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corporate war
●オープニング
「……で、依頼ってのは何々だ?」
今日も今日とて変わらぬ興信所で――だがいつもと違うのは、そこにいる依頼者。
帽子のせいで顔が見えず、多少大きめのコートを着ているせいか、体型もよくわからない。ついでに言うなら――
「今流行りの……ゴースト・ダイヴというゲームを知っていますか?」
声の方も、男だか女だかわからない、中性的なもの。正直、相手の素性はサッパリだ。
「聞いたことあるな。ネットで出回ってる対戦ゲームだったか? 確かどこだかって大企業の」
そう、それはとある大企業の出した会心の作、とも言えるものだった。
ゲーム自体はアクションで、プレイヤーキャラの巫女やら退魔士やら、はたまた普通の高校生やらを選び、迫り来るモンスターを撃破し、ポイントを稼ぐゲームだ。
上位の者にはその企業からかなり豪華な賞品が送られる、ということもあり、今大ヒット中のゲームだ。が、
「なんか知らんが、最高得点が横並びなんだってな。オレも多少ゲームやるんだが……普通に考えたらありえないような気はするな」
「流石お耳が早い。依頼ですが、そのゲームについて調べて頂きたいのです」
「は?」
思わず聞き返す。調べろと言われれば調べるが、得点が同じだからそのゲームが怪しいなどということにはならない。
「勿論、これはただのゲームではないんですよ。これに使われてるキャラクター。本物らしいんです」
「本物……って、人間ってことか!?」
「それを、調べてほしいのですよ。報酬は、前金100万。正確な事の真偽がわかればもう100万。どうです?」
それは、普通に考えて大金だった。そして、ゲームに入ってる人間が本物だとしたら、それを見捨てておくわけにもいかない。
「……わかった。引き受けよう。正し、相手が相手だ。あまりにも危険なら、引かせてもらう」
「ええ。問題ありません。吉報を待っていますよ。と、いちいち落とすのも面倒でしょう。ROMは渡しておきますね」
言って依頼者は、まずROMを。次に、自分の名前とFAXの番号だけ書いた名刺を残して出て行く。そこには――
「ロキ……裏切り者、か? やれやれ……」
呟き、草間は受話器をとった。
●依頼 蘭空此葉の場合
「で、まぁ、これがそのROMだが」
草間は言いつつ『開封厳禁』と書かれたROMを持ってくる。
「これと言って変わった所はないみたいですね……」
「外見があからさまに変わってても怖いしな」
それは納得できることではある。
「で、早速ですが――」
「いや。一応他のヤツらにも依頼しててな。集合は明後日。とりあえず、それまではこれにはあまり触りたくない」
そう言うと、ROMを置いてあった場所に戻しに行く。
確かに、人数が集まっていた方が何かと対応しやすいだろう。
「でも、それなら何で全員一緒に集めなかったんですか?」
「ん? いや、とりあえず来い、としか言ってないし」
草間の言葉を聞き、此葉は軽く首を傾げる。
「え? 皆さんの予定の無い日に集合にしておけば……」
しばし、沈黙。
1分程たった後、
「なるほど、その手があったか」
「草間さん……学生の頃『何事も計画を立ててから行動しましょう』とか言われませんでした?」
また沈黙。どうやら図星らしい。草間らしいと言えばらしいが。
「ま、まぁ、それはそれとして依頼料だが」
「え? ああ、僕はそういうのもらってないからいいですよ――って、何膝抱えてるんですか?」
依頼料をもらうのを断った瞬間、草間は部屋の隅っこで膝を抱えて下を向き出したのだ。
「いいさ、いいさ、どうせ俺は貧乏……」
何か、してはいけないことをしてしまったらしい。多分にしばらくは元に戻らないだろう。
思案して、此葉はとりあえず草間の肩を何度か叩き、部屋から出ていったのだった。
●アクセス 得点の裏に
とりあえず、二日程時間ができてしまった。
ゲームについては当日調べるとして、それならそれで、やっておくことはある。
「まずは、最高得点関係について、か」
流石に、横並びというのはおかしいだろう。
もしかしたら、会社側で強制的に最高得点を出しているのではないか、と此葉は考えたのだ。
それを確かめるべく自宅地下のコア・コンピュータから、大企業とやらにアクセスする。
「ガードが堅い……いけるか?」
『やってみます』
自律型プログラムの海炉が返事を返す。
しばらく待つと、どうにかアクセスに成功したらしく、ゲームの管理画面のようなものが出る。
そこには倒す敵の得点やら、アイテムの得点やら、システムやら、様々なデータが詰まっていた。
上位得点などもここで管理しているらしく、それを見るが……別段、会社側がいじっているようではない。
どうやら、得点に関しては関与がないようだ。が、
「ん……最高得点を超えようとすると……何だ、これ、イベントって事か?」
こちらのコンピュータから強制的にそれを実行させることもできるようだが……危険な気がする。
「さて、どうしたものか――」
と、その時、
『アクセスが発覚しました。20秒以内に退避しない場合、攻撃を受けるものと思われます』
「早い……仕方ない、一旦退こう」
『了解』
海炉の合成音が聞こえ、同時に画面から企業側のページ消える。
「とりあえず収穫はあり、かな」
言って此葉は椅子に体重を預けた。
●依頼者
翌日。此葉は目覚めと同時に、依頼者――ロキについて調べ始めた。
まさか、これが本名と言うこともないだろう。が、草間から見せてもらった名詞に書いてあった、ファックスの番号。ここから、何かしらの足跡が掴めるかもしれない。
恐らく電話局辺りならそういう情報を持っているだろうが……素直に聞いて、教えてもらえるとも思えない。
「……草間さんなら知ってるかな」
彼は一応探偵。もしかしたら調べているかも知れない。早速電話をしてみる、と――
「ん? どうした?」
「実は、依頼人。ロキのことですが……何か、わかりました?」
「ああ。とりあえず住所を特定して行ってみたが……空家だった。電気だけは生きてたがな。多分、一定周期か何かでそこに来て、留守電とかファックスだけ見てってるんだろうよ」
つまり、結局何もわからない、ということだろう。話しを聞く限り、そう簡単に正体を現しそうでないことは予想がついていたが。
「そうですか……わかりました、では、また明日」
「ああ。そうだな。明日は、頼む」
草間のセリフを聞き、此葉は受話器を置いた。
●興信所 ゲーム攻略
「さて、全員揃ったか。で、情報は集まったか?」
草間が言う。その前には、海原・みなも(うなばら・みなも)、綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)、蘭空・此葉(らんす・このは)、伍宮・春華(いつみや・はるか)の四人がいた。
まず最初に口を開いたのはみなも。
「多少は。確実、とは言えないですけど、ゲームに取り込まれる、というのは本当みたいです。それと、何かこれは関係ないかもしれませんが……難しいゲームみたいですね」
「開発者の方もそう言ってましたね」
次に口を開いたのは汐耶。
「何でも、難易度はかなり高いとか。それと、このゲーム、テストプレイは責任者の方しかしてないらしいです。つまりは、その人物なら何か仕掛けられたかもしれませんね」
「なるほど。となると、僕の見つけたプログラムもその人が仕掛けたものかな」
「プログラム……?」
春華が聞き返す。
「ええ。何か、最高得点を更新しようとすると、働く物でした。もしかしたら、それによって豪華商品を出さないようにしてるのかも」
「へぇ、すごいんだな〜。あ、俺はとりあえず、意識不明になった人のとこに聞き込みに行って来た。何でも、化け物って声を聞いた、とか言ってたぞ」
「化け物……ですか」
緊張したようにみなもが答える。本当なら、それがこのゲームに関連している可能性は高い。
「なるほど……とりあえずプログラムと、後はその化け物ってのがよくわからないな。後は、やってみて、か」
草間が言い、例のROMを持ち出して来て、汐耶のPCがそれを読み込む。
「別に見た目は普通だな」
春華の言う通り、スタート画面は特に怪しい所はない。
「とりあえず、誰かやってみてください。始まったら、ゲームにおかしな点が無いか調べてみますから」
此葉がノートパソコンを起動する。
「じゃ、あたしがやってみますね」
言ってみなもがゲームを始める。
しばし皆無言。此葉の方でも、特に怪しい点はみつからないのか、ノートパソコンをじっと見つめている。
「……おかしいですね」
だが、その時汐耶が声をあげた。
「何が?」
春華が目を擦りながら聞く。ゲームにはあまり慣れていないらしい。
「みなもさん、上手すぎませんか? 開発者側でも、世間的にも難しいって言われてるゲームなのに」
確かに、みなもは異常なほどそのゲームが上手かった。それこそ、まるでこの手のゲームのプロを見ているかのようだ。
「別に、あまり難しくはないのですが……」
小首を傾げながら、唸ったりしている。
「もうそろそろ最高得点を超えそうだな。どうなるんだろ?」
春華が言うのと、みなもが最高点を超えるのが、ほぼ同じだった。
そして――次の瞬間、空間が揺れた。
●対決 取り込み妖怪
揺れが収まった時、その場にいる数が一人――いや、一つと言った方がいいか――増えていた。
それは人の形をし、顔の部分には、目や口が無く、代わりに大きな穴が一つ。全体的に人間の筋肉をそのまま剥き出しにしたような、早い話しが、理科の教室等に置いてある人体模型のようだった。
「確かに……これは化け物ですね」
渋い顔で、此葉。
「これが、人をゲームに取り込んでいたモノの正体ですかね」
汐耶も一歩下がる。戦闘ができないことはないが、あまり弱そうな相手にも見えない。
「う〜……ゲームの中に入りたいけど、流石にこれはなぁ」
言いながら、春華が刀を取り出し、一歩前に出る。
「退治するしかないですね……交渉はできそうにないですし」
みなもの言葉がわかったわけではないだろう。が、それを言い終えると、化け物は手近にいた春華に向かい、蹴りを繰り出す。
「おっと」
軽く声を上げつつ、春華はそれを受け止める。動きは速いが、此方ほどではないらしい。
春華は何回か、遅い攻撃を仕掛け、相手が反撃に出ようとした瞬間に、いきなり鋭い斬撃を繰り出す。すでに攻撃のモーションに入っていた相手に、これを避けることができるわけもなく。
ヌチャ、という音と共に、首が切断される。
「案外、あっさり決着つきましたね」
汐耶が言って、化け物の残骸の側により、能力を封印する。
「もう動くこともないでしょうけど……」
その言葉が終わると、再び空間が揺れ始め――収まった時には、そこに化け物の残骸は無くなっていた。
「元に戻った――海路、頼む」
『了解しました』
「「喋った!?」」
海路の音声に、何人かが声をあげる。
「あ。これはちょっと――と、もうプログラムは消えてるみたいです」
此葉がほっ、と息を吐く。
「なら、これ以上の被害者は出ませんね。取り込まれた人達がどうなったかは、わかりませんが」
少なくとも、ゲーム上からはキャラが消えているようだが。
「能力を封印しましたから、恐らく元ある場所へと帰っているはずですよ」
心配そうなみなもに、汐耶が微笑みかける。
「そうですか……よかった」
「ま、とりあえずどうにかなったっぽいな。後はこれを報告するだけか」
いつの間にか距離をとって離れていた草間が、近づいてくる。
「でも、何でこんなこと知りたがったんだ?」
春華が不思議そうに聞く。
「さぁな。この企業に対する交渉方法にすんだか、それともこのゲーム自体に何かあったのか……じゃなきゃ、これを開発したヤツに何か個人的な恨みでもあるか」
ROMを取り出し、それを元あった場所に戻す。
「ま、それを知る権利はオレ達にはないな」
「そうですね……で、それはそれとして草間さん。女の子より後ろに下がるのはちょっと情けないんじゃないですか?」
いきなりみなもに言われ、草間は思わずタバコを落とす。
「確かに。依頼者から依頼受けたのは草間さんなんですから、後ろに下がるのはどうかと思いますねえ」
それに同調するように此葉が言い、
「そうですね。そんな事では愛想を尽かされますよ?」
クスっと笑い汐耶までもが言う。
「な! そ、それとこれとは――」
「な〜武彦、愛想を尽かされるって甲斐性無しってことか?」
「甲斐性無しとか言うな!」
そう言った草間の声は、虚しく辺りに響いたのだった。
fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252 /海原・みなも / 女性 /13歳 /中学生
1449 /綾和泉・汐耶 / 女性 /23歳 /都立図書司書
1557 /(蘭空)・此葉/ 男性 /16歳 /万屋『N』のリーダー
1892 /伍宮・春華 / 男性 /75歳 /中学生
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■ ライター通信 ■
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今回の「corporate war」いかがだったでしょうか?
まず、後で読み返してオープニングが非常にわかりづらいものだったので、この場を借りて謝罪させて頂きます。
また、この文章前半の調査を全員バラバラに書いたため「?」と思うことがあるかもしれません。
その点も謝罪を……って謝ってばかり……以降精進します。
それでは、以下個別文章です。
>(蘭空)・此葉様
初めまして、そしてありがとうございました。
新人の高橋葉と言います。
此葉さんですが、まず何よりも海路があれでよかったのだろうかとかなりドキドキです。
此葉さん本人は、口調の使い分けがちょっと不自然かもしれないです。
意見や感想などありましたらよろしくお願いします。またの機会がありましたら以降参考にさせて頂きます。
それでは、本当にありがとうございました。またよろしくお願いします。
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