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鋼鉄少女
オープニング
今日も草間興信所は平和…じゃなかった。
「アンドロイド…ですか？」
草間は灰皿に煙草をもみ消しながら呟く。
「はい、名前をシンガリアと言って家事用ロボットとして作ったのですが…」
依頼に来た男は言いにくいのか次の言葉をなかなか言おうとしない。
「何か問題でも？」
なかなか言おうとしない男に草間は少々苛立ちながらも問いかける。
「欠陥品だったんです。プログラムのミスで…いきなり暴走を始めました」
「ミス？」
草間は疑問に思いながらも男の話を聞く。
「…シンガリア開発の研究に携わった人間は所長を含め、１３人殺されました」
ポロリ、と二本目を吸う為に持っていた煙草は手からすり抜けテーブルの上に落ちる。
「…暴走を始めたんです。何とか研究所から出ないように封鎖はしたのですが…」
いつまでもつか分からない、と男は言う。
草間は『また厄介な事件が俺のところに来たものだ』と思いながら頭痛がするのを感じていた。
「これがシンガリアです」
男はスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出し草間に見せた。
写真に写っていたのは西洋人形を思わせる白い肌に青い瞳の子供。
「外見は子供で作られたんですか？」
「あ、はい。親しみやすいようにと思いまして。モデルになったのは所長の娘さんで…シンガリアに殺されました」
「娘？」
「はい、所長の娘さんと同じ記憶をシンガリアにもインプットしたんです。その方が人間らしい動きをするだろうと思いまして」
その辺りに暴走の原因があるのでは？と草間は思ったが口にすることはしなかった。
とりあえず、この依頼を受ける事にしよう。
「この依頼を受けましょう。後日派遣社員を研究所に向かわせますので」
「分かりました。それではよろしくお願いします」
男は零の出したコーヒーを飲み干すと興信所から出て行った。
「依頼をお受けになったんですね」
「あぁ、ただのプログラムミスじゃいきなり暴走はしないだろう、何か理由があるんじゃないかと思ったんだ」
「じゃあ、早速誰かに電話してみましょうか？」
「あぁ、頼む」
そう言って零は電話に向かい、草間は先程吸い損ねた二本目の煙草に火をつけた。
視点⇒ベティ・ロイド
「街外れにおります主より遣わされたベティ・ロイドと申しますでございます。貴様から指示を仰ぎ事を成せとの事でしたのでございますので宜しくお願い致します」
突然草間興信所に現れた彼女は無表情でそう答えた。
「…あ、あぁ。電話で言っていたのはキミのことだったのか。とりあえず座ったらどうだ？」
新聞から目を離し、草間武彦はベティを見ていう。
「場所はどこでしょう？」
ベティは草間武彦に促されるままにソファに座り、事件の事を聞き出す。
「問題のアンドロイド、シンガリアのいる研究所はこのメモに書いてある」
ベティは草間武彦からメモを受け取り読み始める。場所は遠くも近くもない微妙な場所だった。
「ここに行けばいいのでございますね？」
「あぁ、くれぐれも無理はしないように…」
草間武彦はそれだけ言うと、再び新聞に視線を戻した。
「了解しました。では任務に取り掛かります」
そう言ってベティは草間興信所から出て行った。人間の足では時間がかかる距離もベティにとってはそこまで時間はかからない。一時間の距離を半分の時間でベティは研究所にたどり着いた。
「ここですね」
ベティは研究所を見上げながらいう。ズームをして研究所を見る。入り口と言う入り口が打ち付けられている。人間ならば抜け出すのに時間を要するだろうが、アンドロイドならば足止めにしか過ぎない。人間とアンドロイドは動け運動量が違うのだから。
「あの、草間興信所から来られた方ですか？」
ベティが研究所を見ていると一人の男がベティに話しかけてくる。
「そうですが、貴方は誰ですか？」
「私は…依頼に行った者です。あの、貴方が解決してくださるのでしょうか？」
男はベティをじろじろと舐め回すような視線で見る。13人もの人間を殺害したアンドロイドを何とかしてくれる者なのだから男だと思っていた、と男は言う。
「では、貴方が行かれたらどうですか？男が行くものなのでしょう」
ベティは表情を変えることなく答えた。何もベティは嫌味や冗談で言っているのではない。本気で言っているのだから余計に男を焦らせた。
「いや！私では何もできませんよ…」
男は頭を掻きながら苦笑いをして言う。
「そうでしょうね。貴方が解決できるのならば今ここにわたくしはいませんから」
「……そ、そうですね」
納得されるのも何か悲しいものがあるな、と男は思ったが口にすることはなかった。
「では、この鍵を…裏口から入れますから…」
「必要ありません」
男が差し出す鍵には目も向けずにベティは歩き出す。
「扉は全て封鎖されているんですよ？入れませんけど…」
「大丈夫です」
そう言ってベティは打ち付けられている窓をガンッと殴り打ち付けてあった板を外した。
「これで入れますから」
ベティは研究所の中に入っていく。
研究所の中は静かな方だろう。ベティはその中で聴視覚をすませて自分以外の駆動音を探す。そして、目的のものはすぐに見つかった。
「目標発見、制圧を開始します」
そう言って追走モードにして、まだベティに気づいていないシンガリアに向かって走り出す。
「誰！？」
シンガリアがベティに気づいたときにはもうベティは目の前にいた。
「直ちに止まれ。警告する。３カウント待つ」
「貴方、誰？私と同じ…ロボット？」
シンガリアはベティの警告に恐れる事もなく構える。これを攻撃と見なしたベティも構えてシンガリアの懐に入る。
「っ！？」
力の差は一目瞭然だった。それもそのはずだ。同じ自動人形でもベティは警備専用として、シンガリアは家事専用として作られたのだから力の差があって当たり前だ。
―ガシャンッ！
突然の音にシンガリアは音のほうに目を向けると自分の足が壊されているのが目に入った。
「制圧完了」
動けないシンガリアは諦めたように笑った。
「どうせ私なんかいてもいなくてもいいんだし…壊しちゃえばいいわ」
「…………」
シンガリアはごろんと床の上に寝そべって目を閉じた。アンドロイドなのだから目を閉じていてもある程度のことはわかるだろうが、彼女の『人間らしさ』がベティに変化を与えた。
「なぜいらないのだとか言うんです？」
棒読みだがこれはベティの特徴なのだから仕方がない。
「私はマリアの代わりなの。だからマリアがいなくなれば私がマリアになれると思って殺しちゃった。そしたら…お父さんが私を壊そうとしたの」
だから殺した、とシンガリアは悲しそうに呟いた。
「あははははははは」
ベティは棒読みで突然笑い始める。
「な、何よ！？」
「主から理解不能なことを言われたら笑えと言われていますので」
「笑うならもっとまじめに笑いなさいよ」
シンガリアから言われて考えてみるが、やはり理解不能だった。
「もう、外に行って。後始末くらい自分でできるから」
そう言ってベティを研究所の外に出るように言う。
「了解しました」
ベティもあの足では動けないだろうと判断したのか素直に外に出る。ベティが外に出て門の所まで歩いた時だった。
突然の爆発音が響く。振り向くと数分前にいた研究所は激しい炎の中で崩れていった。
（自分の後始末くらいできるって言ったでしょ）
ふとベティはシンガリアの声を聞いた気がした。聴覚を澄ませてみるが何も聞こえない。
「……わたくしには理解不能なことばかりです」
呟いたベティの声は炎の音でかき消されて、誰にも聞かれることはなかった。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
2294/ベティ・ロイド/女性/1歳/警備専用メイド型自動人形
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■ ライター通信 ■
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ベティ・ロイド様＞
初めまして、瀬皇緋澄です＾＾
今回は『鋼鉄少女』に発注をかけてくださりありがとうございました＞＜！
『鋼鉄少女』はいかがだったでしょうか？
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。
それでは、またお会いする機会がありましたらよろしくおねがいします
-瀬皇緋澄
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