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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『人形師のからくり館』
「やれやれだな。本来、こういうのは探偵小説のもっともポピュラーな話であり、俺にとっては大歓迎なのだが・・・やはりそれにはおまけがついてくるんだな」
 草間武彦はマルボロの吸殻の山ができた灰皿に短くなったマルボロを捨てると、紫煙の代わりにため息を吐いた。
 そして彼は頭を掻きながら向かいの席で顔を俯かせる今回の依頼者、桐生奈津子を見た。
 桐生奈津子。19歳。海外にも名をとどろかせる玩具会社である海道家に仕えるメイドだ。
 まずは彼女の持ってきた依頼について話そう。彼女が持ってきた依頼とは彼女と彼女の仕える現海道家当主、海道信吾14歳のボディーガード兼その犯人探しだ。
 事の始まりは先代海道家当主、海道健吾が殺された事に始まる。そしてそれは猟奇殺人であった。彼の体はまるで挽き肉機にかけられたようにずたぼろとなって血の湖に沈んでいた。
 犯人もわからなければ、その殺害方もわからぬこの事件。しかし事はそれで終わらなかった。
 今度はなぜか海道家に仕えるメイドの彼女が謎の視線に悩まされる事になったのだ。
 身の危険を感じた彼女は警察に相談し、警察も彼女の周りに捜査員を動員したのだが…
 結果は何事も無く、警察は彼女の神経過敏と判断した。
 だが、彼女は決してそうではないと感じている。そこで怪奇探偵として名高い草間に依頼してきたのだ。
 だがしかし・・・
「この依頼を受けるにいたって俺が足踏む理由がある」
 この依頼を受ける、その言葉に顔を綻ばせかけた彼女だが、その後の彼の言葉に表情を硬くさせた。
「あんたと海道家の当主は本当にその屋敷を出られないのか?」
 彼女は俯かせた顔を横に振った。
「はい。それが仕来りなのです。当主は一日足りとも屋敷を空にせず、月鈴子(げつれいし)の世話をするように、と」
 草間は苦りきった顔にくしゃくしゃのタバコの箱を近づけて、最後の一本を口にくわえた。これで当分はマルボロともお別れだ。
(いや、下手をすれば、永久に、だな)
 そう、彼女と海道信吾のボディーガードをし、彼女に危機感を感じさせ、あるいは…いや、十中八九海道健吾を殺したそいつと敵対するのもいい。これでも今まで多くの怪奇事件を解決してきたのだから、今更臆するまでもない。しかし・・・
「屋敷の設計図とかはあるのか?」
「いえ…」
 また彼女は顔を横に振った。
 そう、海道薫が永久に動く人形に取り憑かれたように、先代当主の海道健吾もからくりに取り憑かれていた。そう、からくり屋敷に。海道家の屋敷は多くのからくり人形を無料で公開する邸宅美術館としても有名だが、数々のギミックを仕込まれたからくり屋敷としても有名で、そしてこれは実しやかに都市伝説として囁かれていた話であるが、この海道家に忍び込んだ泥棒がそのギミックによって死んでしまったというのだ。そう、そしてそれは本当の事で、海道健吾は実は人を殺すギミックに取り憑かれていて、警察では自分で自分の仕掛けた屋敷のギミックによって死んだのでは? という意見もあがっているのだ。だから彼女の訴えも・・・
 草間は紫煙と共に吐き出した。自分の本音を。
「やれやれ、これは難儀だな」

レクイエムT 因縁
 東京の一等地にあるリンスター財閥総帥セレスティ・カーニンガムの屋敷からは秋の夜長に虫たちが奏でる澄んだオーケストラの演奏に勝るとも劣らないリュートの音色が流れていた。
 それはとても透明でそしてだからこそとても物哀しい曲だった。
 その曲を耳にした者はそれが誰かのために作曲された鎮魂の曲である事がわかるであろう。
 リュートの音色が止むと、椅子に座り瞼を閉じていたセレスティは瞼を開き、こちらを見つめる綾瀬まあやに微笑んだ。
「ありがとうございます、綾瀬さん。本当にいい演奏でした」
「いえ。あなたが作曲したこの曲が素晴らしいのだわ。あたしはただそれを音にしただけ」
 彼女は長い黒髪を指で梳きながら小首を傾げる。さらりと揺れた前髪の下にある美貌にはひどく意地の悪い笑みが浮かんだ。
「しかし、天下のリンスター財閥総帥に鎮魂の曲を作曲させ、このあたしにそれを演奏してもらえるほどの幸運な人っていったいどんな人だったのです?」
 セレスティはただそれに静かに微笑むだけだった。
 彼女は小さく微笑みながら肩をすくめる。
 椅子から立ち上がったセレスティは部屋の隅に置かれたカートに乗せられていたグラスにお手製のカクテルを注ぎ、チェリーを入れて、それを傍らに立ったまあやに渡した。
「どうぞ」
「このカクテルの名前は?」
「ラミューズ」
「芸術の女神の名前ですね。でも、あたし、一応未成年なんですけどね」
 受け取ったカクテルを揺らしながらそう笑った彼女はグラスに口を付けた。そして美味しいと感想を述べる。
 それをほとんど視力の無い目で見ながらセレスティは鎮魂の曲を贈った彼女…河内麗華の事を思い出していた。
 彼女が死んで今日で一年。昼間、親友である私立探偵の草間武彦に協力を要請された例によってまた怪奇絡みの依頼はセレスティに何か因縁めいたものを感じさせてしょうがなかった。
 約一年前、セレスティは人の魂を糧にして動くと言う人形と関わった。その時に中に入っていたのが河内麗華という女性であった。
 そしてその尋常ならざる人形を作り上げた者の子孫に、奇怪なる死に方をした者が現れ、その息子と海道家で働くメイドとが草間に助けを求めてきたと言う。
「挽肉になる位なので人間以外の仕業か仕掛け…どちらにしろ、異常には変わりない」
 小さく呟くと、セレスティは今回の仕事のパートナーであるまあやを連れて、部屋を移動した。そこには下手な国家施設など凌ぐような最先端の機器が揃っていた。
「さすがは天下のリンスター財閥総帥の力ですね。よくもまー、これほどまでに」
 まあやは感心しているような、又は呆れているような声を出す。
 セレスティはそんな彼女らしい反応に苦笑いを浮かべながら肩をすくめると、すべての機器に向かって、
「電源オン」
 その声に反応してすべてが静かに起動する。
「それでどう動くのですか?」
「まずは情報を集めます。海道家の。基礎知識が無いと動き辛いですからね。おそらくはこれで館にかけられたギミックの傾向もある程度は特定できると思えますし」
 まあやは眉根を寄せたが、そのわずか数分後に、魔法かのような指の動きですべてのパソコン機器に一つのキーボードで命令を下し、調べさせていた結果を正面のデスクトップの画面に表示させたセレスティに舌を巻いた。
「これは、すごい。海道家の歴史に、資産、それに彼らが関わるすべての事のデーターが。いや、海道家に連なる者達の情報までも」
 そこには明らかに違法であるはずのデーターまでもが表示されている。
「ビジネスに限らず、この世の物すべては情報で決まります。わかりますか? 情報を制する者が勝者となれるのですよ。私はそれだけの力を得られるようにこの部屋に常に最新の機器を取り入れているし、技術開発部門にも妥協の許さぬ開発をさせている。なんなら、綾瀬さんのデーターすべてを表示させてみましょうか」
 まあやは髪を払いながら軽く肩をすくめた。
「それ、セクハラですよ」
 セレスティは苦笑い。
「手厳しいですね」
「それよりも、それで今回の依頼を片せそうですか?」
 まあやは頬にかかる髪を掻きあげながらセレスティの後ろから画面を覗き込む。
 セレスティはキーボードを叩く。
「まずは海道家の歴史。ここにね、面白い物を見つけましたよ」
 画面に表示させたのは、海道家初期の状況を書き表す文献のデーターであった。セレスティはその能力で情報媒体に触れるだけでそれが持つデーターを得られるから、これはまあやのためだろう。
「私がこの依頼を草間さんから聞いた時に一番気になったのは【月鈴子】の事でした。当主の行動を妨げるその存在…代々と長い年月を経て世話をしてきている事から考えればそれは生き物なのでしょう」
「現海道家当主である海道信吾はその月鈴子の部屋から出てこないのだとか」
「ええ、そのようですね。さあ、ここです。ここを読んでみてください」
 車付きの椅子に座るセレスティは椅子ごと脇にどく。
 まあやは画面の正面に移動して、それを読んだ。転瞬、彼女の両目が大きく瞠られる。
「これは・・・」
 自分を驚愕の表情で眺める彼女にセレスティは頷く。
 更に彼は膝の上に乗せたコードレスのキーボードを叩いて、画面に次のデーターを表示させる。それがさらにまあやを愕然とさせたのは言う間でもない。
「これが真実なのでしょう」
 戦慄する彼女にセレスティは冷たく笑った。

レクイエムU からくり館
 セレスティは先代当主海道健吾が死んでいた場所に立っている。
 外から見れば4階建ての館の5階に位置する場所だ。
 白い絨毯にはべったりと血の跡が残っていた。
 デスクの上の起動したパソコンに触れていたセレスティは瞼を開く。
「あの、それで信吾様の居場所は?」
 事態は急変した。現当主である海道信吾は館の中で姿を消した。
「それは月鈴子に聞いてみましょう」
「????」
 桐生奈津子は眉根を寄せた。
「聞くって・・・月鈴子って・・・あなたにはわかっているのですか、あれが何か?」
「ええ」
 セレスティは頷くと、
「とにかく居間に移りましょう」
 彼は彼女にそう言うと、まあやを見た。
 まあやは頷き、一人そこに残った。
 そして居間に戻ったセレスティは桐生奈津子と向かい合って、座った。
「その、モバイルは?」
 興味ありげな声を出す彼女にセレスティは、
「ええ、彼女に取り付けた超小型カメラからの映像がこれに送られてくるのです。それを基に私がこうやって、キーを叩く。そうすると、それは衛星を介して音声として彼女のイヤーカフス型マイクから発せられるのです」
「駒、という事ですか、彼女はあなたの?」
「そうですね。海道健吾が作り上げたからくり館というゲームを攻略するための私の駒です。私は足が悪いですから」
 セレスティがキーを叩く。モバイルに繋がれたテレビ画面の中のまあやはそのセレスティのイメージ通りの動きで次々とからくり館に仕掛けられたトリックをクリアーしていく。
「海道健吾が殺された部屋はこのからくり館の地下に作られた部屋への扉だった。無論、その先にいるのが月鈴子なのでしょう」
 キーを叩くのと同時にセレスティは涼やかな声で言う。つまりはその一見回りくどいようなシステムはこのためか。
 ・・・?
 桐生奈津子はくすっと笑う。それは金属の冷たさを持っていた。
「しかし人体に入り込んだウイルスが白血球によって殺されるように、彼女もからくりに殺されるのではなくて? 天才からくり師海道健吾の作り上げたからくりによって」
 セレスティは銀の髪を掻きあげ、
「ふん、彼の頭脳が勝っているか、それとも私の頭脳が勝っているのか、その答えは直に出るでしょう」
 そう言う間にもセレスティの指は鮮やかな動きでキーを叩く。それはまるでピアノを弾いているかのような光景を表していた。
 そしてそのピアノの音に合わせて踊るように、まあやは数々のギミックをクリアーし、
「チェックメイト」
 セレスティはEnterキーを叩いた。するとかわいらしく三頭身キャラにデザインされたセレスティが画面の中でバンザイと飛び跳ねている。
 そして桐生奈津子はそれにほんの一瞬忌々しげな表情をした。
 セレスティはそれに口元に微笑を刻むが、気づかぬふり。クールにポーカーフェイスを浮かべて、彼はキーを叩く。
 画面の中には肌も粟立つおぞましい光景が映し出されていた。
 月鈴子が海道信吾を食らっていたのだ。
「信吾さん」
 桐生奈津子は悲壮な声をあげた。
 そしてセレスティを狼狽しまくった動きで見て、
「早くまあやさんにそこから逃げ出すように命じてください」
「そうですね」
 セレスティがキーを叩くも、まあやは間に合わない。肉食獣が草食獣に襲い掛かるように飛びかかってきた月鈴子に押し倒され、そして頚動脈に・・・
 テレビ画面が真っ赤に染まり・・・そしてノイズとなった。
「まあやさん」
 ソファーから立ち上がった桐生奈津子はその映像に腰が抜けたようにぺたんと座り込んだ・・・
「大丈夫ですか?」
 ように見せて、彼女の右腕が伸びてセレスティの心臓を串刺しにした。
 ・・・。

レクイエムV 月鈴子
「この女、すごく美味しそうだね。食べていい?」
 月鈴子が訊く。
「ああ、いいよ。お食べ」
 優しい声がどこからかする。
 そして月鈴子は大きく口を開けて、ぴくぴくと虫の息のまあやの首に・・・
「うぎゃぁぁっぁぁぁーーーーーー」
 しかし、断末魔の声をあげたのは逆に月鈴子だった。
 そして口の端から血の筋を垂らすまあやは自分の体の上に覆いかぶさる月鈴子を押しのけると、ゆっくりと上半身を起こして、立ち上がった。だが、その動きはどこか足を庇うような動きだった。
「残念ですね。できれば久方ぶりに出会った同胞を殺すような真似はしたくなかったのですが、ね」
「な、何者だ、貴様は?」
 周りの闇すべてから聞こえてくるようなその声にまあや・・・いや、
「私はセレスティ・カーニンガム。月鈴子と同じ人魚ですよ」
 立ち上がったまあやの体が弾けて、そしてそこにセレスティが立っていた。
「水で作りあげた彼女の着ぐるみを着ていたのですよ。もちろん、居間にいる私は水で作り上げた人形です」
 そう言った途端に、桐生奈津子の伸びた右腕に左胸を串刺しにされていたセレスティが弾けて消えた。
 驚く桐生奈津子の首がその瞬間に舞い飛んでいる。庭に立つ本物のまあやの攻撃によって。その桐生奈津子は木で出来た人形であった。
 それをセレスティは感覚で察している。
 そして彼は得意がるわけでもなくただ淡々と事実をクールに述べる。
「では、一つ一つ、今、キミの思考を満たしている疑問符にお答えしましょう。まずは月鈴子…それが人魚である事は海道家の歴史を調べる事で明らかとなりました。海道家の開祖は元々は見世物小屋で操り人形を操る人形師でありました。その事実を開祖は完全に消した物だと想っていたようですが、しかし見世物小屋で演じられていた戯曲の筋書きを書いていた物書きが見世物小屋で見世物にされていた人魚に恋をして、彼女を連れ去った男の話を書いていた。それが海道家開祖の事である事を証明する事はさして苦ではありませんでした」
 やはり銀の髪を掻きあげながら青い目を細めて微笑む彼に得意がる様子は無い。ただ淡々と、
「そしてキミご自慢のギミック。これもね、まったくクリアーするのに苦労しませんでしたよ」
 キミ…今、セレスティはこの正体不明の声の事をキミと呼んだ。それでは・・・
「私が何者なのかわかっているというのか?」
「ええ。キミは海道健吾だ。まったく酷い事をする。よもや息子を月鈴子に食わせるとは。海道信吾、桐生奈津子、一体これまでにキミはどれだけの人をこの人魚に食らわせてきたのですか?」
 しかし、それに責めるような響きは無い。ただただ声が不思議そうなだけ。純粋な疑問だ。そう、それがセレスティ。
「ギミックはね、ネットに残るキミが書いた本や取り寄せた本、そして海道家の文献を調べる事でその方向性とかを充分に知る事ができました。故に簡単だったのですよ。やはりこの世は情報を制した者の勝ちだ」
「被害者が被疑者とどうして察せられた?」
「ああ、だからキミの方向性は理解したと言ったでしょう。錬金術。キミはそれに随分と興味を持ち、そしてそれを見事に完成させたようですね」
 セレスティはぱちぱちと手を叩く。
「この家に入った時に私はあらゆる方向から視線を感じた。そして確信した。やはりキミはこの家に自分をダウンロードさせたのだと。錬金術と今の科学。それを合わせた狂気の魔道科学。実に興味深い」
 そう、海道健吾は館に取り付けたダウンロードシステムによって自分の脳、肉、血…彼を構成する物すべてを刷り込む事で自分のすべてをダウンロードさせた。この館は海道健吾自身なのだ。
「私は恋愛に関しては否定派であるのですが、しかしキミと月鈴子は純愛だったのですね。私がまだ人魚であった時にこんな噂を聞いた事があります。円環の魂の法という奴を。これはこの日本近海に住む人魚族に伝わる呪で、前世の記憶を持ったまま転生できるものだとか。キミは月鈴子にその呪を施されていた人物…海道家の当主であったのですね。そして海道薫もまたキミか。人の魂を糧として動く人形…それは自分のためであったのですね」
「そうだよ、セレスティ。すべてはおまえが今言った通りだ。そして私もおまえが実に興味深いよ。どのようにしてそのような姿を手に入れた?」
「気の遠くなるような時の代価に」
「なるほどな。ならば月鈴子がおまえのような人の姿を手に入れるまで私は体内に彼女を孕み、守り続けよう」
 月鈴子の体がふわりと宙に浮きあがり、水槽の中に入る。セレスティの血流操作によって気絶していた月鈴子はそれで我を取り戻し、セレスティに向かって口汚い呪詛を口にする。
「ああ、そうだね、月鈴子。こいつを殺そう。そして食らうといいよ。同胞の…それも人の姿を得た彼を食せば、貴女も人の姿を得られるかもしれない」
 凄まじい敵意と殺意がセレスティに向けられる。ここには水は無い。彼は海道健吾の体の中だ。ウイルスが白血球によって殲滅されるように、セレスティも・・・
 しかしセレスティはくっくっくと笑う。
 そしてあくまでクールにポーカーフェイスで、
「切り札とはね、最後まで取っておく物ですよ」
 そう言った瞬間に彼の体は弾けた。
 水人形だ。
「くそぉぉぉぉーーーーー。セレスティ・カーニンガム、貴様はどこだぁーーーー」
 館全体が振動する。
 そしてそれをまあやと並んで、庭で見るセレスティは肩をすくめる。
「私がわざわざ生きている者が月鈴子しかいないキミの体内に馬鹿正直に入ってやる義理というものはない」
「確かに」
 頷くまあやに応えるようにセレスティは指を鳴らした。
 瞬間、セレスティのふりをしていた水人形が持っていた爆弾が爆発した。

【レクイエム】
 館はそれ一つで崩壊した。
「これはどういう事なんだ?」
 草間武彦はただただ唖然としていた。
 セレスティは笑いを噛み殺しながらそれに答える。
「キミを犯人にしようとしていたんですよ、彼らは」
「な、なにぃ?」
「怪奇探偵なんて仇名がついている探偵草間武彦が今まで関わってきた数多くの異常な事件に影響されて、自らも異常殺人をおかしても不思議ではないと思わせられるってね」
「・・・」
 実は海道家はかねてより多くの行方不明事件に何か関わっているのではないのかと、警察にマークされていたのだ。それもどれもすべて草間武彦になすり付けるつもりであったのだろう。事実、彼そっくりに作られていた人形ってのもあったのだ。
 隣で絶句している草間武彦はもうしばらくそっとしておく事にして、セレスティは巻き上がった粉塵などが収まってから、崩壊した建物の残骸へと歩いていった。
「さてと、ここから海道健吾の研究成果や資料などを発掘するのは少々手間がかかりそうですね」
 前髪を掻きあげながら嘆息するセレスティ。まあやは苦笑い…突然、彼女は背後から飛び上がってきた上半身だけの女に前へと押し倒され、そしてその上半身だけの女は両腕で前のめりに倒れる彼女を跳び箱を飛ぶような感じで押して、その勢いのままに犬歯と呼ぶには鋭すぎる八重歯を剥いて、振り返ったセレスティに襲い掛かる。
 その上半身だけの女とは月鈴子だ。
 セレスティは迎え撃とうとして、しかしその彼の背後から人形が出てきて後ろからセレスティを羽交い絞めする。
「ちぃぃぃ」
 舌打ちするセレスティ。
 だが、その瓦礫から飛び出してきた人形が月鈴子のぼろぼろの胸を貫いた。
「月鈴子ぃーーーー」
 セレスティを羽交い絞めしていた人形は悲鳴をあげて、落ちた月鈴子の下へと駆けつけて、抱き起こした。月鈴子はもはや息をしていない。
 そしてセレスティはそんな嘆き悲しむ人形を冷たく細めた瞳で見据えながら、ただ淡々と、
「異種族の恋なんてのは別に悪い事ではないのでしょう。周りの他人すべてを犠牲にしても何かを得たいという想いもわかる。だけどキミは私の敵となってしまった。それがいけなかった」
 セレスティは冷たくそう言い放つと、手を振った。瓦礫の下から染み出していた水にいつの間にか囲まれていた人形はその瞬間に鞭のようにしなったその水の刃によって細切れにされたのだった。

「セレスティ。その人形は?」
 セレスティは自分を助けてくれた人形を胸に抱いていた。
「これは・・・」
 しかし、セレスティは皆まで言わなかった。代わりに彼にしては珍しいほどにとても優しい表情を浮かべ、
「曲を。あの曲を弾いてください」
 まあやももう皆までを聞こうとはせずに、リュートを奏でだした。
 セレスティはその音色を心に流しながらその笑っているような顔の人形を優しい顔で眺めていた。

「また、キミに助けられましたね」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725/財閥総帥・占い師・水霊使い

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、セレスティ・カーニンガム様。
いつも本当にありがとうございます。
ライターの草摩一護です。

そしてご指摘、本当にありがとうございました。
報せていただかなかったら、ずっとそう書き続けていたであろう愚か者です。^^;
シチュノベ2作品前からあーなっていたのですね。
本当にすみませんでした。m(_ _)m

そしてセレスティ様からご依頼をいただく度にプレイングはまず最後から読んでおります。^^
もう、いただけるお言葉がすごく嬉しくって嬉しくって。
本当に毎回楽しくいい気分で書かせていただいております。
感謝の言葉をどれだけ口にしても言い足りません。
やはり、物書きにとって自分の物語を楽しんでもらえていると教えていただけるのはすごく嬉しいですし、そして自信にも繋がりますから。
まだまだ理想と実力とが噛みあっていませんが、これからもいただけるお言葉を胸にがんばらせていただきますね。

さてさて、それで今回のご依頼はどうでしたでしょうか?
セレスティ自身にからくりの正面突破も、と考えは実はまったくしませんでした。
これまでセレスティを書かせてきてもらえて、僕の中で出来上がった彼のイメージはやはりクールで知的な男、というものなのです。
ですから僕は、やはりご依頼していただけたのを見た時、最初に浮かんだこの物語の彼はチェスをするように椅子に座ってクールにそしてどこか不敵に微笑んでギミックに知力で向かいあう彼でした。
実は屋敷に入っていなかったというのも彼らしいかな、と想います。
どうでしょうか、今回のご依頼も楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのでしたら、本当に嬉しい限りでございます。

またクールでカッコいいセレスティ・カーニンガムを書かせてください。
その時も誠心誠意書かせていただきます。
それでは本当に今回もありがとうございました。
失礼します。