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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


君がいなくなった理由

■オープニング

「ねぇ三下。たまには仕事の疲れを癒したい、とか思わない?」
 取材してきたことを校正している三下の横に、編集長である碇麗香の声が聞こえた。
「癒す……ですか?」
「そうよ。温泉なんか入りたいと思うでしょ?」
 珍しく麗香から休息の話題が出たことで、三下も手を止めて麗香へ向き直り、脳裏に露天風呂と美味しい料理を想像させる。
 仕事でドジを踏んでばかりいる所為か、はたまた取材対象が人外であることが多い所為か、最近まともに体を休めた記憶がない。
「温泉いいですねぇ……」
 ポツリとそう洩らした瞬間、それを待っていたように、麗香がスッと手を出し、1枚のチケットを差し出してきた。
 慌てたのは誰であろう、三下自身である。
「えっと、編集長…それは?」
 少しオドオドした態度で三下が訊ねると、麗香は色気のある口元を動かし、にっこり…とは言わないまでも笑みを作った。
 ─これは何か自分に、災難が降りかかる前触れに違いない─
 そう気付いたが既に遅し──…。
「取材に行って来てちょうだい。場所は『蝋燭館』……座敷童子で有名な場所よ。なのに最近、その座敷童子の姿が見えないそうなの。別段改築をしたわけでもないのに、おかしな話よね」
「そう…ですね」
「元々いない存在だったのか、それとも本当に消えてしまったのかは判らないけど、売りにしていた旅館にしたら、大ダメージらしいわ」
「そう…ですね」
 三下は乗り気じゃない返事を麗香に返した。
「こちらに取材要請があったのも……売り上げが落ちている証拠でしょうし。これは本当に消えたのかもしれないわね」
「はぁ……」
 どうやら見事に三下は”温泉で休息”に釣られて、仕事をしてくるハメになってしまったようだ。
「一人で行けとは言わないし、早期解決すれば残りは本当に休暇よ?」
 ガクリと肩を落とす三下に、麗香は二度三度と肩を叩き、勝者の笑みを浮かべながら自身のデスクに帰って行った。
 取り合えず……誰かに声を掛けなくてはならないだろう。
 三下はデスクに常駐されているアドレス帳から数名をピックアップし、少々乱雑な文字で書かれたファックスを流していく。
「……ふぅ。誰か来てくれるといいんだけど……」
 疲れを癒す前に疲れているような気がする三下は、自分ひとりでは解決出来ない問題を前に更に溜息を深くした。

***FAX送信状***
 いつもお世話になっております。アトラス編集部の三下です。
 以下の内容を調査して頂きたく、ファックスしました。参加できる方は当日、東京駅まで起こし下さい。

■東京駅

 東京駅。
 休日ということもあり、構内には出迎える人、そして遠方からやって来た人でざわついている。
「やっほー。来たよ、三下さん♪」
 ツインテール姿で手を振りながら、楠木・茉莉奈(くすのき・まりな)がホームにやって来た。ピンクのリボンを揺らすその姿は、年齢より若干幼く映る。
「楠木さん、宜しくお願いします」
 眼鏡のズレを直しながら三下が言えば、茉莉奈は頷いてから
「私、たぶん座敷童子見えると思うから。ちょっとでもお役に立てると良いなって思って」
 と優しい言葉を掛けてくれる。三下の周囲で……特に編集部でこのような発言をしてくれる人がいるだろうか。いいやいない。思わず三下が両手を取って「ありがとう」と泣きそうになっていると、そこにコウテイペンギンの着ぐるみを着た少年──香坂・儚(こうさか・はかな)が、三下の袖を引っ張りながらニコニコしているではないか。
「温泉に行くんだよね?」
「そうですよ」
「温泉ー!わぁいっ、いくいくー!!」
 両手を広げて万歳をしながら、コウテイペンギン……儚は三下の周りをスキップした。その無邪気な笑顔は子供そのもので、三下はほのぼのしながら眺める。

 ──これで仕事じゃなかったら、どんなに楽しい温泉旅行だっただろう。

 そんな三下の気持ちは、誰も判らない。
 はぁぁぁぁと溜息を付くと、ピタリと止まった儚が辺りをキョロキョロと見回した。
「そういえばおにいちゃんと一緒に来たのに、何処行っちゃったんだろう?」
「おにいちゃん?」
 茉莉奈の言葉に、儚が嬉しそうにニッコリ笑う。
「うん、ボクのおにいちゃんも来てるんだよ。大人っぽくてね、バイオリンが上手で……モガッ!」
「儚……それ以上はいい」
 そう言いながら儚の口を塞ぎ、香坂・蓮(こうさか・れん)は三下へ視線を向けた。
 まさか一緒に来ることになるとは……。
 蓮は弟を見つめ、見えないように息を吐く。苦手ということはないのだが、仕事先で出会うのは、どうも不慣れというか初めてな為である。

 ──さて、どうしたものか。

 そんなことを相手に気づかれないように、
「これでメンバーは揃ったのか?」
 蓮は時計を見上げてから三下へと尋ねる。まだ出発時刻ではないが、そろそろ電車に乗り込んでおいた方がいいからだ。
 しかし三下は改札へと伸びる階段を見つめながら、蓮へと否定の言葉を口にする。
「いえ……。あと二人来る予定なんです……け……ど……」
「どうかしたの?」
 語尾が弱くなる三下の様子に気づき、茉梨奈が視線の先へと顔を向けた。儚も蓮も視線を向ける。
 とそこには。
「遅くなってしまいました。皆様、今回は宜しくお願い致します」
 深々と頭を下げる和服少女。……しかしこれを和服と呼んでもいいのかどうか、一同は数秒考えた。
 薄墨色の浴衣までは、いいのかもしれない。季節感がないということを覗けば。
 しかし──桐の桶に、手ぬぐい。そして石鹸はどうなんだろうか。
「この格好で……行くのか?」
 蓮は一同を代表するように口を開く。
「はい。座敷童子様ならさぞ面白いお話をご存知かと思いますし、温泉というものは気持ちがよいものだと知っておりますから」
 にこり。
 微笑んだ海原・みその(うなばら・─)に、蓮は「そうか」としか言えなかった。
 そして三下周辺を見渡せば、ロリっこに着ぐるみに、浴衣。
「…………」
 奇妙な集団が出来上がっているではないか。
「おい、オマエら。すっげー浮いてんぞ!?」
 一瞬声を掛けるのを躊躇ったじゃねぇか、と言いながら、真柴・尚道(ましば・なおみち)が「よっ♪」と片手を挙げながら近づいてくる。長いウェーブの掛かった黒髪を揺らし、行き交う人より頭二つ分は高い身長は、その者も周囲から視線を向けられる存在である。
 蓮は一歩、いや三歩はその集団から後退して距離を取った。

「俺で最後っぽいな。んじゃ、行くか。いや実は温泉旅行なんて初めてで、結構楽しみだったりしてな」
 荷物らしいものは持たず、尚道は無邪気に笑って見せる。
「温泉旅行……そっちは俺としてはどうでも……」
「ボクも楽しみなんだよー!! 一緒に楽しもうね♪」
「わたくしも楽しみです。あとは”でんしゃ”なるものも、楽しみたいと思っています」
「おっ!オマエらもか。んじゃ、さっさと用を片付けちまおうぜ」
 どうやらこれでメンバーは集まったようだ。

「俺はこのメンバーと行くのか?」
 蓮は電車へと乗り込むメンバー+三下を見つめながら、ポツリと呟く。
「おにいちゃん、早く早く!!」
「あ、あぁ。今行く」

■車内

 緩やかに静かに電車が動き出す。都会の喧騒を離れ、景色が移り行くのは見ていて何処か不思議なものがあった。
 通路を挟んで二手に座った一行は、各々持ち込んだお菓子を開けながら三下へと質問を投げ掛ける。出来ることなら、目的地に到着する前に知っておきたいことがあったからだ。
「ねぇ三下さん。その『蝋燭館』ってどんなところなの?」
 茉梨奈が缶ジュースでのどを潤しながら、目の前に座る男へ言葉を紡いだ。
「造りは日本風旅館みたいな感じですよ。ただ電気を極力使わないようにしているらしくて、その代わりに明かりが蝋燭なんだそうです」
「それで蝋燭館か」
 尚道の呟きに、三下は麗香から預かってきたパンフレットを差し出した。
 そこはまさに時代を逆行したような場所。蝋燭の明かりに浮かび上がる庭先はどこか情緒があり、廊下に吊るされた何個もの明かりが、薄暗いながらも暖かい印象を与えた。
 平屋造りのそこは、離れが泊り客の部屋となっているのか、本館には渡り廊下で繋げられている。部屋数も20部屋くらいで、多くの客を泊めるようには出来ていないのだろう。
 そんな旅館に客が来なくなれば、最悪廃業にまで追い込まれるかもしれない。もちろん宿だけでも充分素敵なはずなのだが……。
「部屋も蝋燭の明かりなのか?」
 ふとパンフレットを覗き込んでいた蓮が口を開く。
「いえ、さすがに火災原因になり兼ねないので、部屋は電気みたいですよ」
「座敷童子がいるのは、どこらへんなの?」
 蓮の隣りでちょこりと座っていた儚も、パンフレットの館内案内を見ながら尋ねた。
「それが判らないんですよ。ほら、どっかの旅館にも座敷童子が出るって有名なところがあるじゃないですか。あそこみたいに、部屋が固定していれば楽なんでしょうけど……」
「見た人とかはいないの?」
「…………」
 三下の口が貝のように閉じてしまう。
「……要は、そこまで調べてねぇってことだな」
 頬杖を付ながら尚道が呆れたように口を開けば、三下の額に嫌な汗が浮かんだ。

「申し訳ありませぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

「皆様。こちらのお宿、温泉の効能が美肌みたいです」
「「「「……………へぇ〜」」」」
 みそのの一言により、三下は救われたのかもしれない。

■蝋燭館

 到着した蝋燭館は、山奥にひっそりと存在していた。車内で見たときより、実物の方が数倍趣がある。普段から蛍光灯の明かりに慣れている現代人には、ちょっと違う気分を味わえる旅館だろう。
 飴色になった柱が、更に味を出しているのかもしれない。
 入り口で館の様子を見回していた儚は、わくわくした気持ちを隠せなかったのか、隣りに居た蓮に「おい」とペンギンの嘴を突付かれてしまう。
 とそこに一人の着物姿の女性が現れた。
「ようこそお出で下さいました」
「ア、ア、アトラス編集部から来ま、来ました。さ、さ、さ、三下と申します!!」
 お辞儀をする三下に吊られ一同も軽く会釈をすれば、年若いわけではないが、女将も優しそうな笑顔で迎える。
「この度は遠いところをありがとうございました。どうぞ宜しくお願い致します」
 深々と頭を下げるその姿に、不穏なものはない。
「とりあえず調査してみるか」
 蓮の提案に各々館の中に消えていく。
 ほの暗い館の中は、歩くたびに床が軋む音がした。

『キミたちは ダレ────?』

「ん?」
「どうした」
 足を止めた茉梨奈に、後ろを歩いていた尚道が視線を下へとずらす。
「今、誰かの声がしたような」
「気の所為じゃねぇか?」
「ん〜〜」
 辺りを見回す茉梨奈に、尚道は何も聞こえなかったけどな、と言いたげに先を歩いて行った。

++++++

 何やら調査の前にどっと疲れている気がしないでもない蓮は、建物を一人ぶらぶら歩いていた。とそこへ他のお客を部屋へと連れて行った帰りなのだろう、一人の女中が前から歩いてくる。
 蓮は何か話しが聞けるかもしれない、とその女性を呼び止めた。
「なんでしょうか?」
「座敷童子のことについて、少し聞きたいんだが」
「あ〜〜、そのことですか。お客さんも、座敷童子を見たくていらしたんですか?それなら残念ですが、今はもう……」
 そういう女中の顔は困ったように、眉が八の字になっている。
「ということは、座敷童子がいる、というのは本当なんだな?」
「座敷童子なのかは判りませんけど、小さな男の子の幽霊が出るって話ですよ? 何をするでもなく、建物内を歩いているそうです。ってこんなこと言ったら、あとで怒られちゃうわ」
 小さな男の子。それが座敷童子ということなのか。
 蓮は詳しくその少年について、尋ねてみることにした。女中も最初は渋り、中々話そうとはしなかったが、アトラス編集部から来た者と判ると、意外とすぐに口を開いてくれる。
 どうやら女将から従業員へと説明があったのだろう。
「その男の子が現れてから、ここの売り上げが上がったらしいんですよ。それで皆が座敷童子じゃないか、って。それがいつの間にかお客さんの耳にも届いたらしいんですよ」
「それじゃ座敷童子って、決まったわけじゃないのか……」
「そこらへんはよく分かりませんねぇ。ただ着物姿の……十歳くらいの男の子だそうです」
 そこまで言うと、女中は一礼して仕事へと戻っていく。これ以上は詳しく知らないということらしい。
 蓮は聞いた話に、暫し思考を巡らせた。
 どうやら座敷童子と決まったわけではないが、その存在が鍵であることに代わりはない。
「ん─…何かおびき寄せる方法があればいいが……着物姿ってことは昔の子供なのか? となれば……手毬とかが空きかもしれないな」
 ブツブツと呟き、館のお土産売り場に来てみたが……。
「……さすがに温泉饅頭じゃ、子供の……しかも幽霊はおびき寄せれないよな」
 土産売り場には、その地方独特のものが置かれるのが常である。温泉饅頭は当然あるが、手毬などがあるわけもなく、あとは名物であろう蝋燭やキーホルダーが置いてあるだけだ。
「……駄目だ。なんか俺は子供苦手だし、役に立たない気がする」

『クスクス…… おにーちゃん、面白いね───』

 がくりとうな垂れる蓮の後ろから、子供の声が聞こえる。
「誰だ!?」
 振り向いた先には、すでに誰かが居た気配はなかった。
 一瞬、空耳かと思いそうになる蓮だが、小さな男の子の幽霊、という言葉を思い出し、さっきの声が子供の……しかも男の子の声だったことに気づく。
「どうやらまだココらにいるらしいな」
「おにーちゃん、どうしたの?」
 そこに別の場所で調査をしていた儚が現れる。
 声は儚ではないな。
 そう確信した蓮の耳に、遠くから悲鳴が聞こえた。
「三下さんかな?」
 儚の言葉に、蓮は「行くぞ」と声のした方へと走り出す。

■君は誰?

「おい、大丈夫かよ!?」
 ガラリ、と扉を開けて中を覗き込んだ尚道は、三下の姿を探すべく頭を振る。脱衣所には誰も居なく、どうやらこの先──つまりは湯銭のある場所に三下はいるらしい。
「どうかなさったのでしょうか?」
「三下さん、どうしたの!!」
「おい、何があった」
「どうかしたー」
 そこへ声を聞きつけたみその、茉梨奈、蓮、儚が到着して、さっきの尚道のように首を左右に動かす。が、声の主がそこにいないのは、先刻尚道が確認したばかりだ。
「……おい、三下はどうした」
 蓮は嫌な予感がして、尚道へと声を掛ける。
「あ〜〜〜、どう考えても、あっちだろうな」
「……やっぱりか」
 親指でクィクィと差された場所に、蓮は心底呆れて言葉もない。
 それでも行かないわけにも行かず、儚が元気に扉を引いた。
「三下さん、大丈夫ー?」
 そして開けた先で見たものは、温泉に浸かりながら岩にしがみ付いている三下の姿。トレードマークとなっている眼鏡は曇り、ただ指を差して震えている。
 それにみそのは視線を移らせれば、そこには一人の少年が湯の傍で三下を見つめていた。
 ただじっと、何か言いいことがあるのか、不思議そうに見つめている。
「座敷童子様かしら?」
 それを見つめ、のんびりした口調でみそのが口を開くと、少年は慌てたように周囲を見渡した。

『おねえちゃん ボクのこと 見えるの───?』

「はい、ハッキリと。着物の柄まで見えてしまっていますよ?」
「ボクも見えるよー」
「私も見えるの」
 続々と上がる声に、少年は蓮と尚道へも視線を向ける。それが「見える?」と訊かれているようで、二人は目配せしたのち頷いてみせた。
 どうやら三下の悲鳴は、突然現れたこの少年に対するものだったらしい。相変わらず幽霊とか、妖怪とか、怪奇現象に慣れない男である。

『ボク見えるんだ───』

 少しだけ口角を上げて微笑む少年は、誰の目から見ても嬉しそうに映った。がそれだけ言って、また少年が消えそうな気配を感じた茉梨奈は、慌てて少年……いや座敷童子の腕を掴む仕草をする。
「待って。少しだけお話し聞かせてくれないかな?」
「そうだな。このままじゃ、なんの解決にもならないだろ」
 蓮もそう言って、座敷童子が消えないよう諭した。
 が。
「とりあえず、コレ(三下)をどうにかしねぇか?」
「茹で上がってるね」
 尚道に引き摺られ、三下が場外に退場したのを確認してから、一同は座敷童子の少年と輪を作るようにその場に佇む。


「あの……座敷童子様ですよね?」
 みそのがしっぽり……まだ浴衣姿のままでそう尋ねた。けれど少年は首を傾げてよく分からないらしい。自分が死んでいることは、理解しているのだろう。けれどどうして座敷童子と呼ばれるのかまでは、理解することが出来ないらしい。

『ボク 座敷童子なの──?』

「たぶんそうだろうな。オマエの姿がチラホラ見えるってんで、ここは売り上げが上がったらしいからな」
「そして姿を表さなくなって、売り上げが減っているらしいしな」
 尚道と蓮の言葉を聞いても、しっくりこないのか、座敷童子は首を傾げるだけだ。

『だって皆 遊んでくれないんだもん──…』

 つまんない、と座敷童子は呟いた。
 そして続けざまに言葉を紡ぐ。

『ボク新しい場所に行って 遊んでくれる人探すの───』

 やはり寂しいんだ、と話を聞いていた儚は思う。誰にも気づいてもらえず、たまに気付いてもらえても遊ぶところか、さっきの三下のように驚かれたり、拝まれたりするだけ。驚かせているわけじゃない本人にしたら、それはひどく寂しく辛いことだったのだろう。
 それに気付いたのは、儚だけじゃなく尚道も一緒。
 子供……特に純粋なものが見えやすいというのは、よく聞く話である。霊感というのもあるだろうが、あまり姿を見られることもなく、日に日に元気を無くしていったのだ。
 尚道はそんな座敷童子の頭をくしゃりと撫でる。
「俺らが遊びに来てやっからよ。そう寂しい顔すんじゃねぇよ」
「そうだよ。ボクと友達になろうよ♪」
 にこりと儚も笑う。
「私やマールも友達になりたいな」
 黒猫を胸に抱きかかえ、茉梨奈も笑った。
 すると今まで笑顔を見せなかった座敷童子が、初めて心から笑顔を作る。
 嬉しそうに、そして幸せそうに笑ってみせた。
「まぁ……なんだ……。これで良ければ、受け取ってくれ」
 スッと差し出した蓮の手には、小さなキーホルダー。それは宿で売っているものだが、座敷童子は嬉しそうに手にした。

『ありがとう ボク 嬉しい──…』

「では皆様。折角ですもの、温泉に入りませんか? 先ほど見たら、こちらの効能は美肌だけではなく、疲労回復にも良いみたいです」
 にこり。
 微笑むみそのに、やはり一同は何も言うことはなかった。


「おらおら、何茹ってんだよ。つか眼鏡外せよ」
「はわわわわわ! 真柴さん、僕はもう〜〜〜〜!!」
 長い髪をみつ編みにし頭の上で纏めた尚道が、意識を取り戻した三下を再度温泉に付けながら言う。
 それを見てみそのと茉梨奈は笑い、その横では兄弟水入らずで、楽しそうにはしゃぐ儚と蓮の姿があったとか。
「やはり温泉は気持ちが良いものですねぇ」
「そうだね。マール……平気かな?」
 自身の友達を心配そうに見つめる茉梨奈の先には、黒猫の隣りで皆の様子を眺めながら、ニコリと微笑む少年の姿がある。


『また来てね 皆───』


【END】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1532/香坂・蓮(こうさか・れん)
 →男/24歳/ヴァイオリニスト(兼、便利屋)

1388/海原・みその(うなばら・みその)
 →女/13歳/深淵の巫女

1421/楠木・茉莉奈(くすのき・まりな)
 →女/16歳/高校生(魔女っ子)

2158/真柴・尚道(ましば・なおみち)
 →男/21歳/フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)

2410/香坂・儚(こうさか・はかな)
 →男/16歳/プライベートアクター

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■         ライター通信          ■
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東京怪談調査依頼『君がいなくなった理由』にご参加下さり、
ありがとうございました。
ライターを担当しました佐和美峰と申します。
作成した作品は、少しでもお客様の意図したものになっていたでしょうか?

今回、個別部分がかなり短いのですが、共通が長くなってしまったので、
ご了承下さると幸いです。
更に納期がギリギリで……申し訳ありませんでした。


宜しければ今回の依頼に参加しての感想などを頂けると嬉しいです。
では。
この度はありがとうございました。
またお会いする時があれば、宜しくお願い致します。

佐和拝