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<東京怪談ノベル(シングル)>


もっとキノコ鍋?
 東京都の西部に、霊峰八国山という妖怪の里がある。山では秋の特産品、各種謎キノコの収穫も終わり、地元の化け猫達が冬支度の『コタツ』を用意していた。
 「寒い時は、こたつが一番にゃ…」
 「丸くなるにゃ…」
 麓の広場に特設された全長20メートル、天井に電熱器のついた耐水性大型コタツの中で、今朝も化け猫達が丸くなっている。
 「一体、いつの間にこんな物を…」
 と、コタツの家の布団をめくって入ってきたのは、海原・みなもだ。内部は程よく蒸し暑い。
 「そろそろ寒くなってきたから、昨日がんばって用意したにゃ。大変だったにゃ」
 「そ、そうですか…
  とりあえず、お土産持ってきましたんで、どうぞー」
 「わーい!わーい!にゃ」
 みなもは、またたび酒少々と秋鮭をコタツの化け猫達に示した。
 「みなもちゃん、またキノコが欲しいにゃ?」
 「はい、姉妹に話したら、面白そうだからキノコだけでも、もう一度採って来いと…」
 みなもは、山にやってきた理由をコタツで寝ていた化け猫達に説明する。
 「わかったにゃ。長老猫は留守だけど、お土産くれたし、勝手に採っていくと良いにゃ。僕たちはコタツで応援してるにゃ」
 化け猫達は鮭を食べながら、満足そうに言っている。コタツから出る気は全く無いらしい。放っておくと春まで出ないかも知れないので、また後で来ますね、と、みなもは化け猫達に別れを告げて一人でコタツを出た。彼女はそれから、午前中の間に湖のゴミ拾いや魚採り、霊水汲みなどをした。その後、午後からキノコ狩りの為に山の奥へと入った。
 そろそろ、地面の落ち葉も枯れている季節だ。寒さが苦手な動物や妖怪達は姿を隠し、山は静かである。みなもは落ち葉を払いながら、キノコを探す。
 …これ、キノコですよね?
 それなりにキノコを採取したみなもが、首を傾げた。目の前には何かが生えている。
 なるほど、確かに、その生えている物の形状はキノコに間違いなかった。
 ただ、問題はサイズだった。
 あたしの背より高いですね…
 と、みなもはキノコに並んでみる。キノコのカサの高さと広さが、雨よけに丁度良さそうだった。
 うーん、どうせならなるべく普通じゃないキノコを姉妹に持ち帰りたいし…
 少し悩んだみなもだったが、まあ、食べるのは私じゃ無いし、うちの姉妹は何を食べても大概大丈夫だろう。と、巨大キノコを採取する事にした。
 …このまま、丸ごと傘みたいにして持って帰るのは、ちょっと面倒ですよねー。雨が降ってきたら便利そうだけど。みなもは巨大キノコを傘代わりにして歩いて帰る景を思い浮かべて、それはどうかなー。と、首を傾げる。それに、食べ残したりするのは良くないし、やっぱり、食べる分だけ持って帰ろう。と、みなもは巨大キノコと記念写真を採ってから、それを少し切って持って帰る事にした。
 パシャリ。
 キノコと並んで記念写真を撮った。
 ざく、ざく、ざく。
 キノコにナイフを入れた。
 ぱふ、ぱふ、ぱふ。
 ふいにキノコが揺れ、胞子を吹き出した。
 うわ!
 と、みなもはキノコの胞子を浴びてしまった。
 コホコホ。と、胞子が喉にも入ったのでむせてしまう。さらに、細かい胞子は服を通して、何やら染み込んでくるようだ。
 うぅ、ちょっと体が痒くて気持ち悪いです。後で湖で体を洗わせてもらおうかな?
 それでも、みなもは、あまり気にせず巨大キノコを切り取り、その後も周囲のキノコの採取を続けた。木陰の小さなしめじを採り、落ち葉の下の謎のカラフルなキノコを採り、左手に生えた小さなキノコを採り…って、左手ってなんですか??
 ふと気づくと、左手に可愛らしいキノコが生えていた。いや、左手だけじゃなくて体のあっちこっちに。
 さすがに、少しあわてたみなもは午前中に汲んだ湖の霊水で体を洗ったりしながら体のキノコを採ろうとするが、キノコは採っても採っても生えてきて…
 (うぅ、キノコ人間になっちゃいました…)
 気づけば、キノコの塊化したみなもは、新手の巨大キノコのように地面に固定されて立っていた。
 (あわわ、どうしよう…)
 声も出せずに困ったみなも。気づけば、そろそろ夕暮れだ。
 (猫さん達でも良いから、誰か来ないかなー…)
 化け猫の手でも借りたいとは、この事だ。文字通り立ち尽くすみなもだった。
 一方、
 『また後で来ますね』と言ったきり、コタツに顔を出しに来ないみなもの事を、ひたすら丸くなっていた化け猫達も何となく思い出していた。
 「そーいえば、みなもちゃんが来ないにゃ?」
 「山で迷子になったにゃ?」
 「寒いけど、探しに行くにゃ…」
 やる気は無さそうだったが、それでも、何匹の化け猫が、みなもを探しにコタツを出た。やがて猫達は、みなもの所にやってくる。
 (おお!猫さん達でも心強いです)
 「あれ、不思議にゃ?
  近づくとキノコ仲間にされちゃう、お化けキノコが2本に増えてるにゃ?」
 「ほんとにゃ。不思議にゃ。何故か、みなもちゃんの荷物も散らばってるにゃ」
 化け猫達が巨大キノコとみなもを見ている。
 (そうです、仲間にされちゃったんです!)
 早く助けて下さい。と、みなもは思った。
 「という事は…わかったにゃ!」
 化け猫の一匹が言った。
 「お化けキノコのお友達が遊びに来たにゃ!」 
 (いえ、そんなの、絶対遊びに来ませんから…)
 「お友達にゃ?
  お友達は大切にゃ。こうしちゃいられないにゃ!
  僕達もみなもちゃんを探すにゃ!」
 そうするにゃ!
 と、化け猫達はみなもとお化けキノコの元から走り去っていった。その後、化け猫達は山を一晩中走っていたらしい…
 (そーですよね…猫さんですもんね…)
 やっぱりだめかー。と、後には、キノコ化したみなもと巨大キノコが残される。
 体のキノコが防寒具のように暖かかった事だけが、幸いだった…
 (うーん…まあ、眠いし寝ようかな)
 ぼんやりと、キノコ系人魚のみなもは眠りにつく。珍しい体験と言えば珍しい体験である。少しだけ、楽しい気持ちもあった。
 こっくり。こっくり。さすがに、キノコ鍋の夢は見なかった。
 翌朝。
 夜明けの光を浴びたみなもの体のキノコは、静かに枯れ落ちた。昨日、早いうちに霊水で体を洗ったおかげで胞子が大分弱っていたせいもあったのだろうか?ともかく、体のキノコは嘘のように無くなっていた。
 …なんだか夢でも見てたみたいですね。
 と、採取したキノコを手にしたみなもは、湖で体を流しつつ山を降りた。
 「みなもちゃん、キノコになってたにゃ?
  僕たちは寒かったにゃ…」
 帰り際に広場のコタツを覗くと、化け猫達が寝不足と寒さの為に丸くなっていた事が、山を離れたみなもの心からしばらく離れなかった… 

 (完)