈りを込めて引く。

「いっせいの〜で」
焔寿の掛け声で引いた御神籤を一斉に御神籤を開く。
嬉しそうな顔をする者から無表情の顔、変な顔をするなど様々な表情をそれぞれが見せる。
運試しの結果は其々の胸の中に留めて置くとしよう。
読み終えた後は指定されている木に括りつけてご利益をつける。


「次はどうしますか?」
「ここはどうですか??お守りはやっぱり買うべきですよね!」
案内を見ながら汐耶が考え込んでいると、お正月特集で見た「勇気」のお守りが買える場所がルート的にも近い事が判明し、焔寿が指さす。
「僕もお守りを買いたいですし・・まだ、参拝は当分無理みたいですよ・・」
現在地にも人集りがすごいというのに、階段の先を見上げると更に恐ろしいほどの人数が行き交い賑わいを見せている。
樹に言われ、改めて再確認する。


●お守りを買おう。
「いらっしゃいませ〜」
「えっと・・『勇気』のお守りをください」
焔寿はお目当てのお守りを見つけると霞波を呼ぶ。
「勇気のお守りは・・っと、霞波と焔寿もか?俺もだ!!」

「ではご三方に『勇気』のお守りのご説明を致しますね。まず初めに自分の思う事柄を、この特殊なお札にご記入ください。その後は、この布袋に入れていただければ、こちらで封をかけ、お守り袋にします。そうすればご利益を得られることでしょう・・」
「なんだかご利益がありそうですね」
焔寿は2人と一緒に真剣に巫女さんの話を興味深く聴いた後、早速ペンを借り、札に勇気の事柄を記入してみる。

「えっと・・私は」
『今年1年も素敵な1年になるように願いをこめて』と可愛らしい字で霞波は記入する。
沢山の勇気が貰える様に・・・。
「私は・・自分を見つめる勇気が欲しいです・・」
殻に閉じこもるのではなく、ありのままの自分でいようとする強い心、それを掴む勇気が欲しい焔寿は願いを込めて書く。
「俺は・・大事な奴らを護れるように・・その勇気かな」
孝も記入した所で早速、先ほどの巫女さんに提出するとしよう。


「『学業成就』のお守りをください」
「はい。どーぞ・・・」
巫女さんからお守りを受け取った樹だが、受験を受けようと決意するまでの背景には様々な事柄があった。
「樹お兄さん・・」
「わぁ〜、銀君?孝さん達と一緒に居たんじゃ・・」
「ううん。3人共、楽しそうに書いていたから邪魔したら悪いかなって・・でも樹お兄さんの事邪魔しにきたわけじゃないんだよ!」
少し自分の言葉を焦りながら訂正する銀の頭を軽く撫で、樹は銀の事をお守りが見えるように持ち上げてあげる。
「銀君もお守り買うかい?」
「うん!買いたいな〜」
沢山ある中で銀は『交通安全』のお守りを手にする。
お守りを買おうと、人集りがすごいので、買った後はすばやく抜けると、ベンチに座り、皆の帰りを待っている汐耶の姿があった。
「汐耶さん、隣いいですか??」
「ええ、もちろん。正月を久しぶりに大勢で過ごすのも良いかしらって思ったんだけど、それにしてもすごい人ね・・」
「そうですね・・」
汐耶は端の方により、樹と銀が座れるようにする。お守りを買おうと待つ人々が沢山いるのを見て、つい2人して苦笑を見せる。

「ねぇ〜樹お兄さんはどんなお願い事を込めて買ったの??」
「あら、これ・・『学業』のお守りね」
樹のお守りを見つめている銀の手元に汐耶が気付く。
「実は僕今年大学受験なんだ・・去年ちょっと色々あってね。だから今度こそ受験に成功しますように、ってお願いしたんです・・」
色々と悩んだりして作曲科を受験する事を決めたばかりの樹。両親には既に決意を伝えていた。
「樹さん、受験、頑張ってね・・」
「ええ、これから受験シーズン本番なので頑張らなければいけないですよね」
お守りを握り締め、自分の願いを心の中で掲げる。
汐耶は樹を察して、どんな出来事があったのか尋ねなかった。
「樹お兄さん、ボクはお兄さんの作る歌詞や作曲も歌も大好きだよ。お兄さんは好き?」
「えっ??あっ・・歌うことも作るのも大好きだよ・・」
「うん。それなら大丈夫だね」
実の所、歌を歌うことが好きな樹は迷い、そして作曲科を受験する事に決めた。だが、歌を歌う夢を諦めた訳ではない。大学に行かなくても歌は学ぶ事が出来る・・・そういう決意を込めて買っていた。
銀が樹の心を理解したのかは難しいところだ。
確かなのは、いつも人の笑顔を見たがる銀は樹の笑顔が見たかったのだろう。

「チャームとアルシュだ〜」
突然、銀の腕の中へ焔寿の猫が飛び込んでくる。
「あっ、いた、いた!悪いな、遅くなって」
「いいえ、私達もさっきここに来たばかりよ」
汐耶を発見した孝が大きな背を生かして大きく手を振りアピールする。
「あれ?猫達はいるのに・・焔寿さんは??」
2人を発見したのはいいが、先ほどまで霞波の隣に居た焔寿の姿が見当たらず樹は心配する。
「あっ!あそこに・・・」
発見者の霞波が指さす方向を見ると神社の人と楽しそうに世間話している焔寿の姿。
考えてみれば、お守りを受け取った時までは一緒に居たのを霞波と孝は思い出す。
「見つかって良かったね」
迷子になったら見つけるのは大変だ。一行がほっと胸を撫で下ろす中、状況把握など出来ていない銀は笑顔で言う。
銀の様子を見て、絶対に迷子にさせてはいけないと改めて心の中で誓う者が数名・・。

楽しい楽しいお正月が過ごせる事を祈って。


●餅つき大会!!
「間に合って良かったぜ!!餅つきで食事券一万円か!はりきって餅をつくぜ!!」
【餅つき大会】の会場を見つけた途端、俄然やる気を出し、腕まくりをしながら会場へ向かう孝。
「銀君、餅つき体験が出来るのよ。一緒にしてみる?」
「うん。じゃー、早く孝お兄さんを追いかけないとね」
ふと、霞波が目線を上げると早々と会場の中に入っていく孝の姿。
「では霞波さん、私達は観客席で応援していますね。後で搗いた御餅、皆で食べましょうね」
焔寿は観客席の方を指差すと、樹と汐耶と共に会場とは違う入り口から入っていく。
霞波も急いで孝を追いかける形で【出場者用入り口】へと向かう。
霞波の本当の目的は勝つ事ではなく楽しむ事なので「親子参加」という項目に名前を書き、出場する事にした。
「銀達と隣同士で良かったな・・」
「はい。何かあった時に困りませんね・・」
昔ながらの木製杵を手に取り、用意を始める。
ベテランの合い取りの人達がどうやら、捏ねてくれる様だ。


「「それでは、今から餅搗き大会を始めたいと思います。搗きあがりの判定は各自の前に居ます合い取りの方が判定致します!!
それでは〜〜〜スターート!!!!!!!」」

一斉にスタートすると生気を食物で代用する為、大食い傾向有りの孝は賞金を得ようと、自慢の腕力で力一杯、杵を振る。
その横で銀に杵の搗き方を教え、スローペースで一緒に餅を搗き始める霞波と銀。
「うーーん・・重いね」
ほぼ霞波の力で杵を持ち上げ、搗いているが銀も必死に力を込めている。
「「ぺちんっ」」
ゆっくりとした音が流れる一方、隣では孝が速いペースでリズミカルに音が鳴り響く。

―――――――――――【数十分後】
「食事券♪食事券♪♪」
異例の速さで見事1位に輝いた孝は幸せそうに食事券を見つめ直す。
「孝お兄さんすごいね〜」
「おお。体力には自信あったからな!!」
感動しながら孝に話しかけると、食事券をゲットしたからか、先ほどよりも孝は元気のようだ。

「皆さんお疲れ様・・」
入り口の前で待っていた樹が3人を発見し、声をかける。
「焔寿さんと汐耶さんは出来立ての御餅を食べる為の席取りを確保しに行きましたよ。僕達も行きましょう」
餅つきで握力が落ち、少し疲れている霞波に変わって樹が銀の手を確りと握る。


●お餅は気をつけて食べましょう。
「皆さん〜」
ベンチを確保していた焔寿が、焔寿と汐耶を探していた4人を呼び止める。

「沢山、御餅を搗いたのね」
袋に入ったお餅を貰うと汐耶は紙皿の上に出す。出来立ての為、湯気が立ち昇る。寒い冬には持って来いといった感じだ。

「いただきます〜」
初めてのお餅に銀は勢いよく、齧り付くとお餅が面白いように伸び、焦る姿が見受けられる。
「び・・びっくりした〜・・・でも美味しいね!!」
「やはり、搗きたてのお餅が一番美味しいですよね・・」
お餅を食べ、仄々とする空気の中、焔寿が口を開く。
「銀君、熱いから気をつけて食べるんですよ?」
「うん。大丈夫だよ・・」
「あっ・・後、気をつけないとお餅が喉に詰まっちゃいますよ・・」
「けほっ・・けほっけほっ」
「あっ・・・」
一応、注意しようと思った焔寿だが一歩遅かったようだ。
だが、用意周到の焔寿は少し温めのお茶を用意していた。銀とは何度か接触があるせいか、しっかり先読みしていたらしい。
「・・・焔寿お姉さんありがとう。気をつけて食べないといけないんだね」

初めて知った餅の味はモチモチして美味しいが、ゆっくり食べないと危険な事を知った銀であった。


●人集りにはご用心。
「うひゃぁ・・すごい人だな・・」
お参りしようと登って来たが予想以上に人が多く、初めての正月の神社に孝は改めて驚く。

「銀君、潰されないように気をつけてね・・」
「うん!気をつけるっ・・っわぁ!ご・・ごめんなさい」
焔寿に言われ霞波と確りと手を繋ぎ、注意はしていたものの、人とぶつかり扱けそうになった拍子に帽子が落ち、耳がひょこっと出る。
「お兄ちゃん・・動物さんのお耳??」
目をパチクリさせて尋ねる女の子の質問に一瞬5人の背筋に緊張が走る。
「この耳は玩具なのよ??」
「玩具??」
「すごいね・・本物みたいだね・・あっ・・お母さんが呼んでるから行くね、バイバイ〜」
焦る事無く上手くに対処した霞波は笑顔で少女に手を振り返す。
「ふぅ・・銀くん、気をつけてくださいね」
銀に樹が帽子を今度はもっと確りと被り直させ、飛ばないようにする。
段々賽銭箱が近づいてくるが、最前列に行くには困難な様なので、ここから投げる事にした。
「銀、賽銭を投げて祈ると良い事があるそうだぜ。っと・・銀は小さいから投げにくいよな。投げられるか?俺が肩車してやるからおいで・・落っこちないように慎重に投げろよ?」
軽々と孝は銀を持ち上げると、視線は高くなり少し違和感を覚える銀だが嬉しいらしい。
大きなお賽銭箱が目にはいるとお金を投げ込み、皆の真似をして手を叩き、そして手を合わせ、全員で願掛けをする。
「(受験が成功しますように)・・・」
樹は手を合わせ、自分の夢を叶える為に努力する事を改めて誓い祈願する。
「(何か割りの良い仕事が見つかって食事代くらいは稼げるようになりますように・・)」
異界から来た孝には仕事一つ探すのも大変だ。何としてでも、第一に食事は確保したいらしい。
それぞれに願掛けをした所で急いで人ごみの中から抜けることにしよう。
人ごみの中で迷子にならぬ様にと孝は銀を肩車したまま拝殿を何とか抜け出す。


●美味しい屋台。
「きゅるるぅぅ〜」
「そろそろお腹すく頃ですよね・・」
銀のお腹の音が肩車をしている孝の耳にばっちり聞こえてくる。
隣を歩いていた焔寿にさえ聞こえるほど大きな音だったらしい。
「何がいいかな?」
「うーんと・・どれにしようかな・・迷っちゃうね」
見たことのない程の密集する屋台を目にし、苦笑しながら樹に笑いかける銀。
「たこ焼きが良い?それとも綿飴??好きなの言って良いんだよ。せっかく来たから楽しもうね」
「あっ!ボク綿飴食べたいな♪甘くてふわふわしてるんだよね!」
「じゃー、ボクが買ってくるね・・」
目の前にある【綿飴屋】で綿飴を人数分買うと、白色の綿飴を銀に差し出す。
「甘くて美味しいね♪」
「綿飴なんて久しぶりだわ・・」
甘党の銀にはたまらない一品だ。お祭りなど、普段はあまり食べる事のない綿飴を汐耶は味わって食べる。

「おぉ!ジャガバタ美味そうだぜ!!」
銀を肩車したまま、孝はバターの良い香りがするほうに惹かれて行く。
「ジャガバタ?」
「ほくほくして美味いんだぜ?銀もきっと気に入ると思うぞ??」
ジャガバタを買い、銀に熱いから気をつけるように注意してから手渡す。
「ぱくっ!」
「どうだ??」
「わぁ〜美味しい・・すごいね!」
なにが凄いのかは分からないが、銀はこの後、皆と鱈腹食べた。
こうして神社を後にした。


●お正月と言えば??
再度戻ってきた隣家の空き地で、気がつくと霞波と銀が疲れた様子もなく、楽しそうに作業をしている。
「これは・・凧揚げって言って、紙に細いたけを貼って糸をつけてお空へあげて遊ぶのよ。銀君の似顔絵の蛸作ってみたんだけど上げてみる?」
「ボクの似顔絵??本当だ・・ボクだね♪霞波お姉さん、絵上手だね」
銀の為にと持ってきた凧を組み立てた後、完成した凧を少しの間見つめる。自分の似顔絵を見て少し照れる銀に霞波は微笑する、凧揚げするには風力は適している。勢いよく助走をつけて凧を上げる。
「あっ、凧揚げですね・・」
高々と舞う凧を焔寿は猫達と一緒に窓から見上げる。最近では凧揚げを見る機会は昔より大分減ったが、随分と風情がある。
「霞波お姉さん・・わぁ〜揚がったね!!あっ!焔寿お姉さん〜見て」
初めての凧揚げに随分とはしゃいでいる銀は窓の傍にいる焔寿を発見し、ブンブンと楽しそうに手を振る。

お雑煮が出来たわ!温かいうちに御節と一緒に食べましょ??」
お雑煮を作った汐耶は皆を呼びにやって来た。
「じゃー、遊びはまた後でしようね、銀君・・」



「お雑煮・・美味しいね・・」
「今度は気をつけて食べるんですよ、銀君」
「うん、大丈夫!」
幸せそうに食べていた銀に焔寿が声をかけると、なんの根拠があるのか自信たっぷりに返答する。
「やはり、混んでいましたが楽しかったですね。汐耶さんの着物姿は素敵でしたしね」
「あら、焔寿さんの着物も素敵だったわよ・・」
食べながら話していると神社での出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。焔寿と汐耶は着物を着て歩いた為、多少歩きにくかっただろうが、久しぶりだからこそ大満足だったらし。
「初めての正月って吃驚したぜ!何処から沸いたか分からないくらい人多かったよな・・」
「でも、銀君が迷子にならずに済んだのは本当に幸いですね」
銀を肩車していた為、少し疲れていたが楽しかった様子を見せる孝と結構元気な樹が話を続ける。

「あっ!皆で羽根突きしませんか??」
羽子板を鞄から取り出し霞波は皆に見せる。
「いいわね〜楽しそう・・」
「皆さんでやればもっと楽しくなりますね」
汐耶と焔寿は興味を示す。女性軍は意外とこういう遊びが好きらしい。懐かしいからこそやってみたいというのもあるのかも知れない。銀を連れて、楽しそうに話しながら空き地に出る。

「元気だな・・」
「僕達も負けていられないって事ですね・・行きましょう!」
「ああ、やるからには当然勝つ!!」
墨を皿に移し、用意をした後で孝と樹も後からついて行く。


「銀君、これは・・この羽根をこの板で打ち合うの。落としたら顔に墨よ。早速、やってみようね・・」
「えっ?!・・・そうなの??」
「墨の用意なら出来ていますよ」
霞波のルールを聞いた後に落とさないようにと気合を入れる銀。
樹が持つ皿に入った墨汁を横目に見て少し緊張する。

「じゃ〜、行くよ!!」


こうして無事に楽しい正月は過ぎていった。


●人間界のお正月を振り返って。
孝編(ある1コマより)

ヘトヘトの体を休める為に炬燵の中に入る。
「今日は楽しかったね!」
「ああ、人間界の正月は人だらけだったけど楽しかったな」
多少は疲れたけものの食事券もゲットし、ほくほくのジャガバタも食べ、満更でもないらしい。
いま思い出しても確かにジャガバタは上手かった。
「お賽銭も凄かったね・・人が多くってびっくりしたよ・・」
「確かに・・あれは尋常じゃないくらい居たな・・。まぁ、それはそれで結構楽しかったりするんだよな」
「うん。あっ・・そうだ、孝お兄さんの住む異界では1月1日はなにをするの??狐族の間ではこの日に、お守りを渡す習慣があるんだよ」
ごそごそと胸元のポケットからお守りらしきものを取り出す。見た目はお守りより、少し小さめだろうか。可愛らしく鈴がついている。
「おぉ?俺にくれるのか??」
「うん。このお守りはご加護が付くお守りだよ。守りたい者への心が強いほど威力がますって話を聞いたことがあるんだ・・」
珍しいお守りに関心しながら少しの間お守りを見つめ、再び銀の方へ視線を戻す。
「なぁー、銀・・今日は・・」
突然軽い体ではあるが、樹の方へ倒れてくる。
「・・っておい!なんだ?!」
吃驚しながら、気分でも悪いのではと思い、焦りながら銀の顔を覗き込む。

「・・・・・すぴぃ・・」
「寝てる・・」
呆れながらも銀を起こす事無く、隣にあった毛布をかけてあげる。
こうして初体験のお正月は過ぎていった。


                           おしまい。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1985/葛城・樹(かつらぎ・しげる)/男/18/音大予備校生
1990/天音神・孝(あまねがみ・こう)/367/男
/フリーの運び屋・フリーター・異世界監視員
1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/23/女

/都立図書館司書
1305/白里・焔寿 (しらさと・えんじゅ)/17/女
/神聖都学園生徒/天翼の神子
0696/秋月・霞波(あきづき・かなみ)/女/21/自営業

                      申込み順。

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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとうございます。
よいお年をお迎えできましたか??

今回、葵桜の依頼を受けていただきありがとうございます。

樹様へ。
3つ連続で依頼を受けていただきありがとうございます。
今年は受験シーズン・・ですね。
私は・・受験勉強あんまり勉強しなかった気がします(苦笑)
えっと・・それなりに・・(滝汗)
樹さん、受験がんばってくださいね。


孝様へ。
初めまして。
今回の依頼では拝見出来ませんでしたが、女の子姿拝見しました。
とても可愛らしいですね。
もちろん、男の姿の孝さんもとても素敵だと思いますよ。


汐耶様へ。
初めまして。
素敵な物件(?)ありがとうございました。
御節とお雑煮は毎年食べてますよv
ほぼ私が作るわけじゃないんですけど・・ねっ。

焔寿様へ。
お久しぶりです。双子以来ですね。
メッセージ付きでありがとうございます。
プロフィール見ていて隠し能力すごく気になりました。
でも銀も似た感じですよ(笑)

霞波様へ。
実は私は凧揚げと羽根突きってした事はあるんですけれど、
あまりした事がないんですよね。
凧揚げは小学校の授業で作りました♪
羽根突きは1度はしたことがある気が・・。
だから、もしかすると銀と同じくらい・・・。


最後に。
皆さんにとってよい一年でありますように。